求心路障害
視交叉症候群:15%。両耳側半盲が典型的。
視力低下:16%。視神経圧迫による。
視野欠損:34%。視神経型・接合部型・視索型など多彩なパターンを呈する。

リンパ球性下垂体炎(lymphocytic hypophysitis: LH)は、下垂体および下垂体漏斗(infundibulum)を侵す原発性の自己免疫性炎症疾患である。B細胞およびT細胞の浸潤と、トルコ鞍内での占拠性効果(mass effect)により、下垂体ホルモン分泌の調節不全を生じる。
罹患部位により以下の3型に分類される。
年間発症率は約700〜900万人に1人で、下垂体手術症例の約0.4%を占める4)。女性に多く、男女比は2〜4:1とされるが、生検確定例では8.5:1との報告もある1)。診断時の平均年齢は女性34.5歳、男性44.7歳である1)。妊娠第3三半期〜産後数週間に発症のピークがあるが、非妊娠女性・閉経後女性・男性・小児でも発症する。
492例のメタ分析では、58%が頭痛・視覚障害、44%が下垂体機能低下症(ACTH低下が最多)、31%が多尿多飲、18%が高プロラクチン血症を呈した2)。
妊娠との関連は強いが必須条件ではない。非妊娠女性1)、閉経後の高齢女性3)5)、男性、小児6)7)8)でも発症が報告されている。自己免疫疾患の家族歴や本人歴がリスク因子となる。
LHの症状は、ホルモン分泌の調節不全と占拠性効果の2つの機序から生じる。
視覚障害は原発性下垂体炎患者の15〜52%に発生し、LAHで最も高頻度である。
求心路障害
視交叉症候群:15%。両耳側半盲が典型的。
視力低下:16%。視神経圧迫による。
視野欠損:34%。視神経型・接合部型・視索型など多彩なパターンを呈する。
遠心路障害
Watanabeら(2024)は、再発性LH患者で右眼痛と動眼神経麻痺(眼瞼下垂・内転制限・垂直運動制限・対光反射消失)を呈した症例を報告した3)。MRI/MRAで下垂体腫瘤が海綿静脈洞に進展し、右内頸動脈(ICA)の高度狭窄を伴っていた。静注メチルプレドニゾロン(IVMP)により眼痛と動眼神経麻痺は劇的に改善したが、ICA狭窄は不可逆的な線維化のため持続した。動眼神経麻痺とICA狭窄の合併は初報告であった。
原発性下垂体炎患者の15〜52%に視覚障害が生じる。492例のメタ分析では58%に頭痛・視覚障害が認められた2)。LAH(腺下垂体炎)でLINHや全下垂体炎より高頻度である。視力低下が16%、視野欠損が34%と報告されている。
LHの病因は完全には解明されていないが、自己免疫的な機序が広く支持されている。
続発性下垂体炎は、ヘモクロマトーシス、結核、梅毒、サルコイドーシスなどの基礎疾患を背景として発症する。免疫チェックポイント阻害薬による薬剤性下垂体炎も近年増加している。
LHの確定診断は、経蝶形骨洞到達法(trans-sphenoidal approach)で採取した下垂体生検による。組織学的にリンパ球・形質細胞・マクロファージの浸潤、ときに胚中心形成を認める1)。白血球共通抗原(LCA)陽性が確認される1)。生検を行わない場合は除外診断に基づく。
下垂体ホルモンの包括的評価が不可欠である。
MRIが中心的な画像診断法である。
Gutenbergらが開発した、下垂体腺腫とLHを鑑別するためのスコアリングシステムが有用である2)。スコア≦0でLHが示唆される。
| 項目 | LH示唆 | 腺腫示唆 |
|---|---|---|
| 年齢・性別 | 若年女性 | 高齢 |
| 妊娠との関連 | あり | なし |
| 下垂体の形態 | びまん性腫大 | 限局性腫瘤 |
近年、リンパ球性漏斗後葉下垂体炎(LINH)に対する血清バイオマーカーとして注目されている。
Gutenbergスコアリングシステム2)による臨床・画像所見の総合判定や、抗ラブフィリン3A抗体(LINHに対する感度100%・特異度97.4%)6)の測定により、非侵襲的な診断が可能になりつつある。ただし、腫瘍性疾患の除外が必要な場合には生検が不可欠である。
17研究のメタ分析では、36%がステロイド治療、34%が手術を受けていた2)。非手術的管理が推奨される第一選択である。
経蝶形骨洞手術(TSS)は、保存的療法と比較して続発性の下垂体機能不全を伴いやすく、疾患退縮の改善効果も限定的であるため、以下の場合に限り適応となる。
TSSはトルコ鞍の減圧と組織学的診断の両面で有用だが、内分泌障害の大幅な改善は期待されない。
急性期の視覚障害にはIVMPが有効な場合がある。Watanabeらの報告では、IVMP 1000 mg/日×3日で動眼神経麻痺と眼痛が劇的に改善した3)。一方、長期の圧迫や線維化による視神経障害は不可逆的となりうるため、早期治療介入が重要である。
LHの病態生理は以下のように進行する。
下垂体抗原に対して以下の非特異的抗体が報告されている。
FDG-PET による下垂体炎症の非侵襲的評価が IgG4関連疾患の特定に成功しており、HLAマーカー(DQ8 など)の臨床的意義の解明に応用されている。原発性LH患者ではDQ8が有意に上昇しており、将来的なスクリーニングへの応用が期待される。
Watanabeら(2024)は、LHの炎症性腫瘤が海綿静脈洞内に進展し、右ICAの高度狭窄を引き起こした症例を報告した3)。IVMPにより腫瘤は縮小したが、ICA狭窄は不可逆的な線維化のため持続した。LHによるICA狭窄から脳梗塞に至った症例報告が2例あり、うち1例は両側ICA閉塞でバイパス手術を要している。炎症の慢性化が血管壁の線維化・狭窄を引き起こす機序が示唆されている。
抗ラブフィリン3A(RPH3A)抗体は、LINH に対する高感度・高特異度の血清バイオマーカーとして注目されている。
| 対象 | 感度 | 特異度 |
|---|---|---|
| LINH | 100% | 97.4% |
| LPH | 80% | 97.4% |
Yamamotoら(2025)は、4歳男児で抗ラブフィリン3A抗体陽性を確認し、生検を行わずにLINHと診断した6)。デスモプレシンのみの保存的治療で5か月後にMRI上の下垂体茎肥厚が消退した。これは抗ラブフィリン3A抗体陽性の最年少症例であった。
Shojiら(2025)は、8歳男児で中枢性尿崩症発症後わずか3か月で抗ラブフィリン3A抗体陽性を検出した7)。早期診断マーカーとしての可能性を示した。ステロイド投与は行わず、9か月後のMRIで下垂体茎の腫大は縮小した。
Kumeら(2021)は、10歳男児で中枢性尿崩症発症から9年後に抗ラブフィリン3A抗体陽性を確認し、遡及的にLINHと診断した8)。プレドニゾロン1 mg/kg/日で開始し、2週ごとに0.25 mg/kgずつ減量するプロトコールで治療された。日本における小児LHの累積報告は35例であり、平均年齢7.2歳、男児57.5%、GH欠乏率76%であった。
Joshiら(2022)は、18歳女性がCOVID-19感染3週後に急性前頭部拍動性頭痛で発症した症例を報告した4)。MRIで漏斗部のびまん性肥厚(4 mm)と均一造影増強を認めたが、ホルモン全軸は正常であった。メチルプレドニゾロン250 mg IV 6時間毎×3日で頭痛は著明に改善し、Day 5のMRIで病変は完全消退した。COVID-19後LH発症の初報告として、感染後免疫介在性機序の関与が示唆されている。
Patil AA, Patil P, Walke V. Lymphocytic hypophysitis: an underrated disease. J Midlife Health. 2022;13(4):254-256.
Shen K, Cadang C, Phillips D, Babu V. Unique case of lymphocytic hypophysitis with normal pituitary hormone serology mimicking a non-functioning pituitary adenoma. BMC Endocr Disord. 2024;24(1):20.
Watanabe Y, Maruoka H, Yokote H, Uchihara T, Toru S. Recurrent lymphocytic hypophysitis presenting as internal carotid artery stenosis and oculomotor nerve palsy. Intern Med. 2024;63(11):1623-1625.
Joshi M, Gunawardena S, Goenka A, Ey E, Kumar G. Post COVID-19 lymphocytic hypophysitis: a rare presentation. Child Neurol Open. 2022;9:2329048X221103051.
Thomas J, Jain A, Chong H. Lymphocytic hypophysitis in a patient with suspected syndrome of inappropriate antidiuretic hormone secretion (SIADH). Cureus. 2022;14(10):e30178.
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Shoji Y, Naruse Y, Iwata N, Fujisawa H, Suzuki A, Sugimura Y, Mori M, Hiramoto R. Diagnosis of lymphocytic infundibuloneurohypophysitis after positive anti-rabphilin-3A antibody test in an 8-year-old boy with early-onset central diabetes insipidus. J Clin Res Pediatr Endocrinol. 2025;17(3):332-336.
Kume Y, Sakuma H, Sekine H, Sumikoshi M, Sugimura Y, Hosoya M. Lymphocytic infundibuloneurohypophysitis with positive anti-rabphilin-3A antibodies nine years post-onset of central diabetes insipidus. Clin Pediatr Endocrinol. 2021;30(1):65-69.