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神経眼科

モラレ髄膜炎の神経眼科的臨床像

1. モラレ髄膜炎の神経眼科的臨床像とは

Section titled “1. モラレ髄膜炎の神経眼科的臨床像とは”

モラレ髄膜炎(Mollaret meningitis; MM)は再発性良性リンパ球性髄膜炎(RBLM)とも呼ばれる無菌性髄膜炎の稀な再発型である。1944年にフランスの神経学者Pierre Mollaretが初めて報告した1)2)

有病率は約2/100,000と推定される2)。女性に多く(約70%)、平均発症年齢は35〜40歳である2)。各エピソードは通常2〜7日間持続し、自然に軽快する。再発回数は通常3〜8回で、エピソード間隔は数週間〜数年と大きく変動する。再発頻度は経年的に減少する傾向がある。

神経眼科的症状として、乳頭浮腫・瞳孔不同・視神経炎・外転神経麻痺・複視・ぶどう膜炎・眼瞼結膜炎が報告されている。これらの眼症状もエピソード間には消失する。

Q モラレ髄膜炎はどのくらいの頻度で再発するのか?
A

再発回数は通常3〜8回で、エピソード間隔は数週間〜数年と個人差が大きい。再発頻度は経年的に減少する傾向があるが、頭蓋内上皮腫が原因の場合は30回以上のエピソードを呈することもある。

  • 頭痛:突然発症の激しい頭痛が最も一般的な症状である1)
  • 発熱:急性期に認められる1)
  • 悪心・嘔吐:頭痛に伴い出現する1)
  • 羞明(まぶしさ):髄膜刺激に伴う光過敏5)
  • 全身性筋肉痛:エピソード中に生じる
  • 複視:外転神経麻痺による眼球運動障害
  • 髄膜刺激徴候:Kernig徴候陽性、Brudzinski徴候陽性4)
  • 一過性神経学的異常:約半数に認められる。言語障害・顔面麻痺・病的反射・幻覚・昏睡を含む1)
  • けいれん・意識障害:稀に出現する上位運動ニューロン障害
  • Mollaret細胞:発症24時間以内のCSFに出現する大型異型単球。二葉核(bean-shaped)・足跡状核(footprint)・偽脚・ghost cellsが特徴的1)3)
  • エピソード間の完全消失:再発エピソード間には全ての神経学的症状が消失する1)

乳頭・視神経

乳頭浮腫(papilledema):最も頻度の高い眼科的所見。頭蓋内圧亢進を反映する。

視神経炎(optic neuritis):炎症の視神経への波及による。

初圧正常の視神経乳頭浮腫:頭蓋内圧亢進を伴わない場合も報告されている。

眼球運動・その他

第VI脳神経(外転神経)麻痺(CN6 palsy):外直筋の運動ニューロン障害により外転不良・麻痺性内斜視を生じる。脳圧亢進時に両側性の軽度外転神経麻痺が生じうる。

瞳孔不同(anisocoria):自律神経系への炎症波及による。

ぶどう膜炎(uveitis)眼内炎症の波及。

眼瞼結膜炎(blepharoconjunctivitis):HSV-2の眼表面への関与。

モラレ髄膜炎の原因は多岐にわたる。主要な分類を以下に示す。

分類原因
ウイルス性HSV-2(最多)、HSV-1、水痘帯状疱疹ウイルス、EBV、エコーウイルス、コクサッキーウイルス
自己免疫・自己炎症性SLE、家族性地中海熱(FMF)、ベーチェット病サルコイドーシス
構造的・その他頭蓋内上皮腫、免疫不全(グッド症候群、IgGサブクラス2欠損症、CVID)

HSV-2はCSF PCRで大部分の症例に検出され、最も一般的な原因である1)2)5)。HSV-2は脳神経節・脊髄後根神経節に潜伏し、再活性化により髄膜炎を引き起こす可能性がある。

厳格な定義ではMM診断は非感染性(CSF PCR陰性)に限定されるが、PCRの普及によりHSV-2陽性例も包含する方向に移行しつつある1)2)。HIV患者ではHSV-2共感染率が30〜70%と高く、MMリスクが増加する4)

頭蓋内上皮腫(epidermoid cyst)からの扁平上皮成分の断続的な漏出による化学的髄膜炎も重要な原因であり、上皮腫関連では30回以上のエピソードを呈しうる1)。上皮腫は内容物漏出後に嚢胞虚脱するため、症状発現時の画像で同定が困難なことがあり、無症候期の画像評価が必要である1)

MEFV遺伝子P369S/R408Q変異を持つ症例において、菊池病(組織球性壊死性リンパ節炎)との合併例が報告されている3)

Q HSV-2に感染していなくてもモラレ髄膜炎になるのか?
A

非感染性(CSF PCR陰性)の症例も存在する。自己免疫疾患(SLE・ベーチェット病・FMF)、頭蓋内上皮腫、薬剤(NSAID誘発性過敏反応)、免疫不全状態など多様な原因が報告されている1)

  • CSF PCR:HSV-2 DNAの検出がゴールドスタンダードである5)
  • CSF細胞学的分析:発症最初の24時間に好中球・単球を伴うリンパ球性細胞数増多とMollaret細胞が出現する1)4)。24時間以降はリンパ球優位の細胞数増多に移行する1)
  • CSF一般検査:WBC 50〜500/mm³(リンパ球優位)、蛋白30〜150 mg/dL(軽度上昇)、糖は正常〜軽度低下4)
  • 偏光顕微鏡検査:上皮腫からの嚢胞漏出の証拠の検出に有用
  • CT/MRI:他疾患除外、頭蓋内上皮腫の同定(無症候期に評価が必要)1)

Mollaret細胞は病理学的確定診断ではないが診断を強く支持する。脆弱で溶解しやすいため、発症早期の腰椎穿刺が重要である1)。なお、サルコイドーシス・ベーチェット病・水痘帯状疱疹ウイルス・WNVでも類似細胞が報告されており、特異度は限定的である1)

Bruyn診断基準(1962年)とGaldi修正基準を以下に示す1)

項目Bruyn基準(1962年)Galdi修正基準
発熱必須必須でない
髄膜刺激症状の再発必須必須
CSF細胞数増多必須必須
無症状期間数週間〜数ヵ月数日〜数年に拡大
後遺症なしなし
神経学的異常記載なし約半数に一過性
原因微生物同定されないPCR普及で修正中
  • ウイルス性:エンテロウイルス、HIV、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス、ムンプス
  • 細菌性・スピロヘータ:細菌性髄膜炎、結核性髄膜炎、梅毒、ライム病
  • 真菌性:クリプトコッカス、カンジダ、コクシジオイデス
  • 寄生虫性:広東住血線虫、エキノコックス、トキソプラズマ
  • その他:悪性腫瘍(軟髄膜転移)、薬剤誘発性無菌性髄膜炎(DIAM)、HaNDL症候群

HIV患者ではCD4 <350の場合、クリプトコッカス等の日和見感染を優先的に除外する必要がある4)

Q モラレ髄膜炎の診断にはどの検査が最も重要か?
A

CSF PCRがゴールドスタンダードであり、HSV-2 DNAを検出することで診断が確定する5)。発症24時間以内の腰椎穿刺でMollaret細胞を検出することも診断を強く支持する。再発性の無菌性髄膜炎ではCSF PCRを必ず施行すべきである。

支持療法のみでも自然軽快するが、経験的抗ウイルス療法が広く行われる1)

  • アシクロビル(acyclovir)10 mg/kg 点滴静注 8時間ごと 7〜14日間:急性期の標準的治療2)5)。投与により72時間以内の症状改善が報告されている2)
  • 退院時の経口切替:バラシクロビル(valacyclovir)1000 mg 1日3回 14日間5)
  • HSV-1脳炎との鑑別がつかない場合は、CSF PCR結果判明まで経験的投与を考慮する
  • 非感染性MMの既往が明確な場合、経験的抗ウイルス療法を保留することも選択肢となる1)

なお、デキサメタゾン単回投与が重度髄膜炎症状に対して診断確定前に使用された症例報告がある5)。NSAIDsによる急性期症状改善の報告もある3)

確立した予防法はない。バラシクロビルによる予防投与が検討されるが、Aurelius et al.(2012)のRCT(バラシクロビル500 mg 1日2回 vs プラセボ、1年投与+1年追跡)では、バラシクロビル群のMM再発リスクがむしろ有意に高く、予防効果は証明されなかった2)

コルヒチンによる再発抑制の有効例も報告されているが、一般的に確立された予防法ではない(「最新の研究と今後の展望」の項参照)。

乳頭浮腫

アセタゾラミド:内科的管理の第一選択。最大許容量まで投与する。

視神経鞘切開術(optic nerve sheath fenestration):薬物治療で管理困難な場合の外科的選択肢。

CSF短絡術(脳室腹腔シャント等):頭蓋内圧亢進が持続する場合に検討する。

外転神経麻痺

急性期治療への反応:外転神経麻痺はエピソード間に消失することが多い。

経過観察:脳圧亢進に伴う両側性軽度外転神経麻痺は原疾患の治療で改善が期待される。

プリズム眼鏡:複視が遷延する場合の対症療法として検討する。

Q モラレ髄膜炎の再発を予防する方法はあるか?
A

予防的抗ウイルス療法(バラシクロビル)が検討されるが、Aurelius et al.(2012)のRCTでは有効性は証明されていない2)。コルヒチンの有効例も報告されているが確立されていない。再発頻度は経年的に減少する傾向がある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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モラレ髄膜炎の病態生理は未確定であるが、複数の仮説が提唱されている。

HSV-2の潜伏感染と再活性化:主要機序と考えられている。HSV-2は脳神経節・脊髄後根神経節に潜伏し、再活性化時にCSFを介して髄膜に到達し、リンパ球性炎症反応を惹起する。

Toll-like receptor 3(TLR3)欠損仮説:Willmann et al.は、先天性免疫のウイルス応答に関与するTLR3の欠損がHSV-2関連MMの素因となる可能性を提唱した1)

サイトカイン仮説:CSF中のIL-6・TNF-α上昇が報告されており、潜伏ウイルス感染による過剰なサイトカイン放出が示唆される1)

NLRP3インフラマソーム経路:コルヒチンはNLRP3を抑制し、IL-1β・IL-6・IL-18の分泌を減少させる。菊池病合併MMでのコルヒチン有効性を説明しうる機序と考えられる3)

MEFV遺伝子変異:P369S/R408Q変異が家族性地中海熱(FMF)の非典型的臨床像と関連し、菊池病・MMとの関連が示唆されている3)。CSFオリゴクローナルバンド陽性の症例報告が免疫学的機序を支持する3)

頭蓋内上皮腫仮説:嚢胞から断続的に漏出する扁平上皮成分に対する免疫反応が髄膜炎エピソードを引き起こす。エピソード後の画像では嚢胞が虚脱しているため検出困難なことがあり、無症候期のCT・MRIによる評価が必要である1)

EBV関連仮説:原発性EBV感染後の潜伏CNS感染の再活性化が関与する可能性が提唱されている1)

また、脳幹部(中脳・橋・延髄)の炎症性病変による多彩な眼球運動障害が生じうる。中脳背側症候群(Parinaud症候群)では上方注視麻痺・輻湊麻痺・対光-近見反応解離・輻湊後退眼振・眼瞼後退(Collier徴候)が認められ、中脳水道閉塞ではうっ血乳頭を合併しうる。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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Handa et al.(2024)は、MEFV遺伝子P369S/R408Q変異を持つ41歳日本人女性(21年間の再発性MM+菊池病合併例)においてコルヒチンを試みた3)。0.5 mg/日から開始し1.0 mg/日で再発を認めたため1.5 mg/日に増量した結果、1年半の再発抑制が得られた。プレドニゾロン15〜20 mg/日は効果不十分であった。コルヒチンのNLRP3インフラマソーム抑制作用(IL-1β・IL-6・IL-18の産生抑制)による機序が考えられる。

本症例は特定の遺伝子的背景を持つ例であり、一般的なMMへの適用は確立されていない。

Aurelius et al.(2012)のRCTでは、バラシクロビル500 mg 1日2回 vs プラセボを1年間投与し1年間追跡したが、バラシクロビル群のMM再発リスクは有意に高く、予防効果は証明されなかった2)。HSV-2関連MMに対する長期予防療法の確立が今後の課題である。

HIV感染者のHSV-2共感染率は一般集団の約3倍と報告されており、MM症例数の増加が懸念される4)。CD4リンパ球数が500を超える場合は非日和見感染を考慮し、適切なHSV-2治療を行うことが重要である4)

Haider et al.(2025)は数年間にわたり誤診が続いた症例を報告し、再発性の経過による不安・抑うつのQOL低下と精神科リエゾンの重要性を指摘した5)。CSF PCRの普及による早期診断と不必要な広域抗菌薬回避が重要な課題として強調されている。


  1. Sehgal A, Pokhrel E, Castro WR, Haas CJ. Mollaret’s Meningitis: A Rare Entity. Cureus. 2021;13(5):e15264.
  2. Grinney M, Mohseni MM. Recurrent benign lymphocytic (Mollaret’s) meningitis due to herpes simplex virus type 2. Proc (Bayl Univ Med Cent). 2022;35(6):820-821.
  3. Handa H, Sugiyama A, Kubosawa H, et al. A patient with P369S/R408Q variants in the MEFV gene presented with clinical features of Kikuchi disease and Mollaret meningitis, successfully treated with colchicine. BMC Neurology. 2024;24:446.
  4. Beavers C, Tuck N, Muraga R. Recurrent Aseptic (Mollaret’s) Meningitis in a Patient with HIV. Kansas J Med. 2023;16:19-20.
  5. Haider A, Rizwan H, Ahamed F, et al. Recurrent HSV-2 Meningitis: A Case of Mollaret’s Meningitis Misdiagnosed for Years. Cureus. 2025;17(8):e91154.

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