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網膜・硝子体

急性帯状潜在性外層網膜症(AZOOR)

1. 急性帯状潜在性外層網膜症(AZOOR)とは

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AZOOR(Acute Zonal Occult Outer Retinopathy;急性帯状潜在性外層網膜症)は、外層網膜機能の1つ以上の広範なゾーンに急性の機能喪失が生じる疾患である。1992年にDonald Gassが13症例(主に若年女性)で初めて報告した疾患概念である1)。初期には眼底変化が最小限であることが特徴的であり、網膜電図やOCTで外層網膜障害が確認される。

AZOORバリアントとして以下が報告されている1)

  • AAOR(急性環状外層網膜症):片側性・環状灰白色境界線・求心性進行
  • MORR(多帯状外層網膜色素上皮症):急性発症・進行性・RPE関与
  • 末梢発症型:稀な変異体。乳頭周囲は非罹患で末梢から求心性に進行する2)

AZOOR complexの概念も提唱されており、MEWDS(多発消失性白点症候群)・PIC(点状内層脈絡膜炎)・多焦点性脈絡膜炎・AMN(急性黄斑部神経網膜症)・AIBSEを含む疾患スペクトラムの一部とされる1)

  • 患者の約3/4が女性で、30代半ばを中心とする若年層に多い
  • 主に白人に多いが、あらゆる民族で報告されている
  • 近視が危険因子として知られている
  • 片眼発症が61%で始まり、中央値8年フォローアップで最終的に76%が両眼性に進行する
  • 対側眼の発症は平均50ヶ月遅れる
  • 両眼性の場合、著しい非対称性を示すことが多い4)
Q AZOORはどのような人に起こりやすいですか?
A

30代を中心とした若年女性に多く、近視が危険因子である。片眼から始まることが多いが、最終的に約3/4が両眼性に進行する。自己免疫疾患(橋本病、多発性硬化症など)を合併している患者も多い。

  • 暗点の急性自覚:視野内に突然の暗点が出現することが最初の症状となることが多い
  • 光視症:「きらきら光る」「ゆらゆら揺れる」と表現される光の閃光。暗点と同時または先行して出現する
  • 視力低下:初期には最小限。中心視力は通常保持され、68%が20/40以上を維持する4)
  • 片眼性耳側半盲:鼻側網膜の障害により、垂直子午線を尊重した耳側半盲として出現することがある。視交叉病変を模倣するため MRI が必要になる場合もある7)
  • 先行症状:一部の患者でウイルス感染様の前駆症状(風邪様症状)を認める

初期には眼底が正常に見えることが特徴的である。前房炎症はなく、硝子体細胞は軽微または欠如する1)

眼底所見の時系列変化

  • 初期:眼底正常。環状の黄色〜オレンジ色の境界線が罹患部と正常部を分離することがある2)
  • 中期:灰白色の境界線出現、網膜細動脈狭小化、RPE斑状変化
  • 慢性期:色素変化・RPE萎縮・網膜萎縮

RAPD(相対的瞳孔求心路障害)は25%の症例で週単位の経過で出現することがある6)

マルチモーダルイメージング所見

Section titled “マルチモーダルイメージング所見”

AZOOR の trizonal pattern は FAF・OCT の両方で確認される。

ZoneOCT所見FAF所見
Zone 1正常網膜構造正常蛍光
Zone 2網膜下高反射物質斑状過蛍光
Zone 3EZ/IZ消失+RPE萎縮低蛍光

各画像モダリティの主要所見を以下に示す。

FAF

trizonal pattern:Zone 1正常蛍光、Zone 2斑状過蛍光(活動性病変・光受容体外節消失によるRPEリポフスチン露出)、Zone 3低蛍光(RPE萎縮)1)

乳頭周囲罹患:最頻罹患部位は乳頭周囲領域。病変範囲の特定と進行監視に最も有用な検査の一つ。

SD-OCT

EZ/IZ途絶:エリプソイドゾーン(EZ)・インタージギテーションゾーン(IZ)の途絶が早期の特徴的所見1)

RPE-EZ間hyperreflective dots:活動期に出現。OCTA en-face outer retinal slabでもstarry-sky外観を呈する8)

慢性期:ONL萎縮→INL菲薄化→RPE萎縮→網膜全体の菲薄化へ進行。

網膜電図

30Hzフリッカー潜時延長:錐体系の遅延。診断基準の一つ。

mfERG:視野欠損部位に一致した振幅低下が診断の決め手。全視野網膜電図より感度が高い。

杆体系より錐体系の異常が大きいことが特徴的。

ICG蛍光造影では蛍光が保存または軽度低下を示す。これはchoriocapillarisが健全であることを意味し、choriocapillaritis疾患(MEWDS・APMPPE等)との鑑別に有用である5)

Q AZOORの光視症はどのような感じですか?
A

「きらきら光る」「ゆらゆら揺れる」と表現される光の閃光として自覚されることが多い。暗点の突然の自覚に先行または伴って出現する。ただし一部の患者では光視症を自覚しない例もある6)

AZOORの病因は不明であるが、主にウイルス感染説自己免疫説の2つが提唱されている。

Gassの報告した51症例のうち、約20%にウイルス様前駆症状(風邪様症状)が認められた。視神経乳頭鋸状縁からウイルスが網膜へ侵入するとの仮説がある。ただし、アシクロビルやバラシクロビルの明確な有効性は示されていない1)

Gassの51症例のうち約28%に自己免疫疾患の既往を認めた。主な合併疾患を以下に示す。

  • 最多:橋本病(慢性甲状腺炎)
  • 次頻度:多発性硬化症
  • その他:バセドウ病・甲状腺機能低下症・アジソン病・重症筋無力症・IDDM・CREST症候群・シェーグレン症候群・クローン病・SLE

抗網膜抗体はAZOOR患者の約42%で検出される4)。抗alpha-enolase抗体・抗arrestin抗体・HSP27抗体なども報告されている3)

女性に多い背景として、自己免疫疾患に罹患しやすい性別差が関与する可能性がある4)

その他のリスク要因

  • 近視:危険因子として知られている
  • てんかん:ラット研究でてんかん発作が網膜に炎症反応を誘発することが示されており、関連可能性がある6)
  • 強膜バックル術後:術後5年以上を経てAZOOR様所見が出現した症例報告がある9)
Q AZOORは遺伝しますか?
A

AZOORは遺伝性疾患ではない。網膜色素変性症RP)のような遺伝性網膜変性症とは異なり、家族歴はなく遺伝子検査も陰性である。自己免疫や感染が関与する後天性疾患と考えられている。RP合併例の報告も存在するが10)、両疾患は独立した病態である。

Acute Zonal Occult Outer Retinopathy image
Acute Zonal Occult Outer Retinopathy image
Matthias M Mauschitz; Markus Zeller; Pradeep Sagar; Suchitra Biswal; Gabriela Guzman; Jan H Terheyden. Fundus Autofluorescence in Posterior and Panuveitis—An Under-Estimated Imaging Technique: A Review and Case Series. Biomolecules. 2024 Apr 25; 14(5):515 Figure 5. PMCID: PMC11118036. License: CC BY.
A case of presumed active atypical acute zonal occult outer retinopathy (AZOOR) on color fundus photography (CFP), short-wavelength blue-light autofluorescence (swBAF, 450 nm), long-wavelength blue-light autofluorescence (lwBAF, 488 nm), green-light autofluorescence (GAF, 518 nm), and infrared-light autofluorescence (IRAF, 787 nm). While it is difficult to detect lesions on CFP, they can easily be visualized on different FAF modalities as a hyperautofluorescent pattern expanding from the papilla on swBAF, lwBAF, and GAF, and as a hypoautofluorescent area on IRAF. Source: [13].

単一の確定診断検査はなく、複数のモダリティを組み合わせたマルチモーダルイメージングが診断の基本となる。

  • 盲点拡大:最多パターン。生理的盲点の拡大・連続した暗点として出現する
  • 中心暗点・傍中心暗点:次に多いパターン
  • 耳側半盲:鼻側網膜障害による垂直子午線を尊重した半盲(視交叉病変との鑑別が必要)7)
  • 環状暗点:強膜バックル関連AZOORで報告がある9)

日本人32例の検討では、6ヶ月後に71.9%でMD値が30%以上改善し、最終観察時(中央値31ヶ月)では63.2%が改善・34.2%が不変・2.6%が悪化であった。

病変範囲の特定と進行監視に非常に有用。trizonal pattern が特徴的であり(「臨床所見」の項参照)、Blue light-FAF(BL-FAF)の過蛍光は光受容体外節消失によるRPEリポフスチン露出を反映する5)

EZ/IZ途絶→trizonal patternへの進行を捉え、予後予測にも有用である。外層消失部位の機能回復は一般的に期待できない。OCTA の en-face outer retinal slab では starry-sky 外観の hyperreflective dots が観察される8)

  • 多焦点網膜電図(mfERG):視野欠損部位に一致した振幅低下が診断の決め手。全視野網膜電図より感度が高い
  • 全視野網膜電図(ffERG):病変範囲が狭い場合は正常のこともある。DA(暗順応)・LA(明順応)両方の異常を示すことがある3)。杆体系より錐体系の異常が大きく、30Hzフリッカー潜時延長が診断基準とされる
  • PERG(パターンERG):P50低下・N95正常のパターンを呈することがある6)
  • EOG:光反応(light rise)低下・Arden比低下(例:1.55)を示すことがある3)。np-AIRでは EOG は正常であることが多く鑑別に有用3)
  • 感染症除外:梅毒・CMV・VZV・HSVの検査。梅毒性外層網膜症(SOR)との鑑別は必須1)
  • 自己免疫マーカー・抗網膜抗体の測定2)3)
  • MRI:耳側半盲を呈する場合は視交叉病変除外のために施行7)

AZOOR vs np-AIR(非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症)の主な鑑別点を示す3)

項目AZOORnp-AIR
発症急性・暗点・光視症亜急性〜慢性
FAF乳頭周囲過蛍光びまん性過蛍光
EOG異常(Arden比低下)正常

その他の主な鑑別疾患:

  • 白点症候群:MEWDS・PIC・MCP・AMN・APMPPE・バードショット脈絡網膜炎
  • 梅毒性外層網膜症(SOR):AZOOR と酷似するため梅毒血清検査が必須1)
  • 自己免疫性網膜症(CAR・MAR)
Q AZOORはどの検査で確定診断できますか?
A

単一の確定検査はない。mfERGの視野欠損一致部位での振幅低下が診断の決め手であり、FAFでの病変範囲描出とSD-OCTでのEZ/IZ途絶確認を組み合わせたマルチモーダルイメージングが必須である。30Hzフリッカー潜時延長が診断基準の一つとされる。梅毒性外層網膜症との鑑別のため梅毒血清検査も必ず施行する1)

確立された治療法はなく、治療方針については議論が続いている1)。多くの症例は6ヶ月以内に自然安定する。

軽症例・自然回復傾向を示す例では無治療での経過観察を選択する。

日本では重症例に対して以下のステロイドパルス療法が試みられる:

  • パルス療法:ソル・メドロール 1,000mg+ソリタ-T3 500mL 点滴静注 3日間
  • その後:プレドニン 5mg 8〜6錠 分2 漸減

早期の中心視機能改善に対するパルス療法の報告があるが1)、Gass自身も長期的なメリットを否定しており有効性は議論中である。進行期では外層網膜障害は不可逆的であり、ステロイドの意義は限定的である1)

硝子体内ステロイド注射も報告されているが、白内障眼圧上昇・中心性漿液性脈絡網膜症(CSR)などの副作用リスクに注意が必要である8)

難治例に対して以下が報告されている:

  • MMF+シクロスポリンIVIgミコフェノール酸モフェチル2g/日+シクロスポリン200mg/日+IVIg 2g/kg 月1回の併用でBCVA改善(20/60→20/25)が報告されている3)
  • シクロスポリン:4.5mg/kg/日の使用例がある5)
  • アザチオプリン:50mg×3回/日の使用例がある8)
  • アダリムマブ(Humira):有効例の報告がある5)

アシクロビル・バラシクロビルはGassらの報告では明確な効果が示されなかった1)。バルガンシクロビル(1g×3回/日 1週→1g×1回/日 3週)+アザチオプリン+ステロイドの併用で2週間後に顕著な改善を示した症例報告があるが8)、エビデンスは限定的である。

脈絡膜新生血管膜(CNVM)を合併した場合は、抗VEGF硝子体内注射ベバシズマブアフリベルセプト等)が適応となることがある1)9)

Q AZOORに有効な治療法はありますか?
A

確立された治療法はなく、軽症例は無治療で経過観察する。重症例に対してステロイドパルス療法が試みられるが、有効性は議論中である。多くは6ヶ月以内に自然安定する。進行期の外層網膜障害は不可逆的であるため、詳細は「標準的な治療法」の項を参照のこと。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

マルチモーダルイメージング解析により、AZOORの一次病変部位は光受容体外節であることが示されている5)。これはchoriocapillaritisを病態の中心とする疾患(MEWDS・APMPPE等)とは根本的に異なる機序である。

以下の複数の証拠が光受容体を一次標的とする仮説を支持する:

  • ICGAでchoriocapillaris保存:ICG蛍光造影で蛍光が保存されており、脈絡膜毛細血管は初期に障害されない5)
  • FAF過蛍光:光受容体外節消失によりRPEのリポフスチンが露出して過蛍光を呈する5)
  • AO-TFI(適応光学眼底撮影)による定量解析:光受容体(PR)密度が有意に低下(p<0.05)する一方、RPE密度には有意差がない(p>0.05)。PRが一次標的であることを細胞レベルで支持する4)
  • EZ回復後も機能障害持続:EZが形態的に回復した後もONL菲薄化とPR密度低下が持続し、機能障害が説明される4)
  • 内網膜血管密度低下:PR障害に伴う血流自己調節によると推定され、鼻側parafovea での低下が確認されている4)

脈絡膜は二次的に障害(collateral damage)を受け、進行例では脈絡網膜萎縮へと至る5)

Qianらのレビュー(25例)では「AZOORはAIRの特異的形態である」と主張されており、視神経乳頭縁からの抗体漏出を介して免疫産物が網膜下に拡散し、視神経に連続する大きな暗点を形成するとの機序が提唱されている3)。また、網膜・RPE・脈絡膜構造の活動期破壊が抗原エピトープを露出させ、二次性自己免疫性網膜症(AIR)を引き起こす可能性も示唆されている3)

視神経乳頭や鋸状縁から網膜へウイルスが侵入するとの仮説がある。てんかん発作が網膜に炎症反応を引き起こす可能性(ラット実験での証拠)も報告されており6)、神経系との関連が示唆される。

EZ回復後もONL菲薄化と内網膜菲薄化が残存する現象は、PR損傷後の内網膜リモデリングを示すと解釈されている4)。このことは、形態的画像所見と機能的障害の乖離(OCT上のEZ回復にもかかわらず網膜電図や視野異常が持続する)を説明する。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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適応光学眼底撮影(AO-TFI)の進歩

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非侵襲的・in vivoでRPEおよび光受容体を細胞レベルで観察・定量化できる技術として注目されている4)

Iulianoら(2025)は単一症例にAO-TFIを適用し、Voronoi解析による細胞密度の定量化を行った。EZが形態的に回復した後もPR密度低下が持続することを初めて直接証明し、従来の画像では説明困難であった「構造・機能乖離」を解明した4)

この技術により、今後は治療効果の細胞レベルでのモニタリングや、EZ回復の機能的意義の評価が可能になると期待される。

OCTAによる診断・治療モニタリング

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En-face outer retinal slab での starry-sky 外観は、AZOORの診断補助および治療反応のモニタリングに活用できる可能性がある8)

末梢発症型バリアント(求心性進行・乳頭周囲非罹患)をはじめとする多様な病態の認識が進んでいる1)2)。より精緻な分類が診断精度の向上と治療法の選択に貢献すると考えられる。

AZOORが進行することで二次性np-AIR(非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症)を引き起こす可能性が提唱されており、IVIgを含む免疫療法への応用が期待される3)

  • RCTによる治療法の確立
  • 病因(ウイルス vs 自己免疫)の完全解明
  • 早期介入の予後改善効果の検証
  • 診断バイオマーカーの開発
  • てんかんとの関連の疫学的解明6)

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  9. Fung AT, Lo-Cao E, Cornish EE. Acute zonal occult outer retinopathy-like presentation secondary to scleral buckle. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;28:101716.
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