Type 1a
抗腫瘍T細胞の交差反応:メラニン含有細胞への交差反応でVKH様汎ぶどう膜炎を惹起する。
頻度:メラノーマ患者のICI関連眼有害反応の5〜14%がVKH様反応。

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、癌細胞が免疫系の攻撃を回避するために利用する「免疫チェックポイント経路」を遮断することで、患者自身の免疫系を再活性化して腫瘍を攻撃させる薬剤群である。その一方で、免疫系の過活性化により全身の正常組織が攻撃される免疫関連有害事象(irAE)を引き起こすことがあり、視神経もその標的となりうる。
ICIは作用標的に基づき4クラスに分類される。現在FDAが承認している主な薬剤は以下の通りである。
| クラス | 主な承認薬(承認年) |
|---|---|
| CTLA-4阻害薬 | イピリムマブ(2011)、トレメリムマブ(2022) |
| PD-1阻害薬 | ペムブロリズマブ(2014)、ニボルマブ(2014)、セミプリマブ(2018) |
| PD-L1阻害薬 | アテゾリズマブ(2016)、アベルマブ(2017)、デュルバルマブ(2017) |
| LAG-3阻害薬 | レラトリマブ(2022) |
ICI治療後の神経眼科的irAEの発生率は最大0.46%とされる。眼irAE全体は1〜3%であるが、そのうち後眼部炎症(視神経症を含む)は5〜20%を占める1)。視神経症はより重篤な眼irAEとして位置づけられる。
ICI開始から発症までの期間は症例や薬剤によって異なり、数週から数ヶ月の幅がある。
各薬剤で報告されている特徴的な臨床像を以下に示す。
ICIによる視神経症の直接原因は、ICIが免疫チェックポイントを解除することで意図しない自己免疫反応が惹起され、視神経が障害されることである。
PD-1阻害薬(ペムブロリズマブ等)が最も多く使用される薬剤で症例報告も多いが、CTLA-4阻害薬(イピリムマブ)、PD-L1阻害薬(アテゾリズマブ、デュルバルマブ)でも視神経症の報告がある。特にイピリムマブとニボルマブの併用ではirAEリスクが増加する1)。
ICI関連視神経症には確立されたバイオマーカーが存在せず、現時点では除外診断となる。
視力検査、視野検査、色覚検査、瞳孔反応(RAPD確認)、眼底検査を含む完全な眼科的評価が推奨される。追加検査として以下が有用である1)。
頭部・眼窩MRI(造影+非造影)は必須である。転移性・放射線誘発性・腫瘍随伴性の視神経症を鑑別するために実施する。4例中2例で視神経の造影増強が確認されており、小血管虚血性変化の報告もある。
HLA検査・抗網膜自己抗体検査は臨床診断の補助となりうる1)。
米国保健福祉省の有害事象共用語基準(CTCAE)第5版の4段階グレードで重症度を評価する。グレードの判定は治療方針の決定に直接関わる(「標準的な治療法」の項参照)。
視神経症の治療の第一選択はステロイドパルスまたはハーフパルス療法である。1〜3クール施行後、ステロイド内服に切り替える。適切な治療により約70%以上が視機能の回復を得る。
| グレード | 目安 | 管理方針 |
|---|---|---|
| グレード1 | 軽微な視力低下 | 通常ステロイド・ICI中止は不要 |
| グレード2 | 日常生活に影響 | ICI一時中断+全身性ステロイド開始を検討、改善後ICI再開を検討 |
| グレード3 | 著明な視力低下 | ICI中断を検討、4〜6週改善なければ中止を検討+全身性ステロイド |
| グレード4 | 視力20/200以下 | 通常ICI中止+全身性ステロイド投与 |
ICI治療の継続または中止については、眼科と腫瘍科を含む多職種チームでリスクとベネフィットを比較検討し、症例ごとに決定する。
ICI中止は必須ではなく、重症度グレードと患者の原疾患の状況に基づいて判断する。グレード1では通常ICI継続が可能で、グレード2では一時中断後の再開も検討される。ICI継続下でステロイド点眼のみで改善した例も報告されている。最終的な判断は眼科・腫瘍科を含む多職種チームで行う。
眼は血液網膜関門(BRB)や眼リンパ管の乏しさなどの解剖学的障壁によって免疫特権(ocular immune privilege)を有している。正常BRBは末梢T細胞の硝子体・脈絡膜空間への侵入を阻止する1)。RPE細胞上のCTLA-2α・PD-L1・PD-L2、網膜Müller膠細胞・ミクログリアのPD-L1発現が、T細胞を制御性T細胞(Treg)に変換してT細胞介在性炎症を最小化している1)。ICIはこれらの防御機構を標的とすることで、眼への免疫攻撃をもたらしうる。
Haliyur et al.(2025)はICI関連後眼部炎症のメカニズムを以下の3型に分類した1)。
Type 1a
抗腫瘍T細胞の交差反応:メラニン含有細胞への交差反応でVKH様汎ぶどう膜炎を惹起する。
頻度:メラノーマ患者のICI関連眼有害反応の5〜14%がVKH様反応。
Type 1b
眼特異的自己ペプチドへの自己反応:素因のある個体でHLA素因(HLA-DR4等)が関与。
表現型:肉芽腫性ぶどう膜炎、多巣性地図状脈絡網膜炎、Birdshot様脈絡網膜炎、MEWDS等。
Type 2
非特異的血管炎:ICIによる非特異的炎症が網膜血管炎と血管閉塞を惹起。
機序:CD4+ T細胞優位のリンパ形質細胞浸潤と細胞接着分子の上方制御。抗PD-1療法でより多い。
Type 3
自己抗体媒介性炎症:CTLA-4阻害→Treg抑制+B細胞活性化。PD-1阻害→記憶T細胞活性化→B細胞クローン拡大。
転帰:自己免疫性網膜症(AIR)、CAR、MARへの進展。
眼は通常BRBなどによる「免疫特権」を有しているが、ICIがPD-L1などの防御機構を標的とすることで、免疫T細胞が眼内に侵入しやすくなる1)。さらに抗腫瘍T細胞の眼組織との交差反応(Type 1a)、遺伝的素因のある個体での自己抗原への反応(Type 1b)、非特異的血管炎(Type 2)、自己抗体媒介性炎症(Type 3)など複数のメカニズムが視神経を含む眼組織を障害しうる。
リツキシマブ(CD-20モノクローナル抗体)はステロイド抵抗性irAEに対する免疫対抗策として注目されている。ステロイド抵抗性の免疫関連皮膚有害事象7例で有意な改善が報告されており、別研究でも全患者において2グレード以上のirCAE改善が示されている。また治療抵抗性の神経系irAE(自己免疫性脳症、重症筋無力症)に対しても血漿交換との併用で検討されている。ただし視神経症への直接的なエビデンスはまだなく、議論の余地がある。
Haliyur et al.(2025)はICI関連後眼部炎症の3型分類フレームワーク(「病態生理学」の項参照)により、予後予測と治療意思決定の改善が期待されると述べている1)。Type 1a/1b・Type 3ではHLAおよび抗網膜自己抗体検査が臨床診断を支持しうる。今後のメカニズム的実験室研究により、ICI中止を回避しつつ眼炎症をコントロールする標的治療戦略の開発が期待される。
現時点ではOirAEに対するバイオマーカーは存在せず、診断は除外診断に依存している。バイオマーカーの開発が今後の重要課題とされている。なお、FDA承認ICIの適応拡大に伴い、後眼部irAEの症例数増加が予測されており、長期フォローアップの必要性も示されている1)。