コンテンツにスキップ
神経眼科

ペリツェウス・メルツバッハ病

1. ペリツェウス・メルツバッハ病とは

Section titled “1. ペリツェウス・メルツバッハ病とは”

ペリツェウス・メルツバッハ病(Pelizaeus-Merzbacher Disease; PMD)は、PLP1遺伝子の変異に起因するX連鎖劣性の低髄鞘化白質ジストロフィー(hypomyelinating leukodystrophy)である。眼振・運動発達遅滞・痙性を三主徴とする。

歴史

1885年にFriedrich Pelizaeusがドイツの1家系の5人の男児で同定した。1910年にLudwig Merzbacherが同家系を再調査し、14人の罹患者の神経病理を記載した。1)

疫学

  • 世界的有病率:90,000人に1人〜750,000人に1人
  • 米国:100,000人に1.9人
  • 男児への罹患率の別推計:200,000〜500,000人に1人2)

遺伝形式と変異タイプ

X連鎖劣性遺伝であり、主に男性が発症する。女性は通常無症候性の保因者となる。PLP1遺伝子の重複(duplication)が全PMD症例の50〜75%を占め、最も多い原因変異である。1) 残りの大部分は点変異、ごく少数が欠失である。

Q ペリツェウス・メルツバッハ病はどのくらい稀な疾患か?
A

世界的な有病率は90,000人に1人〜750,000人に1人と推定されており、きわめて稀な疾患である。男児に限った推計では200,000〜500,000人に1人とされる。2)

多くの症状が2歳前に出現し、保護者が最初に気づくことが多い。

  • 眼振:最も早期に気づかれる症状。PLP1重複例の68.8%(16例中11例)で初発症状として認められ、平均発症月齢は3.1か月(出生時〜12か月)である。1) 中国人111例のコホートでは99.1%が眼振を呈した。1)
  • 運動発達遅滞:すべての患児で運動・言語両方の発達遅延を認める。1) 独歩獲得例はPLP1重複コホートでゼロであり、94%が常時車椅子を使用している。1)
  • 摂食障害:PLP1重複例の63%(10/16例)に摂食問題があり、胃食道逆流は40%(6/15例)に認められる。1)
  • 先天型(I型)の初発症状:出生直後からの呼吸窘迫・喘鳴(stridor)・哺乳障害・体重増加不良(failure to thrive)を呈する。2)

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

PMD病型分類(3型)

I型(先天型)

重症度:最重症型。

発症:出生時より症状が出現する。

主な所見:歩行・会話不能。重大な認知機能障害。てんかん発作。喉頭喘鳴・咽頭麻痺・呼吸不全。

II型(中間型)

重症度:I型とIII型の中間。

発症:乳児期に発症することが多い。

主な所見:I型より軽症だがIII型より重篤な神経症状を呈する。

III型(古典型)

重症度:最軽症型。

発症:通常1歳頃に発症する。

主な所見:限定的な歩行能力を維持できることがある。認知機能は比較的保持される。

全型に共通する神経学的所見

  • 筋緊張低下:全例で報告される。1)
  • 側弯症振戦頭部振戦(titubation)運動失調

眼科的所見

  • 水平・回転眼振:コロンビアの症例シリーズ(7例)では水平眼振57%・回転眼振43%
  • 空間視力の不良視野の不良
  • 視神経肥大:MRIで観察される症例がある
  • 前庭眼反射(VOR)の減弱

聴覚・前庭所見

ABR検査では末梢(蝸牛・螺旋神経節)由来のpeak Iのみが出現し、髄鞘化聴覚経路由来のpeak III・Vは欠如する。ティンパノグラムA型・DPOAEは正常(外有毛細胞機能は保持)。頸部前庭誘発筋電位(cVEMP)では両側P1・N1の潜時延長と振幅正常が認められ、脳幹前庭経路の脱髄を反映する。4)

認知機能(PLP1重複例)1)

  • 全例が名前の認知・2段階命令の遂行が可能
  • 93%が室内の物体2つを命名可能
  • 69%が読書可能(レベルは個人差が大きい)
Q 最初に気づかれる症状は何か?
A

PLP1重複例の68.8%で眼振が初発症状として認められ、平均3.1か月齢で気づかれる。1) 眼振は出生時から12か月の間に出現し、乳児期早期の眼振は本疾患の重要な手がかりとなる。

原因遺伝子

PLP1遺伝子(Xq22.2)は7つのエクソンからなり、髄鞘の主要タンパク質であるプロテオリピドタンパク質(PLP1)とそのアイソフォームDM20をコードする。3)

変異タイプと頻度

変異タイプ頻度典型的表現型
PLP1重複50〜75%(最多)多くが古典型(III型)
点変異(ミスセンス)大部分の残りしばしば重症の先天型
欠失・ヌル変異ごく少数比較的軽症

重複サイズは100 Kb〜約5 Mbに及ぶ。3コピー以上のPLP1重複はより重症型と関連する。同一遺伝型でも表現型に幅があり、遺伝型のみからの予後予測は信頼性が低い。3)

リスク要因

  • 保因者の母親を持つ男児(次の妊娠で男児50%がPMD発症、女児50%が保因者となる)3)
  • 家族歴
Q 母親が保因者の場合、次の子どもへの遺伝リスクは?
A

保因者の母親から生まれる男児の50%がPMDを発症し、女児の50%が保因者となる。3) 出生前診断(羊水穿刺によるSNPアレイ)でPLP1重複の有無を確認できる。

MRI(最重要の画像検査)

  • T2強調像:広範な高信号(内包後脚・視放線・放線冠)。白質が灰白質に対して高信号を呈する
  • T1強調像:白質が灰白質に対して等信号
  • 脳梁菲薄化軽度小脳虫部萎縮小脳低形成
  • MRS:NAA上昇・コリン低下(低髄鞘化を示唆)4)
  • CT:白質の減衰と進行性萎縮

Hartingらが提案したMRI髄鞘化スコアリングシステムは、T2強調画像8項目とT1強調画像6項目を0〜2のスケールで解剖部位別にスコア化する(総計0〜27点)。皮質に対する信号強度で評価し、経過観察の客観的・標準化評価に有用である。

  • MLPA:PLP1の7エクソンすべてを検出でき、信頼性が高い
  • 染色体マイクロアレイ(aCGH):コピー数変異(CNV)の検出
  • SNPアレイ:aCGHより高解像度。CNVに加えてUPD・LOH・低レベルモザイクも検出可能。出生前診断にも使用可能3)
  • FISHドロップレットデジタルPCR(ddPCR)
  • ABR:peak Iのみ出現、peak III・V欠如はPMDに特徴的所見。PMD様疾患(PMLD)ではABRが正常であり鑑別点となる。4) スクリーニングABRでなく診断的ABRが必要
  • VEP網膜電図(ERG):EIF2アカントアメーバ角膜炎2関連例では重度異常を示す5)

機能障害スケール(FDS):31点満点(教育/雇用・発話・食事・更衣・排泄・書字・座位・歩行・呼吸の9領域)。臨床経過の定量化に有用。PLP1重複例の平均FDS1スコアは11.5/31(SD 5.1)。1)

診断年齢:PLP1重複コホートの平均は5.1歳(出生時〜18歳)。1)

  • PMD様疾患(PMLD):ABRが正常である点でPMDと鑑別
  • 痙性対麻痺2型(SPG2):PLP1変異による緩徐進行性の痙性対麻痺
  • EIF2アカントアメーバ角膜炎2関連白質脳症(LEUDEN症候群):臨床的・画像学的にPMDと類似するが、EIF2アカントアメーバ角膜炎2のde novo変異による。文献上わずか10例5)
  • 異染性白質ジストロフィー副腎白質ジストロフィー

現時点でPMDの根治療法は存在しない。治療は対症療法・緩和ケアが中心となる。

痙性への対応

  • バクロフェン・ジアゼパム・チザニジンなどの骨格筋弛緩薬

栄養・嚥下障害への対応

  • 咽頭麻痺・嚥下障害:胃瘻造設術(gastrostomy)による経管栄養
  • 先天型(I型)の重症例:気管切開術(tracheostomy)を実施することがある2)

側弯症への対応

  • 理学療法

呼吸管理

  • 先天型では呼吸不全リスクがある。非侵襲的呼吸補助を使用する例もある。PLP1重複コホートでは人工呼吸器依存例の報告はない。1)

リハビリテーション・補助具

  • 介護者調査では「可動性の向上」と「コミュニケーション」が最重要治療目標として挙げられている
  • コミュニケーションデバイスの活用あり1)
  • 94%が常時車椅子使用、38%が常時装具使用1)
Q 現在の治療で生命予後はどの程度か?
A

病型によって大きく異なる。I型(先天型)は介入なしでは小児期を超えることが難しいが、積極的な介入(気管切開・胃瘻など)によって30代まで生存できるとされる。III型(古典型)では70代まで生存可能である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

PLP1遺伝子の機能

PLP1はオリゴデンドロサイトで主に発現し、脳タンパク質の50%以上を占める髄鞘の主要タンパク質である。DM20はPLP1の選択的スプライシングアイソフォームであり、中枢・末梢神経系髄鞘の少量成分である。1)

変異タイプ別の病態メカニズム

点変異(ミスセンス)

最重篤な機序:PLPのミスフォールディングが生じる。

ゴルジ体通過が阻害され小胞体(ER)に蓄積し、ER機能障害→オリゴデンドロサイトのアポトーシスと軸索損傷を引き起こす。unfolded protein response(UPR)の活性化が先天型の病態に関与する。

ヌル変異・欠失

比較的軽症の機序:早期終止コドンによる短縮タンパク質が産生される。

ERへの蓄積なし→オリゴデンドロサイト死滅が少ない→軽症表現型となる。

重複変異

中間的機序:PLP1の過剰発現が生じる。

膜ラフト組立の破綻→PLP1がコレステロール・脂質とともに後期エンドソーム/リソソームに蓄積→成熟オリゴデンドロサイトのアポトーシスと未熟オリゴデンドロサイトの発達停止。3)

脱髄の全身的な意義

中枢神経系では1つのオリゴデンドロサイトが複数の軸索を栄養する。末梢神経のシュワン細胞と異なり再生能力が弱く、白質ジストロフィーは脱髄疾患の代表的な一群をなす。

聴覚所見と脱髄の関係

ABRのpeak I(螺旋神経節・無髄神経線維由来)は正常だが、peak III・V(髄鞘化聴覚経路由来)は欠如する。これはPMDの白質脱髄を直接反映する所見である。cVEMPの潜時延長も脳幹前庭経路の脱髄による。4)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”
  • CRISPR-Cas9システム:マウスモデルでPLP1発現を抑制し、軽症型に似た表現型を示した
  • PLP1抑制(suppression of proteolipid protein):マウスモデルでPMDを救済したと報告された2)
  • ロナプリサン(Lonaprisan):プロゲステロン受容体拮抗薬。PLP1発現を減少させる
  • クルクミン:マウスモデルで有望な結果が得られたが、9人のPMD患者を対象としたオープンラベル試験(バイオアベイラビリティの高い製剤)では12か月後に有意な治療効果は認められなかった
  • コレステロール豊富食:マウスモデルでオリゴデンドロサイトの寿命延長が示された
  • ケトン食(高脂肪・低炭水化物):マウスモデルでオリゴデンドロサイトの再生促進が示された
  • 小胞体ストレス調節薬
  • 鉄キレート剤
  • RNA抑制療法
  • グリア前駆細胞移植

EIF2アカントアメーバ角膜炎2関連白質脳症(LEUDEN症候群)

Section titled “EIF2アカントアメーバ角膜炎2関連白質脳症(LEUDEN症候群)”

Macintoshら(2023)はPMDと臨床的・放射線学的に類似する新たな遺伝的疾患として、EIF2アカントアメーバ角膜炎2のde novo変異による低髄鞘化白質脳症を報告した。5) Ala109位がホットスポット変異であり、EIF2アカントアメーバ角膜炎2タンパク質レベルの低下が病原性を裏付けるとされる。PMDとの鑑別が重要である。

Xueら(2021)はSNPアレイを用いたPLP1重複の出生前診断が有効であることを示した。3) SNPアレイはaCGHより高解像度であり、CNVだけでなくUPD・LOH・低レベルモザイクも検出可能である。保因者母親の次の妊娠において羊水穿刺(18週)→SNPアレイ→MLPA確認という手順が提案されている。

FDS(機能障害スケール)はPMDの臨床経過を定量化する評価ツールとして、将来の治療介入の効果評価に不可欠とされる。PLP1重複例のFDS1→FDS2の平均変化は-0.7であり、緩徐な進行が示唆されるが明確な進行パターンは未確立である。1)


  1. Trepanier AM, Aguilar S, Kamholz J, Laukka JJ. The natural history of Pelizaeus-Merzbacher disease caused by PLP1 duplication: A multiyear case series. Clin Case Rep. 2023.

  2. Usman M, Koch A, Stolzenberg L, et al. A Patient With Pelizaeus-Merzbacher Disease Caused by a c.67G>A Mutation in the PLP1 Gene. Cureus. 2023.

  3. Xue H, Yu A, Chen X, et al. Prenatal diagnosis of PLP1 duplication by single nucleotide polymorphism array in a family with Pelizaeus-Merzbacher disease. Aging. 2021.

  4. Yuvaraj P, Narayana Swamy S, Chethan K, et al. Audio-vestibular Findings in a Patient with Pelizaeus-Merzbacher Disease. J Int Adv Otol. 2024.

  5. Macintosh J, Thiffault I, Pastinen T, et al. A Recurrent De Novo Variant in EIF2アカントアメーバ角膜炎2 Causes a Hypomyelinating Leukodystrophy. Child Neurol Open. 2023.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます