上肢の所見
指屈筋・手関節屈筋の筋力低下:早期から認められる特徴的な所見。三角筋より優位に侵されることが多い。
指屈筋・手関節屈筋の萎縮:筋力低下と並行して生じる。
握力低下:瓶の蓋が開けられない、鍵が回せないなど日常動作に影響する。

孤発性封入体筋炎(sporadic inclusion body myositis; sIBM)は、50歳以上の成人に発症する緩徐進行性の後天性炎症性筋疾患である。50歳以上における最も一般的な炎症性筋疾患とされる5)。
有病率は100万人あたり4.9〜10.7人と推定されており、誤診率が高く診断確定まで平均5.2年を要する。有病率のプール解析では100万人あたり46人との報告もある5)。発症は60歳未満が18〜20%であり、男女比は約3:1で男性に多い。日本国内における患者数は1,000〜1,500人と推定される4)。
病因は未解明であり、免疫抑制療法に対して抵抗性を示す点が本疾患の大きな特徴である。HLA-DRB1*03:01やHLA-B*08:01との遺伝的関連が報告されている。
50歳以上の成人に多く、男女比は約3:1で男性優位である。有病率は100万人あたり4.9〜10.7人とされ、50歳以上の炎症性筋疾患の中では最も頻度が高い5)。
非対称性かつ遠位筋優位の筋力低下が特徴的である。潜行性の発症が多く、診断時には既に数年の経過を有することが多い。
上肢の所見
指屈筋・手関節屈筋の筋力低下:早期から認められる特徴的な所見。三角筋より優位に侵されることが多い。
指屈筋・手関節屈筋の萎縮:筋力低下と並行して生じる。
握力低下:瓶の蓋が開けられない、鍵が回せないなど日常動作に影響する。
眼科的所見
眼輪筋の筋力低下:兎眼(ラグオフタルモス)の原因となる。通常は軽度にとどまる。
眼瞼下垂:軽度の眼瞼下垂が報告されている。
ドライアイ:兎眼に伴う角膜露出により生じうる。
網膜血管炎:IBMに合併した両側閉塞性網膜血管炎の初報告例がある1)。
下肢では大腿四頭筋の筋力低下と萎縮が優位に認められ、股関節屈筋より早期に侵される。
眼輪筋の筋力低下による兎眼や軽度の眼瞼下垂が報告されている。ドライアイを続発することもある。稀に網膜血管炎(両側閉塞性)の合併例も報告されており1)、眼科的な定期評価が推奨される。
根本的な病因は不明である。自己免疫機序、炎症、変性、ウイルス感染、プリオン様機序など複数の病因が示唆されている。
主なリスク要因・関連因子は以下の通りである。
病理学的機序としては、炎症性・変性的の二重機序が並行して進行すると考えられている5)。CD8陽性T細胞とマクロファージによる筋内膜浸潤と、TDP-43の筋核からの消失・細胞質凝集がともに認められる。
診断の遅れが多く、平均5.2年を要するとされる。多発性筋炎や筋萎縮性側索硬化症(ALS)との鑑別が重要である。
筋生検の20〜30%では縁取り空胞が認められず、3主要所見(endomysial inflammation、rimmed vacuoles、mononuclear invasion)がそろうのは43%に過ぎない2)。TDP-43やp62の免疫染色、ミトコンドリアDNA解析の追加が推奨される2)。
主要な診断基準の性能比較を示す。
| 診断基準 | 感度 | 特異度 |
|---|---|---|
| ENMC 2013 probable | 84% | ≧97% |
| Griggs基準 | 〜60% | 高い |
Griggs基準の要件:罹病期間6か月超、発症年齢30歳超、指屈筋・大腿四頭筋の筋力低下、CK値が正常上限の12倍未満5)。
主な鑑別疾患は以下の通り。
嚥下造影(VF)における輪状咽頭バー(cricopharyngeal bar; CPB)所見はIBMに対して特異度96%と高い4)。
IBMは従来の免疫抑制療法に対して抵抗性を示す。IFN-β-1aやメトトレキサートはIBM進行に影響を与えないという中程度の質のエビデンスがある。抗Tリンパ球免疫グロブリン+メトトレキサート併用で一部有望な結果が報告されているが、確立された標準薬物療法はない。
嚥下障害はIBMの重要な合併症であり、適切な管理が生命予後にも影響する。嚥下障害を伴うIM患者の1年死亡率は31%と報告されている6)。
各治療法の特性を以下に示す。
| 治療法 | 効果の持続 | 備考 |
|---|---|---|
| 食事形態調整・言語療法 | 継続 | 第一選択の保存的治療 |
| ボツリヌス毒素注射 | 1年未満 | 反復投与が必要 |
| バルーン拡張 | 短期〜中期 | 改善率33%未満 |
| 輪状咽頭筋切開術(CPM) | 長期 | 約60%の患者が改善 |
Ramirez Ramirezら(2023)は輪状咽頭筋機能障害を呈した57歳女性IBM患者に内視鏡的輪状咽頭筋切開術を施行し、術後2年間誤嚥なく経過したことを報告した3)。IBM患者の嚥下障害発生率は33〜50%とされる。
有酸素運動や低負荷レジスタンス運動が治療の重要な側面を担う。
D’Altonら(2022)は進行期IBM患者(71歳男性)に対する16週間の監督下レジスタンストレーニングの安全性と有効性を報告した7)。CK値は188→181 IU/Lと安定しており、筋力の維持効果が確認された。主観的な疲労感の改善、睡眠の質の向上、バランス改善も認められた。
食事形態の調整や言語療法から始まり、ボツリヌス毒素注射(効果は1年未満)、バルーン拡張(改善率33%未満)、輪状咽頭筋切開術(約60%の患者に改善)まで段階的に選択する3)。裂孔ヘルニアを合併する場合は手術禁忌となる。
進行期であっても監督下レジスタンストレーニングは安全であり、筋力の維持効果が確認されている7)。CK値の上昇は認められておらず、筋損傷の懸念なく実施できる。主観的疲労感の改善や睡眠の質向上も報告されている。
IBMの病態は炎症性機序と変性的機序が並行して進行する点に特徴がある5)。
Law ら(2021)は77歳男性のIBM患者の筋生検でTDP-43とC5b-9が共存することを報告した5)。C5b-9とTDP-43の同時染色は炎症性・変性的二重機序の並行を示すものであり、段階的治療戦略の開発に寄与する可能性があると論じた。
咽頭収縮筋と輪状咽頭筋の慢性炎症が線維化・肥厚を引き起こし、上部食道括約筋(UES)の開放不全をもたらす4)。組織学的には萎縮性線維、免疫細胞浸潤、筋内膜線維化、脂肪置換が認められる。
高度に分化したサイトトキシックT細胞(highly differentiated cytotoxic T cells)の関与が示唆されている。これらはメモリーT細胞・エフェクターT細胞として機能し、現在の免疫抑制療法が標的にできない集団である。
II型アクチビン受容体に対するモノクローナル抗体。
臨床試験では8週間後に大腿筋容積の増加が確認されたが、52週時点での6分間歩行距離は対照群と有意差がなかった。筋量の増加が機能的な歩行能力の改善に直結しない可能性が示された。
Stenzelらおよびauthors(2023)は筋生検RNA解析によりIBMに高感度・高特異度の診断が可能であると報告した2)。cadherin 1の過剰発現や、TDP-43機能喪失によるミススプライシングの検出が有望なバイオマーカーとして挙げられている。
Shigeyamaら(2023)は湾曲硬性喉頭鏡を用いた新手法による内視鏡的CPMをsIBM患者4例に施行し、平均手術時間104分で全例において嚥下機能の改善・維持を確認した4)。Hyodoスコア6以上が手術適応の指標として提案されている。