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神経眼科

レーダー症候群(レーダー傍三叉神経症候群)

レーダー傍三叉神経症候群(Raeder paratrigeminal syndrome; RPS)は、片側性の眼交感神経麻痺(ホルナー症候群)に同側の三叉神経分布域の感覚・運動異常を伴うまれな神経疾患である。痛みを伴う節後性の不完全ホルナー症候群として表現されることが多い。日本の教科書(今日の眼疾患治療指針)でも「三叉神経痛と節後性ホルナー症候群を呈する」疾患として定義されており、三叉神経節近傍での障害が病態の核心である。

除外診断としての側面が強く、中頭蓋窩・海綿静脈洞病変や内頸動脈解離がRPSを模倣しうるため、神経画像検査は不可欠である。

1924年、ノルウェーの眼科医ヨハン・ゲオルグ・レーダーが片側性眼交感神経麻痺と同側三叉神経症状を呈する5例を報告した。5例中4例で発汗障害なし、他の脳神経関与なしであり、中頭蓋窩に病変を局在させ「傍三叉神経痛」と命名した。

1962年のボニウクとシュレジンジャーによる亜型分類(I群・II群)を経て、グリムソンとトンプソン(1980)が以下の3亜型に修正した。

以下に現在広く参照される3亜型の概要を示す。

亜型特徴予後
I群トルコ鞍傍神経関与あり(他の脳神経障害を伴う)基礎疾患に依存
II群関与なし(群発頭痛+孤立性眼交感神経麻痺)良好・自己限定的
III群V1関与のある痛みを伴う節後性ホルナー基礎疾患に依存

現代では、いずれの亜型もIHS基準を満たす除外診断とみなすべきとされる。モクリはI群のみを真のレーダー症候群とすべきと主張しており、多くの報告が血管性頭痛(片頭痛等)であったとも指摘されている。

正確な発生率は不明で、まれな疾患である。中年男性に最も多いとされる。

Q レーダー症候群のI群とII群では何が異なるのか?
A

I群はトルコ鞍傍の他の脳神経関与を伴い、基礎疾患(腫瘍・血管病変など)の精査が必要である。II群は他の脳神経関与がなく予後は良好で、通常は数週間〜数か月で症状が自然消失する。いずれも除外診断であり、画像検査による基礎疾患の除外が前提となる。

  • 片側性頭痛・顔面痛:同側の眼周囲・眼窩後部に多く、V1に限局する場合もあれば、V2(頬・歯)に及ぶこともある。
  • 痛みの性質:激しく刺すような性質(lancinating pain)で顔面に放散する、三叉神経痛様の様相を呈する。
  • 痛みの持続:数時間〜数週間〜数か月の持続性が典型的。群発頭痛様の発作パターンをとることもある。
  • 眼瞼下垂・縮瞳:同側の眼瞼下垂と縮瞳を伴い、瞼裂の狭小化が生じる。
  • 複視・聴力低下:他の脳神経が関与する場合に出現することがある。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

ホルナー症候群の所見

  • 縮瞳(瞳孔不同:暗所で顕著。散瞳遅延を伴う。
  • 眼瞼下垂:同側の軽度の眼瞼下垂と、下眼瞼の上昇(逆さま眼瞼下垂)。瞼裂狭小化をきたす。
  • 対光反射正常:散瞳筋の障害によるため、縮瞳があっても対光反射は保たれる。
  • 見かけ上の眼球陥凹眼圧低下:眼圧の軽度低下や見かけ上の陥凹を認めることがある。
  • 結膜充血・流涙:一部の症例で認める。

三叉神経障害の所見

  • 顔面の感覚低下:V1・V2分布域の触覚・温痛覚の左右差。
  • 角膜反射低下:V1(眼枝)障害による。
  • アロディニア:軽微な刺激で痛みを感じる過敏状態。
  • 咀嚼筋の筋力低下:三叉神経運動枝が障害された場合に生じる。

発汗に関する特徴的な所見

  • 顔面発汗の保持:無汗症(anhidrosis)を伴わないことがRPSの特徴的な所見である。顔面発汗に関与する交感神経線維は外頸動脈に沿って走行するため、内頸動脈沿いの節後性障害では発汗が保たれる。節後性障害で発汗低下を認める場合は前額内側と鼻尖部に限局する。
Q ホルナー症候群があるのに発汗障害がないのはなぜか?
A

顔面発汗に関与する交感神経線維は頸動脈分岐部を過ぎた後に外頸動脈に沿って走行する。RPSでは病変が頸動脈分岐部より遠位(節後性)にあるため、外頸動脈側に分かれた発汗線維は障害されず、顔面発汗が保たれる。発汗が保たれていることは病変部位の局在診断に有用な所見である。

RPSの原因は多岐にわたる。多くの報告は特発性であるが、重篤な基礎疾患を伴う場合があるため系統的な精査が必要である。

内頸動脈の異常(精査優先)

  • 内頸動脈解離:半側頭痛を伴う眼交感神経麻痺は特発性内頸動脈解離の症状として認識されており、急性虚血性神経後遺症のリスクがあるため早期認識が重要。
  • 内頸動脈瘤:精査が必須の項目(今日の眼疾患治療指針)。解離性動脈瘤は緊急対応を要する。
  • その他:内頸動脈の閉塞・炎症・線維筋形成不全・先天異常・外傷による変化。

腫瘍性病変

  • 中頭蓋窩腫瘍・鼻咽頭腫瘍:ガッセル神経節の直接関与、局所浸潤、転移、リンパ腫。

炎症性・感染性病変

  • 歯性膿瘍・慢性副鼻腔炎:傍三叉神経領域への波及による。

外傷・医原性

  • 頭蓋底骨折・ガッセル神経節の医原性損傷・銃創
  • 巨大海綿静脈洞内頸動脈瘤の塞栓術後(バルーン留置による交感神経圧迫)の報告例がある。

関連疾患

  • 群発頭痛、SUNCT症候群、眼部帯状疱疹、持続性片側頭痛、トローザ・ハント症候群、血管炎、高血圧、頭部外傷、片頭痛、ライム病

RPSの診断には以下の4項目をすべて満たすことが求められる。

  1. 持続的で片側性の頭痛(基準Cを満たす)
  2. 中頭蓋窩または同側頸動脈の基礎疾患を示す画像上の証拠
  3. 因果関係の証拠(時間的関連+三叉神経V1分布域に局在、眼球運動で悪化)
  4. 他のICHD-3診断で説明できない

ホルナー症候群の確認と病変部位の推定に用いる。以下に主要な検査を示す。

検査薬機序判定
アプラクロニジン1%脱神経過敏でα1受容体増加→患側散瞳点眼30〜60分後に瞳孔不同が逆転(感度88〜100%)
コカイン10%ノルアドレナリン再取り込み阻害正常眼は散瞳、患眼では散瞳しない
ヒドロキシアンフェタミン1%節後ニューロン端からノルアドレナリン放出節後性障害では患側が散瞳しない

アプラクロニジン(アイオピジン®)は保険適用外である(今日の眼疾患治療指針)。コカインは麻薬扱いで入手困難であり、1%フェニレフリン塩酸塩(ネオシネジン®)5倍希釈での代用が可能とされる。多くの専門家は薬理学的検査を廃止し、臨床診断に基づき眼交感神経軸全体の画像検査を直接実施することを推奨している。点眼試験には狭隅角眼への注意が必要である。

  • MRI/MRA:頭部+T2レベルまでの頸部。圧迫性病変・血管性病変(内頸動脈解離・動脈瘤など)の除外が目的。冠状断と水平断を撮影し、ガドリニウム造影は炎症性・腫瘍性疾患の鑑別に有用。
  • CT/CTA:眼窩・海綿静脈洞・頭蓋底の骨壁破壊の有無、副鼻腔病変の確認。動脈瘤等の血管病変鑑別にはCTAが有用。
  • 胸部画像検査:肺癌・縦隔腫瘍の除外のため優先的に実施する。
  • 血液検査:末梢血・血沈・CRP・抗核抗体・ANCA・ACE・β-Dグルカン等。感染症・自己免疫疾患の鑑別に用いる。
  • トローザ・ハント症候群:海綿静脈洞内病変による有痛性外眼筋麻痺。ステロイドに1〜2日以内に反応し、疼痛が著明に改善する点で鑑別される。
  • 海綿静脈洞症候群:動眼・滑車・外転・三叉神経がさまざまな組み合わせで障害され、複視・眼球突出・結膜浮腫を呈する。
  • 群発頭痛・片頭痛・SUNCT症候群・持続性片側頭痛:頭痛の性質・持続時間・周期性で鑑別する。
  • 巨細胞性動脈炎(GCA):高齢者でのホルナー症候群新規発症では、巨細胞動脈炎の可能性を念頭に置く。
Q アプラクロニジン点眼試験はどのように行うのか?
A

1%(または0.5%)アプラクロニジンを両眼に点眼し、30〜60分後に瞳孔径の変化を確認する。眼交感神経の脱神経性過敏が生じていると患側のα1受容体が増加しており、患側瞳孔が散瞳して瞳孔不同が逆転する。感度は88〜100%とされるが、保険適用外であり、点眼前に狭隅角眼でないことを確認する必要がある。

治療は完全にその基礎疾患に依存する。原疾患の治療が最優先である(今日の眼疾患治療指針)。

  • 塞栓イベントや解離進行を防ぐため緊急管理が必要である。
  • 抗血小板療法:一般的な選択肢。
  • 抗凝固療法:一部の症例で選択される。
  • 外科的介入:虚血が治療抵抗性の場合や高リスク特性がある場合にまれに適応となる。

頭蓋内原因がない場合(対症療法)

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  • NSAIDs・アスピリン・コデイン化合物:頭部・顔面の疼痛コントロールに有用。
  • エルゴタミン・ステロイド・集中的ビタミンB療法:疼痛軽減に奏効した例の報告がある。

ホルナー症候群に伴う眼瞼下垂への対応

Section titled “ホルナー症候群に伴う眼瞼下垂への対応”
  • 経過観察:全身的に他の所見がなければ経過観察でよい(今日の眼疾患治療指針)。
  • プリビナ®点眼:末梢性眼瞼下垂で脱神経性過敏が獲得されている場合に奏効することがある(保険適用外)。
  • 眼瞼挙筋腱膜整復術:約2mm程度の眼瞼下垂に有効。

基礎疾患に依存する。I群は基礎疾患次第で予後が異なる。II群は予後非常に良好であり、通常は数週間〜数か月で症状が消失する。発症後10か月で持続性片側頭痛に移行した報告例(50歳男性)では、インドメタシンが奏効した。

Q 特発性のレーダー症候群は治療が必要か?
A

頭蓋内に原因が確認されない場合は対症療法が主体となる。NSAIDsやアスピリンなどによる疼痛管理を行いつつ経過を観察する。II群に相当する症例は通常数週間〜数か月で自然消失する。ただし画像検査で内頸動脈解離・腫瘍などの重篤な基礎疾患を確実に除外することが前提となる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

眼交感神経の遠心路は3つのニューロンから構成される。

  • 第1次ニューロン(中枢性):視床下部後外側→Budge毛様脊髄中枢(C8-T2)へ下行する。
  • 第2次ニューロン(節前性):脊髄側柱→肺尖部・交感神経幹→上頸部交感神経節(SCG)へ向かう。
  • 第3次ニューロン(節後性):SCGから起始し、内頸動脈に沿って頭蓋内に入り海綿静脈洞へ進む。海綿静脈洞内で内頸動脈を離れ、短期間外転神経(CN VI)とともに走行した後、三叉神経V1に合流し上眼窩裂から眼窩に入る。最終的にミュラー筋(上眼瞼)・下眼瞼の交感神経性牽引筋・虹彩散大筋を支配する。

顔面発汗に関与する交感神経線維は、頸動脈分岐部を過ぎた後に主枝から分かれ外頸動脈に沿って走行する。RPSでは病変が内頸動脈に沿う節後性領域にあるため、外頸動脈側の発汗線維は障害されず顔面発汗が保たれる。発汗が保たれていることは、病変が頸動脈分岐部より遠位にあることの根拠となる。節後性障害で発汗低下を認める場合は前額内側と鼻尖部に限局する。

  • 眼枝(V1)からの三叉神経線維や動眼神経(CN III)の副交感神経線維が障害されない場合でも、感覚障害を伴わずに痛みが生じることがある。
  • 翼口蓋神経節と外側鞍神経叢の間のシナプスによる痛みの発生仮説が提唱されている。
  • 頸動脈解離における眼窩周囲痛は、一般内臓性求心性線維に由来する放散痛である可能性が示されている。

海綿静脈洞内では外転神経(CN VI)が内頸動脈・眼交感神経・動眼神経(CN III)・滑車神経(CN IV)・三叉神経V1と近接している。頸動脈瘤や炎症性海綿静脈洞病変ではホルナー症候群を合併しうる(Adult Strabismus PPP)。

  • American Academy of Ophthalmology. Adult Strabismus Preferred Practice Pattern

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