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神経眼科

ハーレクイン症候群

ハーレクイン症候群(Harlequin syndrome)は、交感神経系の片側性機能障害により生じる自律神経症候群である。 病変側の顔面・上体の無汗症・血管収縮(蒼白)と、対側の代償性発汗・紅潮を特徴とする。

1988年にLanceおよびDrummondらにより初めて報告された1)。 名称の由来は、16世紀イタリアの仮面劇(コンメディア・デッラルテ)の登場人物「ハーレクイン」の赤と黒に二分された仮面である6)。 なお、ハーレクイン型魚鱗癬(重症の遺伝性皮膚疾患)とは全く異なる疾患である6)

「ハーレクイン徴候(Harlequin sign)」は顔面の非対称的な紅潮・発汗という身体所見そのものを指し、「ハーレクイン症候群」は特発性・先天性を含むより広い臨床的文脈で用いられる概念である6)

文献上約100例が報告されており1) 4)、Guillotonらの108例レビューによれば特発性が54.6%、二次性・医原性が45.4%を占める4) 6)。 先天性は全症例の約6%とされる6)。 女性・30代に最も多く1)、小児報告例は37例に止まる1)。 新生児では視床下部の機能的未熟性を原因として比較的高頻度に認められる2)

Q ハーレクイン症候群とハーレクイン型魚鱗癬は同じ病気か?
A

まったく別の疾患である。ハーレクイン症候群は交感神経系の機能不全による自律神経疾患であり、ハーレクイン型魚鱗癬は重症の遺伝性皮膚疾患である。疾患名が似ているだけで病態・症状・治療はまったく異なる6)

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Markus Miedl, Philipp Baumgartner, Leah Raffaela Disse et al. Harlequin syndrome in a patient with probable hemicrania continua and exertional headache – is there a link? a case report. BMC Neurology. 2024 Jul 17; 24:247. Figure 1. PMCID: PMC11253322. License: CC BY.
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症状は間欠的に出現し、誘因なしに安静時に生じることもある。

  • 片側性顔面紅潮・発汗:間欠的に生じる。紅潮が認められる側は病変の対側(健側)である1)
  • 誘発因子:運動・感情的興奮・暑熱により症状が誘発される1) 2) 3)
  • ホルネル症候群合併時の自覚症状眼瞼下垂・縮瞳(瞳孔の左右差)を自覚することがある。
  • 社会的影響:症状が周囲の目に触れやすく、精神的負担・社会的困惑をもたらすことがある1) 4)
  • 患側(交感神経障害側):顔面の無汗症・血管収縮(蒼白化)。
  • 健側(非障害側):代償性の血管拡張・発汗亢進による紅潮・多汗1) 6)
  • 左右の境界:正中線で明瞭に分かれる6)
  • 分布範囲:顔面にとどまらず、頸部・胸部・上肢に及ぶ場合がある1) 2)。新生児では半身全体に及ぶことがある2)
  • ホルネル症候群の合併:眼瞼下垂・縮瞳・無汗症。文献では最大46%に合併が認められた。V1/V2領域の紅潮と対側の部分的眼瞼下垂・縮瞳を合併した症例が報告されている6)

発症機序は節前または節後レベルでの交感神経支配の遮断である。 障害側の交感神経機能が失われる一方、健側が代償的に過活動となり非対称な所見が生じる。 片頭痛三叉神経自律神経性頭痛との関連も報告されている1) 3)

特発性(54.6%)

特発性:原因不明で最多の病型4) 6)。良性で自然軽快傾向あり。

先天性:全体の約6%。新生児では視床下部未熟性が関与2) 6)

二次性(45.4%)

圧迫性病変:Pancoast腫瘍、縦隔腫瘍、甲状腺腫(62×52×32 mmの多結節性甲状腺腫による報告あり)、頸動脈解離1) 3) 6)

医原性:交感神経切除術後、麻酔手技後(ESPブロック等)、カテーテル留置後1) 5)

全身疾患:ギラン・バレー症候群、糖尿病性ニューロパチー、多発性硬化症、脳幹梗塞、脊髄空洞症1) 2) 3)

Q 麻酔後に片側の顔が赤くなったが、ハーレクイン症候群か?
A

麻酔の傍椎体腔への拡散により交感神経が一時的に遮断され、ハーレクイン様所見を呈することがある。リポソーマルブピバカインを用いたT2レベルの傍脊椎ブロック後に遅発性(5時間後)に生じた報告もある5)。この医原性の場合は通常6〜12時間で自然消失する5)

診断は主として特徴的な臨床所見に基づく臨床診断である6)

  • 運動負荷・加温試験:運動や加温によって症状を誘発し所見を確認する6)
  • ヨード・デンプン(Minor)試験:発汗分布の可視化に有用。
  • レーザードップラー血流計・額温度測定:左右の血流・温度の非対称性を定量的に評価する。
  • 瞳孔検査(ホルネル評価):アプラクロニジン点眼は感度88〜100%とされる。

二次性を除外するための画像検査が重要である。

  • MRI(頸椎〜胸部T2レベル):交感神経経路に沿った病変を探索1) 2)
  • 頸動脈超音波・磁気共鳴血管造影(MRA):頸動脈解離や血管病変の評価1)

以下の疾患との鑑別が必要である。

疾患鑑別ポイント
ロス症候群広範な無汗・深部腱反射消失・アディー瞳孔の三徴
ホルネル症候群縮瞳・眼瞼下垂・無汗症のみ。代償性健側紅潮なし
ホームズ・エイディー症候群瞳孔異常・深部腱反射消失が主体

治療方針は原因により異なる。

二次性の場合は原因疾患の治療が最優先である6)。 特発性は良性・自己限定性であり、多くはカウンセリングと経過観察のみで対応する2) 3)

対症療法(症状が社会生活に影響する場合)

Section titled “対症療法(症状が社会生活に影響する場合)”

薬物療法

プロプラノロールβ遮断薬。発汗・紅潮の抑制に使用される3)

オキシブチニン:抗コリン薬。多汗症への効果が期待される3)

手技・手術療法

ボツリヌス毒素注射:代償性多汗部位への局所投与1)

星状神経節ブロック:交感神経遮断による症状緩和1) 3)

VATS交感神経切除術:43歳女性で術直後に症状が完全消失し、4ヶ月後も再発なしの報告あり4)

  • 医原性(局所麻酔関連):経過観察のみ。6〜12時間で自然消退する5)
  • 圧迫性病変(甲状腺腫等):外科的除去後も症状が持続しうる3)
Q ハーレクイン症候群は治療が必要か?
A

特発性の場合は良性かつ自然軽快傾向があり、必ずしも治療を要しない2) 3)。社会的・心理的苦痛が著しい場合のみ、ボツリヌス毒素注射・星状神経節ブロック・交感神経切除術などを検討する。二次性の場合は原因疾患の治療が優先される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

ハーレクイン症候群の基盤は顔面・体幹の交感神経支配の3ニューロン経路の障害にある3)

  • 第一次ニューロン(中枢性):視床下部から脳幹を経て脊髄中間外側柱(C8〜T3)へ至る。
  • 第二次ニューロン(節前性):眼交感神経はT1、顔面発汗・血管運動線維はT2〜T3から起始し、上頸神経節へ向かう。
  • 第三次ニューロン(節後性):外頸動脈叢を介して顔面大部分を、内頸動脈叢を介して前額部内側を支配する。頬部の支配は個人差が大きい3)

病変が交感神経経路のどのレベルに生じるかにより、ホルネル症候群の合併有無が変化する3) 6)

障害部位ホルネル合併臨床的特徴
T1〜T3(眼交感+発汗血管運動)障害ありハーレクイン症候群+ホルネル症候群
T2〜T3のみの障害なしハーレクイン症候群単独
上頸神経節以降の節後性障害あり(前額内側無汗)顔面他部位は温存されうる

障害側の交感神経が遮断されると、健側の交感神経活動が相対的に亢進し、代償性の紅潮・多汗が生じる1) 6)。 正中線を境とした非対称所見はこの機序による。副交感神経による再支配の可能性も一部で示唆されている3)

Q なぜ片側だけ赤くなるのか?
A

障害側の交感神経機能が失われることで、その側の血管拡張抑制・発汗抑制が解除される。一方、障害されていない健側は相対的に交感神経活動が亢進し、代償性の紅潮・多汗が生じる1) 6)。正中線での明瞭な左右差はこの非対称な交感神経活動を反映している。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Tecikら(2025)は、5年間持続した特発性ハーレクイン症候群(43歳女性)に対してVATS(胸腔鏡下)交感神経切除術を施行し、術直後に症状が完全消失、4ヶ月後の時点でも再発を認めなかったことを報告した4)。Guillotonらのレビューでは54.6%が特発性であり4) 6)、外科的治療の適応候補群の存在を示唆している。

医原性ハーレクイン症候群の遅発性発症

Section titled “医原性ハーレクイン症候群の遅発性発症”

Dalldorfら(2022)は、T2レベルの脊柱起立筋面ブロック(ESPブロック:リポソーマルブピバカイン133 mg+0.25%ブピバカイン各側20 mL)後に5時間の遅延をもってハーレクイン症候群が発症した初症例を報告した5)。通常1時間以内に生じるとされる局所麻酔関連の医原性ハーレクイン症候群が遅発性に出現した初報告であり、徐放性製剤(持続時間約72時間)特有の発症様式と考えられている。症状は翌朝までに自然消退した。

Strongら(2025)は、62×52×32 mmの多結節性甲状腺腫による二次性ハーレクイン症候群(49歳女性)に対して甲状腺全摘術を施行したが、術後約1年後も症状が持続したことを報告した3)。圧迫性病変の除去後も交感神経路の慢性的変化が不可逆となりうることを示す知見として注目される。


  1. Korbi M, Boumaiza S, Achour A, Belhadjali H, Zili J. Harlequin syndrome: An asymmetric face. Clin Case Rep. 2022;10:e05833.
  2. Sousa Dias M, Meneses M, Barroca Macedo R, Soares S. Harlequin syndrome in children: secondary until proven otherwise. BMJ Case Rep. 2023;16:e257719.
  3. Strong A, Tu J, Kyi S, Wijeratne T. Harlequin Syndrome Caused by Multinodular Goitre. Cureus. 2025;17(3):e81298.
  4. Tecik Z, Turker S, Caliskan E, Gençö O, Işık H, Yurekli A. Unmasking the Harlequin syndrome: A clinical transformation. JAAD Case Rep. 2025;63:17-18.
  5. Dalldorf DA, Hart A, Grant SA, Teeter EG. Harlequin Syndrome Following Regional Liposomal Bupivacaine Use in a Partial Sternectomy. Cureus. 2022;14(8):e28005.
  6. Li Y, Moon DJ, Linden KG. Harlequin sign associated with Horner syndrome secondary to an 11 cm left upper lung lobe adenocarcinoma. JAAD Case Rep. 2024;43:83-86.

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