一過性黒内障
発症機序:内頸動脈系の循環閉塞に起因する。血栓塞栓症および低灌流が基礎メカニズムである。
特徴:発作性・反復性に無痛性の視力喪失が起こる。頭蓋内血管病変の重要なサインである。

もやもや病(moyamoya disease; MMD)は、両側性の内頸動脈終末部・前大脳動脈・中大脳動脈近位部が進行性に狭窄・閉塞する慢性閉塞性脳血管障害である。脳血管造影で見られる異常な側副血行路がタバコの煙(もやもや)に似ることが病名の由来となっている。
類似の血管造影所見を呈しても、ダウン症候群・鎌状赤血球症・全身性エリテマトーデス(SLE)・神経線維腫症1型(NF1)・サラセミアなどの基礎疾患を伴う場合は**もやもや症候群(moyamoya syndrome; MMS)**と区別される3)。
日本・韓国で発症率が最も高い。日本の発症率は10万人あたり0.54人であり、北米・欧州の約10倍である。米国では10万人あたり0.57人との報告がある。男女比は1:1.8で、有病率のピークは男性10代・女性20代である。家族性は日本で12.1%、北米で約4%を占める。
21トリソミー(ダウン症候群)との関連が強く、MMDの有病率は一般集団の最大26倍に達するとされる。
もやもや病は基礎疾患を伴わない両側性の内頸動脈系進行性狭窄を指す。ダウン症候群・鎌状赤血球症・SLEなど特定の基礎疾患に伴う同様の血管造影所見はもやもや症候群と呼ばれ区別される3)。治療方針や予後は基礎疾患の有無により異なることがある。
眼症状は必発ではないが、以下の症状が報告されている。
一過性黒内障
発症機序:内頸動脈系の循環閉塞に起因する。血栓塞栓症および低灌流が基礎メカニズムである。
特徴:発作性・反復性に無痛性の視力喪失が起こる。頭蓋内血管病変の重要なサインである。
網膜中央動脈閉塞症
桜実紅斑:黄斑中心部に特徴的な赤色病変が出現する。
フルオレセイン蛍光眼底造影(FFA):網膜動脈の充盈遅延を確認できる。
MMDでの特殊性:外頸動脈を介した側副血行路が発達するため網膜血管異常は稀である。閉塞は眼動脈分岐部より遠位で起こることが多い。
眼虚血症候群
発症機序:慢性の網膜・脈絡膜虚血によりVEGFが過剰産生される。虹彩・隅角に新生血管が形成される。
新生血管緑内障(NVG):隅角閉塞型の緑内障を生じる。
低眼圧傾向:毛様体低灌流による房水産生減少のため、相対的低眼圧となることがある。前部ぶどう膜炎を伴うこともある。
モーニンググローリー症候群
定義:先天性視神経奇形で、拡大した漏斗状の視神経乳頭陥凹・乳頭周囲の色素変化・中心部グリア組織を特徴とする。
MMDとの関連:異常な網膜血管走行を伴い、胎生期の血管発達異常がMMDとの関連の根底にある可能性がある。MRAによる頭蓋内血管異常の除外が必要である。
その他の所見として、Schimke免疫骨異形成症(SIOD)に伴うMMS患者では両側角膜混濁・完全失明が報告されている4)。またOCTアンギオグラフィーでは、MMD続発性シャントを有する眼で表層血管複合体(SVC)の増加が観察され、STA-MCAバイパス術後に消失することが報告されている。
MMDでは内頸動脈が閉塞しても外頸動脈を介した側副血行路が発達するため、眼動脈への血流は比較的保たれやすい。また閉塞は眼動脈分岐部より遠位で起こることが多いことも関係している。そのため網膜血管異常は他の原因によるCRAOと比べて稀とされる。
MMDの病因は大部分が不明であり、多因子疾患とされている。
VEGF・bFGF・TGF-β1が検出されており、血管内膜への平滑筋増殖を促進して狭窄を引き起こす。IFN-β・IFN-γ・TNF-α・IL-6・IL-1などの炎症性サイトカインはRNF213の転写を活性化する可能性がある2)。
以下の疾患に合併することが知られている。
| 疾患 | 備考 |
|---|---|
| 21トリソミー(ダウン症候群) | MMD有病率が一般の最大26倍 |
| 鎌状赤血球症 | MMS合併率20〜30% |
| SLE | 免疫学的背景 |
| NF1(神経線維腫症1型) | — |
| Schimke免疫骨異形成症(SIOD) | SMARCAL1遺伝子変異。両側角膜混濁・失明の報告あり4) |
| 多発性硬化症(MS) | MMAとの合併例が報告されている2) |
21トリソミーに伴う血管発達異常や免疫学的な背景との関連が示唆されているが、詳細な機序はまだ明らかではない。有病率は一般集団の最大26倍に達するという報告があり、ダウン症候群の患者に神経症状が出現した際はMMSを積極的に疑うことが重要である。
MMDの臨床診断には以下の3項目が必要とされる。
片側性は「疑い例」とされるが、数年以内に対側にも進行することが多い。日本のガイドライン改訂では片側性でもMMDと診断可能とされている。
| 検査 | 特徴 |
|---|---|
| DSA(デジタルサブトラクション血管造影) | ゴールドスタンダード。手術計画にも利用 |
| MRA | 非侵襲的。感度69.2%、特異度93.3%の報告あり3) |
| CTA | 高感度・高特異度。緊急評価時に有用3) |
| 経頭蓋ドプラ(TCD) | 診断感度は低いが特異度高く術前評価に使用3) |
| 血管壁MRI(vw-MRI) | 血管壁肥厚・造影増強を評価。血管炎との鑑別に有用2) |
OISの鑑別診断として糖尿病網膜症・網膜中心静脈閉塞症(CRVO)との区別が重要である。
根治療法は存在せず、頭蓋内狭窄を逆転させる方法はない。
虚血型MMDに対する唯一の有効手段である。手術なしでは1年間の脳卒中リスクが32%に達するのに対し、手術により1年・5年ともに5%未満に低減できると報告されている3)。診断後2か月以上の手術遅延は術前梗塞リスクを増加させ、特に6歳未満で顕著である3)。
直接バイパス術
STA-MCA吻合術:浅側頭動脈(STA)と中大脳動脈(MCA)を直接吻合する。
成人での優位性:成人では間接バイパスより優れるという報告がある3)。即効性が高く、術直後からの血流増加が期待できる。
間接バイパス術
EDAS(脳硬膜動脈接合術):STAを脳表面に接触させ血管新生を促す3)。
EMAS(脳筋動脈接合術):側頭筋を皮質表面に配置する3)。
軟膜接合術(pial synangiosis):STAを軟膜に縫合する3)。
多孔穿頭術(MBHT):両側一期的に施行可能5)。小児例で多用される。
眼虚血症候群の治療は原因疾患(頸動脈狭窄)の治療が基本であり、神経内科・脳神経外科との連携が不可欠である。新生血管緑内障が生じた場合は眼圧管理が必要となる。
基礎疾患の治療が優先される。SIODでは高血圧・脂質異常の管理と抗血小板薬が中心となる4)。
直接バイパス術(STA-MCA吻合術)と間接バイパス術(EDAS・EMAS・軟膜接合術・多孔穿頭術など)がある。直接バイパスは即効性が高く成人に優れるとされ、間接バイパスは小児に多用される3)。いずれも手術なし群と比べ脳卒中リスクを大幅に低減する。
内頸動脈遠位部の内膜への平滑筋細胞の遊走・増殖による内膜肥厚が動脈内腔を狭小化させる3)。免疫学的機序として、血管壁へのIgG・IgM・C3の沈着とマクロファージ・Tリンパ球の浸潤が確認されている2)。
遺伝的素因(RNF213変異など)に加え、感染・免疫応答・血流誘発性内皮障害(ずり応力)などの環境因子が重なることで血管症が発展するという二重打撃仮説(double hit hypothesis)が提唱されている2)。
進行性虚血に対応して脳底部にもやもや血管が発達するが、これらは脆弱であり出血リスクを内包している。成人では小児に比べ出血型が多い傾向がある。
Canaveroら(2025)はMMAとMSが合併した2症例を報告し、RNF213のオリゴデンドロサイト分化・ミエリン脱落への関与を示唆するとともに、炎症性サイトカインによるRNF213転写の相乗的活性化という共通病態機序を考察した2)。
MMD患者と対照群の網膜写真を比較し、MMDのバイオマーカーとして網膜写真を利用するディープラーニングアルゴリズムの開発が進行中である。網膜写真による非侵襲的早期スクリーニングへの応用が期待される。
MMD続発性シャントを有する眼で表層血管複合体(SVC)の増加が検出され、STA-MCAバイパス術後に消失することが報告されている。術後の脳血流評価指標としての有用性が検討されている。
Santotoら(2022)は欧州人3家族で新規ミスセンス変異(p.Phe4120Leu・p.Ser4118Cys・p.Glu4867Lys)を報告した5)。これらは肝機能障害・頭蓋外血管病変・皮膚症状を伴う症候性MMAと関連し、欧州人での表現型多様性が明らかになりつつある。
RNF213の家族性MS患者での高発現・病原性変異の報告から、炎症経路・神経血管ユニット障害の共通機序が仮説として提唱されている2)。この知見はMMAとMSの合併症例の診断・治療に新たな示唆を与えうる。