この疾患の要点
スザック症候群(SuS)は脳・網膜 ・内耳の毛細血管前細動脈を侵す稀な自己免疫性微小血管症である。
臨床的3徴は脳症・網膜動脈分枝閉塞症 (BRAO )・感音難聴 であるが、初診時に3徴が揃うのは約13%にとどまる。
女性に多く(女性:男性≒3〜3.5:1)、好発年齢は20〜40歳である。1)
脳MRIでは脳梁中央部のスノーボール様病変が特徴的であり、多発性硬化症 との鑑別に重要な所見となる。
確立したRCTはなく、治療は高用量ステロイド ・IVI G・免疫抑制薬を組み合わせた経験的治療が主体である。2)
診断の遅れが重篤な後遺症につながるため、若年者の原因不明の頭痛・視野欠損 ・難聴の同時出現ではSuSを鑑別に挙げることが重要である。
スザック症候群(Susac syndrome; SuS)は、1979年に米国の神経科医 John Susac が初めて記載した稀な自己免疫性内皮細胞障害(autoimmune endotheliopathy)である。脳・網膜・内耳の毛細血管前細動脈を侵す微小血管症であり、別名SICRET(Small Infarcts of Cochlear, Retinal, and Encephalic Tissue)とも呼ばれる。
性差 :女性に多い(女性:男性≒3〜3.5:1)。1)
好発年齢 :20〜40歳(報告範囲7〜72歳)。
発症率 :中央ヨーロッパで年間0.024〜0.13/100,000人。2) Konitsiotiらは0.24/1,000,000人と報告した。1)
累積報告数 :2021年時点で約500例。3)
小児例 :報告全体の約1%。最年少例は2.5歳。3)
分布 :北米・ヨーロッパの白人に多い。妊娠中・産後の発症報告もある。
単周期性(monocyclic) :2年以内に自然軽快する。
多周期性(polycyclic) :2年超で再発する。
慢性持続性(chronic continuous) :寛解なく持続する。
再発率は151例のレビューで24%(36例)であり、診断から再発までの中央値は4ヶ月であった。1)
Q スザック症候群はどのくらい稀な疾患か?
A 中央ヨーロッパでの年間発症率は0.024〜0.13/100,000人とされ、2021年時点で世界の累積報告数は約500例である。2) 3) 非常に稀な疾患であるため、診断に平均5ヶ月を要することがある。
初期に3徴が揃うことは稀で、304例のレビューで初診時に3徴が揃っていたのはわずか13%であった。初発症状から3徴完成までの平均期間は約5ヶ月である。CNS症状が最も一般的な初発症状であり、次いで視覚症状、前庭・蝸牛症状の順に多い。
頭痛 :片頭痛 様頭痛が80%にみられ、他の症状に数ヶ月先行することがある。
CNS症状 :認知機能障害・錯乱・情緒障害・行動変化・無気力・精神病状態・覚醒度低下。
その他のCNS症状 :運動失調・めまい・歩行異常・感覚障害・上位運動ニューロン徴候・麻痺・構音障害・複視 ・排尿障害。
視覚症状 :霧視 ・光視症 ・視野欠損(暗点・高度欠損)。
前庭・蝸牛症状 :両側性(時に片側性)の感音難聴。低〜中周波数領域が多い。耳鳴り・めまいを伴うことがある。
眼底・画像所見
BRAO :網膜細動脈レベルの閉塞。しばしば両側性・非対称性。3)
Gass斑 :網膜細動脈壁の分岐部間に出現する小さな黄色い点。内皮障害部位を反映する。4)
AWH :細動脈壁蛍光貯留(arteriolar wall hyperfluorescence)。FA ・SD-OCT で確認する。
OCTA 所見 :表層・深層血管叢の血流低下領域、FAZ拡大。4)
MRI・聴力所見
脳梁スノーボール病変 :T2/FLAIR高信号病変、脳梁中央部に好発、3〜7 mm。3)
脳梁孔 :進行期にT1低信号の「穴」・つらら状・車輪のスポーク状形態。
軟膜増強効果 :造影後FLAIRで100%に検出。3)
感音難聴 :両側性の低〜中周波数領域の閾値上昇が典型的。
SD-OCT所見 :急性期は内網膜層の肥厚・高反射。慢性期はRNFL 〜OPL(特に耳側)の斑状菲薄化。外核層・視細胞 層は保たれる。
CSF所見 :軽度のリンパ球性髄液細胞増多・蛋白上昇。オリゴクローナルバンドは通常陰性(MSとの鑑別点)。
皮膚所見(稀) :網状皮斑(livedo reticularis)・livedo racemosa。文献レビューで5例が報告されている。6)
Q 3つの症状が最初から揃うことはあるか?
A 初診時に脳症・BRAO・感音難聴の3徴が揃うのは304例のレビューで13%のみである。初発症状から3徴完成まで平均5ヶ月を要する。そのため、1〜2症状の段階での早期診断が重要である。
SuSの病因は自己免疫性内皮細胞障害であると推定されている。明確な予防法は確立されていない。
CD8陽性T細胞(CTL)を介した内皮障害 :終末分化した活性化CD8+ T細胞のオリゴクローナル増殖が主要機序と考えられている。3) CTLが微小血管内皮に接着し、内皮傷害・血管透過性亢進・微小梗塞を引き起こす。6)
抗内皮細胞抗体(AECAs) :SuS患者の約30%で検出される。血管内血栓沈着を媒介する可能性があるが、SuS特異的ではない。6)
自己反応性CTL生成機序 :慢性TCRシグナル・ゲノムメチル化プロファイル変化・TOX遺伝子発現増加が関与するとされる。6)
感染の関連 :SARS-CoV-2感染後に発症した症例報告がある。5)
ワクチン接種後の発症 :COVID-19ワクチン(BNT162b2)接種5日後に発症した症例報告がある。7)
ホルモン的要因 :女性に多いこと、妊娠・産後の発症が報告されることから示唆される。
脳・網膜・内耳の細動脈が選択的に障害される理由は不明である。
2016年にKleffnerらが提唱した European Susac Consortium(EuSaC)診断基準が広く用いられている。3) 1)
確定診断(definite SuS) :脳・眼・耳の3臓器すべてに所見がある。
可能性の高い診断(probable SuS) :2臓器に所見がある。
可能性のある診断(possible SuS) :1臓器に所見がある。
脳 :MRI(FLAIR/T2高信号病変、脳梁中央部のスノーボール様病変が特徴的)。
眼 :FA(BRAO・AWH・Gass斑)・SD-OCT(内網膜層変化)・OCTA(微小血管灌流低下)。4)
耳 :純音聴力検査(低〜中周波数の感音難聴)。
CSF検査 :蛋白上昇・軽度リンパ球増多。オリゴクローナルバンド陰性がMS除外に有用。
EEG :脳症の確認に施行されることがある(びまん性徐波化など)。3)
脳血管造影 :通常正常(障害血管口径<100 μm)。3)
バイオマーカー (研究段階) :ニューロフィラメント軽鎖(NfL)とGFAPが再発・重症度モニタリングに有望。2)
SuSと鑑別が必要な主な疾患を以下に示す。
疾患 鑑別のポイント 多発性硬化症(MS) 脳梁病変はMS下面に好発、SuSは中央部。OCB陽性はMSを示唆 ADEM 大型・非対称の脱髄病変 SLE ・サルコイドーシス 各疾患の全身所見・血清学的検査で鑑別
若年者の反復性BRAOではSuSを鑑別に挙げる。低周波難聴・脳梁を中心としたCNS病変・BRAOの3徴が手がかりとなる。
Q 多発性硬化症との違いは何か?
A 最も重要な鑑別点は脳梁病変の部位である。MSでは脳梁病変は下面(callosal-septal interface)に好発するが、SuSでは中央部に好発する。またMSではオリゴクローナルバンドが陽性であることが多いが、SuSでは通常陰性である。3)
SuSに対するRCTは存在せず、治療はすべて症例シリーズ・専門家意見に基づく。3) 2)
高用量ステロイド :メチルプレドニゾロン(MP)1000 mg/日を3〜7日間静注し、続いてプレドニゾン1 mg/kg/日の経口投与、数週間かけて漸減する。2)
IVIG(静注用免疫グロブリン) :2 mg/kg、2日間投与、2週間ごと。ステロイド減量中の急性再発予防に推奨。少なくとも12ヶ月継続する。2)
アセチルサリチル酸(アスピリン) :抗血小板・抗炎症効果のため早期から併用が推奨される。2)
重症例の即効性免疫抑制薬 :
シクロホスファミド:重度のCNS病変に第一選択。10〜15 mg/kg(最大1200 mg)を2週間で2サイクル静注。2)
リツキシマブ :1000 mg静注、14日後に再投与、以後6ヶ月ごと。重症SuSや再発例に推奨。2)
血漿交換(plasmapheresis) :難治例の補助療法。
ミコフェノール酸モフェチル (MMF) :現行推奨で免疫調節薬の第一選択。単独またはタクロリムスとの併用。2)
アザチオプリン :MMFの代替。2)
メトトレキサート :単独またはAZA/MMFとの併用。ただし催奇形性に注意(好発年齢が生殖年齢と重なるため)。2)
2〜4週間間隔でステロイドを漸減し、長期副作用リスクの低い免疫抑制薬へ移行する。
治療中止前にMRIおよびFAで再発の有無を定期的にモニタリングする。
BRAO再発は自然軽快することが多く、厳重なモニタリングのみが推奨される。
残存難聴に対しては補聴器や人工内耳が選択される。
治療における注意点・副作用
ニモジピン・抗血小板薬単独の有益性は認められていない。
ステロイド長期使用による骨粗鬆症・無菌性骨壊死・脂質異常症に注意する。長期投与症例では両側股関節人工関節置換が必要となった例も報告されている。2)
ステロイド減量で再燃する症例(ステロイド依存性)に注意する。2)
Q 治療はいつまで続ける必要があるか?
A 維持療法は一般的に約2年間が推奨される。治療中止前には脳MRIおよびFAで再発の有無を確認することが重要である。ステロイド減量で再燃する症例もあるため、慎重な漸減が必要である。2)
終末分化した活性化CD8+ T細胞(CTL)のオリゴクローナル増殖がSuSの中核的病態と考えられている。3)
CTLが微小血管内皮に接着し、内皮傷害→血管透過性亢進→微小梗塞を引き起こす。3) 1)
脳梁・内耳・網膜・小脳に好発する病変はこの機序を反映する。3)
自己反応性CTL生成にはTCRの慢性シグナル・ゲノムメチル化変化・TOX遺伝子発現増加が関与する。6)
definite SuS患者の約30%で検出される。6) 2) 血管内での血栓性沈着を媒介すると仮説されるが、SuS特異的ではない。
MRIで検出不能な微小皮質病変が存在し、画像所見と臨床症状(びまん性脳症)の乖離を説明する。3) 急性期の造影増強効果やその可逆性は毛細血管漏出現象に起因すると考えられる。3)
SARS-CoV-2はACE-2受容体を介して内皮機能障害・微小血管閉塞に寄与する可能性があり、感染後のSuS発症機序の一つとして示唆されている。5)
抗α4インテグリン抗体で、CD8+ T細胞を介した内皮障害のVLA-4経路を阻害する。
Konitsiotiら(2025)は2例の女性患者にoff-labelで使用し、16ヶ月・22ヶ月にわたり臨床的・画像的安定が得られたことを報告した。1) マウスモデルでも疾患改善が報告されている。ただし4例中2例で中止後に再発し、8週間から6週間への投与間隔短縮で安定化した。不完全型SuSの1例ではnatalizumab投与後に増悪した報告もある。使用にはJCウイルス抗体陰性が条件となる。1)
Grygiel-Górniakら(2025)は、NfL(ニューロフィラメント軽鎖)が再発時に有意上昇し、疾患活動性モニタリングに有望であることを報告した。GFAP(グリア線維性酸性タンパク)は重症SuSで上昇するが、再発時の動的変化はNfLほど顕著ではない。2)
非侵襲的に表層・深層血管叢の灌流評価が可能であり、FAの代替・補完的手法として期待される。4)
Konitsioti AM, Grajewski R, Schlamann M, et al. Successful Natalizumab Treatment of Two Female Individuals With Susac Syndrome. Eur J Neurol. 2025.
Grygiel-Górniak B, Joks MM, Mazurkiewicz L, et al. Susac syndrome – different treatment approaches for one disease (analysis of case series). Neurol Sci. 2025.
Benbrahim FZ, Belkouchi L, Allali N, et al. Susac syndrome: A rare pediatric case. Radiol Case Rep. 2024.
Bagaglia SA, Passani F, Oliverio GW, et al. Multimodal Imaging in Susac Syndrome: A Case Report and Literature Review. Int J Environ Res Public Health. 2021.
Raymaekers V, D’hulst S, Herijgers D, et al. Susac syndrome complicating a SARS-CoV-2 infection. J NeuroVirol. 2021.
Srichawla BS. Susac Syndrome With Livedo Reticularis: Pathogenesis and Literature Review. Cureus. 2022.
Fisher L, David P, Sobeh T, et al. Susac syndrome following COVID-19 vaccination: a case-based review. Clin Rheumatol. 2023.
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