縮瞳相
潜時(T₁):光刺激から縮瞳開始まで。十分に明るい刺激では約200ミリ秒。
収縮速度(VC):縮瞳の速さ。視覚入力障害でT₁延長・VCの低下がみられる。
最大縮瞳量(D₃):最大縮瞳時の径。視覚入力障害でD₃低下。
縮瞳率(CR):縮瞳量/基線径。視覚入力障害でCR低下。

瞳孔記録法(Pupillography)は、瞳孔の反応を記録・測定するための手法である。赤外線ビデオカメラとコンピュータソフトウェアを組み合わせて使用し、瞳孔反応を動的かつ定量的に評価する。
「Pupillography」という用語はLowensteinとLoewenfeldにより命名され、眼の遠心性・求心性経路を記録するための動的赤外線ビデオ技術として発展した。従来の手作業による測定から電子技術の導入により精度・一貫性・速度が向上し、現在では「瞳孔測定法(Pupillometry)」という用語も一般的に使用される。
第32回国際瞳孔コロキウム(IPC、スイス・モルジュ)では専門家が集まり、データ収集・処理・報告に関する国際標準の第1版を策定した。近年はデスクトップ型・ポータブル型瞳孔計の製品化が進み、AI との組み合わせによる性能向上も期待されている。
応用分野は眼科・神経学・神経科学・心理学・時間生物学に及ぶ。
もともとLowensteinとLoewenfeldが動的赤外線ビデオ技術を「Pupillography」と命名した。その後、電子技術の発展とともに「Pupillometry」という用語も普及し、現在では両者はほぼ同義として用いられることが多い。
以下は1回の測定で得られる代表的なパラメータである。
縮瞳相
潜時(T₁):光刺激から縮瞳開始まで。十分に明るい刺激では約200ミリ秒。
収縮速度(VC):縮瞳の速さ。視覚入力障害でT₁延長・VCの低下がみられる。
最大縮瞳量(D₃):最大縮瞳時の径。視覚入力障害でD₃低下。
縮瞳率(CR):縮瞳量/基線径。視覚入力障害でCR低下。
散瞳相
散瞳速度(VD):光除去後の瞳孔拡大の速さ。交感神経系機能を反映。
散瞳遅延時間(T₅):散瞳開始までの時間。ホルネル症候群でT₅の著明な延長が特徴的所見。
PIPR(照明後持続性瞳孔反応):高輝度・短波長刺激後の持続的縮瞳。ipRGC・メラノプシンの活性化を反映。
瞳孔は完全に静止せず、常に±0.5mm程度の連続的振動(瞳孔動摇・hippus)を繰り返す。また、縮瞳相は副交感神経系、散瞳相は交感神経系の機能を主に反映する。
網膜視細胞→網膜神経節細胞→視神経→視交叉→視索→外側膝状体手前で視覚路から分岐→視蓋前域(Pretectal area)→同側エディンガー・ウェストファール(EW)核および後交連経由で対側EW核へ到達する。
ヒトでは交叉線維と非交叉線維の比率がほぼ1:1であり、直接対光反射と間接対光反射の強さはほぼ等しい。
EW核→動眼神経→海綿静脈洞→上眼窩裂→眼窩→動眼神経下枝→毛様体神経節でシナプス→短毛様神経→眼球内へ至る。
EW核からの副交感神経線維の**95%が毛様体筋(調節)**へ、5%が瞳孔括約筋へ投射する。この比率が対光-近見反応解離のメカニズムに関係する。
内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)はメラノプシンを含み、瞳孔対光反射の主要な求心路を形成する。短波長の強い青色光刺激(470nm近傍)で、ゆっくりとした持続的縮瞳(PIPR)をきたす。
メラノプシン機能は生涯で比較的安定し、80歳代以降に低下するが、桿体・錐体の加齢変化より遅い。
変化する。精神的緊張・驚愕・痛覚刺激は交感神経系を介して散瞳を引き起こし、疲労・眠気は中枢神経系を介して縮瞳を誘発する。情動では恐怖が散瞳、快適感が縮瞳に関連する。薬物(カフェイン・ニコチン・抗ヒスタミン薬)も瞳孔径に影響する。
周囲光が少ない環境で実施し、瞳孔径への外部影響を最小化する。患者は専用デバイスの前に着座し、カメラと両眼を一直線に配置する。基線瞳孔径の記録後、各種刺激(光、視覚パターン)を提示して瞳孔反応を記録する。
測定時間帯は日内変動を考慮し、午前10時〜午後2時に開始・終了する(昼食後1時間以内は避ける)。閉鎖型では開放型より瞳孔径が散大し、単眼視は両眼視より明所で約1.0mm・暗所で約0.2mm大きくなるため、条件の統一が不可欠である。
瞳孔サイズの追跡にはセグメンテーション・アルゴリズムを使用する。最も単純なハフ変換(Hough Transform)法は瞳孔が円形の場合に有効だが、位置ずれや異常形状では精度が不足する。高精度のパターン認識モデルを用いることで、異常形状の瞳孔も高精度で検出可能となる。
瞳孔記録法は標準化された記録により正確な測定が可能で、潜時・縮瞳率・散瞳速度などペンライトでは評価できない追加パラメータを定量的に測定できる。また結果の文書化・経時比較が可能で、検査者バイアスを排除できる。
従来の交互対光反射試験(Swinging flashlight test)と比較して、標準化・定量化・再現性のある測定が可能である。RAPDは広範な網膜症・視神経症・視索病変・視蓋前部病変で出現する。
交互対光反射検査の手順は半暗室で左右眼に交互に約2秒の光刺激を与える。片眼の視神経障害では、健眼照射で両眼が縮瞳し、患眼に移すと縮瞳量が減少する(「散瞳していく変化」として観察される)。白内障など中間透光体混濁や両眼の視機能異常、視交叉以降の病変ではRAPDは陽性にならない。
頭部外傷患者では外傷性視神経損傷の唯一の徴候となることがあり、昏睡状態の外傷患者の評価に有用である。
散瞳遅延(Dilation lag)は光除去後の瞳孔弛緩・散瞳の遅れであり、ホルネル症候群では散瞳に最大15〜20秒(正常約5秒)を要する。T₅の著明な延長が特徴的な所見である。両側性ホルネル症候群(相対的不同視が不明瞭)では、散瞳遅延の測定が唯一の信頼できる診断法となりうる。
瞳孔不同の評価では明暗両条件での計測が必須である。病側の縮瞳は暗室で明瞭となり、病側の散瞳は明室で明瞭となる。正常人の約20%に生理的瞳孔不同があるが(左右差1mm以下・明暗差なし・対光反射正常)、入力系障害(視神経疾患)では対光反射異常は生じるが瞳孔不同は原則生じないことを念頭に置く。
低照度条件下での瞳孔径測定により、LASIK等における最適な切除径を決定する。切除径が散瞳時瞳孔径より小さい場合、夜間のハロー発生リスクが生じる。多焦点眼内レンズや屈折矯正手術の適応判断にも使用される。
PLRを用いた桿体・錐体・メラノプシン経路の個別評価が可能である。Jalili症候群(CNNM4変異)の家系では、明所網膜電図が検出不能であったにもかかわらず錐体媒介PLRが記録可能であった1)。暗所条件ではCNNM4患者に大きなPLRが認められ、明所条件では正常下限付近またはやや低下していた1)。
RAPD評価による視神経症・網膜症の鑑別、散瞳遅延測定によるホルネル症候群の診断、希釈ピロカルピン点眼試験との組み合わせによるAdie症候群の評価などが代表的な用途である。神経変性疾患や自律神経障害の客観的評価にも使用される。
瞳孔対光反射は以下の3つの経路が統合して制御する。
| 経路 | 光受容体 | 特徴 |
|---|---|---|
| 桿体経路 | ロドプシン | 低輝度・暗所条件で感度が高い |
| 錐体経路 | オプシン | 高輝度・明所条件。短い潜時と速い収縮速度 |
| ipRGC経路 | メラノプシン | 長い潜時と遅い速度。刺激後も持続(PIPR) |
コーン入力は刺激コントラスト変動に対する持続的収縮を制御し、メラノプシン入力は長時間光暴露時の明順応瞳孔径を設定する。この外網膜と内網膜の信号統合が瞳孔応答の精密な調整を可能にする。
瞳孔制御経路のゲインコントロールはEW核レベルに存在する。大脳皮質入力については、島皮質・前頭眼野の局所的虚血性梗塞があっても瞳孔径・収縮速度は正常生理学的範囲内であることから、大脳皮質入力の欠如は瞳孔径・収縮速度に直接影響しないと考えられる。
認知的・感情的事象が引き起こす瞳孔変化は対光反射より小規模(通常0.5mm未満)であり、青斑核活動との密接な相関が知られている。
外網膜(桿体・錐体媒介)と内網膜(メラノプシン媒介)の応答を、単一の非侵襲的測定で分離することを目指した手法である。技術的最適化により高感度・高精度の臨床バイオマーカーとしての発展が期待される。
Hyde ら(2022)はJalili症候群(CNNM4変異)の3姉妹(5歳・14歳・15歳)と正常対照10名を比較した。暗所適応後の桿体経路測定(465nm、1秒)および明所適応後の錐体経路測定(642nm、1秒、6 cd/m²青色桿体抑制野)を実施し、Naka-Rushton関数でPmax(最大飽和PLR応答)とs(PLR半飽和定数)を算出した1)。明所網膜電図が検出不能にもかかわらず錐体媒介PLRが記録可能であったことから、PLRが錐体機能評価の有用な手段となりうることを示唆している1)。
第32回国際瞳孔コロキウムで策定された国際標準の第1版は、データ収集・処理・報告に必要な最低限の変数セットに関する推奨事項を含む。研究間の比較可能性の向上を目的としており、今後の臨床研究・多施設研究の基盤となることが期待される。
AIとデバイスを統合することによる性能向上と客観的定量化の改善が期待されている。神経変性疾患(アルツハイマー病・パーキンソン病)の検出・進行モニタリング、臨床試験における自律神経系活動の客観的評価への応用、および睡眠・概日リズム障害患者でのメラノプシン網膜神経節細胞機能評価が研究上の主要な課題となっている。