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神経眼科

パーキンソン徴候(海綿静脈洞局在徴候)

パーキンソン徴候(Parkinson sign)は、単独の第VI脳神経麻痺(外転神経麻痺)に、同側の節後性ホルネル症候群が合併した臨床徴候である。この組み合わせは、海綿静脈洞後部の病変を示唆する高い局在診断的価値を持つ。

海綿静脈洞は蝶形骨洞上部・トルコ鞍側方に位置し、動眼神経(III)・滑車神経(IV)・外転神経(VI)・三叉神経(V1, V2)・眼交感神経・内頸動脈が通過する。海綿静脈洞後部では、眼交感神経鎖が内頸動脈を離れて一時的に外転神経と近接して走行する。この解剖学的関係により、同部位への圧迫・炎症が両者を同時に障害する。

なお、「パーキンソン病」は中脳黒質のドパミン神経変性に起因する運動障害疾患であり、パーキンソン徴候とは全く別の疾患概念である。

Q パーキンソン徴候とパーキンソン病は関係がありますか?
A

無関係である。パーキンソン徴候は海綿静脈洞の病変による外転神経麻痺とホルネル症候群の合併であり、パーキンソン病(中脳黒質のドパミン神経変性による運動障害)とは名称が似ているだけで病態・原因・治療すべてが異なる。

  • 水平複視:外転障害による。麻痺眼側への視線移動で増悪し、複視軽減のために患眼側へのface turn(代償性頭位)が生じる。
  • 頭痛眼窩周囲・後頭部の痛みを伴うことがある。
  • 眼痛または眼窩後方の圧迫感:海綿静脈洞内の病変による刺激に起因する。
  • 霧視視力低下眼瞼下垂が高度な場合に生じる。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 縮瞳(miosis):暗所でより顕著になる瞳孔不同。対光反射は正常であるが、縮瞳後の散瞳反応は遅延する。眼球陥凹のように見えることがあるが、瞼裂狭小による見かけ上のものであり、実際には眼球の位置は変わらない。
  • 部分的眼瞼下垂(partial ptosis):縮瞳と同側の上眼瞼・下眼瞼の下垂。ホルネル症候群に特徴的な瞼裂狭小を呈する。
  • 顔面の無汗症(anhidrosis):同側顔面の発汗障害。
  • 患眼の外転不能:外直筋の機能不全による麻痺性内斜視を呈する。複視は外転方向で増悪する。

パーキンソン徴候の原因は多彩であり、海綿静脈洞またはその後部に生じる以下の病変が関与する。

占拠性病変

髄膜腫・神経鞘腫:海綿静脈洞に発生する良性〜悪性の腫瘍。

リンパ腫・転移:乳癌・前立腺癌などが眼窩・海綿静脈洞・髄膜へ転移し、単独外転神経麻痺を生じることがある。

血管病変

内頸動脈(ICA)解離・瘤:海綿静脈洞内ICAの動脈瘤や解離が神経を圧迫する。

内頸動脈血栓症:静脈血栓が海綿静脈洞内の交感神経・外転神経を障害する。

炎症性・その他

Tolosa-Hunt症候群:海綿静脈洞内の肉芽腫性炎症。ステロイド療法に反応しやすい。

巨細胞性動脈炎・外傷:血管炎による虚血性障害、または直接外傷による損傷。

リスク因子

  • 喫煙:血管病変のリスクを高める。
  • 長期にわたる高血圧・糖尿病:虚血性外転神経麻痺(血管性病因)の最も一般的なリスク因子。50歳以上では虚血性病因が主体となる。
  • 高齢:加齢により血管リスクが上昇する。
  • 悪性腫瘍または血管疾患の家族歴
  • 血液凝固亢進状態(hypercoagulable state)
Q パーキンソン徴候の原因はすべて重篤な病気ですか?
A

必ずしもそうではない。Tolosa-Hunt症候群のようにステロイド療法で速やかに改善するものから、悪性腫瘍や内頸動脈瘤のように緊急処置を要するものまで幅がある。いずれも原因の特定が治療方針を決定するため、早期の精査が重要である。

パーキンソン徴候の診断は以下の所見の組み合わせによる。

  1. 暗所でより顕著になる瞳孔不同(縮瞳側の確認)
  2. 縮瞳と同側の部分的眼瞼下垂
  3. 同側の単独外転筋麻痺(外転神経麻痺)

第3次(節後性)ホルネル症候群に同側の外転神経麻痺が合併していることが確認されれば、病変は同側の海綿静脈洞後部に局在すると判断できる。

薬理学的検査(ホルネル症候群の確認と部位診断)

Section titled “薬理学的検査(ホルネル症候群の確認と部位診断)”

3種の点眼試験によりホルネル症候群の存在と病変部位の局在を確認する。

検査原理判定
アプラクロニジン点眼試験脱神経過敏によりα₁刺激で縮瞳側が散大瞳孔不同の逆転 → ホルネル症候群陽性
コカイン点眼試験交感神経除神経の証明縮瞳側が散大しない → ホルネル症候群陽性
ヒドロキシアムフェタミン点眼試験節後性障害では伝達物質の枯渇により散大不能縮瞳側が散大しない → 節後性確認

両眼にアプラクロニジンを点眼し30〜45分後に観察すると、健眼では散瞳が生じないが、患眼では散大し眼瞼下垂の改善もみられる。コカイン・チラミンは入手困難であり、アプラクロニジン試験が最も実用的である(感度88〜100%)。

  • 脳MRI・MRA:海綿静脈洞を含む頭蓋底の病変を評価する。内頸動脈瘤・解離・腫瘍・炎症を識別するために造影MRIが有用である。
  • ESR・CRP:巨細胞性動脈炎の評価。高齢者で側頭部圧痛・顎跛行がある場合は緊急測定し、陽性であれば側頭動脈生検を行う。
  • CBC(全血算):血液腫瘍の評価。

橋(pons)の病変も下降性交感神経鎖と外転神経の両者に影響を及ぼしうる。しかし橋の病変では通常顔面神経も巻き込まれ、かつ生じるホルネル症候群は第1次(中枢性)であるため、ヒドロキシアムフェタミン試験は縮瞳側の散大を示し、節後性ホルネル症候群ではないことが確認される。この場合、パーキンソン徴候は否定される。

なお、海綿静脈洞内では動眼神経(III)・滑車神経(IV)・三叉神経(V1)も走行しており、これらを合併して障害する場合はパーキンソン徴候の範疇を超え、より広範な海綿静脈洞症候群として評価する必要がある。

Q アプラクロニジン点眼試験はどのように行いますか?
A

両眼にアプラクロニジン(1%または0.5%)を点眼し、30〜45分後に瞳孔径と眼瞼位置を観察する。ホルネル症候群では脱神経過敏により縮瞳側の瞳孔が散大して瞳孔不同が逆転し、眼瞼下垂の改善もみられる。感度は88〜100%と報告されており、入手困難なコカインに代わって最も実用的な検査である。

パーキンソン徴候に対する特異的治療は存在しない。治療は同定された基礎疾患(病因)に応じて行われる。

  • 占拠性病変(腫瘍):外科的切除・放射線療法・化学療法を組み合わせて行う。
  • 内頸動脈瘤・解離:血管内治療(コイル塞栓術・ステント留置)または外科的クリッピング。
  • Tolosa-Hunt症候群:ステロイド療法(副腎皮質ステロイドの全身投与)が第一選択である。疼痛は投与開始後1〜2日で改善し、その後眼球運動障害も改善することが多い。
  • 巨細胞性動脈炎:速やかな高用量ステロイド療法が必要である。治療開始の遅れは視力障害につながるため緊急対応を要する。
  • 海綿静脈洞血栓症(感染性):全身症状がある場合は入院のうえ、広域スペクトル抗菌薬を静脈内投与する。感染源に応じた耳鼻科・脳外科の対診、および緊急な外科的排膿が必要となる場合がある。

外転神経麻痺に対する対症療法

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虚血性(高血圧・糖尿病に起因)の場合は自然軽快が期待できるため、ビタミン剤・循環改善薬投与などで約6か月前後を目安に保存的に経過観察する。その間の複視に対してはプリズム眼鏡が有効である。

6か月以上経過しても改善が不十分な場合は外眼筋手術を考慮する。水平筋の前後転術のほか、高度な麻痺には上下直筋を用いた筋移動術(全幅移動術)が用いられ、良好な眼位改善効果が確認されている。

Q 外転神経麻痺による複視は治りますか?
A

虚血性病因の場合は3〜6か月で自然改善するものが多い。それ以外の原因では基礎疾患の治療が主体となる。改善が見られない場合はプリズム眼鏡による複視軽減や、外眼筋手術(前後転術・筋移動術)を考慮する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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交感神経鎖(眼交感神経)の走行

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眼交感神経は3ニューロン経路で構成される。

  • 第1次ニューロン(中枢性):視床下部後外側を起源とし、脳幹を下降してC8〜T2の毛様脊髄中枢(Budge中枢)でシナプスを形成する。
  • 第2次ニューロン(節前性):脊柱を出て肺尖部を越え、頸部交感神経鎖を上昇し、上頸神経節で第3次ニューロンとシナプスを形成する。
  • 第3次ニューロン(節後性):上頸神経節から内頸動脈(ICA)周囲に神経叢を形成し、海綿静脈洞内へ進入する。海綿静脈洞後部でICAを離れ、一時的に外転神経(CN VI)と合流した後、三叉神経第一枝(V1)に合流して上眼窩裂を通過する

海綿静脈洞後部を通過後、交感神経は鼻毛様体神経→長毛様体神経を介して瞳孔散大筋を支配し、毛様体神経節の交感神経根→短毛様体神経を介してミュラー筋・下眼瞼牽引筋を支配する。

外転神経核は橋の尾側背側、第4脳室直下に存在する。神経線維は橋延髄溝で脳幹を出てくも膜下腔に入り、ドレロ管(Dorello’s canal)内を通り硬膜を貫いて海綿静脈洞に進入する。海綿静脈洞内では内頸動脈のすぐ外側を走行し、上眼窩裂を通って眼窩に入り外直筋を支配する。外転神経は海綿静脈洞内でICAと眼交感神経の両者と隣接して走行する。

海綿静脈洞後部では、ICAを離れた眼交感神経鎖がCN VIと解剖学的に近接して(一時的に合流して)走行する。この特定部位に占拠性病変・血管病変・炎症が生じると、両者が同時に障害されてパーキンソン徴候が成立する。

この同時障害パターンは海綿静脈洞後部に極めて特異的である。橋の病変では交感神経が障害されても節後性ではなく中枢性(第1次ニューロン障害)のホルネル症候群が生じるため、パーキンソン徴候の定義(節後性ホルネル症候群 + 同側外転神経麻痺)には合致しない。この局在特異性が臨床的な診断価値の根拠となっている。

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