初期
神経線維層の不鮮明化:境界のぼけが初発所見。乳頭境界が不明瞭になる。
乳頭充血(hyperemia):毛細血管拡張による発赤。乳頭面上の血管が不鮮明となる。
静脈拍動の消失:正常者の約90%で認める静脈拍動が消失。頭蓋内圧亢進を示唆する。

視神経乳頭浮腫(optic disc edema)は、視神経乳頭の腫脹と軸索周囲の液体増加を指す包括的な用語である。「うっ血乳頭(papilledema)」は頭蓋内圧亢進に特異的な病態を指し、より狭義の用語として用いられる。臨床の場では「乳頭腫脹」「乳頭炎」「チョークド・ディスク」など複数の用語が混在するが、本稿では「視神経乳頭浮腫」を最も広義の包括的用語として使用する。
片側性乳頭浮腫が一般的だが、両側性の乳頭浮腫も生じうる。両側性の場合は頭蓋内圧亢進や全身疾患との関連が強く、緊急性の高い評価が求められる。
特発性頭蓋内圧亢進症は両側視神経乳頭浮腫の最多原因である。米国における年間発症率は1.15/100,000であり、女性1.97 vs 男性0.36/100,000と女性に著しく多い。18–44歳での発症率が最も高く(2.47/100,000)、米国女性(18–55歳)の有病率は3.44/10,000に達する。人種別では黒人(2.05/100,000)、白人(1.04)、ヒスパニック(0.67)、アジア/太平洋諸島民(0.16)の順であり、肥満有病率との地理的相関が報告されている。
同義ではない。「視神経乳頭浮腫」は乳頭腫脹全般を指す包括的用語であり、原因を問わない。一方「うっ血乳頭(papilledema)」は頭蓋内圧亢進による乳頭浮腫に限定された用語である。したがって乳頭炎や虚血性視神経症による乳頭腫脹は「乳頭浮腫」であっても「うっ血乳頭」とは呼ばない。
両側視神経乳頭浮腫の自覚症状は、原因疾患や病期によって大きく異なる。
眼底検査における乳頭浮腫の所見は病期によって変化する。
初期
神経線維層の不鮮明化:境界のぼけが初発所見。乳頭境界が不明瞭になる。
乳頭充血(hyperemia):毛細血管拡張による発赤。乳頭面上の血管が不鮮明となる。
静脈拍動の消失:正常者の約90%で認める静脈拍動が消失。頭蓋内圧亢進を示唆する。
中等度~高度
乳頭周囲出血・軟性白斑:炎症波及・軸索虚血を示す。
硬性白斑・網膜下液:慢性化・高度例に認める。
網膜静脈拡張:髄液圧上昇に伴う静脈還流障害を反映する。
慢性期・終末期
網膜脈絡膜静脈側副路(optociliary shunt vessel):慢性圧迫に伴う代償性側副血行路。
網膜条紋・脈絡膜皺襞:視神経鞘内圧の慢性的な上昇による変化。
二次的萎縮・グリオーシス:終末期。不可逆的な視力障害につながる。
その他の重要な眼所見として、うっ血乳頭では視力が保たれることがある一方、乳頭炎では急性の視力低下が生じる。視野検査では周辺部神経線維層関連欠損とMariotte盲点拡大が特徴的である。中毒性・栄養性の視神経症では中心暗点・中心傍暗点が優位となる。両側外転神経麻痺は、頭蓋内圧亢進の非局在性徴候として合併しやすく、小児では内斜視として発見されることが多い。
うっ血乳頭(頭蓋内圧亢進による乳頭浮腫)では、初期には視力が正常に保たれることがある。一方、視神経炎による乳頭浮腫(乳頭炎)では急性の視力低下が生じやすい。視力の保持・低下の有無は鑑別診断において重要な手がかりとなる。
両側視神経乳頭浮腫の原因は多岐にわたる。迅速な原因同定が視機能予後に直結する。
主要な病因カテゴリーとその代表疾患を以下に示す。
| 病因カテゴリー | 代表疾患・病態 |
|---|---|
| 頭蓋内圧亢進 | IIH、脳腫瘍、脳静脈洞血栓症(CVST)、水頭症 |
| 炎症性・脱髄性 | 視神経炎、NMO、MOG抗体関連疾患、神経サルコイドーシス、巨細胞性動脈炎 |
| 感染性 | ライム病、猫ひっかき病、梅毒、ウイルス感染 |
| 中毒性・代謝性 | 特定薬剤(抗菌薬、免疫調節薬、化学療法剤)、重度貧血 |
| 高血圧緊急症 | 悪性高血圧 |
| その他 | CSFシャント不全、IVIG投与後、遺伝性・ミトコンドリア疾患 |
各カテゴリーの主要な情報を以下に示す。
うっ血乳頭(頭蓋内圧亢進による乳頭浮腫)患者の87%にIIHが認められる。IIHは特に肥満女性・生殖可能年齢に多く、米国での年間発症率は1.15/100,000である。ただし脳腫瘍・CVST・炎症性疾患など致命的な原因もあるため、必ず画像診断と腰椎穿刺で原因を同定する必要がある。
両側視神経乳頭浮腫の診断は、眼科的評価・画像診断・腰椎穿刺・血液検査を組み合わせて行う。原因不明の両側乳頭浮腫には緊急評価が求められる。
画像診断で占拠性病変・水頭症を除外した後に実施する。髄液開放圧(opening pressure)の測定と髄液性状(細胞数・蛋白・糖)の確認が必要である。確定診断に脳脊髄圧測定は必須である。
IIH確定診断のFriedman基準(2013年改訂)を以下に示す2)。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 1. 乳頭所見 | うっ血乳頭の存在 |
| 2. 神経学的所見 | 脳神経異常以外は正常 |
| 3. 画像診断 | MRI/CT正常(非典型患者はMRV/CTV必須) |
| 4. CSF組成 | 正常 |
| 5. 髄液圧 | LP開放圧 ≧250 mmCSF(成人)・≧280 mmCSF(小児) |
非造影CTはCVSTの30%で正常所見を示し、確定診断能が低い1)。また、系統的レビューではIIH誤診の最大原因として非典型患者でのMRV未施行(42.4%)が挙げられている2)。MRV未施行例の一部にはIIHではなくCVSTが存在しており、CVSTの死亡率は3–15%に達する。そのためMRIに加えてMRVによるCVST除外が必須である。
基礎疾患の治療が最優先であり、乳頭浮腫をできるだけ早期に軽減して視機能を保護することが目標である。
特発性頭蓋内圧亢進症
アセタゾラミド(ダイアモックス):CSF産生抑制。日本では保険適用外。特発性頭蓋内圧亢進症の乳頭浮腫消退を促進する。
体重管理:5–10%の減量で有意な症状改善が得られる。生活習慣改善が治療の根幹。
その他の薬剤:トピラマート、フロセミド(CSF産生抑制薬)。
手術(薬物抵抗例):視神経鞘切開術(ONSF)またはCSFシャント術(脳室腹腔シャント等)。
CVST
抗凝固療法:第一選択。脳内出血・くも膜下出血があっても必ずしも禁忌ではない1)。
抗凝固期間:3–12か月継続。DOACとワルファリンで再発血栓・死亡・再開通は同等だが、DOACは出血率が低い1)。
血管内治療(EVT):TO-ACT試験で標準治療に対する機能的転帰の改善を示せず1)。
炎症性・感染性
脳腫瘍・水頭症など占拠性病変には脳神経外科的介入が基本となる。頭蓋内圧下降治療として占拠性病変摘出術や脳室腹腔シャント術などが行われる。
Bin Abdulqader ら(2021)は第四脳室腫瘍(RGNT、WHO Grade I)により水頭症→頭蓋内圧亢進→うっ血乳頭をきたした18歳女性の症例を報告した6)。緊急脳室ドレナージ後に全摘出術を施行し、6か月MRIで再発を認めなかった。
急激かつ重篤な頭蓋内圧亢進(LP開放圧80 cm H₂O超)を呈する劇症型特発性頭蓋内圧亢進症では、腰椎ドレナージ(暫定措置)、アセタゾラミド500 mg×3回/日(3–4 g/日まで増量)、IVMP 1 g/日×3日の集中治療が行われる。薬物療法に不応な視機能低下には視神経鞘切開術(ONSF)が考慮され、さらにVPシャント設置が必要となる場合がある。
重度貧血に関連した頭蓋内圧亢進には、赤血球輸血と鉄剤静注による貧血補正が有効である。補正後5日で乳頭浮腫消失・視力改善が得られた症例が報告されている7)。
アセタゾラミドはクリプトコッカス髄膜炎での頭蓋内圧亢進に対して禁忌であり(代謝性アシドーシス関連の死亡率増大)、腎機能障害・スルホンアミドアレルギーでも使用できない。代替薬としてトピラマートやフロセミドが用いられる。薬物療法が不十分な場合は視神経鞘切開術やCSFシャント術を検討する。
頭蓋内圧亢進→視神経周囲くも膜下腔の圧上昇→視神経絞扼→軸索輸送(緩徐・急速の両者)の阻害→軸索流停滞→軸索膨張・乳頭隆起・軸索周囲液体増加という機序で乳頭浮腫が形成される。
特発性頭蓋内圧亢進症における頭蓋内圧亢進の発生機序は完全には解明されていない。CSF動態の調節障害、代謝・ホルモン因子(肥満関連の内分泌変化を含む)が関与すると考えられている。家族性特発性頭蓋内圧亢進症の存在からゲノムワイド関連研究が行われ、染色体5・13・14に候補領域が示されているが、メンデル遺伝パターンは確立されていない。
Havangi Prakash ら(2022)は21歳女性(BMI 19.5 kg/m²)でHb 5.7 g/dL、フェリチン0.1 ng/mLの重度鉄欠乏性貧血を報告した7)。LP開放圧270 mmHg・Grade 2うっ血乳頭を認め、赤血球輸血2パイントとスクロース鉄静注により入院5日目に乳頭浮腫が消失し、視力が6/12から6/9に改善した。貧血とうっ血乳頭の因果関係については議論があり、Linらの症例対照研究ではIIH患者と対照群でCBC値に有意差を認めなかったとの報告もある7)。
系統的レビューでは、症例報告の17.8%で特発性頭蓋内圧亢進症診断が不正確または早計であり、13.0%が誤診であった2)。インパクトファクターの低い雑誌(中央値2.0 vs 2.6、p=0.01)で有意に誤診率が高いことが示されており、文献の質管理の重要性が指摘されている。非典型患者(男性、正常BMI、小児)に対するMRV施行の徹底が今後の課題である。
米国女性(18–55歳)の特発性頭蓋内圧亢進症有病率は3.44/10,000であり、州間で有意な地理的変動が確認されている(Moran I=0.20、P=0.03)。肥満有病率パターンと一般的に一致するものの、テキサス・オクラホマ・アラバマ州では「肥満率高/特発性頭蓋内圧亢進症低」という不一致が観察されており、その原因はまだ解明されていない。
Bilen ら(2021)は8歳男児のMIS-C+偽性脳腫瘍(Stage 3うっ血乳頭、視力指数弁4m)を報告した4)。IVIG 2 g/kg+アセタゾラミド+低分子ヘパリンにより治療2日目に頭痛・視機能が著明改善し、45日目にうっ血乳頭が完全消退した。MIS-C関連頭蓋内圧亢進の7症例レビューでは、LP開放圧は12–>38 cm H₂Oと幅広く、うっ血乳頭消退に1.5–5か月を要した。