I型(75〜87%)

デュアン後退症候群
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. デュアン後退症候群とは
Section titled “1. デュアン後退症候群とは”デュアン後退症候群(Duane Retraction Syndrome; DRS)は1905年にAlexander Duaneが詳述した先天性・非進行性の斜視症候群である。Stilling-Türk-Duane症候群とも呼ばれる。ICD-10ではH50.81に分類される。
一般人口の約1,000人に1人に発生し2)、全斜視症例の最大4%を占める。先天性脳神経異常支配疾患(CCDD)の中で最も一般的な疾患である2)。片側性が82%で左眼に多く(59%)、女児にやや多い(58%)。両側性は15〜20%に認められる。
II型・III型
II型(5〜10%):内転制限 > 外転制限。正面視で外斜視を呈し、I型とは逆方向の顔面回旋。
III型(10〜20%):内外転とも制限。93%に顔面回旋(73%が患側反対方向)1)
大規模研究(441名)では顔面回旋が54.6%に認められ、片側性で顔面回旋の出現頻度が有意に高かった1)。水平偏位76.0%、内斜視58.4%、外斜視17.6%である1)。
一般人口の約1,000人に1人に発生し2)、全斜視の最大4%を占める。先天性脳神経異常支配疾患(CCDD)の中では最も頻度が高い。片側性が82%で、左眼・女児にやや多い傾向がある。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
- 両眼視機能:大多数で正常。視力障害を来すことは少ない。
- 代償性頭位回旋:外転障害に対し患側への顔面回旋で両眼視を維持する。
- 弱視:約10%に発生するが標準治療によく反応する。韓国78名の研究では弱視5.1%1)。
- 屈折異常:遠視が最多。遠視42.3%、近視39.7%と報告されている1)。
- 外転制限:完全または部分的な外転制限(タイプにより程度は異なる)。
- 眼球後退+眼瞼裂狭小:内転時に眼球が後退し、眼瞼裂が狭小化する(誘発性眼瞼下垂)。DRSに特徴的な所見であり、真横から観察すると確認しやすい。
- 眼瞼裂拡大:外転時に眼瞼裂が拡大する。
- アップシュート/ダウンシュート(リーシュ現象):内転時に眼球が上方または下方に逸れる。出生直後にはみられず、外直筋の進行性拘縮により2次的に生じる。
- 輻輳不全:輻輳反射の低下を伴うことがある。
代償性頭位回旋は両眼視機能を維持するための適応動作である。15°未満の軽度であれば治療せず経過観察が原則である。15°以上や日常生活・整容的問題が生じる場合に手術を検討する。学校では顔を回す方向に児童を座らせるなどの環境調整が有効である。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”- 外転神経(CN6)の欠損:胚発生4〜8週における障害で外転神経の運動ニューロンが欠損または低形成となる。
- 動眼神経(CN3)による異常支配:CN3内転枝が外直筋を異常支配することで、内転時に内直筋と外直筋が同時収縮し眼球後退が生じる。
- 外直筋の変化:組織学的に外直筋の一部(正常神経支配を受けない部分)が線維化する。
- CCDDの一つ:先天性脳神経異常支配疾患の分類に含まれる2)。
- 関連症候群:Duane radial ray症候群(SALL4変異)・Goldenhar症候群・HOXA1症候群などと関連する2)。約30%の症例に他の先天異常(感音難聴、ワニの涙など)を合併する。
- 遺伝:単独型の10%が遺伝性。I型は常染色体優性(8q13)、II型は常染色体優性(DURS2: CHN1変異, 2q31-q32.1)。ただし90%は孤発性である。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”標準的な斜視評価(視力・眼球運動・両眼視・屈折検査)に従う。
- 細隙灯・眼球運動検査:内転時の眼球後退と眼瞼裂狭小はDRSに特徴的。真横から観察すると眼球後退を確認しやすい。
- 眼球牽引試験:陽性(中枢性だが外眼筋に拘縮性変化あり)。機械的制限と神経支配欠損の鑑別に有用。
- MRI:外転神経の欠損・低形成を描出可能。通常の診断目的では推奨されないが術前評価に有用。
- 遺伝子検査(CHN1):家族性症例にのみ推奨。
| 疾患 | 鑑別ポイント |
|---|---|
| 先天性外転神経麻痺 | 眼球後退なし、内斜視角が大きい |
| HGPPS | 水平注視麻痺+進行性脊柱側弯、眼球後退なし2) |
| Moebius症候群 | CN6+CN7障害、顔面筋力低下を伴う2) |
| Brown症候群 | 上転制限主体、眼球後退なし |
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”多くの症例は治療不要である。眼球運動障害自体に根本的な治療法はない。
非手術的管理
Section titled “非手術的管理”- 屈折矯正(眼鏡):遠視矯正だけで顔面回旋・内斜視が消失する例がある1)。
- プリズム眼鏡:軽度の偏位矯正に使用する。
- 弱視治療:弱視が合併する場合は標準的な遮閉療法を行う。
- ボツリヌス毒素注射:Anandの25名の研究では異常頭位(AHP)が11.58°±7.43°から7.86°±6.25°に改善1)。Ameriの16名では顔面回旋18.27°±7.29°が1週間後に0.094°まで改善するも、6か月後には7°まで再増大1)。
手術適応:15°以上の異常頭位、第一眼位の顕著な偏位、重度の誘発性眼瞼下垂(眼瞼裂幅50%以上減少)。
内斜視DRS
内直筋後転術(4〜5mm)が基本。5mmを超えると内転制限・続発外斜視のリスクが生じる。
Pressmanの19名(術前26.28PD→術後2.71PD、成功率79%)1)
西田法+内直筋後転:40PDの内斜視が6PDに改善、外転45°まで回復1)
重症例・難治例
縦直筋移動術(VRT):上・下直筋を外直筋付着部に移動。増強縫合群でAHP 22.7°→3.6°、非増強群で18.7°→7°1)
外直筋Y-splitting:upshoot/downshootに対する術式。直筋後転との組み合わせも有効1)
ボツリヌス毒素は異常頭位や内斜視を一時的に改善するが、効果は6か月後に減弱する1)。手術の代替または補助療法として、乳幼児期の早期介入や手術リスクが高い症例に検討される。繰り返し注射が必要な場合もある。
外転神経の先天的欠損と動眼神経による異常支配という根本的な神経障害は手術では改善しない。手術の目的は第一眼位の偏位矯正・代償性頭位の軽減・誘発性眼瞼下垂の改善であり、眼球運動範囲の正常化は期待しない。多くの患者は術後も代償機能により良好な両眼視を維持できる。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”現在の主流は神経原性理論である。
- 発生時期:胚発生4〜8週に外転神経の運動ニューロン欠損が生じる。Johns Hopkins大学の死後解剖研究(1980年代)により神経原性機序が確立した。
- 異常支配の機序:外転神経の欠損に伴い、動眼神経(CN3)内転枝が外直筋に異常支配する。内転時に内外直筋の同時収縮が起こり、眼球後退が生じる。
- EMG所見:外転時の外直筋電気活動欠如・内転時の逆説的活性化(1956年初報告)が証明されている。
- MRI所見:外転神経の欠損・低形成が描出可能。一部で動眼神経・視神経も未発達な場合がある。
- DRSは異常支配表現型の連続体(continuum):厳密な型の境界はなく、異常支配のパターンが多彩に分布する。
- 空間的近接性:海綿静脈洞・眼窩尖端内でのCN3・CN6の空間的近接性が軸索誤誘導を促進する。
- 筋原性理論(歴史的):外直筋の線維化・内直筋の異常後方付着が原因とされたが、逆説的運動パターンを説明できず現在は否定的である。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Al-Dabet S, et al. Abnormal head position in strabismus: a comprehensive review. Surv Ophthalmol. 2025;70:771-816.
- Whitman MC, Engle EC. Axon abnormalities in congenital cranial dysinnervation disorders. Annu Rev Vis Sci. 2020;6:51-76.