基本染色
H&E染色:水晶体嚢・上皮・皮質に類似した構造を確認。診断の基本となる。
周辺虹彩前癒着染色:水晶体嚢と上皮島が強調される。基底膜構造の評価に有用。

晶体様分離腫(phakomatous choristoma; PC)は、異所性の水晶体組織(ectopic lenticular tissue)で構成される良性の先天性腫瘍である。1971年にLorenz Zimmermanが初めて報告し、「Zimmerman腫瘍」とも呼ばれる。
分離腫(choristoma)とは、真の腫瘍とは異なり、異所性に存在する正常構造で構成される組織のことである。先天的に存在するが、占拠性病変として症状を呈したときに問題となる。PCはその中でも水晶体組織を含む特殊な病型に位置づけられる。
PCは極めて稀な疾患であり、これまでに報告された症例は20件程度にとどまる2)。全例が乳児期に発見されており、外科的切除時の年齢は生後2週間〜13ヶ月(平均約5ヶ月)である。最も一般的には下眼瞼の鼻側に出現し、眼窩の下内側へ進展する。上眼瞼への発生は報告されていない1)。
これまでに報告された症例は世界で約20件にとどまる極めて稀な疾患である。全例が乳児期(生後2週間〜13ヶ月)に発見されている。
PCは出生時に硬い触知可能な腫瘤として認められる。乳児であるため本人の自覚症状は評価困難であるが、保護者が眼瞼の腫瘤や左右非対称に気づくことで発見される。
腫瘍が角膜乱視や不同視を誘発し、弱視の原因となることがある。弱視リスクを回避するため、早期の外科的介入が推奨される。
PCの発生は胎生期の水晶体形成過程の異常に起因する。
正常な発達過程では、表面外胚葉(surface ectoderm)が陥入して水晶体窩(lens pit)を形成し、続いて水晶体胞(lens vesicle)が形成される。この過程で水晶体組織の異常な移動が生じ、眼周囲に水晶体組織が異所性に増殖することでPCが形成されると考えられている。眼瞼の皮膚も表面外胚葉由来であるため、同様に影響を受けやすい。
分離腫一般の発生機序として、眼杯の形成にあたり中胚葉の中に取り残された外胚葉組織から皮様嚢胞や皮様腫が形成されることが知られている。
PCは小児の疾患であり、全例が乳児期に発見されている。遺伝性は報告されていない。
PCの確定診断には外科的切除後の病理組織学的検査が必要である。
ルーチンのH&E染色(ヘマトキシリン・エオジン染色)で、水晶体嚢・水晶体上皮・水晶体皮質に類似した構造が確認される。偽腺様構造と、周辺虹彩前癒着(Periodic acid-Schiff)陽性の厚い基底膜に囲まれた立方上皮細胞の凝集塊が特徴的な所見である1)。
基本染色
H&E染色:水晶体嚢・上皮・皮質に類似した構造を確認。診断の基本となる。
周辺虹彩前癒着染色:水晶体嚢と上皮島が強調される。基底膜構造の評価に有用。
免疫組織化学
ビメンチン・S-100・クリスタリン:陽性。水晶体組織に特異的な蛋白質を確認3)。
サイトケラチン:陰性。他の上皮性腫瘍との鑑別に有用1)。
NSE(神経特異的エノラーゼ):陽性。水晶体上皮の発生初期に活性を持つ酵素4)。
免疫組織化学(IHC)染色は通常診断には不要であるが、水晶体原基(lenticular anlage)に由来することを示すために施行されることがある。GFAP、HMB45、シナプトフィジン、クロモグラニンなどの染色も報告されている。
MRIやCTは確定診断に必須ではないが、他の眼窩・眼周囲病変との鑑別に有用である。
PCの画像所見の特徴を以下に示す。
| 所見 | PC | 皮様嚢腫 | 血管腫 |
|---|---|---|---|
| 性状 | 実質性 | 嚢胞性 | 血管性 |
| 石灰化 | なし | あり | なし |
| 造影パターン | 均一な造影効果 | 壁のみ造影 | 血管性造影 |
PCの鑑別として以下の小児眼周囲腫瘍が挙げられる。
PCの確定診断には切除後の病理組織学的検査が必要であり、画像検査のみでは確定できない。ただしMRI・CTは皮様嚢腫・血管腫・横紋筋肉腫など他の眼窩病変との鑑別に有用である。
腫瘍の外科的切除が唯一の根治治療である。自然消退の報告はなく、有効な内科的治療法も存在しない。
乳児に対する手術であるため全身麻酔で施行する。腫瘍が角膜乱視を誘発している場合は、弱視の予防のため早期の手術介入が正当化される。角膜乱視がある場合は術前・術後を通じて乱視矯正による視力向上の治療も行う。
PCの予後は極めて良好である。
これまでの報告では、最長7.5年のフォローアップ期間において再発例は1件も報告されていない。不完全切除例でも再発は認められていない。
PCの発生は、胎生期における水晶体形成の異常に基づく。
正常な眼の発生過程では、表面外胚葉が視杯の誘導を受けて陥入し、まず水晶体窩(lens pit)を形成する。水晶体窩はさらに閉鎖して水晶体胞(lens vesicle)となり、最終的に水晶体へ分化する。PCはこの過程で水晶体組織が異常な移動を起こし、眼周囲(特に下眼瞼鼻側)に異所性に増殖したものと仮定されている。
分離腫一般についても、眼杯形成時に中胚葉の中に取り残された外胚葉組織から皮様嚢胞や皮様腫が形成されることが知られており、PCも同様の発生異常の枠組みに位置づけられる。
組織学的には、PCは以下の3つの水晶体構成要素に類似した構造を持つ。
これらの構造が水晶体原基由来であることは、ビメンチン(水晶体上皮に通常見られる中間径フィラメント)、S-100蛋白質、α・β・γクリスタリン(水晶体特異的蛋白質)の発現によって裏付けられている3)。
Inouyeら(2023)は、白内障手術後に上眼瞼の結膜面に生じた病変がPCと誤認された症例を報告した1)。88歳女性で、水晶体乳化吸引術の2年後に上眼瞼に黄白色の病変を認めた。病理組織学的検査では水晶体様の蛋白質物質と基底膜断片を認め、当初PCが疑われた。しかし、患者年齢(PCは乳児の疾患)、発生部位(PCは下眼瞼鼻側に発生し上眼瞼には発生しない)、白内障手術歴を総合的に考慮し、前嚢切開時の水晶体嚢片が結膜に埋入したものと最終診断された。
この報告は、PCの病理組織学的特徴が白内障術後の残留水晶体物質と類似し得ることを示しており、診断に際しては臨床情報(患者年齢、発生部位、手術歴)との統合が不可欠であることを強調している。
Jungら(2022)は、PCの症例報告と文献レビューを行い、過去に発表された20件の報告をまとめた2)。PCの臨床像、組織学的特徴、免疫組織化学的所見を体系的に整理し、本疾患の診断アルゴリズムの確立に寄与している。