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小児眼科・斜視

無眼球症

無眼球症(Anophthalmia)は、眼窩内に眼球組織が完全に欠損する重度の先天性眼球形成異常である。出生10万人あたり0.6〜4.2の頻度で発生する1)。推定出生有病率は約3/10万とされる2)

臨床上は以下の2つに区別される。

  • 真性無眼球症:組織学的に眼窩内に眼球組織が一切認められない状態。きわめてまれである。発生学的には、原発性無眼球(眼小窩が形成されないもの)、続発性無眼球(前脳の発育異常に伴うもの)、変性無眼球(眼胞発生後に変性消失をきたしたもの)に分類される。
  • 臨床的無眼球症:外見上は眼球が欠損しているが、微小な眼球組織の遺残が存在する状態5)。原発性無眼球以外は病理組織学的に外胚葉組織を眼窩内に認めることがあり、極小眼球との鑑別が困難な場合がある。

無眼球症は小眼球症(Microphthalmia)と連続したスペクトラムをなす。小眼球症では低形成の眼球が眼窩内に存在する点が異なる。臨床的に重度の小眼球症と無眼球症の鑑別は困難な場合があり、画像検査による確認が必要である7)

無眼球症は孤立性に発生することも、症候群の一部として生じることもある。53〜71%が両側性であると報告されている。全身異常の合併率は高く、32〜93%の症例で他臓器の異常を伴う2)

Q 無眼球症と小眼球症はどう違うのか?
A

無眼球症は眼球組織が完全に欠損した状態である。小眼球症は低形成ながら眼球が存在する。両者は連続したスペクトラムをなし、重度小眼球症との鑑別にはMRIなどの画像検査が必要となる7)

無眼球症は先天性疾患であるため、患児自身の自覚症状はない。保護者が出生時に眼球の欠損に気づく。

  • 視機能の完全欠如:患側の視力は認められない
  • 眼瞼の陥凹:眼瞼裂の短縮と結膜嚢の狭小化を伴う5)
  • 顔面非対称:片側性の場合、成長に伴い患側の眼窩低形成と顔面非対称が顕著になる5)

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

出生後の臨床所見は以下の通りである。

  • 眼瞼裂の短縮:結膜嚢が狭小で眼窩構造が陥没している
  • 赤色反射(RRT)の欠如:新生児スクリーニングで非対称または欠如として検出される1)
  • 眼窩の低形成:眼球による機械的刺激がないため眼窩骨の発達が遅延する
  • 対側眼の異常:片側性の場合、対側眼にコロボーマ白内障視神経低形成などを伴うことがある

両側性の場合は、陥没した眼窩と中顔面の低形成が認められる5)

無眼球症の病因は複雑であり、遺伝的要因と環境的要因の両方が関与する。

90以上の遺伝子が無眼球症・小眼球症に関連することが報告されている2)。主な原因遺伝子は以下の通りである。

SOX2

最も高頻度の原因遺伝子:重症両側性症例の10〜20%を占める1)

遺伝形式:多くはde novo(新生)のヘテロ接合型機能喪失変異である。

SOX2無眼球症症候群:学習障害、成長遅滞、てんかん、食道閉鎖、泌尿生殖器異常を伴うことがある1)

OTX2

2番目に多い原因遺伝子:両側性無眼球症の約3%に認められる。

機能:視胞の分化と網膜形成を調節する転写因子をコードする。

眼外症状:下垂体異常(成長ホルモン欠乏)、学習障害、脳構造異常を伴う6)

その他の重要な遺伝子として以下がある。

  • PAX6:眼球発達のマスターコントロール遺伝子。変異は主に無虹彩症に関与するが、SOX2との相互作用で無眼球症にも寄与する
  • BMP4:網膜・水晶体・視胞の形成に関与。変異は無眼球症、下垂体異常、多合指症を引き起こす6)
  • STRA6:レチノイン酸シグナル経路に関与。変異は先天性心疾患、横隔膜ヘルニアなどを伴う1)
  • RAX:遺伝性の無眼球症・小眼球症の約2%を占める1)

染色体異常では、13トリソミー、18トリソミー、モザイク型9トリソミーなどが関連する1)。14q22q23微小欠失症候群(Frias症候群)ではBMP4およびOTX2の欠失により無眼球症と下垂体異常を呈する6)

Goyalら(2025)のレビューによれば、無眼球症・小眼球症には常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖の全メンデル遺伝様式が報告されている。ほとんどの症例はde novo変異により散発的に発生する2)

子宮内での環境要因として以下が報告されている1)2)

  • 胎内感染:風疹、サイトメガロウイルス(CMV)、パルボウイルスB19、トキソプラズマなどのTORCH感染症
  • 栄養欠乏:母体のビタミンA欠乏。動物実験ではビタミンA欠乏食で無眼球症の仔が誕生することが確認されている2)
  • 薬物・毒素曝露:サリドマイド、ワルファリン、アルコール、イソトレチノイン
  • その他:高体温、X線曝露

疫学的なリスク因子として以下が知られている。

  • 高齢出産(40歳以上)
  • 多胎妊娠
  • 低出生体重
  • 早産

無眼球症は出生前に超音波検査で検出可能である1)

  • 超音波検査:2次元および3次元超音波により妊娠第1三半期末から眼球形成異常の検出が可能。3次元reverse-face imagingは2次元よりも診断に優れる場合がある1)
  • 胎児MRI:超音波で異常が疑われた場合に確定診断として用いる。眼球組織、視神経外眼筋の有無を詳細に評価できる1)
  • 遺伝学的検査:羊水穿刺または絨毛検査(CVS)による染色体分析・遺伝子パネル検査を行う

ただし、他の異常が併存しない限り出生前超音波で検出されることはまれである。

出生後の診断は以下の手順で行う。

  • 新生児診察:眼瞼を通じた触診による眼球の有無の確認。赤色反射テスト(RRT)のスクリーニングが有用である1)
  • 眼科的評価:小児眼科医による詳細な診察。眼瞼裂幅、結膜嚢の大きさ、対側眼の評価を行う
  • 画像検査:超音波検査で眼窩内構造を評価。CT・MRIで眼球内容、視神経の有無、中枢神経系異常をスクリーニングする
画像検査主な評価対象特徴
超音波眼球の有無・眼軸長非侵襲・簡便
MRI視神経・中枢神経系異常詳細な軟部組織評価
CT眼窩骨構造骨性評価に優れる

MRIでは、眼球の完全な欠損と視神経の形成不全が確認される。外眼筋は眼球がなくても存在することがある5)

症候群性の可能性があるため、包括的な遺伝学的精密検査が推奨される1)

  • 染色体分析:核型分析、染色体マイクロアレイ(SNPアレイ、CGHアレイ)
  • 次世代シーケンシング(NGS):標的遺伝子パネルまたは全エクソーム解析(WES)。WESにより従来検出困難であった稀な変異の同定が可能になった2)
  • 家族歴の聴取:両親の眼科的評価を含む

合併異常のスクリーニングとして以下を行う。

  • 脳MRI:下垂体低形成、海馬奇形、視床下部異常、脳梁欠損などをスクリーニング1)
  • 腎超音波:眼疾患と腎疾患の高い併発率から推奨される
  • 聴力検査:聴覚脳幹反応(ABR)
  • 心エコー:先天性心疾患の評価1)

Alhubaishiら(2024)は両側性先天性無眼球症の症例で、脳MRIにてDandy-Walker変異体が疑われ、左腎盂拡張が認められたと報告している5)。無眼球症の管理には全身的な検索が重要であることを示す症例である。

Q 無眼球症はいつ診断できるのか?
A

出生前に超音波検査で妊娠12週頃から検出可能な場合がある。しかし、他の異常が併存しない限り出生前診断は困難であり、多くは出生後の臨床診察で発見される1)。確定診断にはMRIが有用である。

無眼球症の治療は視力回復を目的とするものではなく、眼窩の正常な発達の促進、顔面の対称性の維持、義眼の装着を可能にすることを目標とする。

生後早期からの介入が不可欠である。正常な乳児の眼球は成人サイズの約70%であり、生後12か月間で最も急速に成長する3)。この時期に眼窩への機械的刺激がなければ、眼窩の発達が遅延し顔面非対称が生じる。

コンフォーマ(結膜嚢拡張器)

Section titled “コンフォーマ(結膜嚢拡張器)”

最も低侵襲な初期治療であり、生後1〜2週以内に開始することが望ましい3)

  • 義眼に類似した形状の拡張器を結膜嚢内に留置する
  • 児の成長に合わせ段階的に大きなサイズに交換する
  • 樹脂製(アクリル、シリコン)が一般的に使用される
  • 親水性ハイドロゲル素材の拡張器は組織液を吸収して自然に膨張し、頻回の交換が不要である

Yamashitaら(2023)は生後2か月の臨床的先天性無眼球症児に対し、熱可塑性樹脂製スプリントによる眼窩拡大を報告した。スプリントは成長に合わせ段階的に交換され、5年後に左右の眼窩にほぼ差がない良好な結果が得られた3)。外来で簡便に作製できる素材の有用性を示す報告である。

コンフォーマ導入から約2か月後に検討される。

  • 自己組織:真皮脂肪移植(dermis fat graft; DFG)は小児の成長に合わせて増大する傾向があり、手術回数を減らせる利点がある
  • 人工材料:ヒドロキシアパタイト、ポリエチレン、アクリル樹脂などの多孔質・非多孔質材料を使用する。成長に合わせた段階的な入れ替えが必要となる

Kato-Juniorら(2025)は片側性先天性無眼球症の3児に対し、真皮脂肪移植に上眼瞼皮膚移植を組み合わせた新しい手技を報告した。生後1か月以内に手術を行った2例ではより良好な結果が得られ、早期介入の重要性が示された4)

コンフォーマ

侵襲性:低い。外来で装着・交換可能。

開始時期:生後1〜2週が理想的。

利点:非手術的で繰り返し拡大が可能。

欠点:頻回の交換が必要。重度例では不十分な場合がある。

眼窩インプラント

侵襲性:手術が必要。

開始時期:コンフォーマ治療後、数か月から。

利点:恒久的な眼窩容積の増加。DFGは成長とともに増大する。

欠点:露出・感染のリスク。段階的な入れ替えが必要。

眼窩が十分に拡大された後、義眼(外部プロテーゼ)を装着する。生後8か月以降に標準的な義眼への移行が可能となることがある3)。成長に合わせ年1回程度の調整が必要である。小児に対する義眼の導入に際しては、義眼の調整回数が3回以上、調整期間が6カ月以上になることも多い。なお原則として小眼球に対する義眼は保険給付の対象外であり、家族の経済的負担が大きい点にも配慮が必要である。

全体的な整容改善のため、以下の追加手術が検討される場合がある。

  • 眼瞼の外科的矯正(眼瞼下垂、内反症など)
  • 涙囊の矯正
  • 年1回の眼窩インプラントの確認
Q 義眼は何歳から装着できるのか?
A

コンフォーマによる眼窩拡大治療を生後早期に開始し、結膜嚢が十分に発達した後に義眼へ移行する。時期は症例により異なるが、生後8か月頃から可能な場合がある3)。義眼のサイズは成長に合わせて定期的に調整する必要がある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

眼球は神経外胚葉、神経堤細胞、中胚葉、表面外胚葉に由来する組織が高度に調整された一連のステップを経て形成される。

  1. 胎生第4週:神経管の吻側神経孔が閉鎖し、前脳の神経外胚葉から視胞(optic vesicle)が形成される
  2. 視胞→視杯:視胞が表面外胚葉を水晶体組織へと誘導し、自ら陥入して視杯(optic cup)を形成する
  3. 視杯の発達:水晶体の周囲で成長し、網膜・虹彩毛様体を含む成熟した眼球構造を形成する
  4. 視茎:視杯と前脳をつなぐ視茎(optic stalk)が視神経へと発達する
  5. 間葉の分化:周囲の間葉が脈絡膜角膜強膜を形成する

無眼球症は発達障害の生じる時期により3型に分類される。

分類発生時期特徴
一次性視胞形成以前まれ。通常両側性
二次性神経管形成期前部神経管異常に続発。致死的
続発性視胞形成後視胞の二次的変性による

眼球発生には複数の転写因子とシグナル経路が関与する2)

  • OTX2:前脳の特異化を調節し、SIX3、RAX、PAX6の発現を制御する。SOX2と協調してRAXを調節する
  • SIX3:WNTシグナルを抑制し、PAX6やLHX2などの眼野転写因子を活性化する
  • PAX6:眼球発達のマスターレギュレーター。レンズプラコードと前プラコード領域の形成に必須
  • BMP4:LHX2の調節下でレンズプラコードの肥厚を誘導する。BMP4欠損マウスではレンズが形成されない2)
  • レチノイン酸経路:視胞の陥入を誘導する。STRA6、ALDH1A3、RARBなどの関連遺伝子の変異は眼球形成異常を引き起こす

Goyalら(2025)のレビューによれば、細胞外マトリックス(ECM)も眼球発生に重要な役割を果たす。ラミニンサブユニットの障害は眼球奇形を引き起こし、ルミカン(LUM)は眼軸長を制御する。IV型コラーゲン変異は網膜色素上皮の成長に影響する2)

遺伝子変異に加え、エピジェネティック修飾も無眼球症の発症に関与する2)

  • DNAメチル化:母体の喫煙や葉酸欠乏は眼球発生に重要な遺伝子のメチル化パターンを変化させる
  • ヒストン修飾EZH2やKMT2Dなどのヒストンメチル化酵素の変異は眼球を含む発達障害に関連する
  • マイクロRNA:miR-204はレンズおよび網膜発生に重要な遺伝子を調節する

全エクソーム解析(WES)および全ゲノム解析(WGS)の普及により、従来検出困難であった稀な遺伝子変異の同定が可能になった2)

Hardingら(2023)はMACコホート50例を対象とした分子診断研究で、標的遺伝子パネル・WGS・マイクロアレイCGHを用いた包括的解析により約33%で病的変異を同定した。EPHA2と小眼球症の関連やFOXE3と聴力障害・腎異常の関連など、新たな遺伝子型-表現型相関も報告された2)

WESを出生前超音波異常の精密検査に適用する試みが進んでいる。従来の核型分析やマイクロアレイで診断困難な症例でも、WESにより6.2〜57%の追加診断が可能との報告がある2)

人工多能性幹細胞(iPSC)を用いた研究は治療の新たな可能性を開きつつある2)

  • iPSCから網膜細胞や眼組織を分化誘導する技術が開発されている
  • 患者由来iPSCモデルにより疾患特異的な変異の影響を研究可能
  • カスパーゼ-8阻害剤による薬理学的アプローチでアポトーシスの抑制が試みられている

コンピューター支援設計(CAD)と3Dプリンティングによるコンフォーマ作製のワークフローが開発され、個別化された精密な治療の実現が期待されている。

Q 無眼球症の遺伝子検査は受けるべきか?
A

遺伝学的検査は病因の解明、合併症の予測、遺伝カウンセリングに有用である。特に両側性や症候群性が疑われる場合は推奨される1)。ただし、約67%の症例では現在の技術でも病的変異が同定されない場合があり、結果の解釈には臨床遺伝専門医の関与が重要である。

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