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小児眼科・斜視

自閉スペクトラム症と眼科的問題

1. 自閉スペクトラム症と眼科的問題とは

Section titled “1. 自閉スペクトラム症と眼科的問題とは”

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder; ASD)は、早期に発症する神経発達障害である。社会的コミュニケーションの欠如と、限定的で反復的な行動様式を特徴とする。DSM-5による診断基準が用いられる。

ASDの有病率は小児の約36人に1人であり、男児は女児の約4倍診断されやすい。病因は十分に解明されていないが、脳の早期発達に関連するさまざまな遺伝的・環境的要因が寄与すると考えられている。

ASD児は多様な眼科疾患のリスクにさらされている。屈折異常・弱視・斜視などの発生率が高いにもかかわらず、協力が得られにくいことやコミュニケーション障害のため、眼疾患が見逃されやすい。ASD児の15〜25%は非言語的であり、通常の眼科検査の実施が困難となる。

発達障害児では、視力や両眼視機能が良好であるにもかかわらず、滑動性眼球運動(smooth pursuit)や衝動性眼球運動(saccade)がうまくできず、文章を読むときに行飛ばしてしまったり、黒板の文字をノートにうまく書き写せない例がみられる。眼球運動の発達は粗大運動の発達と密接に関係しており、感覚統合の関与が大きい。また、発達障害児では友人とのコミュニケーションのトラブルや学業上のストレスから自己評価が下がり、心因性視覚障害を示す例もある。

ASD関連の遺伝子変異症候群においても眼科的所見の合併が多い。HIST1H1E変異(Rahman症候群)では52例中19例(37%)に眼の変形が認められた1)。ASH1L変異関連症候群では報告例の60%に遠視乱視・斜視・眼振などの眼科的異常が認められている2)。MYT1L遺伝子の2p25.3微小重複症候群でも複数の患者で斜視が報告されている3)

Q ASDの有病率はどのくらいか?
A

ASDの有病率は小児の約36人に1人である。男児は女児の約4倍診断されやすい。広範な状態像を包含するため、症状の程度には大きな個人差がある。

ASD児自身が眼の症状を訴えることは少ない。非言語的な児が多いため、以下のような行動上のサインから眼科的問題を推測する必要がある。

  • 目を細める・顔を近づける:屈折異常の存在を示唆する。
  • 顔を傾ける・頭位異常:斜視の代償性頭位の可能性がある。
  • 視覚的に物を追えない:視力低下や眼球運動障害を疑う。
  • アイコンタクトの回避:ASDの中核症状であるが、視覚機能障害の合併を除外する必要がある。

ASD児に認められる眼科的所見は多岐にわたる。

屈折異常

屈折異常:ASD児の最大42%に認められる。遠視・近視・乱視のいずれも生じうる。

弱視:屈折異常や斜視に続発する。適切な矯正がなされないまま視力発達の臨界期を過ぎると、不可逆的な視力低下を残す。

眼球運動異常

斜視:ASD児に高頻度で認められる。眼球運動障害や視覚的追従の非定型的処理が原因と考えられる。

非定型的注視パターン:顔の他の部分に視線を向ける、アイコンタクトを避けるなどの特徴がある。

  • 周辺視野の減少:ASD児では周辺視野の狭小化が報告されている。
  • 色覚異常:色識別の困難が認められる。S錐体光受容体機能の障害や、大細胞系・顆粒細胞系の非定型的処理が原因の可能性がある。
  • 視神経:偏食によるビタミンA・B12欠乏に続発する後天性視神経症と、視神経低形成(ONH)などの先天性視神経症がある。ASDはONHを持つ児に非常に高頻度で認められる。

弱視は片眼性の場合、斜視を19〜50%、屈折異常を46〜79%に合併する。ASD児においてもこの傾向は同様であり、斜視や不同視の精密な評価が重要となる。

Q ASD児はどのくらいの頻度で眼科的問題を持つのか?
A

屈折異常はASD児の最大42%に認められる。斜視・弱視も一般児より高頻度であり、包括的な眼科検査が推奨される。

ASDに伴う眼科的問題の原因は多因子的である。

  • 神経発達の異常:脳の視覚情報処理・眼球運動制御経路の発達異常が、斜視や注視パターンの異常に関与する。
  • 紡錘状回の発達異常:顔認識の困難はこの部位の異常によるとされ、ASD患者では非定型的な注視パターンが生じる。
  • 偏食によるビタミン欠乏:ASD児は食事の選択性(偏食)が強く、ビタミンAやB12の欠乏から視神経症を発症するリスクがある。
  • 先天性脳構造異常:水頭症やONHに続発してASDと視機能障害が併存することがある。

ASD関連の遺伝子変異症候群では眼科的異常の合併率が高い。

  • HIST1H1E変異(Rahman症候群):52例の検討で96%に発達遅延/知的障害、46%に自閉/行動異常、37%に眼の変形を認めた。近視・乱視の合併も報告されている1)
  • ASH1L変異関連症候群:報告例の60%に遠視・乱視・斜視・眼振などの眼科的異常が認められる。知的障害(94%)・ASD(60%)が高頻度である2)
  • MYT1L 2p25.3微小重複症候群:43例の総合解析で23%にASD、21%に知的障害が認められた。斜視は顔貌異常の一部として複数例に報告されている3)
  • NEUROG1変異:先天性頭蓋神経不全症候群の原因であり、角膜混濁・眼瞼下垂・顔面非対称などの眼科的所見を伴い、ASDの合併が報告されている4)
  • ANK2変異:ASD・てんかん・知的障害を主徴とする。16例の検討で9例にASDが認められた5)
  • TLK2変異(MRD57):ASD・言語遅延を主徴とし、斜視・屈折異常が一部の症例で報告されている6)

脳性視覚障害(CVI)の児にも、発達遅延やASDの合併が認められる。CVI児では斜視(31〜94%)・視神経萎縮(16〜42%)・眼振(11〜92%)などの眼科的合併症が高頻度に生じる。

ASD児の眼科検査には特別な配慮が必要である。標準的な検査手順が困難な場合が多いため、以下のような工夫が推奨される。

AAO(米国眼科学会)の小児眼科評価優先的実践パターンでは、ASD児に対して自動または機器ベースのスクリーニングプロトコルが推奨されている。

  • フォトスクリーナー:言語的指示の必要性を最小限に抑えられる。
  • 手持ち式オートレフラクトメータ:積極的な参加を必要としないため、重症度の異なるASD児に広く適用可能である。

小児の視力評価には段階的な方法がある。固視・追視の評価から始まり、PL法やTeller Acuity Card法、視覚誘発電位(VEP)を組み合わせることで、言語的応答が困難な児でも視力の推定が可能となる。精神発達遅滞を合併している児では、3か月頃の固視・追視が必ずしも良好でない場合がある。明らかな眼疾患がないことを確認した上で、経過をみて再検査することが大切である。

行動技法を活用した検査プロトコル

Section titled “行動技法を活用した検査プロトコル”

ASD児の検査協力を得るために、以下の行動技法が有効である。

技法内容
ソーシャルストーリー受診内容を事前に絵で説明
視覚的スケジュール検査手順を写真で提示
シェイピング検査を段階的に進める
  • ソーシャルストーリー:検査に何が起こるかを描いた画像を事前に提示する。医師が誰であるか、何が期待されるかの説明を含むストーリーを作成し、不安を軽減する。
  • 視覚的スケジュール:スクリーニングの各ステップの写真を表示し、受診中の見通しを持たせる。検査の開始と終了をはっきり伝え、「できた」ところで終わりとして褒めるようにする。
  • シェイピング:倒像鏡の光をまず足に当て、次に肩、顔、最終的に目へと段階的に進める。
  • 高確率・低確率要求シーケンス:子供が完了しやすいタスクから始めて、困難なタスクに進む前に勢いをつける。
  • コミュニケーション支援:iPadなどの通信機器を活用し、「はい」「いいえ」で答えられるようにする。短く単純な質問を用い、応答時間を十分に確保する。

行動技法のみでは不十分な場合、経口ミダゾラム(0.5 mg/kg、最大15 mg)の投与が検討される。後方視的コホート研究では、以前は検査不可能だった児の完遂率が98%に上昇したと報告されている。

完全な眼科検査が実施できない場合、保護者からの情報が評価の重要な補完となる。構造化されたアンケートにより、子供が視覚的に環境とどのように関わっているかについての情報を得ることができる。

Q ASD児の眼科検査を成功させるコツは?
A

ソーシャルストーリーや視覚的スケジュールの事前活用が有効である。検査は静かで刺激の少ない環境で行い、段階的に進めるシェイピングの手法を用いる。機器ベースのスクリーニングで言語的応答の負担を減らすことも重要である。

ASD児の眼科的問題に対する治療は、一般児と同じ原則に基づくが、コミュニケーション障害への配慮が必要となる。

屈折異常が認められた場合は眼鏡処方を行う。調節麻痺下の屈折検査を行い、完全矯正眼鏡を装用させる。ASD児では触覚過敏により眼鏡の装用に対する感覚過敏がみられることがあるため、段階的な慣らしが必要な場合がある。触覚過敏があると眼鏡装用が定着するまでに時間がかかることが多いが、療育・教育機関との連携によりほとんどの子どもで眼鏡装用は可能となる。なお、障害児であっても眼鏡処方に関しては健常児と同様の基準で考えて処方する。

斜視弱視や屈折弱視に対しては、屈折矯正に加えて健眼遮蔽(アイパッチ)や調節麻痺薬(アトロピン)点眼を行う。ASD児ではパッチの受容に困難を伴うことがあり、行動療法的アプローチを併用する。読書や塗り絵などの近見作業を中心に弱視眼を積極的に使わせる。

斜視の種類・角度に応じて、プリズム眼鏡や手術が選択される。ASD児では全身麻酔に対する不安が強い場合があり、術前のソーシャルストーリーの活用が有用である。

偏食によるビタミンA・B12欠乏が視神経症の原因となりうる。栄養評価を行い、必要に応じてビタミン補充を行う。

Q ASD児に眼鏡をかけさせるにはどうすればよいか?
A

感覚過敏がある場合は、段階的に慣らすシェイピングの手法が有効である。短時間の装用から始め、装用できたら肯定的に強化する。フレームの素材や軽さに配慮した選択も重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

ASD児に眼科的問題が高頻度で生じる機序は、以下のような神経発達学的基盤に基づく。

ASD児では大細胞系(magnocellular system)および顆粒細胞系(koniocellular system)の非定型的な処理が報告されている。S錐体光受容体機能の障害や網膜神経節細胞の活動変化が、色覚異常の原因と考えられている。

紡錘状回(fusiform gyrus)の発達異常がASD児における顔認識困難の神経学的基盤とされる。この異常は非定型的な注視パターン(顔の目以外の部分に視線を向ける傾向)と関連する。

ASDの原因となる遺伝子変異の多くが、眼の発達にも関与している。

Zhaoら(2023)はHIST1H1E変異52例を解析し、眼の変形を19例(37%)に認めた。Ala144フレームシフト変異群では50%に眼の変形がみられ、他の変異部位(32%)より高頻度であった1)

Cordovaら(2024)はASH1L変異関連症候群15例(文献例+BGR新規3例)を検討し、遠視・乱視・斜視・眼振を60%に認めた。BGR例のうち1例にジスメトリアと失調性歩行を、別の1例に乱視を報告した2)

Shethら(2023)はNEUROG1遺伝子変異を有する姉妹2例を報告した。両症例とも先天性頭蓋神経不全症候群に加え、ASDを呈した。角膜混濁・眼瞼下垂・顔面非対称・両側蝸牛低形成・第VIII脳神経低形成が認められた4)

脳性視覚障害(CVI)の児では、発達障害やASDの合併が知られている。CVI児における眼科的合併症として、斜視が31〜94%、視神経萎縮が16〜42%、眼振が11〜92%の頻度で報告されている。CVI児においても屈折矯正と斜視治療は積極的に行うべきとされる。

ASDの遺伝的基盤の解明が急速に進んでいる。多数の遺伝子がASD感受性遺伝子として同定されており、これらの遺伝子変異が眼の発達にどのように影響するかの研究が進行中である。

Zhaoら(2025)はANK2遺伝子のナンセンス変異(c.3007C>T, p.R1003*)を中国で初めて報告した。16例のANK2変異症例の総合解析では、ASD 9例・てんかん10例・知的障害5例・言語コミュニケーション障害11例が認められた。ANK2変異はASD・てんかん・知的障害を伴う新規神経発達障害の原因遺伝子として注目されている5)

Maら(2024)はNCAPD3遺伝子変異による22型原発性小頭症にASDを合併した9歳児を報告した。同児では斜視が生後10か月から認められ、脳虚血性隠匿性血管解離に対するステント治療後に社会的相互作用・言語・斜視・眼球運動を含む多症状の改善が得られた7)

ASD児に対する眼科診療プロトコルの標準化が進められている。機器ベースのスクリーニングの精度向上、行動技法の体系化、保護者用アンケートの開発など、ASD児の眼科的問題を早期に発見し適切に治療するための取り組みが行われている。

  1. Zhao W, Zhang Y, Lv T, He J, Zhu B. A case report of a novel HIST1H1E mutation and a review of the bibliography to evaluate the genotype-phenotype correlations. Mol Genet Genomic Med. 2023;11:e2273.
  2. Cordova I, Blesson A, Savatt JM, et al. Expansion of the Genotypic and Phenotypic Spectrum of ASH1L-Related Syndromic Neurodevelopmental Disorder. Genes. 2024;15:423.
  3. Bouassida M, Egloff M, Levy J, et al. 2p25.3 microduplications involving MYT1L: further phenotypic characterization through an assessment of 16 new cases and a literature review. Eur J Hum Genet. 2023;31:895-904.
  4. Sheth F, Shah J, Patel K, et al. A novel case of two siblings harbouring homozygous variant in the NEUROG1 gene with autism as an additional phenotype: a case report. BMC Neurol. 2023;23:20.
  5. Zhao L, Qiao ZD, Jia YX, et al. A Mutation in the ANK2 Gene Causing ASD and a Review of the Literature. Mol Genet Genomic Med. 2025;13:e70083.
  6. Li HY, Jiang CM, Liu RY, Zou CC. Report of one case with de novo mutation in TLK2 and literature review. BMC Pediatr. 2024;24:732.
  7. Ma J, Liu Y, Zhao K. Microcephaly type 22 and autism spectrum disorder: A case report and review of literature. Dialogues Clin Neurosci. 2024;26(1):24-27.

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