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神経眼科

光学レンズの着色と波長特異的フィルター

1. 光学レンズの着色と波長特異的フィルターとは

Section titled “1. 光学レンズの着色と波長特異的フィルターとは”

光学レンズの着色と波長特異的フィルターは、畏光(photophobia:光過敏)による著しい不快感を軽減することを目的とした光学技術である。

FL-41レンズはこの分野における最初の成功例として位置づけられる。1980年代後半に開発され、蛍光灯による不快感を軽減し職場での生産性向上を目的に設計された1)。名称はその開発経緯に由来し、480nm付近の青緑色光を選択的に遮断するレンズ染色技術である2)

単純な濃色レンズ(サングラス)が全波長にわたって光量を減少させるのに対し、FL-41レンズと光学ノッチフィルターはいずれも特定波長を選択的に遮断する点で異なる。

より最近、**光学ノッチフィルター(optical notch filters)**が開発された。レンズ表面に薄膜(thin film)を塗布することで、FL-41レンズよりもさらに特定の波長を精密に遮断することが可能である3)

日本における臨床使用:眼瞼けいれんの治療において、光線で誘発されるけいれんや羞明を訴える症例に対し遮光眼鏡の装用が試みられている。また錐体ジストロフィで羞明が強い症例にも、遮光眼鏡の装用が症状軽減に有効とされる。

Q FL-41レンズとは何か?普通のサングラスとどう違うのか?
A

FL-41レンズは480nm付近の青緑色光を選択的に遮断する着色レンズであり、単なる濃色レンズとは根本的に異なる。普通のサングラスが全波長にわたって光量を均等に減少させるのに対し、FL-41レンズは畏光を引き起こす特定波長のみを狙い打ちに遮断する。詳細な機序は「病態生理学・詳細な発症機序」の項を参照。

自覚症状(着色レンズの対象となる症状)

Section titled “自覚症状(着色レンズの対象となる症状)”
  • 畏光(photophobia):光による著しい不快感。本技術の主な適応症状である。
  • 羞明感・眼乾燥感:眼瞼けいれん患者では羞明感と眼乾燥感を伴うことが多い。
  • けいれんの増悪:眼瞼けいれんのけいれんは明所・疲労・読書で増悪し、暗所で軽減する。

波長特異的フィルターが適応となる主な疾患は以下のとおりである。

片頭痛

主訴:畏光が主要随伴症状

推奨フィルター:FL-41レンズ(480nm付近遮断)

エビデンス:有効性が示されている

良性本態性眼瞼痙攣

主訴:光で誘発される不随意閉瞼

推奨フィルター:青緑色光遮断レンズ・遮光眼鏡

エビデンス:有効性が示されている

脳震盪後症候群

主訴:畏光を含む多彩な視覚症状

推奨フィルター:FL-41レンズ

エビデンス:主観的快適さの向上が報告(小規模試験)

錐体障害・その他

錐体視細胞障害:羞明が顕著。赤色コンタクトレンズが最も説得力ある改善を示す。

眼痛:光刺激による疼痛増悪に対応。

視覚性閃輝症(VSS):FL-41グラスが光過敏症に有効とされる。

アクロマトプシア(achromatopsia)においても羞明が特徴的症状の一つであり、遮光対策が重要となる。

畏光の発症には**内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC:intrinsically photosensitive retinal ganglion cells)**が中心的役割を果たす。

  • メラノプシンの光感受性:ipRGCに含まれるメラノプシン光色素は481nm付近の波長(青緑色光)に最大感度を持つ2)。この波長の光がメラノプシンの異性化を引き起こす。
  • 双安定性:メラノプシンは481nmと587nmの2波長で異性化する双安定性を有する。
  • 侵害受容中枢への入力:ipRGCの刺激は視床の侵害受容中枢に関連しており、環境光の481nm成分が視床の痛み中枢を活性化する可能性がある。
  • 独立した光情報伝達:ipRGCは桿体・錐体が存在しなくても光信号を伝達可能であり、概日リズム・対光反射・視床侵害受容にも関与する。

これらの機序に基づき、481nm付近の波長を遮断することでipRGCの光情報伝達を減少させ、視床侵害受容中枢への入力を抑制する、というのが波長特異的フィルターの理論的根拠である。

Q なぜ特定の波長の光だけが不快感を引き起こすのか?
A

ipRGCに含まれるメラノプシンが481nm付近の青緑色光に最大感度を持つため、この波長帯の光が選択的に視床の侵害受容中枢を活性化すると考えられている。そのため、全光量を均等に下げるよりも480nm付近を選択的に遮断する方が、畏光の軽減に効果的とされる。

波長特異的フィルターの適応を判断するにあたり、まず畏光の原因疾患を鑑別することが重要である。

  • 原因疾患の鑑別:畏光は片頭痛・眼瞼けいれん・錐体障害・外傷後症候群など多くの疾患の症状であり、原因の特定が適切なフィルター選択につながる。
  • 瞬目テスト:眼瞼けいれんでは瞬目テストによって誘発を試みる。速瞬テスト(素早い瞬目)・軽瞬テスト(軽く閉じる)・強瞬テスト(強く閉じる)の3種類があり、けいれんの誘発パターンを評価する。
  • 瞳孔測定法(pupillometry):ipRGCの機能を客量的に評価できる検査法である。
  • 色覚瞳孔対光反射検査(chromatic pupillometry):異なる波長の光刺激に対する瞳孔反応を測定し、メラノプシン応答を選択的に評価できる。

日本の教科書では、以下の疾患に対して遮光眼鏡が治療選択肢として挙げられている。

  • 眼瞼けいれん(良性本態性眼瞼痙攣):遮光眼鏡やクラッチ眼鏡が治療選択肢の一つとして記載されている。光線で誘発されるけいれんや羞明を訴える例に遮光眼鏡を試みてよい。
  • 錐体ジストロフィ:羞明が強い症例に遮光眼鏡の装用が症状軽減に有効とされる。

フィルターの種類と疾患別推奨

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疾患・症状別の推奨フィルターを以下に示す。

疾患・症状推奨フィルターエビデンスの傾向
片頭痛FL-41レンズ有効性が示されている
良性本態性眼瞼痙攣遮光眼鏡・FL-41有効性が示されている
脳震盪後症候群FL-41レンズ主観的改善(小規模試験)
錐体障害赤色コンタクトレンズ最も説得力ある改善例あり
視覚性閃輝症FL-41グラス光過敏症への有効性報告あり
  • 480nm付近の波長を選択的に遮断する着色レンズ2)
  • 片頭痛およびBEBにおいて有効性が示されている。
  • ローズ~琥珀色のレンズが一般的であり、全体的に光量を下げるサングラスとは機序が異なる。
  • レンズ表面への薄膜塗布により、FL-41よりも精密な波長遮断が可能3)
  • より特定の波長帯を標的にできるため、今後の臨床応用が期待される。
Q どの疾患にどの色のレンズが有効か?
A

片頭痛と良性本態性眼瞼痙攣にはFL-41レンズ(480nm付近の青緑色光遮断)が有効性を示している。錐体障害(錐体視細胞の機能不全)では赤色コンタクトレンズが最も説得力ある改善を示す。脳震盪後症候群では小規模試験においてFL-41による主観的快適さの向上が報告されている。

Q 市販のFL-41レンズは信頼できるか?
A

FL-41と表示されていても、実際には規定の遮断特性を持たない製品が存在する。購入前に供給元が正規の仕様を満たしているかを確認することが重要である。専門医に相談し、適切な製品を選択することが望ましい。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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ipRGCは桿体・錐体とは独立して光を感知できる第3のタイプの光受容細胞である。メラノプシン光色素を内包し、その最大吸収波長(λmax)は482nmである。

  • Giant ipRGC:約3,000個が存在し、広い網膜領域に樹状突起を展開してメラノプシンを発現する。
  • ipRGCの多様な機能:瞳孔対光反射の主要求心路を形成するとともに、概日リズム・気分調節・視覚像形成にも関与する。光が気分と学習に直接影響を及ぼすことが、メラノプシン発現ニューロンを介して示されている。

瞳孔径は内網膜(ipRGC・メラノプシン系)と外網膜(桿体・錐体系)からのシグナルが加算的に統合されることで決定される。

  • 錐体媒介瞳孔反応:短潜時・速い収縮速度で、光刺激後すみやかにベースラインへ回復する。コントラスト変化への緊張性収縮を制御する。
  • メラノプシン媒介瞳孔反応:長潜時・緩徐な収縮速度で、持続性を特徴とする。長時間光曝露時の明順応瞳孔径を設定する。
  • 照度依存性の統合:暗順応時は桿体応答が優位、明順応時はメラノプシン応答が出現して桿体が脱落し、さらに高照度では錐体応答が加算される。
  • ゲインコントロール:瞳孔制御のゲインコントロールはEdinger-Westphal核に存在すると推定されている。

メラノプシン機能は生後1〜8十年の間は比較的安定しており、その後に機能低下が顕著になることが示されている。メラノプシン媒介瞳孔反応は加齢によらず比較的安定しているため、高齢者でも波長特異的フィルターの効果が期待できる。

481nm付近の波長を遮断することでipRGCへの入力を減少させ、視床の侵害受容中枢への信号伝達を抑制するというのが、FL-41レンズおよびノッチフィルターの作用原理である2)3)。錐体・桿体が機能しない症例(網膜変性疾患等)においても、ipRGCが光信号を伝達できるため、これらの疾患でも波長フィルターが畏光軽減に寄与する可能性がある。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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失われた光受容機能を遺伝子工学的に回復させようとする光遺伝学研究が進行している。

  • メラノプシン異所的発現:メラノプシンをRGCに異所的に発現させることで、盲目マウスにおいて瞳孔反射の改善と明暗識別能の回復が達成されている。
  • キメラタンパク質の応用:Opto-mGluR6キメラをON双極細胞に発現させ、網膜変性モデルで光応答を回復させる研究が進行している。
  • チャネルロドプシン遺伝子治療:チャネルロドプシンを用いた遺伝子治療の臨床試験が進行中である(NCT02556736等)。

メラノプシン指向性免疫毒素をアカゲザルに投与してipRGCを選択的に除去する研究において、ipRGC除去後の瞳孔反射の有意な減弱が確認されており、ipRGCが瞳孔対光反射に果たす役割の解明が進んでいる。

反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)が視覚性閃輝症(VSS)における光過敏に対する非薬物療法として検討されている。rTMSと波長特異的フィルターの組み合わせ的応用については今後の研究が待たれる。

現状では眼鏡店での入手可能性の低さ、医師の認知不足、オンライン購入における高コストが、波長特異的フィルターの普及を妨げる障壁となっている。


  1. Wilkins AJ, Wilkinson P. A tint to reduce eye-strain from fluorescent lighting? Preliminary observations. Ophthalmic Physiol Opt. 1991.

  2. Katz BJ, Digre KB. Diagnosis, pathophysiology, and treatment of photophobia. Surv Ophthalmol. 2016.

  3. Hoggan RN, et al. Thin-film optical notch filter spectacle coatings for the treatment of migraine and photophobia. J Clin Neurosci. 2016.

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