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神経眼科

脳震盪後症候群の神経眼科的徴候

1. 脳震盪後症候群の神経眼科的徴候とは

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脳震盪後症候群(Post-Concussion Syndrome; PCS)は、頭部外傷(Traumatic Brain Injury; TBI)に続いて生じる一連の症状・徴候の総称である。外部衝撃が脳に直接的または間接的な損傷を与えることで発症する。

疫学的には、外傷性脳損傷はあらゆる年齢層で発生する。米国では非致死的外傷性脳損傷により年間23万5,000件の入院、約110万件の救急外来受診が生じている(2018年推計)。小児では転倒が、若年成人では交通事故が最も一般的な原因である。非致死的外傷性脳損傷患者の60〜70%がPCS関連の視覚症状を訴えるとされる。

リスク因子としては、年齢(75歳以上、4歳未満、15〜24歳)、薬物乱用、認知障害・精神疾患、低い社会経済的地位、接触型スポーツへの参加が挙げられる。

Q 脳震盪後にどのくらいの割合で視覚症状が出るのか?
A

非致死的外傷性脳損傷患者の60〜70%がPCS関連の視覚症状を訴えるとされている。視覚症状は軽度外傷性脳損傷(脳震盪)でも重度外傷性脳損傷でも生じるが、その種類と重症度は外傷の程度により異なる。

PCSに伴う非特異的な自覚症状は多岐にわたる。

  • 頭痛・めまい・平衡障害:最も頻度が高い訴えの一つ。
  • 畏光(photophobia)・音過敏(phonophobia):光や音に対する過敏性を示す。
  • 睡眠障害・記憶障害・反応時間の低下・情緒の変化:認知・精神症状として現れる。

神経眼科的な自覚症状としては以下が挙げられる。

  • 霧視(blurry vision):全体的な視覚の不鮮明さ。
  • 複視(diplopia)眼球運動障害に伴う二重視。
  • 読書困難:輻輳不全・調節不全・サッケード障害の複合によって生じる。
  • 眼痛:外傷性視神経症や炎症に伴う。

頸部損傷が合併する場合は、調節障害による近見障害(受傷後2〜3か月後)、輻輳不全・軽度近視化、椎骨脳底動脈循環不全によるめまい・頭痛、眼精疲労などの症状も現れる。

外傷性脳損傷の重症度により、神経眼科的所見は大きく異なる。

重度外傷性脳損傷の所見

外傷性視神経症:同側の視力・視野障害が主訴。相対的求心性瞳孔障害(RAPD)陽性。視神経実質内の血管原性浮腫が主因。

視神経萎縮:頭蓋内圧亢進による乳頭浮腫後に続発することがある(postpapilledema optic atrophy)。

視野欠損:同名半盲(homonymous hemianopsia)・皮質視覚障害(cortical visual loss)。後頭葉障害では同名半盲以外の神経症状がないこともある。

眼球運動神経麻痺:動眼・滑車・外転神経麻痺。滑車神経麻痺では外傷性に両側性が多く、10度以上の外方回旋偏位を認める。眼振(nystagmus)も生じうる。

軽度外傷性脳損傷(脳震盪)の所見

輻輳不全(convergence insufficiency; CI):脳震盪後に最も多い視覚障害の一つ。

調節不全(accommodative insufficiency; AI):調節衰弱型・緊張型がある。恒久的障害として残る場合もある。

サッケード機能障害(saccadic dysfunction; SD):眼球運動の精度低下。

その他の機能不全:色覚・立体視・瞳孔機能(縮瞳・瞳孔散大遅延)・追従眼球運動・前庭動眼反射・読書能力の障害など多岐にわたる。

頸部損傷を合併する場合は、頸部交感神経障害によるHorner症候群(縮瞳・瞳孔散大遅延・軽度眼瞼下垂・瞼裂狭小)も認められる。

Q 脳震盪後に最も多い視覚障害は何か?
A

軽度外傷性脳損傷(脳震盪)後に最も多い視覚障害は輻輳不全(CI)、調節不全(AI)、サッケード機能障害(SD)である。これらは読書困難や霧視の原因となる。詳細は「標準的な治療法」の項でリハビリテーション法とあわせて解説する。

外傷性脳損傷の基本的な受傷機序は加減速損傷(acceleration-deceleration injury)である。頭蓋に外力が加わることで急激な速度変化が生じ、脳が頭蓋内で移動して頭蓋壁に衝突する。損傷の程度は軽度(脳震盪)から重度(びまん性軸索損傷)まで幅広い。

外傷性視神経障害の発生機序としては、前頭部・前額部(特に眉毛部)の強打による介達外力が視神経管に作用し、視神経実質内で血管原性浮腫を生じる。必ずしも視神経管骨折を伴わない点が特徴である。

神経画像では、硬膜外血腫・くも膜下出血などの頭蓋外病変や脳実質内出血が確認されることもあるが、PCSでは画像所見が正常なことも多い。

外傷性脳損傷発症のリスク因子を以下に示す。

リスク因子該当例
年齢75歳以上、4歳未満、15〜24歳
行動接触型スポーツ、薬物乱用
基礎疾患認知障害、精神疾患
社会的要因低い社会経済的地位

PCSの神経眼科的評価には、包括的な眼科的・神経学的検査が必要である。

  • 視力検査:片眼性視力障害は網膜〜視神経疾患を示唆する。視交叉より後方の障害では両眼性視力障害が生じる。
  • 色覚検査:視神経疾患では赤緑異常を呈する傾向がある。視力が保たれていても色覚異常を認めることが多い。
  • 視野検査中心暗点は乳頭黄斑束障害を示し、同名半盲は視索〜後頭葉病変を示す。視野欠損パターンから障害部位の推定が可能である。
  • 対光反射試験(swinging flashlight test):視神経障害の診断に最重要。RAPD(Marcus-Gunn瞳孔)を検出する。ペンライト程度の弱い光のほうが検出感度が高い。
  • 輻輳・開散(vergence)検査:輻輳不全の評価に必須。
  • 調節(accommodation)検査:アコモドメーターで調節障害の有無を確認する。
  • サッケードおよび追従眼球運動検査:サッケード機能障害の評価に使用する。
  • 眼位・9方向むき眼位検査外斜視内斜視・上下斜視を検出する。
  • Hess赤緑試験:複視認識時に施行し、眼球運動障害を定量化する。
  • Bielschowsky頭部傾斜試験:滑車神経麻痺の診断に有効である。

主な検査法を以下に示す。

検査法評価対象
対光反射試験(swinging flashlight test)視神経障害(RAPD)
視野検査視路病変の部位推定
輻輳・調節検査近方視機能
Hess赤緑試験眼球運動障害の定量化
Bielschowsky頭部傾斜試験滑車神経麻痺

CT/MRIによる画像診断では頭蓋内病変を検索する。頭部外傷後の骨折・出血・血腫・挫傷はCTで検索可能である。後頭葉障害では同名性視野障害やうっ血乳頭をきたし、他の脳神経症状がない場合は慢性硬膜外血腫を疑う。

鑑別診断として重症筋無力症(テンシロンテスト・日内変動)、甲状腺眼症外眼筋肥厚)、Fisher症候群(抗GQ1b抗体)などを除外する必要がある。

視覚リハビリテーションがPCS治療の柱である。外来受診と自宅訓練の組み合わせで実施し、前庭リハビリテーションなど他のリハビリと併用する。

サッケード・追従訓練

Hart Chart:文字表を用いたサッケード訓練。

母指回転法(thumb rotations):親指を一定速度で動かしながら追従させる。

回転ペグボード(rotating pegboard):回転するボードへの視線追従訓練。

Sanet Vision Integrator:電子機器を用いた視覚統合訓練。

前庭リハビリテーション

平衡感覚・頭部運動訓練:頭部の動きを伴う平衡感覚訓練を実施する。

前庭動眼反射の刺激:頭部動作と眼球運動を協調させる訓練。めまいや平衡障害の改善を目的とする。

対症療法

遮光レンズ・着色レンズ:畏光に対して処方する。

近用眼鏡処方:近見障害に対して、症状固定後に処方する。

ビタミン製剤など:頸部損傷合併例に対する対症療法として使用される。

受傷後24〜48時間以内の早期診断が予後に大きく関わる。治療法としてステロイドパルス療法(プレドニン換算1,000mg)を2〜3日間投与する、または大量ステロイド(プレドニゾロン換算80〜100mg)と高張浸透圧薬(グリセオール、D-マンニトール300〜500mL)を3〜7日間投与する方法が用いられる。

受傷後に光覚弁消失が短時間で回復しないものは治療に反応しにくい。

視神経管開放術の適応には異論が多く、視神経管の著明な変形や骨片変位がある症例を除き、手術効果は限定的との見解もある。

  • 末梢循環障害性:ビタミンB群・循環改善薬で1〜3か月での自然軽快が多い。
  • 外傷性動眼神経麻痺:回復困難な場合が多い。半年経過で改善なければ斜視手術または挙筋前転術を検討する。
  • プリズム眼鏡処方:軽度斜視例(おおよそ10プリズムまで)に有効。
  • 外眼筋手術:プリズムで改善しない場合に検討する。
Q 視覚リハビリテーションは具体的にどのような訓練を行うのか?
A

サッケード・追従運動訓練(Hart Chart・母指回転法・回転ペグボード・Sanet Vision Integrator)を外来と自宅で組み合わせて実施する。前庭リハビリテーション(平衡感覚・頭部運動を伴う訓練)との併用が基本となる。畏光には遮光レンズ、近見障害には症状固定後に近用眼鏡を処方する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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外傷性脳損傷の基本機序は加減速損傷である。頭蓋への外力が急激な速度変化を引き起こし、脳が頭蓋内を移動して頭蓋壁に衝突する。軽度(脳震盪)から重度(びまん性軸索損傷)まで連続したスペクトルをなす。

外傷性視神経障害では、眉毛外側部の強打による介達外力が視神経管部に作用する。視神経実質内(脳の白質に相当)での血管原性浮腫が主因であり、血腫や骨片による直接的な視神経線維損傷はむしろ少ない。両側性の場合は視交叉部障害を考える。

各神経の解剖学的走行が、外傷時の脆弱性に直結する。

  • 滑車神経:中脳背側から出てすぐ交叉し、長距離を走行する。外力で中脳背側部がテント縁に押し付けられると両側性の滑車神経麻痺を生じる。外傷では両側性が多く、10度以上の外方回旋偏位が特徴的である。
  • 外転神経:橋の腹側から出て蝶形骨斜台を上行し、海綿静脈洞・上眼窩裂を経て外直筋に至る。頭蓋内走行距離が長いため外傷で損傷されやすい。脳圧亢進時には両側性に障害されうる。

頸部損傷では、頸部交感神経損傷によりHorner症候群が生じる。椎骨脳底動脈循環不全によりめまい・頭痛が出現する。外傷性Horner症候群は第2ニューロン障害(頸神経根引き抜き損傷の下位型麻痺)に分類される。

視路は網膜神経節細胞から始まり、視神経(100〜120万本の神経線維)・視交叉・視索・外側膝状体視放線を経て第1次視覚野に至る。損傷部位により特徴的な視野欠損パターンを示すため、視野所見から障害部位の推定が可能である。後頭葉障害ではCT/MRIによる評価が必須であり、同名性視野障害やうっ血乳頭をきたして他の脳神経症状がない場合は慢性硬膜外血腫を疑う。

Q なぜ頭部外傷で滑車神経が損傷されやすいのか?
A

滑車神経は中脳背側から出てすぐ交叉し、頭蓋内を長距離走行するという解剖学的特徴を持つ。強い外力で中脳背側部がテント縁に押し付けられることで損傷が生じる。このため外傷性滑車神経麻痺では両側性が多く、10度以上の外方回旋偏位を認めることが特徴的である。

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