前眼部・眼表面

多発血管炎性肉芽腫症(GPA)
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. 多発血管炎性肉芽腫症(GPA)とは
Section titled “1. 多発血管炎性肉芽腫症(GPA)とは”多発血管炎性肉芽腫症(Granulomatosis with Polyangiitis; GPA)は、ANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎の一つである。気道の壊死性肉芽腫、全身の小血管の壊死性血管炎、巣状壊死性糸球体腎炎を3徴とする。旧称はウェゲナー肉芽腫症(Wegener Granulomatosis)。1931年にKlingerが初報し、1936年にWegenerが正式に記載した。
ANCA関連血管炎には多発血管炎性肉芽腫症・顕微鏡的多発血管炎(MPA)・好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の3疾患が含まれ、多発血管炎性肉芽腫症が最も一般的である。多発血管炎性肉芽腫症はさらに腎病変を伴わない限局型と、腎病変を伴う全身型に分類される。女性は限局型を発症しやすい。
疫学的には年間発症率は100万人あたり約8〜10例、有病率は10万人あたり約3例である。好発年齢は30〜50歳代で、男女差はなく、白人に多い傾向がある。眼病変は患者の50%以上に認められ、15%では眼症状が初発となる。
免疫抑制療法の導入前は中央生存期間5か月・1年死亡率80%以上であった。現在の標準治療導入後は5年生存率95%、10年生存率80%にまで改善している。1) 主な死因は呼吸器感染や敗血症である。
多発血管炎性肉芽腫症の有病率は10万人あたり約3例、年間発症率は100万人あたり約8〜10例であり、稀な疾患に分類される。30〜50歳代に好発し、白人に多い傾向がある。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
全身の初発症状として発熱・倦怠感・体重減少・筋肉痛が生じることが多い。眼症状としては眼痛・複視・視力低下・視野欠損・充血が挙げられる。鼻炎・鼻出血・鞍鼻変形・難聴・血痰・息切れ・関節痛・神経障害などの全身症状を伴うことが多い。
臨床所見(眼科的所見)
Section titled “臨床所見(眼科的所見)”眼窩・視神経・後眼部
眼窩病変:眼球突出が最も一般的な症状である。複視・腫脹・流涙を伴う。眼球突出症例の20〜50%で重度の視力喪失を来す。視神経の巻き込みにより動脈炎性虚血性視神経症(AION)を発症することがある。
視神経症:圧迫性視神経症(眼窩肉芽腫による)または虚血性視神経症として現れる。
網膜・脈絡膜病変:5〜12%に発生する。綿花状白斑・網膜内出血・網膜血管閉塞・硝子体出血・新生血管緑内障が生じうる。
ぶどう膜炎:稀(約3%)。
眼瞼病変:「イエローリッドサイン」(黄色腫様の変色)は多発血管炎性肉芽腫症に特徴的な所見である。
臨床所見(全身所見)
Section titled “臨床所見(全身所見)”- 上気道:最大85%に認められ、81%で耳鼻咽喉科的所見が初発となる。治療抵抗性慢性副鼻腔炎・鞍鼻変形(鼻中隔・軟骨破壊)が特徴的。
- 肺:ほとんどの患者が最終的に発症。結節・空洞・浸潤影を呈する。
- 腎臓:75%に糸球体腎炎が発生。77%が2年以内に糸球体疾患を発症する。
- 筋骨格系:約60%に関節痛・疲労感を認める。
- 中枢神経系:神経症状は20〜50%に出現し、CNS直接関与は約10%に認められる。2)
強膜炎が最も一般的な眼症状であり、約50%の患者に発生する。眼窩病変では眼球突出が最も多く認められる。眼球突出を伴う症例の20〜50%で重度の視力喪失を来しうる。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”多発血管炎性肉芽腫症の原因は不明であり、自己免疫性疾患と考えられている。PR3-ANCA(c-ANCA)およびMPO-ANCA(p-ANCA)に対する自己抗体の産生が発症の中心的役割を担う。気道の細菌感染をきっかけに発症するとの報告があり、黄色ブドウ球菌による分子模倣がPR3-ANCAの発生につながると考えられている。
環境要因として埃・シリカへの曝露・喫煙・化学物質への暴露が関連するとされ、寒冷な気候においてより一般的である。薬剤(ヒドララジン・フェニトイン・スルファサラジン・抗甲状腺薬・アロプリノールなど)との関連も報告されている。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”ANCA検査
Section titled “ANCA検査”多発血管炎性肉芽腫症の診断においてANCA検査は中心的な役割を担う。
| 検査 | 特徴 |
|---|---|
| c-ANCA(PR3-ANCA) | 活動性多発血管炎性肉芽腫症患者の90%で陽性。限局型では40%が陰性の可能性 |
| PR3-ANCA定量 | 疾患活動性と相関。80%で陽性 |
| c-ANCAのメタ解析 | 統合感度66%、特異度98%(別のメタ解析では感度91%、特異度99%)1) |
参考検査所見として白血球増多・CRP上昇・BUN上昇・血清クレアチニン上昇が認められる。
主要な分類基準を以下に示す。
- ACR 1990年分類基準:鼻・口腔の炎症、胸部X線異常、尿沈渣異常、生検での肉芽腫性炎症の4基準中2つ以上で感度88%・特異度92%。
- ACR/EULAR 2022年分類基準:9項目スケールを用い、5点以上で多発血管炎性肉芽腫症に分類する。
- 日本の診断基準:主要症状(上気道・肺・腎・血管炎症状)・主要組織所見・主要検査所見(PR3-ANCA陽性)を組み合わせて診断する。
- 肺生検:実質壊死(好中球性微小膿瘍)と肉芽腫性炎症が特徴的。
- 腎生検:免疫グロブリン沈着を伴わない(ポージ免疫性)半月体形成を伴う巣状分節性壊死性糸球体腎炎。
- 眼窩生検:脂肪壊死・脂質貪食マクロファージ・巨細胞を認めるが、明らかな壊死性血管炎を欠く場合があり診断が困難なことがある。眼科領域の組織検査で適切な病理組織像を検出するのはしばしば難しい。
- 胸部CT:結節・腫瘤(40〜70%)、空洞形成(2cm超の結節の22%)、スリガラス様陰影。
- フルオロデオキシグルコース(FDG)ポジトロン断層撮影(PET)/CT:活動性病変の検出・悪性腫瘍や感染症との鑑別に有用。感度90%・特異度81%。
- 眼窩MRI:眼窩病変の評価に用いる。
サルコイドーシス・他の血管炎症候群・IgG4関連疾患・悪性リンパ腫・感染症との鑑別が重要である。
陰性であっても多発血管炎性肉芽腫症を除外できない。限局型多発血管炎性肉芽腫症ではc-ANCAが陰性となる割合が約40%に達する。ANCAが陰性の場合でも、臨床症状・画像所見・生検所見を総合して診断する必要がある。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”寛解導入療法
Section titled “寛解導入療法”日本の診療指針では、副腎皮質ステロイドとシクロホスファミド(CYC)の併用が標準的な寛解導入療法である。副腎皮質ステロイド単独では不十分なことが多く、CYCがしばしば用いられる。アザチオプリン・メトトレキサートも使用される。
リツキシマブ
Section titled “リツキシマブ”抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブは、CYCと同等の治療効果を示したとの報告がある。本邦では初発例を含む疾患活動性が高い患者、および既存治療で十分な効果が得られない患者に使用される。米国ではFDA承認済みである。1) CNS関与を伴う多発血管炎性肉芽腫症においてCYC無効後にリツキシマブ375mg/m²/週×4回、その後500mg/6か月投与により症状が改善した症例報告がある。2)
以下に主な治療薬の位置づけを示す。
| 薬剤 | 主な用途 | 備考 |
|---|---|---|
| 副腎皮質ステロイド+CYC | 標準寛解導入 | 第一選択の組み合わせ |
| リツキシマブ | 高活動性・既存治療無効例 | CYCと同等効果の報告あり |
| アザチオプリン・MTX | 寛解維持 | 補助免疫抑制薬 |
重度の疼痛や眼球突出を伴う眼窩病変には、眼窩減圧術が検討される。
多発血管炎性肉芽腫症は寛解・再燃を繰り返す経過が典型的である。全身症状が寛解しても、眼の後遺症(視神経症・壊死性強膜炎・角膜辺縁潰瘍)が残る場合がある。定期的な眼科的評価が重要である。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”多発血管炎性肉芽腫症の発症には好中球の異常な活性化と自己抗体産生が中心的役割を果たす。PR3-ANCAおよびMPO-ANCAに対する自己抗体の産生が鍵となり、CD4+ T細胞によるIL-17・IL-23の産生が臓器損傷(特に腎臓)に寄与する。黄色ブドウ球菌の分子模倣がPR3-ANCA産生を促し、B細胞・T細胞のスーパー抗原刺激が加わると考えられている。
病理学的には血管炎・肉芽腫性炎症(巨細胞±)・組織壊死の3徴が特徴的である。好中球性微小膿瘍から肉芽腫が形成され、最終的に壊死へと進行する。肉芽腫は結核・サルコイドーシスと異なり境界が不明瞭で、リンパ球・形質細胞・樹状細胞に囲まれた巨細胞が認められる。
組織学的特徴として好中球浸潤を伴う壊死性肉芽腫性病変がみられ、肉芽腫性病変・壊死病変・血管炎病変が混在する。腎病変は免疫グロブリン沈着を伴わない壊死性半月体形成腎炎(ポージ免疫型)として現れる。
7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”放射線治療(標準治療抵抗例)
Section titled “放射線治療(標準治療抵抗例)”Wei ら(2021)は、ステロイド+CYC治療に抵抗した眼瞼多発血管炎性肉芽腫症の1症例に対し、9MeV電子線30Gy/15分割の放射線治療を施行し完全奏功を得たことを報告した。1) 放射線治療は多発血管炎性肉芽腫症の標準治療ではないが、少数例の報告において良好な効果と低い副作用が示されている。
インフリキシマブ
Section titled “インフリキシマブ”腫瘍壊死因子α(TNF-α)阻害薬であるインフリキシマブについて、壊死性強膜炎を伴う多発血管炎性肉芽腫症症例での改善報告があるが、現時点では臨床研究段階にある。
COVID-19感染と多発血管炎性肉芽腫症発症の関連
Section titled “COVID-19感染と多発血管炎性肉芽腫症発症の関連”COVID-19感染後に多発血管炎性肉芽腫症が新規発症した症例が複数報告されており、13症例のレビューが公表されている。SARS-CoV-2感染によりANCA陽性率が上昇(一般集団での陽性率0.9%に対し、COVID-19患者で有意に高い)することが報告されている。発症機序として、SARS-CoV-2感染による炎症メディエーターの上昇が好中球プライミングとANCA誘導性脱顆粒を促進する可能性が示唆されているが、機序は完全には解明されていない。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Wei J, Zhao Q, Yao M, et al. Radiotherapy of granulomatosis with polyangiitis occurring in the eyelid: a case report and literature review. Medicine. 2021;100(3):e22794.
- Li Z, Zhang Q, Wang X, Shi F. Granulomatosis with polyangiitis presenting headache: A case report and review of literature. Medicine. 2024;103(2):e36972.