カバーテスト(cover test)は、眼位ずれ(斜視)の有無・種類・程度を客観的に評価するためのゴールドスタンダード検査である。角膜光反射やBrücknerテストとともに両眼アライメントの評価に広く用いられている1)。通常、眼科医・視能訓練士(orthoptist)・眼科技術者によって実施される。
遮閉・非遮閉試験(cover-uncover test)は顕性斜視(tropia)の検出に、交代遮閉試験(alternate cover test)は潜伏斜視を含む全偏位(total deviation)の測定に使用される1)。
眼位に関する基本用語を整理する。
- 正位(orthophoria):融像が除去された状態でも視線にずれがないもの
- 斜位(phoria):融像が除去されたときにのみ視線がずれるもの。日常は正位に保たれる
- 斜視(tropia):融像があってもなお視線がずれているもの
検査に必要なものは遮閉板と固視標のみであり、特殊な機器を要しない。
- 遮閉板:光を遮断できるものであれば専用器具でなくてよい。厚紙・検者の手のひら・親指でも代用可能である。半透明の遮閉板を用いると遮閉下の眼を観察でき、交代性上斜位などの評価に適する。艶のある素材は被検者の眼が映り込むため不適である
- 固視標:光視標と調節視標の2種がある。光視標はペンライトの光を用い、調節が働きにくいため内斜視が惹起されにくいが、角膜反射の観察が可能である。調節視標は文字や数字を用い、調節と輻凑のコントロールがとれた眼位を観察できる
検査は近見(調節固視標を33cmの距離に保持)と遠見(6mの視標を固視)の両方で実施する1)。検査には十分な視力と被検者の固視協力が必要である1)。正しい頭位で検査を行うことがすべての眼位検査で重要であり、異常頭位のまま検査しないよう注意する。
Q カバーテストにはどのような種類があるか?
A 大きく分けて遮閉試験(CT)、遮閉-遮閉除去試験(CUT)、交代遮閉試験(ACT)の3種がある。これらにプリズムを組み合わせたプリズム遮閉試験(PCT・SPCT・APCT)で偏位量を定量する。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。
以下の症状が認められた場合にカバーテストが実施される。
- 複視:成人・年長児で自覚される
- 頭位異常:眼性斜頸として両眼視を維持するための代償頭位をとる
- 片目つむり・まぶしさ:間欠性外斜視で明るい屋外に出た際にみられる
- 嫌悪反応:乳幼児で片眼を遮閉した際に顔を背けたり手で払いのけたりする反応。遮閉を嫌がらない方の眼の視力が低下していることを示唆する
カバーテストで検出される眼位異常は、大きく顕性斜視と潜伏斜視に分類される。
顕性斜視
定義:融像があっても眼位がずれている状態(tropia)
検出法:遮閉試験(CT)で非遮閉眼の動きとして検出される
特徴:遮閉・非遮閉にかかわらず偏位が存在する。間欠性と恒常性に分類される
潜伏斜視
定義:融像で補完され日常は正位だが、融像除去で偏位が現れる状態(phoria/斜位)
検出法:遮閉-遮閉除去試験(CUT)で遮閉除去眼の動きとして検出される
特徴:交代遮閉試験(ACT)で顕性斜視と合わせた全偏位を測定する1)
偏位の方向により以下のように分類される。
| 方向 | 顕性斜視 | 斜位 |
|---|
| 内方 | 内斜視(esotropia) | 内斜位(esophoria) |
| 外方 | 外斜視(exotropia) | 外斜位(exophoria) |
| 上方 | 上斜視(hypertropia) | 上斜位(hyperphoria) |
偏位の大きさはプリズムジオプトリー(PD)で定量する。
Q 顕性斜視(tropia)と斜位(phoria)はどう違うのか?
A 顕性斜視は融像が働いていても眼位ずれが存在する状態であり、遮閉試験で検出される。斜位は融像によって日常は正位に保たれるが、遮閉により融像を除去すると偏位が現れる状態である。交代遮閉試験では両者を合わせた全偏位を測定する。
カバーテストは、遮閉試験→遮閉-遮閉除去試験→交代遮閉試験の順に行うのが原則である。検査前にまず両眼開放で固視目標を見せ、斜位(phoria)と斜視(tropia)のどちらであるか、またはどちらの時間が長いかを観察することが大切である。
斜視の有無・ずれの方向・性質を確認するための最初の検査である。
- 固視眼と思われる方を遮閉板で覆い、非遮閉眼(反対眼)の動きを観察する
- 非遮閉眼が固視のために動けば顕性斜視ありと判定する
- 非遮閉眼が動かなければ、正位・斜位・遮閉した方の眼が斜視眼である可能性がある
- 小児では4本の指で頭部を固定し、親指を用いて遮閉する
- 遠見・近見の両方で行い、近見では調節を付加した状態(玩具など)で検査する
両眼開放下での各眼の視方向を確認する検査であり、斜位と顕性斜視を鑑別する。
- 一眼を数秒間遮閉した後、遮閉を取り除き、遮閉除去した眼の動きを観察する
- 遮閉除去した眼が動けば斜位、もしくは遮閉していなかった方の眼が斜視である
- 左右を変えて検査し診断をつける
- 熟練した検者は遮閉試験と一連で行い、「広義の遮閉試験」とも呼ばれる
融像を除去した状態での最大の眼位ずれ(全偏位)を検出する検査である。顕性斜視と潜伏斜視を合わせた全偏位を測定する1)。
- 1眼ずつ2秒間遮閉し、素早く交互に遮閉を繰り返す
- 遮閉を取り除いた方の眼の動きを観察する
- しっかりと融像を除去するために、両眼視させないよう交互遮閉を繰り返す
- 交代遮閉でどちらの眼も動かなければ正位と判定できる
- 遮閉の切り替え時に素早く復位(recover)するほどコントロール(制御状態)が良好である
- 間欠性外斜視の評価に特に重要な検査法である
遮閉試験にプリズムを組み合わせることで、斜視角を**プリズムジオプトリー(PD)**で定量する検査である。プリズムバーは前額面に平行に保持(frontal plane position)し、偏位が中和されるまでプリズム度数を上げながら繰り返す。
- プリズム遮閉試験(PCT):遮閉-遮閉除去試験にプリズムを組み合わせる方法。顕性斜視角を定量する
- 同時プリズム遮閉試験(SPCT):斜視眼にプリズムを当てると同時に固視眼を遮閉する方法。日常視に近い条件で顕性偏位を定量する
- 交代プリズム遮閉試験(APCT):交代遮閉にプリズムを組み合わせる方法。全斜視角(顕性+潜伏)を定量する。APCT=SPCT+潜伏性の眼位ずれ量の関係が成り立つ
水平と垂直のプリズムは重ねて使用可能であるが、水平プリズム同士を重ねることはできない。偏位が大きい場合はプリズムを左右の眼に振り分ける。角度が大きいほどプリズムの置き方で生じる誤差が大きくなるため注意を要する。なお、プリズムを用いて回旋斜視を定量することはできない。
カバーテストと併用される代表的な眼位検査法を示す。
- 角膜反射法(Hirschberg試験):ペンライトの光を両眼に当て、角膜反射の位置から眼位を推定する簡便法。瞳孔縁で15°(30PD)、虹彩上で30°、角膜縁で45°と判定する。瞳孔中心から1mmのずれが12.7°に相当する。乳幼児でも実施可能だが、この検査のみで「眼位異常がない」と決定することはできない
- Krimskyプリズム試験:固視眼の前にプリズムを置き、非固視眼の角膜反射が瞳孔中央にくるプリズム度数を求める。検査に協力できない乳幼児や斜視眼で固視できない場合に用いる
- 4プリズムbase-out試験:小さい中心抑制暗点(2〜4度)の有無を検出する検査
- 偽内斜視との鑑別:東洋人の乳幼児では内眼角贅皮により鼻側球結膜の露出が少なく、角膜反射法だけでは内斜視と偽内斜視の鑑別が困難である。顔貌から偽内斜視を疑っても、必ず遮閉試験を実施して嫌悪反応を評価しなければならない
- 偽眼瞼下垂の鑑別:片側の眼瞼下垂が疑われる場合、交代遮閉試験を行うことで下斜視に伴う偽眼瞼下垂を鑑別できる
- 麻痺性斜視の評価:麻痺性斜視では健眼固視(第1偏位)よりも麻痺眼固視(第2偏位)のほうが斜視角が大きくなる。上斜筋麻痺の症例においてカバーテストで遠見20PDの左下斜視と近見で間欠性15PDの左下斜視が検出された例が報告されている2)
- 乳幼児の嫌悪反応:片眼遮閉を嫌がる反応(嫌悪反射)がみられた場合、遮閉を嫌がらない方の眼の視力が低下している可能性がある。乳児の感覚性斜視では網膜芽細胞腫など早期診断が重要な疾患も含まれるため注意を要する
Q 遮閉試験と交代遮閉試験はどちらを先に行うべきか?
A 遮閉試験→遮閉-遮閉除去試験→交代遮閉試験の順で行う。交代遮閉試験は融像を除去する最も解離的な検査であるため、先に行うと融像が破壊され、以後の検査結果に影響する。
Q 東洋人の乳幼児で内斜視が疑われた場合に注意すべきことは?
A 東洋人の乳幼児は内眼角贅皮(epicanthus)により鼻側球結膜の露出が少なく、角膜反射法だけでは内斜視と偽内斜視の鑑別が困難である。必ず遮閉試験を実施して眼の動きと嫌悪反応を評価する。
- American Academy of Ophthalmology. Amblyopia Preferred Practice Pattern - 2024 Update. Ophthalmology. 2024.
- Awadein A, et al. Superior oblique palsy and Brown syndrome: a comprehensive review. Surv Ophthalmol. 2025.
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