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神経眼科

接合部暗点およびトラクエア接合部暗点

1. 接合部暗点およびトラクエア接合部暗点とは

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接合部暗点(junctional scotoma; JS)は、視神経と視交叉の接合部における病変から生じる視野欠損である。病変同側の中心暗点と、対側眼の耳側上分画視野欠損(垂直正中線を尊重)が古典的パターンとされる。眼科学では「連合暗点」とも呼ばれ、視神経・視交叉接合部の圧迫病変でみられる。

トラクエア接合部暗点(junctional scotoma of Traquair; JST)は、同一の接合部病変において、病変同側眼の単眼性耳側(または稀に鼻側)半盲性視野欠損を呈するものを指す。スコットランドの眼科医Traquairが前部視交叉圧迫における単眼性耳側暗点を記述したことに由来する。

「完全接合部暗点(complete junctional scotoma)」は、対側の上下両方の耳側視野が欠損した状態であり、対側鼻側線維の上下両方が障害される場合に生じる。転移性腫瘍などの急速進行例でみられうる1)

1904年、ドイツの眼科医Herman Wilbrandは、鼻側の交叉線維が対側視神経内に弧状に迂回する構造(Wilbrand膝)を報告した。この解剖学的構造が接合部暗点の機序として長く説明に用いられてきた。しかし1997年にHortonが霊長類を用いた実験でWilbrand膝が単眼摘出のアーチファクトであることを示し、2014年にShinらがDTIで正常人にその存在を報告するとHorton(2020)が再度アーチファクトであると反論した。Wilbrand膝の存在は現在も未決着であるが、臨床的に接合部暗点は依然として観察され、その解剖学的基盤は議論中である3)

視交叉圧迫53例の後ろ向き研究では、視野欠損パターンとして両耳側半盲が26%、接合部暗点が34%、単眼性視野欠損が7%であったと報告されている3)

Q 接合部暗点とトラクエア接合部暗点はどう違うのか?
A

JSは病変側の中心暗点に加えて対側眼の耳側上分画視野欠損を伴う2眼性の視野異常である。JSTは病変側眼の単眼性耳側(または鼻側)半盲性視野欠損であり、対側眼の視野は保たれる。同一の視神経・視交叉接合部の病変から生じるが、障害される線維の種類と範囲によってパターンが異なる。

  • 病変側の視力低下:圧迫性病変では徐々に進行することが多い。急速な視力低下は腫瘍の急速増大や血管性病変の警告サインとなりうる。
  • 視野欠損の自覚が乏しい場合がある:JSの場合、対側眼の耳側上分画欠損は患者が気づかないことが多く、主訴として申告されないことがある。
  • 視力が保たれていても暗点は存在しうる:パラガングリオーマ転移例では視力20/25で中心暗点が存在した2)。髄膜腫例では視力20/20にもかかわらず接合部暗点が存在し、軽度の霧視のみが主訴であった3)
  • 頭痛・内分泌異常:下垂体腺腫などに合併する場合がある。
  • 急速進行例:転移性腫瘍では右眼の視力喪失から3日後に対側の耳側視野欠損が出現した症例がある1)

接合部暗点(JS)

病変側の所見RAPD陽性・視神経萎縮・中心暗点。

対側眼の所見:耳側上分画視野欠損(垂直正中線を尊重)。完全型では上下耳側全体の欠損。

帯状視神経萎縮(band atrophy):鼻側線維の障害により対側眼に出現しうる。

トラクエア接合部暗点(JST)

病変側の所見:RAPD陽性・単眼性耳側(または稀に鼻側)半盲性視野欠損。

帯状視神経萎縮:耳側半盲型では病変側眼に出現しうる。

砂時計型萎縮(hourglass atrophy):JSTの鼻側半盲型(稀)で耳側線維の萎縮により病変側に出現。

その他の共通臨床所見として以下が挙げられる。

  • 視神経乳頭のカッピング:圧迫性視神経症でも生じ、緑内障と誤診されうる。非グリア腫性視神経萎縮の44%が緑内障と誤診されるとの報告がある3)
  • OCT所見:耳側のRNFL菲薄化・神経節細胞複合体(GCC)の低下が典型的。黄斑部GCC解析での鼻側-耳側非対称性の喪失が視交叉圧迫の早期徴候として注目される3)
  • 黄斑部神経節細胞層の解析:術後の視力回復を予測できる可能性がある。
Q 視力が正常でも接合部暗点は起こりうるのか?
A

起こりうる。パラガングリオーマ転移例で視力20/25、髄膜腫例で視力20/20にもかかわらず接合部暗点またはトラクエア接合部暗点が存在した症例が報告されている2,3)。視力が保たれているからといって視野欠損を除外してはならず、正式な自動視野検査が必須である。

接合部暗点の最も一般的な原因は下垂体腺腫であり、次いで頭蓋底の腫瘍・血管性病変・炎症性疾患が続く。

  • 下垂体腺腫:最も頻度が高い。原発性脳腫瘍の約18%を占め、ホルモン非産生腺腫が最多(約半数)、プロラクチン産生腺腫が約1/4、成長ホルモン産生腺腫が約1/5。下方から上方へ視交叉を圧排し、下鼻側網膜神経線維が障害されやすい。
  • 鞍結節部髄膜腫・蝶形骨縁髄膜腫:下垂体腺腫と異なり、片側の中心暗点や接合部暗点を呈しやすい。視神経管に浸潤した場合は視機能回復が困難。
  • 頭蓋咽頭腫:視交叉を圧迫する腫瘍性病変。癒着が強く、摘出が困難な場合がある。
  • 転移性腫瘍:悪性黒色腫1)やパラガングリオーマ2)など、稀な原因として報告されている。
  • 内頸動脈または前交通動脈の動脈瘤:急速進行する接合部暗点は、動脈瘤や下垂体卒中などの血管性病変の警告サインとなりうる。
  • 視交叉部視神経炎(chiasmal optic neuritis)多発性硬化症に合併することが多い。前部視交叉の障害で接合部暗点を呈する。
  • 外傷性視交叉症候群:前額部外傷後に生じる。頭部外傷の0.3%と稀である。
  • その他:脱髄(MS・NMOSDMOG抗体関連疾患)、感染性(梅毒・結核)、炎症性(サルコイドーシス・肉芽腫性疾患・血管炎)、浸潤性(リンパ増殖性疾患)。
Q 接合部暗点の最も一般的な原因は何か?
A

下垂体腺腫が最も一般的な原因である。視交叉の直下から上方に向かって圧迫するため、下鼻側の網膜神経線維が障害されやすく、上方に強い両耳側半盲や接合部暗点を来す。ただし接合部暗点は必ずしも下垂体腺腫のみに起因するものではなく、髄膜腫・動脈瘤・視神経炎など多様な原因が存在する。

接合部暗点の診断には、自動視野検査・OCT・画像診断(MRI)の組み合わせが不可欠である。

以下に主要な検査法の位置づけを示す。

検査主な役割特記事項
自動視野計(HFA 24-2/30-2)視野欠損の正確な検出対座法では見逃しリスクあり
OCT(RNFL・GCC解析)神経萎縮の評価・早期検出視野欠損出現前に異常検出可
造影MRI圧迫性病変の描出冠状断・矢状断も必須

正式な自動視野計(ハンフリー視野計24-2または30-2)が接合部視野欠損の正確な診断に必須である。対座法のみでは接合部暗点を見逃す危険がある。垂直正中線を尊重する視野欠損パターンは、緑内障の視野欠損と鑑別するうえで重要な手がかりとなる。

  • 網膜神経線維層(RNFL)解析:耳側の網膜神経線維層菲薄化は緑内障には典型的でなく、代替原因を疑うべき指標となる3)
  • 黄斑部網膜神経節細胞複合体(GCC)解析:鼻側-耳側非対称性の喪失が視交叉圧迫の早期徴候となりうる。視野欠損が出現する前でも異常が検出されうる。
  • 帯状萎縮・砂時計型萎縮の同定:鼻側線維または耳側線維の選択的障害パターンを視覚化できる。
  • 術後視力回復の予測:黄斑部神経節細胞層の解析が有用であり、手術後の最終視機能を予測できる可能性がある。
  • 造影MRI:視交叉を中心とした高解像度造影MRIが第一選択。水平断に加え冠状断・矢状断も施行する。下垂体腺腫はT1強調像で脳実質と等信号となる場合があるため、造影MRIを必ず施行する。
  • CT:外傷例での骨折評価(前頭部・前頭蓋底・蝶形骨など)や急性期の初期評価に有用。
  • 脳血管造影:血管性病因(動脈瘤等)が疑われる場合に追加する。

NTGとの鑑別が特に重要である。以下の所見が圧迫性病変を示唆する。

  • 垂直正中線を尊重する視野欠損
  • RAPD陽性
  • 色覚異常
  • 視神経乳頭の蒼白(カッピングの程度と比べて蒼白が強い場合:disc/field mismatch)
  • 耳側のRNFL菲薄化が目立つ
  • ステロイドを含む各種治療に抵抗する

造影後に視神経・視交叉の増強効果がみられる場合は、感染性(梅毒・結核)、炎症性(サルコイドーシス・血管炎)、浸潤性(リンパ増殖性疾患)、脱髄性(MS・NMOSD・MOG抗体関連)も鑑別に挙げる。その場合は血清学的検査・脳脊髄液検査も考慮する。

Q 接合部暗点が正常眼圧緑内障と誤診されることはあるか?
A

ある。NTG患者の最大8%に前部視路の圧迫性病変が存在するとの報告がある3)。視神経乳頭のカッピングは圧迫性視神経症でも生じ、非グリア腫性視神経萎縮の44%が緑内障と誤診される。RAPD・色覚異常・disc/field mismatch・耳側RNFL菲薄化がある場合は圧迫性病変を積極的に疑い、神経画像検査を行うべきである。

治療は基礎疾患を標的とする。早期の治療介入が視機能の回復に重要であり、視神経萎縮が明らかになってからでは回復が困難となる。

  • 下垂体腺腫:基本術式はHardy手術(経蝶形骨洞的腫瘍摘出術)。近年は内視鏡を用いた手術も実施されている。プロラクチノーマに対してはブロモクリプチン・カベルゴリンなどドパミンアゴニストによる内服療法が第一選択となる。
  • 頭蓋咽頭腫:外科的全摘出が原則。周囲との癒着が強いため摘出が困難な場合がある。下垂体腺腫に比べて視機能の回復が悪いことが多い。
  • 鞍結節部・蝶形骨縁髄膜腫:外科的腫瘍摘出が基本。視神経管への浸潤がある場合は視機能回復が困難である。
  • その他の脳腫瘍:手術に加えて放射線療法も施行される。転移性腫瘍では定位放射線療法・全身化学療法・免疫療法が考慮される(転移性メラノーマ例ではニボルマブ+レラトリマブ+テモゾロミドが施行された1)。転移性パラガングリオーマ例では緩和的放射線療法30 Gyが施行された2))。
  • 視交叉部視神経炎(炎症性):副腎皮質ステロイドが第一選択。ステロイドパルス療法(大量メチルプレドニゾロン点滴静注)が用いられる。アクアポリン4抗体陽性でステロイド無効例には血漿交換を考慮する。
  • 感染性病変:原因に応じた抗菌薬治療を行う。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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視交叉は横径12〜18mm、前後径8mm、高さ4mmの構造物で、トルコ鞍と下垂体の上に位置する。前方でクモ膜下腔の脳脊髄液と接し、後方は第三脳室底を形成する。両外側には内頸動脈より分岐した眼動脈が伴走する。

視神経線維の交叉比率は、鼻側半網膜由来の線維が53%、耳側半網膜由来の線維(非交叉)が47%である。

視神経・視交叉接合部に病変が生じると、同側視神経を障害して中心暗点を引き起こすとともに、対側から交叉してくる鼻側下部網膜線維(前部視交叉を通過する)を同時に侵すことで対眼の耳側上分画視野欠損が生じる。対側の上下両方の鼻側線維が障害されると完全接合部暗点となる1)

トラクエア接合部暗点では、障害される線維の種類によって、病変側眼の耳側線維が損傷される場合は耳側半盲(より一般的)、鼻側線維が損傷される場合は鼻側半盲(稀)を呈する。

圧迫の方向によって視野欠損パターンが異なる。

  • 腹側からの圧迫(下垂体腺腫など):下鼻側網膜神経線維が優先的に障害され、上方に強い両耳側半盲や古典的接合部暗点を呈する。
  • 背側からの圧迫:耳側下分画を含む接合部暗点に関連する。
  • 下垂体腺腫による圧迫機序:腫瘍が下方から上方へ視交叉を圧排する。左右差のある不完全な両耳側半盲を呈することが多い。

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

視野欠損パターンによる局在・原因診断

Section titled “視野欠損パターンによる局在・原因診断”

Barton & Ozturan(2025)は17症例の接合部暗点を後ろ向きに分析し、視野欠損パターンが解剖学的局在だけでなく基礎疾患の種類の特定にも役立つ可能性を報告した。古典的JSは腹側からの圧迫性病態と関連し、耳側下分画を含むJSは背側圧迫または非圧迫性病因との関連が示唆された。JSTの鼻側視野欠損パターンは下垂体腺腫との関連は稀であることも示された。

OCTによる早期検出・術後予後予測

Section titled “OCTによる早期検出・術後予後予測”

GCC(神経節細胞複合体)解析の発展により、視野欠損が出現する前の段階から視交叉圧迫を検出できる可能性が示されている。黄斑部GCC解析における鼻側-耳側非対称性の喪失が非常に早期の徴候として注目され、術後視力回復の予測ツールとしての応用も研究されている3)

NTG全例への神経画像検査の議論

Section titled “NTG全例への神経画像検査の議論”

NTG全例に神経画像検査を実施することの費用対効果については議論があるが、NTG患者の最大8%に前部視路の圧迫性病変が存在するという事実は、少なくとも視野欠損パターンが非典型例や耳側RNFL菲薄化が目立つ症例では神経画像を積極的に行うべきことを示唆している3)


  1. Boguslavskiy R, Tharp M, Gan W, et al. Complete junctional scotoma secondary to metastatic melanoma: a rapidly progressive presentation. Cureus. 2025;17(11):e97757.
  2. Khodeiry MM, Lind JT, Pasol J, et al. Metastatic paraganglioma presenting as a junctional scotoma. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;25:101253.
  3. Pellegrini F, Cuna A, Cirone D, et al. Clinical reasoning: Wilbrand’s knee, scotoma of Traquair, and normal tension glaucoma. Case Rep Neurol. 2022;14:341-347.

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