外転神経(VI)麻痺
最多の脳神経麻痺:48例研究で46%(片側29%、両側6%)、63例研究で56%に認められる。
臨床像:患側への外転障害、内斜視、水平複視。
63例研究の内訳:左外転神経麻痺単独24%、両側外転神経麻痺10%、右外転神経麻痺5%。

脊索腫(chordoma)は、脊索(notochord)の遺残組織から発生する稀な低悪性度の骨の悪性腫瘍である。1857年にRudolf Virchowが斜台の腫瘍として初めて記載した2)。
全骨悪性腫瘍の1〜4%を占め、年間罹患率は10万人あたり0.088人と推定される。発生率は国・人種によって0.18〜0.84/100万人/年と幅がある3)。診断時年齢の中央値は58.5歳で、75〜84歳で最高頻度を示す。
発生部位は仙骨50%、頭蓋底30%、脊椎20%に分布する4)。頭蓋底脊索腫は椎骨脊索腫に比べ若年で診断される傾向があり、頭蓋底の92%は斜台に発生する。斜台脊索腫は海綿静脈洞や上眼窩裂方向に進展することで、外転神経麻痺をはじめとした脳神経麻痺を引き起こし、神経眼科学的症状を呈する。
組織分類はWHO分類に基づき、conventional型(約95%)、chondroid型(5〜15%)、dedifferentiated型、poorly differentiated型の4型がある2)。
生存期間中央値は6.29〜7.7年で3)、5年生存率は50〜70%、10年生存率は約40%、20年生存率は13.1%と長期予後は不良である。
以下に主な疫学データをまとめる。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 全骨悪性腫瘍に占める割合 | 1〜4% |
| 年間罹患率 | 0.088/10万人 |
| 診断時年齢中央値 | 58.5歳 |
| 5年生存率 | 50〜70% |
| 10年生存率 | 約40% |
| 生存期間中央値 | 6.29〜7.7年 |
全骨悪性腫瘍の1〜4%を占め、年間罹患率は10万人あたり0.088人と推定される。生存期間中央値は6.29〜7.7年であり3)、長期経過観察が必要な疾患である。
頭蓋底脊索腫の自覚症状は、腫瘍が圧迫する脳神経の種類と増殖方向によって多様である。
外転神経(第VI脳神経)麻痺が最も多い臨床所見である。外転神経は橋から出て蝶形骨斜台を長く上行し、錐体蝶形骨靱帯を経て海綿静脈洞に入り、上眼窩裂を通って外直筋に至る。この斜台上行路が長いため、斜台部腫瘍による圧迫を受けやすい解剖学的特徴を持つ。外転神経麻痺の原因として腫瘍は約26%を占める。
外転神経(VI)麻痺
最多の脳神経麻痺:48例研究で46%(片側29%、両側6%)、63例研究で56%に認められる。
臨床像:患側への外転障害、内斜視、水平複視。
63例研究の内訳:左外転神経麻痺単独24%、両側外転神経麻痺10%、右外転神経麻痺5%。
動眼・滑車神経(III・IV)麻痺
動眼神経(III)麻痺:48例研究で6%、63例研究で22%。眼瞼下垂・瞳孔散大・眼球運動障害を呈する。
滑車神経(IV)麻痺:48例研究で2%、63例研究で8%。垂直複視・頭部傾斜(head tilt)が特徴的。
III・IV・VI全障害:2〜3%。眼窩先端部症候群・海綿静脈洞症候群に相当し、全眼球運動障害に三叉神経第一枝障害・視神経障害を合併する。
その他の神経眼科学的所見として以下が認められる。
外転神経麻痺の診断には、内斜視の確認、外転運動の制限(カバーテスト・Hessチャート)が基本となる。頭部CT・MRIで脳幹・脳底部・海綿静脈洞・眼窩領域の病変を検索する。
複視が初発症状として最も多く(54〜70%)、外転神経麻痺が最多の臨床所見(46〜56%)である。外転神経は斜台を上行する解剖学的特徴から斜台脊索腫による圧迫を受けやすく、内斜視・水平複視を呈する。
脊索腫は、椎体や軸骨格に残存する未分化な脊索細胞(脊索遺残)から発生する。
頭部CT・MRIによる画像評価が基本となる。
確定診断には生検が必要である。
脊索腫と軟骨肉腫の鑑別は特に重要である。両者は発生部位・免疫組織化学プロファイルで区別する。
| 項目 | 脊索腫 | 軟骨肉腫 |
|---|---|---|
| 発生部位 | 正中線(斜台) | 側頭骨由来 |
| brachyury | 陽性 | 陰性 |
| S-100 | 陽性 | 陽性 |
その他の鑑別疾患として以下が挙げられる。
免疫組織化学検査でbrachyury陽性は脊索腫に特異的であり、軟骨肉腫との最も重要な鑑別点となる2)。また脊索腫は正中線上(斜台)に発生するのに対し、軟骨肉腫は側頭骨由来であることが多い。両者ともS-100陽性を示す点に注意が必要である。
外科的切除が治療の主軸となる。
外科的切除後、または切除不能例に使用する。
脊索腫は化学療法抵抗性の腫瘍であり、通常は感受性が低い。Phase II試験でnitrocamptothecinの奏効は15例中1例のみであった1)。主な治療は外科的切除と放射線療法の組み合わせである。
脊索腫の原因治療が第一優先だが、麻痺が残存する場合は以下の眼科的対症療法を行う。
脊索腫は化学療法抵抗性の腫瘍であり、通常の化学療法への感受性は低い1)。標準治療は外科的切除と放射線療法(プロトンビーム療法を含む)の併用である。研究段階の分子標的薬については「最新の研究と今後の展望」の項を参照。
脊索腫は脊索遺残から発生する。脊索細胞は大きな細胞内空胞を有し、コラーゲン・ラミニン・プロテオグリカンに富む脊索鞘に囲まれる2)。
組織型ごとの特徴は以下の通りである。
免疫組織化学プロファイルはbrachyury・cytokeratin・EMA・S-100の陽性を示す。放射線療法後にはS-100・brachyury発現の消失が生じることがある2)。
brachyury(T遺伝子産物)は脊索の発達に関与する転写因子である。T遺伝子の重複が家族性脊索腫のメカニズムの一つであり、散発例でも過剰発現が認められる。
brachyuryの過剰発現は上皮間葉転換(EMT)を促進し、腫瘍細胞の運動性・浸潤性・薬剤耐性を高める2)。PTEN・CDKN2A(p16)の同時消失はKi-67上昇・転移リスク増加・生存期間短縮と関連する2)。
斜台脊索腫が増殖すると、海綿静脈洞・上眼窩裂方向へ進展し脳神経を圧迫する。外転神経は橋の核(第四脳室底に突出)から起始し、蝶形骨斜台を長く上行して錐体蝶形骨靱帯の下を通り、海綿静脈洞外側壁を走行して上眼窩裂を通過し外直筋に至る。この長い斜台上行路が斜台部腫瘍からの圧迫を受けやすい解剖学的特徴であり、外転神経麻痺が最多の脳神経障害となる理由である。
腫瘍が視神経を圧迫すると、乳頭腫脹・蒼白化・RAPD・視力低下・視野異常を引き起こす。頭蓋内圧亢進による両眼性うっ血乳頭も認められる。
承認された分子標的薬は現時点で存在しない1)。以下は研究・使用段階の治療選択肢である。
Apps J, et al.(2023)は、200例以上でimatinib(PDGFR阻害薬)が使用されたが奏効率は低く、PDGFR発現との関連の可能性を報告した1)。imatinib + everolimus併用は43例の進行性脊索腫で奏効率20.9%(Choi基準)を示し、mTOR経路の活性化との関連が示唆された1)。
Silva Junior LFM, et al.(2025)は、35歳女性の斜台脊索腫がCOVID-19感染後に98.9%縮小した症例を報告した3)。腫瘍浸潤T細胞(CD3+)・マクロファージ(CD68+)の存在とNK細胞(CD56)の不在を確認し、SARS-CoV-2による交差反応性T細胞の活性化を介した抗腫瘍免疫応答の可能性を示唆した3)。過去4例の自然退縮(E. coli感染後の完全退縮、M. marinum感染後の33%縮小など)も報告されている3)。
Apps J, et al.(2023)は、結節性硬化症を合併した乳児巨大斜台脊索腫の13年間の経過を報告した1)。imatinib + sirolimus、everolimus、ifosfamide・doxorubicin、carboplatin・etoposide含有レジメン、外科的切除、54Gy光子線放射線療法を経たが、13歳3か月で死亡した。小児脊索腫における分子標的治療・化学療法の限定的効果を示す症例として報告されている1)。