コンテンツにスキップ
小児眼科・斜視

レーベル遺伝性視神経症(LHON)

1. レーベル遺伝性視神経症(LHON)とは

Section titled “1. レーベル遺伝性視神経症(LHON)とは”

レーベル遺伝性視神経症(Leber Hereditary Optic Neuropathy; LHON)は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の点変異を原因とする遺伝性視神経症である。母系遺伝する急性〜亜急性の視神経障害を特徴とする。遺伝性ミトコンドリア疾患の中で最も頻度が高い。

1871年にドイツの眼科医Theodore Leberにより初めて記載された疾患である。8)ICD-10: H47.2、OMIM: 535000に分類される。

有病率は地域により異なり、イギリス北東部では約1:25,000、ヨーロッパ全体では約1:45,000と報告されている。2)4)オーストラリアでは1:68,403と推計されている。4)

日本の疫学については、2014年の全国調査で新規発症者数は年間117人(男性109人、女性8人)と報告されている。30歳代までの発症が47%を占め、男性が発症者の93.1%を占めた。総患者数は約4,000〜5,000人と推計されている。2015年に難病(指定難病169番)に指定された。

発症年齢は通常10〜30歳で、ピークは20〜30代である。2〜87歳での発症報告もある。2)男女比は最大9:1で、男性が患者全体の最大80%を占める。男性保因者の50%、女性保因者の10%が発症するとされる。8)

Q LHONの患者数はどのくらいいるか?
A

日本での総患者数は約4,000〜5,000人と推計されている。年間新規発症者は117人(2014年全国調査)で、そのうち男性が93.1%を占める。ヨーロッパ全体の有病率は約1:45,000と報告されている。2)

  • 霧視・視力低下:片眼性のゆっくりと進行する無痛性の霧視で始まる。最終矯正視力は指数弁以下(0.01前後)に低下するが、光覚は通常保持される。
  • 両眼への進展:両眼同時発症は約25%、順次発症は約75%である。中央値8週間で対側眼が発症する。4)第1眼と第2眼の発症間隔は通常数週〜数ヶ月で、最長18年の報告もある。
  • 色覚異常:赤緑色覚の識別能が低下する。
  • コントラスト感度低下:視力低下に先行して生じることがある。
  • 疼痛なし:眼球運動痛などを伴わない点が視神経炎との重要な鑑別点となる。

病期は無症候期・亜急性期・動的期・慢性期の4段階に分類される。

無症候期(保因者)

OCT所見:耳側のpRNFL肥厚を認める。2)

眼底所見:微小な乳頭偽浮腫、乳頭周囲毛細血管拡張を呈することがある。4)

亜急性期(〜6ヶ月)

乳頭所見:視神経乳頭の発赤・腫脹(偽浮腫)。乳頭周囲の毛細血管拡張(telangiectasia)と蛇行。

FA所見:蛍光眼底造影では色素漏出を認めない(偽性乳頭浮腫の特徴)。

OCT所見:pRNFL肥厚(耳側・下方象限から)。8)

視野中心暗点または中心周囲暗点。視力が高度に低下した場合でも中心部周囲に感度のある部分が残存する篩状暗点(sieve-like scotoma)や穴あき暗点(fenestrated scotoma)を呈することがある。

対光反射:視力障害が高度なわりに対光反射が保たれることが特徴である。ただし初期の片眼のみの場合にはRAPDが陽性となることがある。

動的期(6〜12ヶ月)

乳頭所見:pRNFL浮腫が退縮し始める。2)

視機能:視力・視野の悪化が持続する時期。

慢性期(12ヶ月以降)

乳頭所見視神経萎縮(乳頭蒼白化)が確立する。2)

OCT所見:pRNFL菲薄化(耳側→びまん性)。6ヶ月〜1年で進行する。急性期cpRNFL肥厚後、PMB(乳頭黄斑線維束)領域から黄斑部網膜内層の菲薄化が先行する。

視機能:視力低下と中心視野欠損が固定化する。微小嚢胞様黄斑浮腫(MME)を伴うことがある。

OCTA所見:活動期には血管拡張と蛇行が観察される。

LHON plus:視神経症に加え、ジストニア、振戦、片麻痺、てんかん、心伝導異常、多発性硬化症様疾患、末梢ニューロパチーなどの神経症状を伴い、視神経以外の脳実質に病変を認める亜型が報告されている。2) 多発性硬化症に類似した白質病変を呈する型は、11778変異・14484変異の女性に多いとされる。

Q 片眼だけの症状でもLHONと診断されるか?
A

LHONは通常、片眼から始まり数週〜数ヶ月後に対側眼が発症する。まれに長期間片眼性にとどまる例もある。また、小児では弱視と誤診される症例も報告されており、3)治療抵抗性の視力低下ではLHONを念頭に置いた遺伝子検査が有用である。

LHONの原因は90〜95%がmtDNAの3つの主要な点変異(ミトコンドリア複合体I関連遺伝子)によって説明される。2)

各変異の特性を以下に示す。

変異遺伝子頻度・分布視力回復率
m.11778G>AMT-ND4北欧系70%・アジア系90%(日本では87%)4〜20%
m.14484T>CMT-ND6フランス系カナダ人に多い(日本では9%)37〜58%
m.3460G>AMT-ND1全体の5〜10%(日本では4%)22%

日本ではこれら3変異が発症者の95%を占める。2)m.14484T>C変異は自然回復率が最も高い(37%)。m.11778G>A変異はアジア系に多く、自然回復率は4%と低い。m.3460G>A変異では22%の自然回復が報告されている。2)

稀な変異としてm.10197G>A(MT-ND3)、6)MT-CYB変異、5)m.11253T>Cなどが報告されている。2)核遺伝子(DNAJC30、MCAT、NDUFS2、NDUFA12など)の変異による常染色体劣性LHON(arLHON)も報告されている。1)7)

mtDNA変異は、細胞内の変異型mtDNAと正常型mtDNAの混在(ヘテロプラスミー)として存在することがある。症例全体の10〜15%でヘテロプラスミーを認める。変異負荷が60〜75%未満では非発症の可能性がある。

mtDNAは母親からのみ遺伝するため、罹患者の母系血族はすべて変異を保有する可能性がある。ただし、約40%の症例では家族歴を認めない。4)8)

  • 性別(男性):50%の男性保因者と10%の女性保因者が発症する。X連鎖修飾因子仮説が提唱されている。1)4)
  • 喫煙:独立した発症リスク因子。禁煙指導が重要である。
  • アルコール多飲:リスク因子として報告されている。
  • 抗結核薬(エタンブトール等):服用により発症・増悪するリスクがある。
  • ハプログループJ:mtDNAのハプログループJは浸透率を高める。1)
  • エストロゲン:神経保護的に作用し、女性の発症率の低さに関与すると考えられている。2)
Q 保因者の子どもはどのくらいの確率で発症するか?
A

mtDNA変異は母親からすべての子どもに伝わる。ただし発症するのは男性保因者の約50%、女性保因者の約10%である。ヘテロプラスミーの場合は変異負荷の割合によって発症リスクが異なる。遺伝カウンセリングの受診が推奨される。

LHONは2015年に難病に指定され、診断基準が定められている。

確定例:主要項目1の(1)と(2)、または(1)と(3)を満たす場合。

確実例:主要項目1の(1)または(3)を満たし、かつ参考項目2の(1)と(2)を満たす場合。

主要項目の内容は以下の通りである。

  • 1)(1):急性〜亜急性、両眼性、無痛性の視力低下と中心暗点
  • 1)(2):急性期に乳頭発赤・腫脹、毛細血管拡張・蛇行、RNFL肥厚、乳頭出血のうち1つ以上
  • 1)(3):慢性期の乳頭黄斑線維束を中心とした視神経萎縮
  • 2)(1):ミトコンドリア遺伝子のミスセンス変異の検出
  • 標的変異解析:3大変異(m.11778G>A、m.14484T>C、m.3460G>A)を対象とした検査。日本では外注検査として実施可能。2)
  • マルチ遺伝子パネル:主要3変異が陰性の場合に検討する。2)
  • 全mtDNA配列解析:稀な変異の検出に有用。2)
  • 眼底検査・細隙灯顕微鏡:乳頭周囲毛細血管拡張・偽浮腫の確認。
  • 蛍光眼底造影(FA):偽浮腫では蛍光漏出を認めない(真の乳頭浮腫との鑑別に重要)。
  • OCT:pRNFL厚の定量的評価。急性期の肥厚から慢性期の菲薄化への経過観察に有用。8)
  • 視野検査:中心暗点の評価。blue-on-yellow視野検査も有用。
  • VEP(視覚誘発電位)・PERG(パターン網膜電図):視神経機能の客観的評価。2)
  • MRI:急性期の球後視神経における信号変化の確認。視神経炎との鑑別に有用。急性期CT/MRIでは球後視神経に異常を認めないことが多い。
  • 視神経炎:眼球運動痛、MRI所見、ステロイド反応性で鑑別。
  • 中毒性視神経症:薬剤(エタンブトール等)・アルコール・タバコ曝露歴。
  • オカルト黄斑ジストロフィ:黄斑OCT所見で鑑別。
  • 小児弱視:小児LHONは弱視と誤診されることがある。3)治療抵抗性の視力低下では遺伝子検査を考慮する。

LHONに対する確実な治療法は現時点では確立されていない。日本での主な治療・管理方針は以下の通りである。

  • コエンザイムQ10(CoQ10)内服:抗酸化作用やミトコンドリア内エネルギー代謝改善作用を有するとされ、ミトコンドリア病の治療に広く利用されているが、効果は劇的ではない。
  • 禁煙指導:喫煙は発症・増悪因子であり、確実な禁煙を指導する。
  • 患者カウンセリング:遺伝的背景と家族内伝播に関する説明、心理的サポート。
  • 遺伝カウンセリング:保因者への情報提供と家族への波及効果の説明。半数以上で家族歴があり、母方の伯父・叔父や従兄弟に視力不良者の有無を確認する。発症した男性から子孫へは遺伝しない。
  • ロービジョンケア:拡大鏡、遮光眼鏡などの補助具の活用。視覚リハビリテーション

イデベノン(海外の標準治療)

Section titled “イデベノン(海外の標準治療)”

イデベノン(商品名 Raxone)は2015年にEMA(欧州医薬品庁)でLHONに対して承認された薬剤である。日本では承認されていない。

  • 用量:900mg/日(300mg×3回、食後)。2)8)
  • 作用機序:ミトコンドリア電子伝達系の複合体Iをバイパスし、ATP産生を回復させる。2)8)
  • RHODOS試験:85名を対象とした24週間の無作為化試験。視機能改善効果を検証した。
  • 効果の時期:早期(亜急性期)に開始するほど効果が期待できる。急性〜亜急性期が治療の窓(treatment window)となる。8)
  • ビタミン類:ビタミンB2、B3、B12、C、E、葉酸などのミトコンドリア機能補助が試みられている。2)
  • ブリモニジン点眼:対側眼への発症予防を目的に検討されたが、有効性は示されなかった。2)
  • シクロスポリンA:免疫修飾目的での使用が報告されているが、確立された治療法ではない。2)
Q イデベノンはいつから始めると効果的か?
A

早期(亜急性期)に開始するほど効果が期待できる。急性〜亜急性期が治療の窓とされており、8)慢性期(視神経萎縮確立後)では効果が限定的とされる。診断が確定した場合、速やかに専門医に相談することが重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

LHONの主な発症機序は、mtDNA変異によるミトコンドリア複合体I機能不全である。複合体I機能が障害されると電子伝達系が滞り、ATPの産生が低下する。同時に活性酸素種(ROS)が増加し、網膜神経節細胞(RGC)のアポトーシスが誘導される。2)

RGCが特異的に障害される理由として、以下の要因が挙げられている。

  • 高い代謝需要:RGCは長い無髄軸索(乳頭黄斑線維束)を持ち、ATP消費量が特に高い。1)
  • 小径有髄軸索の脆弱性:乳頭黄斑線維束を構成する小径線維は複合体I機能不全に特に脆弱とされる。

**DNAJC30変異(arLHON)**については、DNAJC30タンパクはミトコンドリア複合体Iのサブユニット交換シャペロンとして機能する。DNAJC30が欠損すると5つのサブユニットのターンオーバーが低下し、複合体I機能が障害される。DNAJC30変異によるarLHONは典型的なLHON三徴(乳頭周囲毛細血管拡張、血管蛇行、偽浮腫)を呈する。1)

m.10197G>A(MT-ND3)変異は高齢発症例でLHON表現型を示し(OR 1.46、P=0.005)、6)Leigh症候群との表現型オーバーラップが報告されている。6)

男性に多い理由については、X染色体上の修飾遺伝子が浸透率に関与するX連鎖感受性遺伝子仮説が提唱されている。1)4)エストロゲンの神経保護作用が女性の発症率を抑制するとも考えられている。2)

MT-ND4変異の視力回復は4〜25%に認められる。視力回復のメカニズムとして、残存する正常mtDNAによる代償的なミトコンドリア機能維持が推察されている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

AAVベクターを用いたND4遺伝子の硝子体内注射療法が最も進んだ研究段階にある。

15名を対象とした第1相臨床試験では安全性が確認された。注目すべき点として、片眼への注射で両眼の視機能改善が観察されている。12ヶ月後の評価で66%の患者が最良矯正視力3行以上の改善を達成した。8)

第III相試験としてRESCUE試験(視覚喪失6カ月未満、38人)とREVERSE試験(視覚喪失6〜12カ月、37人)が実施された。いずれも多施設共同無作為化二重盲検偽処置対照試験であり、片眼注射にもかかわらず両眼の視力改善が観察された。5年追跡では両眼とも約20文字の視力改善���持続し、QOLの有意な向上と重篤な有害事象の欠如が確認された���REFLECT試験では���眼注射の安全性が確認され、片眼注射と比較してより良好な視力転帰の傾向が認められた。

遺伝子治療はmtDNAの変異を直接補正するアプローチとして、将来の根本的治療法として期待されている。しかし現時点では標準治療として確立されておらず、臨床試験の枠組みの中での実施である。

SCOTS(Stem Cell Ophthalmology Treatment Study)研究では、骨髄由来幹細胞を用いた治療によりLHON患者の視力・視野の改善が報告されている。2)ただし、エビデンスレベルは低く、標準治療としての地位は確立されていない。

  • EPI-743:抗酸化効果を持つビタミンE誘導体。パイロット試験での有効性が報告されている。
  • フィトエストロゲン:in vitroでRGC保護効果が示されている。2)
  • ホルモン補充療法:女性保因者の神経保護を目的とした研究が進行中である。6)
Q 遺伝子治療はいつから受けられるか?
A

現時点では遺伝子治療は臨床試験段階にあり、一般の医療機関では受けられない。第1相試験では安全性が確認され、8)有効性に関するデータが蓄積されつつある。臨床実用化の時期は未定であり、最新情報は専門医に確認することが重要である。


  1. Wiggs JL. DNAJC30 biallelic mutations extend complex I-deficient phenotypes to recessive Leber hereditary optic neuropathy. J Clin Invest. 2021;131(6):e147734.

  2. Liutkeviciene R, Moller HJ, Tamosiunas A, et al. Spontaneous visual recovery in Leber hereditary optic neuropathy m.11253T>C and literature review. Medicina. 2021;57(3):202.

  3. Petrovic Pajic S, Bjelogrlić I, Dačić Crljen V, et al. Leber hereditary optic neuropathy in patients with presumed childhood monocular amblyopia. J Clin Med. 2023;12(20):6669.

  4. Gunawardena K, Senanayake S, Jayasena A, et al. First genetically authenticated case of Leber hereditary optic neuropathy in Sri Lanka: case report with literature review. J Med Case Rep. 2023;17:34.

  5. (Authors not specified). Atypical Leber hereditary optic neuropathy with novel MT-CYB mutation. Genes. 2025;16:108.

  6. Shi YZ, Tian J, Shen T, et al. Clinical spectrum of m.10197G>A variant in MT-ND3: a systematic review of reported cases. Orphanet J Rare Dis. 2025;20:59.

  7. Gerber S, Alzureiqi M, Marlin S, et al. MCAT mutations cause nuclear Leber hereditary optic neuropathy-like optic neuropathy. Genes. 2021;12(4):521.

  8. Popovic-Beganovic A, Dzinic V. Leber hereditary optic neuropathy: etiology, diagnosis, and current and emerging treatments. Med Arch. 2025;79(3):241-248.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます