この疾患の要点
プルフール・デュ・プチ症候群(PDPS)は眼交感神経経路の過活動により生じる稀な症候群である。
同側の散瞳 ・眼瞼後退・多汗症を三徴とし、ホルネル症候群 と正反対の臨床像を呈する。
多くは外傷性または医原性が原因で、血管性・腫瘍性・感染性など多様な原因がある。
診断は主に臨床的であり、眼交感神経軸に沿った神経画像検査で構造的病変を除外することが重要である。
治療の基本は基礎疾患の治療であり、PDPSそのものに対する特異的治療を必要としないことが多い。
症状が持続する場合はクロニジン内服や交感神経切断術が選択肢となり、自然消失する症例もある。
プルフール・デュ・プチ症候群(Pourfour du Petit Syndrome;PDPS)は、眼交感神経経路の過活動(過剰刺激)により生じる稀な症候群である。
1727年、フランスの解剖学者・眼科医François Pourfour du Petitが、頸部外傷を負った兵士において散瞳・眼瞼後退・半側顔面多汗症を記述したのが最初の報告である1) 。
古典的三徴は以下の通りである。
散瞳(mydriasis) :同側の瞳孔 散大
眼瞼後退(eyelid retraction) :上眼瞼板 筋(Müller筋)の交感神経過活動による瞼裂開大
多汗症(hyperhidrosis) :同側の顔面発汗亢進
PDPSはホルネル症候群と同一の眼交感神経経路への病変により生じる。根底のメカニズムは共通しており、経路が「刺激・過活動」を来すとPDPS、「遮断」されるとホルネル症候群が発症する1) 。両症候群は機能的に正反対の臨床像を呈する。
非常に稀な症候群であり、疫学的な発生率の具体的数値は報告されていない。症状の持続期間は最短1か月から無期限とされ、自然消失する症例もある。
Q プルフール・デュ・プチ症候群とホルネル症候群はどう違うのか?
A ホルネル症候群は眼交感神経経路の「遮断」により縮瞳・眼瞼下垂 ・無汗症を呈し、PDPSは同経路の「刺激・過活動」により散瞳・眼瞼後退・多汗症を呈する。根底の病態生理(眼交感神経鎖への病変)は共通しているが、臨床所見は正反対である。詳細は「病態生理学・詳細な発症機序」の項 を参照。
霧視 (blurred vision) :視力 のかすみを自覚することがある1)
羞明 (photophobia) :散瞳による虹彩 遮光不全から光過敏が生じる1)
発汗増加 :患側顔面の発汗が亢進する
症状の経過 :Valsalva手技(力み・いきみ)で誘発される一過性エピソードが先行し、その後持続的症状へ移行する例が報告されている1)
障害される神経の次元(第1〜3次ニューロン)により、伴う所見が異なる。
主要所見
散瞳(mydriasis) :同側の瞳孔散大1)
眼瞼後退(eyelid retraction) :上眼瞼板筋の過活動による瞼裂開大1)
眼球突出 (exophthalmos) :軽度の眼球突出を伴うことがある1)
半側顔面多汗症(hemifacial hyperhidrosis) :同側顔面の発汗亢進(第3次ニューロン病変では伴わない)1)
ホルネル症候群との対比
PDPS
散瞳 :同側の瞳孔散大
眼瞼後退 :瞼裂開大・上眼瞼の後退
多汗症 :同側顔面・前額部の発汗亢進(第3次ニューロン病変では欠如)
ホルネル症候群
縮瞳 :同側の瞳孔縮小
眼瞼下垂 :瞼裂狭小・上眼瞼の下垂
無汗症 :同側顔面・前額部の発汗低下
障害次元別の追加所見
第1次ニューロン障害 :同側半身多汗に加え、中枢神経障害の徴候(対側片麻痺・感覚低下・垂直注視麻痺・失調歩行・脳神経麻痺・めまい・嚥下障害・眼振 ・顔面筋力低下)を伴い得る1)
第2次ニューロン障害 :散瞳・眼球突出・眼瞼後退・顔面多汗に加え、腕・頸部痛、腕神経叢障害、声帯麻痺、横隔神経麻痺を伴い得る1)
第3次ニューロン障害 :散瞳・眼球突出・眼瞼後退を呈するが、多汗症は伴わない。発汗運動線維は外頸動脈に沿って分岐するため、内頸動脈経由の節後線維には含まれないことが理由である1)
Q 障害される神経の部位によって症状は異なるのか?
A はい、異なる。第1・2次ニューロン障害では散瞳・眼瞼後退・多汗の三徴が揃うが、第3次ニューロン(節後性)の障害では多汗症を伴わない。これは発汗運動線維が上頸神経節から外頸動脈に沿って分岐するため、内頸動脈に沿う節後線維には含まれないためである1) 。
PDPSはホルネル症候群と同一の眼交感神経経路への病変で生じるが、経路の「遮断」ではなく「刺激・過活動」が発症機序である1) 。
外傷性・医原性
頸部外傷・鈍的外傷 :PDPSの原因として古くから知られる
局所麻酔後 :口腔内麻酔・硬膜外麻酔・腕神経叢ブロック・斜角筋間ブロックなど1)
血管カテーテル挿入・抜去 、頸動脈関連手術1)
血管性
頸動脈解離
胸部大動脈瘤
内頸静脈拡張 :対側内頸静脈無形成による代償性拡張が第2次ニューロンを圧迫した例が報告されている1)
腫瘍性
甲状腺癌(内頸動脈圧迫)・食道癌(胸膜進展)・肺尖部腫瘍・傍脊椎転移・神経線維腫・甲状腺腺腫1)
感染性
結核・アスペルギルス症・クリプトコッカス症(第2次ニューロンPDPSの原因として報告)1)
中枢性
両側視床・中脳梗塞(脳底動脈先端部脳卒中)、脊髄硬膜下腔への急性硬膜外血腫
その他
PDPSは主に臨床診断 である。散瞳・眼瞼後退・多汗症の三徴と病歴(外傷・手術・局所麻酔の既往)から診断する。構造的病変の除外のため、眼交感神経軸に沿った神経画像検査が推奨される。
障害が疑われる次元に応じて検査を選択する。
障害次元 推奨検査 除外すべき病変 第1次ニューロン 頭部MRI・非造影頭部CT 脳卒中・出血・頭蓋内腫瘍 第2次ニューロン 胸頸部CT/MR血管造影 肺尖部腫瘤・胸部大動脈瘤・感染症 第3次ニューロン 頭頸部MR血管造影 内頸動脈解離・動脈瘤・血栓症
急性期には頭頸部CT+CT血管造影(CTA)を施行し、頸動脈解離・腫瘍を除外する。MRAを併用した頭頸部MRIは、交感神経鎖に沿った構造的病変の除外に有用である1) 。
ホルネル症候群 :対照的な三徴(縮瞳・眼瞼下垂・無汗症)。アプラクロニジン(0.5〜1%)点眼で患側散瞳・健眼縮瞳(瞳孔不同 の逆転)が確認できる。感度88〜100%
動眼神経麻痺 に伴う散瞳 :眼球運動障害 (眼瞼下垂・外下方偏位)を伴う
緊張性瞳孔(Adie瞳孔) :片側性散瞳・対光反射消失・近見反応の緩徐な収縮。低濃度ピロカルピン(0.1〜0.125%)への過敏性で鑑別する
反復発作性片側性散瞳(benign episodic mydriasis) :若年女性に多い一過性片側散瞳。頭痛を伴うことがある。交感神経の一過性活動亢進とされ、PDPSとは異なる疾患
薬剤性散瞳 :アトロピン等の抗コリン薬による散瞳。高濃度ピロカルピン(1〜2%)に無反応
外傷性散瞳 :虹彩括約筋裂傷など
基礎疾患の治療 が最優先である。多くの患者はPDPS自体に対する特異的治療を必要としない。
薬物療法
クロニジン(clonidine) :α2アドレナリン受容体作動薬。症状緩和に有効との報告がある
外科的治療
交感神経切断術(sympathectomy) :持続的PDPSにおいて交感神経活動の抑制に用いられる。最大90%の症例で有効との報告がある。多汗症および眼球突出に伴う結膜炎 ・角膜 炎の軽減にも適応となる1)
経過観察
手術が適応外または患者が拒否した場合:神経学的・眼科的・血管的な定期フォローアップが推奨される1)
Q プルフール・デュ・プチ症候群は自然に治ることがあるのか?
A はい、自然消失する症例もある。症状の持続期間は最短1か月から無期限とされており、予後は基礎疾患の性質に依存する。基礎疾患の治療が症状改善につながることも多く、持続する場合はクロニジンや交感神経切断術が選択肢となる。
眼交感神経経路は3つのニューロンで構成される。
第1次ニューロン(中枢性) :視床下部後外側から起始し、中脳・延髄を下行して脊髄C8-T2(Budge毛様脊髄中枢)に到達し、第2次ニューロンとシナプスを形成する
第2次ニューロン(節前性) :第1胸神経前根とともに脊髄を出て、鎖骨下動脈の下・肺尖部の上を通過し、椎前交感神経鎖を上行する。第2頸椎レベルの上頸神経節でシナプスを形成する1)
第3次ニューロン(節後性) :上頸神経節から分岐する
外頸動脈に沿う枝 :顔面の発汗運動・血管運動を支配
内頸動脈に沿う枝 :さらに分岐して前額・眼瞼の血管運動・涙腺、上眼瞼板筋(Müller筋)、虹彩瞳孔散大筋を支配1)
この3ニューロン経路のいずれかの地点で「刺激」が加わると交感神経過活動が生じ、PDPSが発症する。経路が「遮断」されるとホルネル症候群が発症する。両症候群は同一の病態生理(眼交感神経鎖への損傷)を共有し、機能的に正反対の臨床像を呈する1) 。
第3次ニューロン病変で多汗症を伴わない理由は、発汗運動(sudomotor)線維が上頸神経節から外頸動脈に沿って分岐し、内頸動脈経由の節後線維には含まれないためである1) 。
内頸静脈拡張によるPDPSは従来ほとんど報告がなかったが、2023年に新たな発症機序が報告された。
Salazar-Orellanaら(2023)は、左内頸静脈無形成による代償性右内頸静脈拡張が右頸部交感神経鎖を圧迫し、第2次ニューロンPDPSを引き起こした64歳女性の症例を報告した1) 。患者は2年間にわたりValsalva手技で誘発される一過性の右側多汗・霧視・羞明エピソードを経験し、2週間前から持続化した。CT/MR血管造影で左内頸静脈無形成と右内頸静脈拡張による交感神経鎖の圧迫が確認された。手術は患者が拒否し、定期的な神経学的・眼科的・血管的フォローアップの方針となった。
内頸静脈無形成は一般人口の約0.05〜0.25%に存在する血管奇形で、通常は無症候性である。頸部・顔面の静脈奇形がある患者の20%に脳発生静脈異常が合併するとの報告があり、血管奇形が判明した場合は頭蓋内血管造影検査も考慮すべきとされる1) 。
Salazar-Orellana JLI, Aceytuno RD, Vasquez-Cortez NA, et al. Pourfour Du Petit Syndrome Due to Ipsilateral Internal Jugular Vein Distention. Cureus. 2023;15(5):e38741.
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