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神経眼科

瞳孔記録法(瞳孔測定法)

瞳孔記録法(Pupillography)は、瞳孔の反応を記録・測定するための手法である。赤外線ビデオカメラとコンピュータソフトウェアを組み合わせて使用し、瞳孔反応を動的かつ定量的に評価する。

「Pupillography」という用語はLowensteinとLoewenfeldにより命名され、眼の遠心性・求心性経路を記録するための動的赤外線ビデオ技術として発展した。従来の手作業による測定から電子技術の導入により精度・一貫性・速度が向上し、現在では「瞳孔測定法(Pupillometry)」という用語も一般的に使用される。

第32回国際瞳孔コロキウム(IPC、スイス・モルジュ)では専門家が集まり、データ収集・処理・報告に関する国際標準の第1版を策定した。近年はデスクトップ型・ポータブル型瞳孔計の製品化が進み、AI との組み合わせによる性能向上も期待されている。

応用分野は眼科・神経学・神経科学・心理学・時間生物学に及ぶ。

Q 瞳孔記録法(Pupillography)と瞳孔測定法(Pupillometry)はどう違うのか?
A

もともとLowensteinとLoewenfeldが動的赤外線ビデオ技術を「Pupillography」と命名した。その後、電子技術の発展とともに「Pupillometry」という用語も普及し、現在では両者はほぼ同義として用いられることが多い。

2. 主な測定パラメータと臨床所見

Section titled “2. 主な測定パラメータと臨床所見”

瞳孔記録法を受ける契機となる症候

Section titled “瞳孔記録法を受ける契機となる症候”
  • 瞳孔不同(anisocoria):瞳孔径の左右差。正常人でも約20%に左右差1mm以下の生理的瞳孔不同があるが、明暗差・対光反射異常を伴う場合は病的と判断する
  • 対光反射の異常:反射の消失・遅延・非対称性
  • 視力の客観的評価困難:非言語的患者、非器質的視力障害が疑われる例
  • ホルネル症候群を疑う所見:軽度眼瞼下垂・縮瞳・顔面発汗異常の組み合わせ

以下は1回の測定で得られる代表的なパラメータである。

縮瞳相

潜時(T₁):光刺激から縮瞳開始まで。十分に明るい刺激では約200ミリ秒。

収縮速度(VC):縮瞳の速さ。視覚入力障害でT₁延長・VCの低下がみられる。

最大縮瞳量(D₃):最大縮瞳時の径。視覚入力障害でD₃低下。

縮瞳率(CR):縮瞳量/基線径。視覚入力障害でCR低下。

散瞳相

散瞳速度(VD):光除去後の瞳孔拡大の速さ。交感神経系機能を反映。

散瞳遅延時間(T₅):散瞳開始までの時間。ホルネル症候群でT₅の著明な延長が特徴的所見。

PIPR(照明後持続性瞳孔反応):高輝度・短波長刺激後の持続的縮瞳。ipRGC・メラノプシンの活性化を反映。

瞳孔は完全に静止せず、常に±0.5mm程度の連続的振動(瞳孔動摇・hippus)を繰り返す。また、縮瞳相は副交感神経系、散瞳相は交感神経系の機能を主に反映する。

3. 瞳孔反応の神経解剖学的基盤

Section titled “3. 瞳孔反応の神経解剖学的基盤”

網膜視細胞→網膜神経節細胞→視神経視交叉→視索→外側膝状体手前で視覚路から分岐→視蓋前域(Pretectal area)→同側エディンガー・ウェストファール(EW)核および後交連経由で対側EW核へ到達する。

ヒトでは交叉線維と非交叉線維の比率がほぼ1:1であり、直接対光反射と間接対光反射の強さはほぼ等しい。

EW核→動眼神経→海綿静脈洞→上眼窩裂→眼窩→動眼神経下枝→毛様体神経節でシナプス→短毛様神経→眼球内へ至る。

EW核からの副交感神経線維の**95%が毛様体筋(調節)**へ、5%が瞳孔括約筋へ投射する。この比率が対光-近見反応解離のメカニズムに関係する。

内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)はメラノプシンを含み、瞳孔対光反射の主要な求心路を形成する。短波長の強い青色光刺激(470nm近傍)で、ゆっくりとした持続的縮瞳(PIPR)をきたす。

  • メラノプシン媒介性反応:長い潜時と遅い収縮速度。刺激中・刺激後も持続する
  • コーン媒介性反応:短い潜時と速い収縮速度。速やかにベースラインへ回復する

メラノプシン機能は生涯で比較的安定し、80歳代以降に低下するが、桿体・錐体の加齢変化より遅い。

  • 対光反射:最も基本的な瞳孔反応
  • 近見反応(Near reflex):輻湊・調節・縮瞳の3徴候。核上性支配による両眼性連合運動として生じる
  • escape現象:比較的弱い光刺激では持続光下でも瞳孔が散瞳し始める。網膜・視神経疾患で視入力障害がある場合、明るい光刺激でもescape現象が観察される
Q 瞳孔は光以外の刺激でも変化するのか?
A

変化する。精神的緊張・驚愕・痛覚刺激は交感神経系を介して散瞳を引き起こし、疲労・眠気は中枢神経系を介して縮瞳を誘発する。情動では恐怖が散瞳、快適感が縮瞳に関連する。薬物(カフェイン・ニコチン・抗ヒスタミン薬)も瞳孔径に影響する。

周囲光が少ない環境で実施し、瞳孔径への外部影響を最小化する。患者は専用デバイスの前に着座し、カメラと両眼を一直線に配置する。基線瞳孔径の記録後、各種刺激(光、視覚パターン)を提示して瞳孔反応を記録する。

測定時間帯は日内変動を考慮し、午前10時〜午後2時に開始・終了する(昼食後1時間以内は避ける)。閉鎖型では開放型より瞳孔径が散大し、単眼視は両眼視より明所で約1.0mm・暗所で約0.2mm大きくなるため、条件の統一が不可欠である。

主な測定装置(日本で使用される機器)

Section titled “主な測定装置(日本で使用される機器)”
  • FP-10000 II(テイエムアイ):両眼開放・片眼測定。角膜屈折率を考慮。携帯性に優れ視標位置を任意設定可能。奥目では前後位置合わせが困難な場合がある
  • プロシオン P3000(ハーグストレイト):3種の照度(0.04, 0.4, 4.0ルクス)で光学的遠方視を測定。最大32フレーム連続測定から平均値と変動幅を自動算出。フェイススポンジ密閉測定により室内照度の影響を排除。両眼開放同時測定が可能
  • 目視式(Haab瞳孔計、Colvard pupillometerなど):mm単位の大まかな評価。検者接近による輻湊反応・心理的要因の影響が懸念される
  • Iriscorder Dual C-10641(浜松ホトニクス):CCD固体撮像素子。ゴーグル式で両眼同時測定。光強度(10, 100, 250 cd/m²)・計測時間(1〜60秒)・光刺激(青色470nm・赤色635nm)を任意選択。1回の測定で11種のパラメータを分析可能
  • ET-200(ニューオプト):マルチカラーLED(青色466nm・緑色537nm・赤色636nm)3種比較。ゴーグルカバー着脱可能で眼球運動記録にも使用可
  • NPi-100(アイ・エム・アイ):片眼3秒以内測定、重量350g。ベッドサイドで簡便に定量的評価が可能。ペンライトの代替として使用が望ましい
  • RAPDx(コーメン・メディカル):RAPD(相対的瞳孔求心路障害)の他覚的評価に特化。光刺激部位を全視野・黄斑部・周辺部・上鼻側・下鼻側の5種から選択可能。amplitude score・latency scoreを算出する

瞳孔サイズの追跡にはセグメンテーション・アルゴリズムを使用する。最も単純なハフ変換(Hough Transform)法は瞳孔が円形の場合に有効だが、位置ずれや異常形状では精度が不足する。高精度のパターン認識モデルを用いることで、異常形状の瞳孔も高精度で検出可能となる。

  • closed-loop方式では瞳孔径が照射光量に影響するため、初期瞳孔径の左右差に注意する
  • 瞬目が混入した場合は暗順応を含め再測定する(疲労・眠気の影響も加味)
  • 輻湊反応測定では内転により瞳孔径が約0.2mm過小評価される
  • 緑色光はPurkinje移動の影響を受ける。赤色光は視細胞由来、青色光は網膜神経節細胞(ipRGC)由来の対光反射を選択的に誘発する
Q ペンライト検査との違いは何か?
A

瞳孔記録法は標準化された記録により正確な測定が可能で、潜時・縮瞳率・散瞳速度などペンライトでは評価できない追加パラメータを定量的に測定できる。また結果の文書化・経時比較が可能で、検査者バイアスを排除できる。

RAPD(相対的求心性瞳孔障害)の定量評価

Section titled “RAPD(相対的求心性瞳孔障害)の定量評価”

従来の交互対光反射試験(Swinging flashlight test)と比較して、標準化・定量化・再現性のある測定が可能である。RAPDは広範な網膜症・視神経症・視索病変・視蓋前部病変で出現する。

交互対光反射検査の手順は半暗室で左右眼に交互に約2秒の光刺激を与える。片眼の視神経障害では、健眼照射で両眼が縮瞳し、患眼に移すと縮瞳量が減少する(「散瞳していく変化」として観察される)。白内障など中間透光体混濁や両眼の視機能異常、視交叉以降の病変ではRAPDは陽性にならない。

頭部外傷患者では外傷性視神経損傷の唯一の徴候となることがあり、昏睡状態の外傷患者の評価に有用である。

ホルネル症候群における散瞳遅延の測定

Section titled “ホルネル症候群における散瞳遅延の測定”

散瞳遅延(Dilation lag)は光除去後の瞳孔弛緩・散瞳の遅れであり、ホルネル症候群では散瞳に最大15〜20秒(正常約5秒)を要する。T₅の著明な延長が特徴的な所見である。両側性ホルネル症候群(相対的不同視が不明瞭)では、散瞳遅延の測定が唯一の信頼できる診断法となりうる。

瞳孔不同の評価では明暗両条件での計測が必須である。病側の縮瞳は暗室で明瞭となり、病側の散瞳は明室で明瞭となる。正常人の約20%に生理的瞳孔不同があるが(左右差1mm以下・明暗差なし・対光反射正常)、入力系障害(視神経疾患)では対光反射異常は生じるが瞳孔不同は原則生じないことを念頭に置く。

  • 瞳孔緊張症(Adie症候群):対光-近見反応解離。希釈ピロカルピン(0.05〜0.1%)点眼で縮瞳が確認され診断的価値がある
  • 対光-近見反応解離:対光反射消失にもかかわらず輻湊反応が保存される所見。Parinaud症候群・Argyll Robertson瞳孔などの中脳背側病変・Adie症候群で出現
  • 絶対性瞳孔強直:対光反射・輻湊反応の両者消失。外傷・虹彩炎による虹彩萎縮・動眼神経麻痺・急性原発閉塞隅角緑内障・アトロピンなどによる

屈折矯正手術・眼内レンズの適応判断

Section titled “屈折矯正手術・眼内レンズの適応判断”

低照度条件下での瞳孔径測定により、LASIK等における最適な切除径を決定する。切除径が散瞳時瞳孔径より小さい場合、夜間のハロー発生リスクが生じる。多焦点眼内レンズや屈折矯正手術の適応判断にも使用される。

PLRを用いた桿体・錐体・メラノプシン経路の個別評価が可能である。Jalili症候群(CNNM4変異)の家系では、明所網膜電図が検出不能であったにもかかわらず錐体媒介PLRが記録可能であった1)。暗所条件ではCNNM4患者に大きなPLRが認められ、明所条件では正常下限付近またはやや低下していた1)

  • 神経精神医学:瞳孔散瞳は覚醒度・青斑核活動と相関する。神経変性疾患(アルツハイマー病・パーキンソン病)、自律神経失調症、薬物・アルコール乱用の敏感な指標となりうる。眠気・統合失調症・うつ病などの精神状態評価にも使用される
  • 薬理学:薬物の自律神経への影響テスト(コリン作動性/アドレナリン作動性)。瞳孔反応サイズに基づく効果評価、鎮静効果の研究に応用
  • 化学物質過敏症:初期瞳孔径(D₁)の縮小や縮瞳率(CR)の減少など、副交感神経系優位の状態が観察される
  • IT眼症:遠方注視時でも縮瞳が持続し、輻湊より縮瞳が先行して誘発されるなど、近見反応の解離がみられる
Q 瞳孔記録法はどのような疾患の診断に役立つのか?
A

RAPD評価による視神経症・網膜症の鑑別、散瞳遅延測定によるホルネル症候群の診断、希釈ピロカルピン点眼試験との組み合わせによるAdie症候群の評価などが代表的な用途である。神経変性疾患や自律神経障害の客観的評価にも使用される。

6. 瞳孔反応の生理学的メカニズム

Section titled “6. 瞳孔反応の生理学的メカニズム”

瞳孔対光反射は以下の3つの経路が統合して制御する。

経路光受容体特徴
桿体経路ロドプシン低輝度・暗所条件で感度が高い
錐体経路オプシン高輝度・明所条件。短い潜時と速い収縮速度
ipRGC経路メラノプシン長い潜時と遅い速度。刺激後も持続(PIPR)

コーン入力は刺激コントラスト変動に対する持続的収縮を制御し、メラノプシン入力は長時間光暴露時の明順応瞳孔径を設定する。この外網膜と内網膜の信号統合が瞳孔応答の精密な調整を可能にする。

  • 視蓋前域(特にolivary pretectal nucleus)に投射する
  • 桿体・錐体入力も受け、固有のメラノプシン駆動応答に加えてこれら外網膜入力も統合する
  • 従来の神経節細胞と比較して冗長性が低い
  • 概日リズム・気分に関する光依存性非画像形成回路にも関与する

瞳孔制御経路のゲインコントロールはEW核レベルに存在する。大脳皮質入力については、島皮質・前頭眼野の局所的虚血性梗塞があっても瞳孔径・収縮速度は正常生理学的範囲内であることから、大脳皮質入力の欠如は瞳孔径・収縮速度に直接影響しないと考えられる。

認知的・感情的事象が引き起こす瞳孔変化は対光反射より小規模(通常0.5mm未満)であり、青斑核活動との密接な相関が知られている。

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

色覚瞳孔測定法(Chromatic pupillometry)

Section titled “色覚瞳孔測定法(Chromatic pupillometry)”

外網膜(桿体・錐体媒介)と内網膜(メラノプシン媒介)の応答を、単一の非侵襲的測定で分離することを目指した手法である。技術的最適化により高感度・高精度の臨床バイオマーカーとしての発展が期待される。

遺伝性網膜疾患への応用(Jalili症候群における研究)

Section titled “遺伝性網膜疾患への応用(Jalili症候群における研究)”

Hyde ら(2022)はJalili症候群(CNNM4変異)の3姉妹(5歳・14歳・15歳)と正常対照10名を比較した。暗所適応後の桿体経路測定(465nm、1秒)および明所適応後の錐体経路測定(642nm、1秒、6 cd/m²青色桿体抑制野)を実施し、Naka-Rushton関数でPmax(最大飽和PLR応答)とs(PLR半飽和定数)を算出した1)。明所網膜電図が検出不能にもかかわらず錐体媒介PLRが記録可能であったことから、PLRが錐体機能評価の有用な手段となりうることを示唆している1)

第32回国際瞳孔コロキウムで策定された国際標準の第1版は、データ収集・処理・報告に必要な最低限の変数セットに関する推奨事項を含む。研究間の比較可能性の向上を目的としており、今後の臨床研究・多施設研究の基盤となることが期待される。

AIとの統合・神経変性疾患バイオマーカーへの展開

Section titled “AIとの統合・神経変性疾患バイオマーカーへの展開”

AIとデバイスを統合することによる性能向上と客観的定量化の改善が期待されている。神経変性疾患(アルツハイマー病・パーキンソン病)の検出・進行モニタリング、臨床試験における自律神経系活動の客観的評価への応用、および睡眠・概日リズム障害患者でのメラノプシン網膜神経節細胞機能評価が研究上の主要な課題となっている。

  1. Hyde RA, Park JC, Kratunova E, McAnany JJ. Cone pathway dysfunction in Jalili syndrome due to a novel familial variant of CNNM4 revealed by pupillometry and electrophysiologic investigations. Ophthalmic Genet. 2022.

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