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神経眼科

免疫チェックポイント阻害薬による視神経症

1. 免疫チェックポイント阻害薬による視神経症とは

Section titled “1. 免疫チェックポイント阻害薬による視神経症とは”

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、癌細胞が免疫系の攻撃を回避するために利用する「免疫チェックポイント経路」を遮断することで、患者自身の免疫系を再活性化して腫瘍を攻撃させる薬剤群である。その一方で、免疫系の過活性化により全身の正常組織が攻撃される免疫関連有害事象(irAE)を引き起こすことがあり、視神経もその標的となりうる。

免疫チェックポイント阻害薬の種類

Section titled “免疫チェックポイント阻害薬の種類”

ICIは作用標的に基づき4クラスに分類される。現在FDAが承認している主な薬剤は以下の通りである。

クラス主な承認薬(承認年)
CTLA-4阻害薬イピリムマブ(2011)、トレメリムマブ(2022)
PD-1阻害薬ペムブロリズマブ(2014)、ニボルマブ(2014)、セミプリマブ(2018)
PD-L1阻害薬アテゾリズマブ(2016)、アベルマブ(2017)、デュルバルマブ(2017)
LAG-3阻害薬レラトリマブ(2022)
  • 神経眼科的irAEの発生率:ICI治療後の神経眼科的irAEは最大0.46%に認められる。
  • 眼irAE全体:眼irAEは1〜3%で発症し、主に眼表面疾患または前部ぶどう膜炎として現れる1)
  • 後眼部炎症:眼irAEの約5〜20%を占め、網膜脈絡膜・視神経病変はより重篤で視力障害リスクが高い1)
  • 原疾患:皮膚メラノーマが最多適応であり、ICI関連視神経症の系統的レビューでも悪性メラノーマが最多(男性57%、女性43%、平均年齢60歳)。
  • 使用薬剤:2021年の31例報告ではペムブロリズマブが最多使用ICI、次いでイピリムマブ+ニボルマブ併用であった。
Q 免疫チェックポイント阻害薬による視神経症はどのくらいの頻度で起こるのか?
A

ICI治療後の神経眼科的irAEの発生率は最大0.46%とされる。眼irAE全体は1〜3%であるが、そのうち後眼部炎症(視神経症を含む)は5〜20%を占める1)。視神経症はより重篤な眼irAEとして位置づけられる。

ICI開始から発症までの期間は症例や薬剤によって異なり、数週から数ヶ月の幅がある。

  • 視力低下:片側性または両側性に生じる。
  • 霧視:視界のかすみを訴えることが多い。
  • 視野障害:暗点や水平視野欠損として現れる。
  • 色覚変化:色の見え方が変化する。
  • 眼球運動時の不快感:一部の症例で報告される。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

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  • 視神経乳頭浮腫:7例中5例に認められ、片側性・両側性いずれもある。最も頻度が高い所見である。
  • RAPD(相対的瞳孔求心路障害):片側性または左右非対称の両側性に認められる。
  • 蒼白視神経乳頭:一部の症例で視神経の蒼白を伴う。
  • 球後視神経炎パターン:視神経乳頭所見が正常でも球後部で炎症が生じているケースがある。
  • 前部ぶどう膜炎の併発前房細胞・後癒着を伴う例がある。
  • MRI所見:4例中2例で視神経の造影増強が確認されており、髄液信号増加の報告もある。

各薬剤で報告されている特徴的な臨床像を以下に示す。

  • アテゾリズマブ:動脈炎性AION様の所見(視神経乳頭腫脹+RAPD+脈絡膜・網膜動脈充盈遅延)。
  • ペムブロリズマブ:片側発症後に対側にも波及する例がある。
  • イピリムマブ両側視神経乳頭浮腫、前房炎症を伴う例がある。
  • デュルバルマブ:片側性グレード4乳頭浮腫と下方水平視野欠損。
  • ニボルマブ中間部ぶどう膜炎を伴う両側乳頭炎および急性前部虚血性視神経症。
  • セミプリマブ:両側視神経症と視野欠損。

ICIによる視神経症の直接原因は、ICIが免疫チェックポイントを解除することで意図しない自己免疫反応が惹起され、視神経が障害されることである。

  • ICIの種類とリスク:CTLA-4阻害薬はT細胞活性化の抑制を解除し自己免疫疾患を誘発しやすい。PD-1/PD-L1阻害薬は末梢免疫寛容を阻害し、腫瘍免疫逃避を防ぐ一方で自己免疫を誘発する。LAG-3阻害薬は活性化T細胞増殖制限機構を阻害し、他のICIとの併用使用が増加している。
  • ICI併用療法:イピリムマブ+ニボルマブのような併用療法はirAEリスクが単剤より増加する1)
  • 宿主遺伝的素因:HLA型が自己免疫イベントの素因となりうる1)
  • 眼免疫特権の破綻血液網膜関門(BRB)の既存破綻(糖尿病眼疾患等)がリスク因子となりうる1)
  • 原疾患:皮膚メラノーマが最多で、その他に非小細胞肺癌、ホジキンリンパ腫、腎細胞癌、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌でも報告がある。
Q どのタイプの免疫チェックポイント阻害薬が視神経症を起こしやすいのか?
A

PD-1阻害薬(ペムブロリズマブ等)が最も多く使用される薬剤で症例報告も多いが、CTLA-4阻害薬(イピリムマブ)、PD-L1阻害薬(アテゾリズマブ、デュルバルマブ)でも視神経症の報告がある。特にイピリムマブとニボルマブの併用ではirAEリスクが増加する1)

ICI関連視神経症には確立されたバイオマーカーが存在せず、現時点では除外診断となる。

視力検査、視野検査、色覚検査、瞳孔反応(RAPD確認)、眼底検査を含む完全な眼科的評価が推奨される。追加検査として以下が有用である1)

  • OCT(光干渉断層計):視神経乳頭周囲網膜神経繊維層(pRNFL)の評価。
  • 眼底写真・眼底自発蛍光(自発蛍光):視神経乳頭の形態評価。
  • 蛍光眼底造影(FA):血管充盈動態の評価。必要に応じてICGA(インドシアニングリーン造影)も行う。
  • Bスキャン超音波:後部眼球の評価。

頭部・眼窩MRI(造影+非造影)は必須である。転移性・放射線誘発性・腫瘍随伴性の視神経症を鑑別するために実施する。4例中2例で視神経の造影増強が確認されており、小血管虚血性変化の報告もある。

HLA検査・抗網膜自己抗体検査は臨床診断の補助となりうる1)

  • 転移性病変(特にメラノーマ)
  • 放射線誘発性視神経症
  • 腫瘍随伴性視神経症
  • 感染性原因(免疫抑制状態のため特に注意)
  • 血栓塞栓性イベント

米国保健福祉省の有害事象共用語基準(CTCAE)第5版の4段階グレードで重症度を評価する。グレードの判定は治療方針の決定に直接関わる(「標準的な治療法」の項参照)。

ステロイド療法(日本の標準)

Section titled “ステロイド療法(日本の標準)”

視神経症の治療の第一選択はステロイドパルスまたはハーフパルス療法である。1〜3クール施行後、ステロイド内服に切り替える。適切な治療により約70%以上が視機能の回復を得る。

グレード別管理指針(SITC推奨)

Section titled “グレード別管理指針(SITC推奨)”
グレード目安管理方針
グレード1軽微な視力低下通常ステロイド・ICI中止は不要
グレード2日常生活に影響ICI一時中断+全身性ステロイド開始を検討、改善後ICI再開を検討
グレード3著明な視力低下ICI中断を検討、4〜6週改善なければ中止を検討+全身性ステロイド
グレード4視力20/200以下通常ICI中止+全身性ステロイド投与
  • アテゾリズマブ関連:メチルプレドニゾロン静注→プレドニゾロン経口漸減、ICI中止。
  • ペムブロリズマブ関連(再発例):メチルプレドニゾロン静注+血漿交換+免疫グロブリン療法+ミコフェノール酸モフェチル→6ヶ月ステロイド漸減。
  • イピリムマブ関連(前房炎症を伴う例):プレドニゾロン点眼+アトロピン点眼でICI継続。
  • セミプリマブ関連:ICI保留、メチルプレドニゾロン静注最大1 g/日×1〜7日→数ヶ月経口漸減で有意な改善。

ICI治療の継続または中止については、眼科と腫瘍科を含む多職種チームでリスクとベネフィットを比較検討し、症例ごとに決定する。

Q ICI関連視神経症と診断された場合、ICI治療は必ず中止しなければならないのか?
A

ICI中止は必須ではなく、重症度グレードと患者の原疾患の状況に基づいて判断する。グレード1では通常ICI継続が可能で、グレード2では一時中断後の再開も検討される。ICI継続下でステロイド点眼のみで改善した例も報告されている。最終的な判断は眼科・腫瘍科を含む多職種チームで行う。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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  • CTLA-4:Tリンパ球上に存在し、B7との結合によるT細胞活性化抑制(免疫チェックポイント)を担う受容体。CTLA-4阻害薬はこの制御を解除し、T細胞を過活性化させる。
  • PD-1:Tリンパ球上の抑制性受容体。PD-L1との相互作用で末梢免疫寛容を仲介する。腫瘍はこの経路を上方制御して免疫逃避を図るが、PD-1阻害薬はこれを遮断する。
  • LAG-3:活性化CD4+/CD8+ T細胞上の共抑制受容体。MHCクラスIIに結合し、サイトカイン・グランザイム産生と増殖を抑制する。

眼は血液網膜関門(BRB)や眼リンパ管の乏しさなどの解剖学的障壁によって免疫特権(ocular immune privilege)を有している。正常BRBは末梢T細胞の硝子体・脈絡膜空間への侵入を阻止する1)RPE細胞上のCTLA-2α・PD-L1・PD-L2、網膜Müller膠細胞・ミクログリアのPD-L1発現が、T細胞を制御性T細胞(Treg)に変換してT細胞介在性炎症を最小化している1)。ICIはこれらの防御機構を標的とすることで、眼への免疫攻撃をもたらしうる。

ICI誘発性後眼部有害反応の3型分類

Section titled “ICI誘発性後眼部有害反応の3型分類”

Haliyur et al.(2025)はICI関連後眼部炎症のメカニズムを以下の3型に分類した1)

Type 1a

抗腫瘍T細胞の交差反応:メラニン含有細胞への交差反応でVKH様汎ぶどう膜炎を惹起する。

頻度:メラノーマ患者のICI関連眼有害反応の5〜14%がVKH様反応。

Type 1b

眼特異的自己ペプチドへの自己反応:素因のある個体でHLA素因(HLA-DR4等)が関与。

表現型肉芽腫性ぶどう膜炎、多巣性地図状脈絡網膜炎、Birdshot様脈絡網膜炎、MEWDS等。

Type 2

非特異的血管炎:ICIによる非特異的炎症が網膜血管炎と血管閉塞を惹起。

機序:CD4+ T細胞優位のリンパ形質細胞浸潤と細胞接着分子の上方制御。抗PD-1療法でより多い。

Type 3

自己抗体媒介性炎症:CTLA-4阻害→Treg抑制+B細胞活性化。PD-1阻害→記憶T細胞活性化→B細胞クローン拡大。

転帰:自己免疫性網膜症(AIR)、CAR、MARへの進展。

Q なぜ免疫チェックポイント阻害薬が眼に炎症を起こすのか?
A

眼は通常BRBなどによる「免疫特権」を有しているが、ICIがPD-L1などの防御機構を標的とすることで、免疫T細胞が眼内に侵入しやすくなる1)。さらに抗腫瘍T細胞の眼組織との交差反応(Type 1a)、遺伝的素因のある個体での自己抗原への反応(Type 1b)、非特異的血管炎(Type 2)、自己抗体媒介性炎症(Type 3)など複数のメカニズムが視神経を含む眼組織を障害しうる。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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リツキシマブ(CD-20モノクローナル抗体)はステロイド抵抗性irAEに対する免疫対抗策として注目されている。ステロイド抵抗性の免疫関連皮膚有害事象7例で有意な改善が報告されており、別研究でも全患者において2グレード以上のirCAE改善が示されている。また治療抵抗性の神経系irAE(自己免疫性脳症、重症筋無力症)に対しても血漿交換との併用で検討されている。ただし視神経症への直接的なエビデンスはまだなく、議論の余地がある。

Haliyur et al.(2025)はICI関連後眼部炎症の3型分類フレームワーク(「病態生理学」の項参照)により、予後予測と治療意思決定の改善が期待されると述べている1)。Type 1a/1b・Type 3ではHLAおよび抗網膜自己抗体検査が臨床診断を支持しうる。今後のメカニズム的実験室研究により、ICI中止を回避しつつ眼炎症をコントロールする標的治療戦略の開発が期待される。

現時点ではOirAEに対するバイオマーカーは存在せず、診断は除外診断に依存している。バイオマーカーの開発が今後の重要課題とされている。なお、FDA承認ICIの適応拡大に伴い、後眼部irAEの症例数増加が予測されており、長期フォローアップの必要性も示されている1)


  1. Haliyur R, Elner SG, Sassalos T, Kodati S, Johnson MW. Pathogenic mechanisms of immune checkpoint inhibitor (ICI)-associated retinal and choroidal adverse reactions. Am J Ophthalmol. 2025;272:8-18.

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