背側型
病変部位:両側頭頂後頭葉
特徴:空間的不注意が主体。バリント症候群にみられる型であり、同じ場面内で複数物体を認識できない。移動中に物体に衝突する。

同時失認(simultanagnosia)は、個々の要素は認識できるが、複数の刺激を同時に知覚して全体として解釈できない状態である。「木を見て森を見ず」という表現が古典的に用いられる。
1909年にRezső Bálintが精神性注視麻痺・視覚性運動失調・空間的注意障害を報告した。1924年にWolpertが「同時失認(simultanagnosia)」と命名した。
背側型
病変部位:両側頭頂後頭葉
特徴:空間的不注意が主体。バリント症候群にみられる型であり、同じ場面内で複数物体を認識できない。移動中に物体に衝突する。
腹側型
病変部位:後頭側頭葉
特徴:複数物体の並列知覚および絵の全体理解が障害される。背側型と比べて物体への衝突は少ない。1)
バリント症候群は、視覚性運動失調(optic ataxia)・眼球運動失行(oculomotor apraxia)・同時失認の3徴で定義される。同時失認はその一構成要素であるが、単独でも生じうる。背外側路の広範な損傷がバリント症候群の基盤となる。
分水嶺梗塞やvisual Alzheimer病(視覚型アルツハイマー病)でバリント症候群が生じる。後天性眼球運動失行に視覚性運動失調と同時失認が加わればバリント症候群と診断される。
単独疾患としての疫学データはなく、基礎疾患に依存する。神経変性疾患(アルツハイマー病・後部皮質萎縮症)では初期症状として現れうる。1)
バリント症候群は同時失認・視覚性運動失調・眼球運動失行の3徴を指す。同時失認はその一構成要素であり、単独でも生じる。バリント症候群では一般に同時失認のみの場合より広範な脳損傷を伴う。
眼球構造や視力そのものは正常でも、高次の視覚認知(複数物体を同時に知覚して全体として統合する能力)が障害されるため、視覚場面の全体的な把握が困難になる。これは眼科的な問題ではなく、脳の高次視覚野の問題である。
脳血管障害が全般的に最も多い原因である。後頭葉障害は後大脳動脈(PCA)の脳梗塞が多い。頭頂後頭葉は中大脳動脈と後大脳動脈の分水嶺領域にあたるため、脳低灌流(cerebral hypoperfusion)が急性期の主要な原因となる。
脳血管障害
分水嶺梗塞:急性期の最多原因。頭頂後頭葉が脆弱。
後大脳動脈梗塞:後頭葉病変の主要な原因。
脳出血:頭頂後頭葉への直接損傷。
神経変性疾患
アルツハイマー病:visual Alzheimer病として初発しうる。
後部皮質萎縮症(PCA):60歳前後に発症。視空間・知覚障害が主症状。最多の原因はAD(アルツハイマー病)。背側型(頭頂後頭葉)と腹側型(後頭側頭葉)のサブタイプがある。1)
その他の病因
病変部位:両側の頭頂後頭葉が最も一般的。まれに右片側性頭頂後頭葉、両側後頭葉、片側頭頂葉の損傷でも生じる。
リスク因子:高血圧・糖尿病・脂質異常症(脳血管障害のリスクとして)、外傷、神経変性疾患の関連リスク因子。
正式な診断基準は存在しない。臨床所見と神経画像検査を組み合わせて診断する。
各検査の主な用途を以下に示す。
| 検査法 | 主な用途 |
|---|---|
| MRI(第一選択) | 両側頭頂後頭葉の腫瘍・梗塞・出血・皮質萎縮の評価 |
| DWI/ADC | 急性虚血性変化の検出(発症数時間以内に有用) |
| CT(非造影) | 急性期の頭蓋内出血の除外 |
| SPECT | 脳血流変化の把握 |
MRIはT1強調画像で解剖学的構造を把握し、T2強調画像で病変検出力が高い。
眼科医から神経内科・神経眼科への紹介が重要である。
石原式色覚検査表で色覚は正常なのに数字を読めない場合、同時失認のスクリーニングとして有用である。また、ボストン・クッキー盗難図などの複雑な視覚場面で全体を把握できず、個々の要素のみを列挙するパターンも手がかりとなる。量的視野計測が正常でも対座検査で発見されることがある。
同時失認そのものに対する根本的な薬物療法はない。基礎疾患への治療と損傷の進行防止が最優先となる。
ロービジョン・リハビリテーションは同時失認の症状改善の可能性がある。視覚に関連した中枢神経系の欠落症状に対しては、各症状に対応したリハビリテーションがある。
根本的な治療法はないが、基礎疾患の治療により損傷の進行を防ぐことが重要である。脳梗塞などの急性原因では適切な治療とリハビリテーションで一定の改善が期待できる。進行性神経変性疾患が原因の場合は予後不良なことが多く、早期からのリハビリテーション導入が推奨される。
正確なメカニズムは未解明であるが、いくつかの仮説と神経解剖学的知見が示されている。
高次視覚野には2つの処理経路がある。
同時失認は背側頭頂葉への連絡遮断により生じる。背側型はV4野以降の背側経路の障害、腹側型は後頭側頭葉の障害による。
腹側型PCAの病態として、後頭側頭葉へのタウタンパク蓄積とアストロサイトグリオーシスが報告されている。1)
Shiioら(2024)は73歳女性の腹側型PCA症例を報告した。MRIで右紡錘状回・下後頭回・後下側頭回の萎縮を認めた。CSF検査ではAβ1-42低下(489.0 pg/mL)、総タウ上昇(625.7 pg/mL)、リン酸化タウ上昇(84.0 pg/mL)を示した。PiB-PET(アミロイド)は広範分布を示した一方、THK5351-PET(タウ/MAO-B)では後頭側頭葉に限局した集積を示した。タウタンパク蓄積/アストロサイトグリオーシスが腹側型PCAの病態に関与する可能性を示唆している。1)
アミロイドβは広範に分布するが、タウ蓄積部位と臨床症状(腹側型の視覚認知障害)が一致することが示された。
Shiioら(2024)は、THK5351-PETによるタウ蓄積イメージングが腹側型PCAの病態解明に有用であることを示した。1) タウ蓄積が後頭側頭葉に限局しており、腹側型の臨床症状と解剖学的に一致した。ADの認知症状にはアミロイドプラークよりもタウ病理が関与するとの仮説に合致する知見である。現在のAD治療はアミロイドβを標的とするものが主流であるが、タウを標的とした治療の重要性を示唆している。なお、THK5351はタウ凝集体だけでなくMAO-B(モノアミン酸化酵素B)にも結合するため、タウ蓄積とアストロサイトグリオーシスの厳密な区別は困難である点が本研究の限界として挙げられる。
同時失認の治療法に関する臨床試験やランダム化比較試験(RCT)は現時点では報告されていない。