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小児眼科・斜視

眼窩脂肪類皮腫(デルモリポーマ)

1. 眼窩脂肪類皮腫(デルモリポーマ)とは

Section titled “1. 眼窩脂肪類皮腫(デルモリポーマ)とは”

脂肪類皮腫(lipodermoid)は、デルモリポーマ(dermolipoma)とも呼ばれ、脂肪組織を含む眼球表面の先天性分離腫(choristoma)である。分離腫とは、組織学的には正常な組織が異常な場所に存在するものを指し、真の腫瘍ではない。眼杯の形成過程において中胚葉の中に取り残された外胚葉組織から形成されると考えられている。

デルモイド(dermoid)は角膜・輪部・結膜に生じる分離腫の総称であり、胎生期における第一および第二鳃弓の形成異常に起因する。脂肪類皮腫はデルモイドと同様の分離腫であるが、脂肪成分をより多く含む点が特徴である。非遺伝性・突発性で、出生時より片眼性にみられる。

分離腫性病変は小児の結膜腫瘍の10〜30%を占め、眼球表面類皮腫は小児における最も一般的な上強膜分離腫である1)。受診時年齢の中央値は16歳で、女性に多い傾向がある。

ゴールデンハー症候群との関連が深く、ゴールデンハー症候群57例のうち32%に眼球表面類皮腫または脂肪類皮腫が認められている。逆に、脂肪類皮腫の症例シリーズでは35%にゴールデンハー症候群が確認されている。

Q 脂肪類皮腫は悪性化する可能性はありますか?
A

脂肪類皮腫は分離腫であり、正常組織が異所性に存在するものである。悪性化の可能性はなく、良性の経過をたどる。

眼窩脂肪皮様腫の臨床写真
眼窩脂肪皮様腫の臨床写真
Wiedenmann CJ, Reinhard T, Auw-Hadrich C. Caruncle dysgeneses - A case series. Am J Ophthalmol Case Rep. 2023 Jun 10;31:101868. Figure 4. PMCID: PMC10277460. License: CC BY.
涙丘の耳側に、毛を伴う黄白色の脂肪様組織がみられる臨床写真である。結膜表面へ突出する柔らかい脂肪性腫瘤の外観を示している。

脂肪類皮腫は先天性であるが、多くは長年無症状で経過し、成人になるまで発見されないこともある。メイクアップやコンタクトレンズ装着のために眼瞼を持ち上げた際に初めて気づかれることが多い。

  • 眼表面の刺激症状:毛包脂腺構造による機械的刺激や涙液層の乱れに起因する。
  • 眼瞼下垂:腫瘤による圧迫で生じることがある。
  • 視力低下:角膜乱視に伴う弱視として発症することがある。デルモイドによる角膜乱視は注意を要する。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

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脂肪類皮腫は結膜に癒着した黄白色の硬固な腫瘤として認められる。自由に動かすことはできず、眼窩内へのリポジションも不可能である。通常は片側性であるが、両側性の場合もある。

  • 好発部位:ほとんどが耳側上方の外直筋と上直筋の間に発生する。
  • 大きさ:直径3mmから大きいもので10mmに達する。
  • 表面性状:皮膚で角化しており、涙液がその部位ではじける。表層にしばしば毛髪が観察される。
  • 外眼角の歪み:腫瘤により外眼角の形態が乱れることがある。

主な臨床徴候を以下に示す。

徴候特徴
黄白色腫瘤硬固、触知可能
外眼角の歪み腫瘤による変形
乱視角膜変形に起因
斜視まれに随伴
Q 脂肪類皮腫があると弱視になりますか?
A

脂肪類皮腫自体が誘発する乱視はデルモイドに比べ軽微である。ただし角膜乱視が生じている場合は弱視のリスクがあり、視力検査と屈折検査による定期的な評価が重要である。

脂肪類皮腫は、胚発生時の外胚葉の迷入(sequestration)に由来する先天性分離腫である。胎生期の第一および第二鳃弓の形成異常が関与する。

孤立性に発生することもあるが、以下の全身症候群に関連して発生することがある。

ゴールデンハー症候群

副耳・耳瘻孔:耳の異常を伴う。

脊柱異常:脊椎の形成異常を合併する。

下顎骨形成不全:顔面の非対称を生じる。

その他の関連症候群

トリーチャー・コリンズ症候群:下顎・頬骨の低形成を特徴とする。

器官様母斑症候群:ヤダッソン線状皮脂腺母斑として知られる。

そのほか、眼欠損(coloboma)、骨腫(osteoma)、角膜輪部類皮腫、顔面神経麻痺との関連も報告されている。

Q ゴールデンハー症候群が疑われる場合、どのような検査が必要ですか?
A

副耳・耳瘻孔などの耳の異常、脊柱の形成異常、下顎骨形成不全の有無を確認する全身検査が必要である。詳細は「原因とリスク要因」の項を参照。

脂肪類皮腫は表面に近い位置にあるため、臨床検査で容易に診断できる。

  • 視力検査・屈折検査:弱視のリスク評価に重要である。
  • 前眼部検査:細隙灯顕微鏡で腫瘤の性状を観察する。
  • 散瞳眼底検査:他の眼異常の検索に必要である。
  • 斜視検査眼球運動障害の有無を確認する。
  • 眼球圧入(retropulsion):脂肪類皮腫と眼窩脂肪脱出の鑑別に有用である。眼窩脂肪脱出では圧入により脱出量が増加する。

CT/MRIでは、眼球耳側上部の外直筋停止部前方かつ涙腺内側に三日月形または三角形の脂肪性腫瘤として描出される。通常、筋錐内脂肪との連続性は認めない。良性病変であるため、特に小児ではCTによる被曝を可能な限り避けるべきである。

鑑別疾患鑑別のポイント
眼窩脂肪脱出高齢者に多い。圧入で増大
類皮囊胞囊胞状。分泌物を貯留
涙腺嚢胞・脱出涙腺部位に限局
結膜リンパ管腫サーモンピンク色
結膜リンパ腫サーモンピンク色。高齢者

脂肪組織、コラーゲン組織、皮膚付属器(毛包脂腺構造、涙腺組織を含むことがある)からなり、結合組織と結膜の表面上皮で被覆される。分離腫であるため正常組織で構成されており、悪性化の可能性はない。

小さく無症状の脂肪類皮腫は治療を必要としない。人工涙液による潤滑や抗炎症薬の点眼で症状を管理できる場合がある。

以下の場合に手術が考慮される。

  • 視軸への影響:視機能障害を来す場合
  • 乱視の誘発:弱視のリスクがある場合
  • 持続的な刺激症状:保存的治療で改善しない場合
  • 美容的問題:第一眼位や内転時に目立つ場合

完全切除ではなく、外科的減量術(debulkment)が基本である。腫瘤前部のみを除去し、毛包脂腺ユニットと眼窩縁前方の脂肪類皮腫をできる限り除去しつつ、結膜を温存する。

  • 麻酔:患者の年齢に応じて静脈内鎮静法または全身麻酔を選択する。幼少時の手術には全身麻酔が必要である。
  • 切開:ウエストコット剪刀を用いて病変内側の結膜を切開する。
  • 剥離:前方では結膜と下層病変の間を剥離し結膜を温存する。後方では脂肪類皮腫とテノン嚢の間を剥離する。
  • 縫合:6-0プレインガット糸による結節縫合、または7-0バイクリル糸による埋没縫合で結膜を閉鎖する。
  • 術後管理ステロイド/抗菌薬眼軟膏を塗布し、1週間後に再評価する。

輪部デルモイドの単純切除のみでは再発や偽翼状片が高頻度にみられるうえに、角膜実質に及んでいるため切除により角膜が菲薄化する。このため表層角膜移植の併用が推奨される。

  • 角膜中央部まで及ぶ場合:早期手術が必要である。
  • 輪部に限局し増大がない場合:美容手術となるため乳幼児以降に手術する。
  • 弱視への対応:術前の視力が不良だと術後の弱視訓練でも視力が上がらないため、術前から視力向上の治療を開始する必要がある。
Q 手術は必ず必要ですか?
A

小さく無症状であれば手術は不要であり、人工涙液などの保存的治療で十分な場合がある。手術適応は視軸への影響、乱視誘発、持続的刺激症状、美容的問題がある場合に限られる。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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分離腫(choristoma)は、組織学的に正常な組織が異常な場所に存在するものである。これに対し、過誤腫(hamartoma)はその部位に通常存在する細胞・組織が異常な混合状態で構成された良性腫瘍であり、両者は概念的に異なる。

脂肪類皮腫を構成する組織は、外胚葉由来(毛髪、皮膚、まれに歯)と中胚葉由来(脂肪組織、軟骨)の両方を含む。涙腺や下層の骨腫に癒着していることもある。

脂肪類皮腫

脂肪組織:多量に含有し、主要な構成成分である。

上皮:結膜と連続する表面上皮で被覆される。

付属器:毛包脂腺構造や涙腺組織を含むことがある。

デルモイド

結合組織:真皮に似たコラーゲン結合組織が主体である。

上皮:表皮上皮で構成される。

内部:膠原線維が充満し、皮脂腺・毛嚢・汗腺を含む。

いずれも分離腫であるため正常組織で構成されており、悪性化の可能性はない。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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ラメラ角膜パッチグラフトによる表面再建

Section titled “ラメラ角膜パッチグラフトによる表面再建”

従来の輪部脂肪類皮腫切除では、単純切除後の再発や偽翼状片形成が課題であった。近年、切除後の表面再建としてラメラ角膜パッチグラフトの有用性が報告されている。

Roels(2024)は、輪部脂肪類皮腫の3例(4歳・18歳・8歳、いずれも女性)に対し、ラメラ角強膜切開後に前部ラメラ角膜パッチグラフト移植を施行した。病理検査で全例良性リポデルモイドが確認された。角膜乱視は症例1で2.75Dから0.75Dに軽減し、症例2では1.75Dで安定した。症例3は高度弱視が既存であり美容目的のみで手術が行われた。全例で術後の角膜グラフトは透明で炎症や上皮欠損はなく、経過観察中に再発や翼状片形成は認められなかった1)

この報告は、病変の深さ・大きさ・部位が手術計画における重要因子であることを示しており、角膜パッチグラフト併用による優れた解剖学的・視覚的成果が得られる可能性を示唆している1)


  1. Roels D. Limbal lipodermoid excision and surface reconstruction using lamellar corneal patch graft. Am J Ophthalmol Case Rep. 2024;34:102053.

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