先天性
発症時期:生来のイメージ欠如。多くは思春期以降に気づく。
器質的異常:眼科的・神経学的な異常所見を伴わない。
経過:生涯にわたる安定した状態。改善は認められない。
自覚:自分の状態を「当たり前」と思っている場合が多い。

アファンタジア(aphantasia)は、頭の中でイメージを視覚化する能力が欠如または著しく低下した状態である。「目を閉じても何も映像が浮かばない」「黒い画面しか見えない」と表現される。
「aphantasia」という用語は2015年にAdam Zemanらが造語した。ギリシャ語の「想像力(phantasia)」に由来する。視覚的イメージ能力の個人差については、1880年にFrancis Galtonが「朝食のテーブル調査」として初めて系統的に研究した。
心的視覚化能力はハイパーファンタジア(極めて鮮明)からアファンタジア(欠如)までのスペクトラムをなす。
有病率に関しては複数の研究が報告されており、以下のように推定されている1)。
性差は認められない。年齢の影響についてはコンセンサスがない。家族歴のある患者が報告されており遺伝的要因の可能性が示唆されるが、最近のゲノムワイド関連研究では有意な遺伝的関連は見出されていない1)。
一般人口の約2〜4%に認められると推定される。メタ解析では4.8%(Monzel et al. 2023)、日本人調査ではVVIQ 17-32の範囲で3.6%(Takahashi et al. 2023)と報告されている1)。完全にイメージが欠如する(VVIQ=16)のは0.07〜0.7%とより少ない。
先天性の場合、多くは思春期〜成人期初期まで自分の状態を自覚しない。
視覚以外のイメージ欠損も併存しうる。54.2%が聴覚・嗅覚・味覚・触覚・運動イメージを含む全感覚モダリティでの欠損を報告している1)。
視覚イメージのみが欠損する「視覚アファンタジア」と、全感覚モダリティでの欠損を示す「多感覚アファンタジア」の2サブタイプが存在する1)。視覚化能力が低下する者の54.2%が全感覚でのイメージ欠損を報告している。
眼科的な器質的異常は伴わない。外来の眼科検査は正常である。
後天性の場合は発症のタイムラインが追跡可能である。症例報告では幹細胞移植後にVVIQスコアが16(最低値)となり、6ヶ月後に23へと軽度改善した2)。
感情的反応の変化として恐怖刺激への反応低下や物語への感情移入低下が報告されている1)。
先天性
発症時期:生来のイメージ欠如。多くは思春期以降に気づく。
器質的異常:眼科的・神経学的な異常所見を伴わない。
経過:生涯にわたる安定した状態。改善は認められない。
自覚:自分の状態を「当たり前」と思っている場合が多い。
後天性
発症様式:頭部外傷・脳卒中・移植後などを契機に急性発症。
VVIQスコア:発症直後に最低値(16点)を示す場合がある。
経過:軽度改善を示すことがあるが完全回復は稀。
病因:低酸素性脳損傷・神経毒性などが関与する可能性がある2)。
病因は未解明である。家族歴を報告する患者があり遺伝的パターンの可能性が示唆されるが、ゲノムワイド関連研究では有意な遺伝的関連は見出されていない1)。
神経原性
頭部外傷(TBI):最も多い原因。
脳卒中:両側または左後大脳動脈(PCA)脳卒中が報告されている2)。
認知症:全亜型で視覚化能力の低下がみられる。
幹細胞移植後:低酸素性脳損傷・薬剤神経毒性が関与する可能性がある2)。
COVID-19後:罹患後の発症例が報告されている。
心因性
うつ病:発症との関連が報告されているが、健常者との視覚化能力の差がないとする研究もある。
不安障害:同様に関連が示唆されるが確立されていない。
解離性障害:離人症・現実感喪失症との関連が指摘されている。
後天性アファンタジアの症例報告を以下に示す。
Bumgardnerら(2021)は62歳男性・多発性骨髄腫に対する自家幹細胞移植(ASCT)後の後天性アファンタジアを報告した2)。メルファラン200 mg/m²投与後、Day 9に自然気胸発症と同時にアファンタジアが出現。VVIQスコアは16(最低値)。6ヶ月後に23へ軽度改善した。気胸によるシャント生理学的低酸素血症と敗血症による低酸素性脳損傷が最有力な病因として考察されている。
家族歴を報告する患者が存在し遺伝的パターンの可能性は示唆されているが、最近のゲノムワイド関連研究では有意な遺伝的関連は見出されていない1)。現時点では遺伝性を確定するだけのエビデンスはない。
公式な診断基準は存在しない。主に自己申告に基づいて評価される。
以下に代表的な検査法を示す。
| 検査法 | 概要 | 特徴 |
|---|---|---|
| VVIQ | 16項目5段階自己評価 | 最低16点〜最高80点 |
| 両眼視野闘争課題 | イメージ指示後のプライミング効果を測定 | 客観的評価が可能 |
| 瞳孔光反応 | イメージ瞳孔光反応の有無を確認 | アファンタジアでは欠如 |
一般的にVVIQ 16-32をアファンタジアとする研究が多いが、統一されたカットオフ値は存在しない1)。自身をアファンタジアと認識する者で33点以上のスコアも報告されており、点数のみで判断することには限界がある。
現在、先天性・後天性いずれのアファンタジアに対しても承認された治療法はない。
fMRI研究(2017年)では、視覚化能力が低い者は前帯状皮質・前頭部でより多く活動し、高い者は紡錘状回・海馬傍回・後帯状皮質で活動することが示された1)。
以下に視覚処理における2経路の特性を示す。
| 経路 | 機能 | アファンタジアとの関係 |
|---|---|---|
| 腹側経路(“what”経路) | 対象物のイメージ処理 | 障害される可能性がある |
| 背側経路(“where”経路) | 空間情報のイメージ処理 | 保持される可能性がある |
対象物イメージは腹側経路、空間イメージは背側経路で処理される。アファンタジアでは腹側経路の障害が示唆され、背側経路は保持される可能性がある1)。
後天性の幹細胞移植後症例では以下の機序が考察されている2)。
アファンタジアでは紡錘状回イメージノード(FIN)と前頭頂葉領域の機能的結合性が低下している1)。また視覚イメージに関わる腹側経路(紡錘状回・海馬傍回)の活性化が乏しく、想起時の後頭葉・頭頂葉活性化も欠如する。左紡錘状回と右舌状回の病変でイメージ能力が消失することも病変研究で確認されている。
アファンタジアは現在いかなる臨床診断体系(DSM・ICD)にも含まれていない1)。疾患というより個人差の一形態として位置づける見解もある。
進行性のアファンタジアが認知症の前駆症状である可能性が提唱されている1)。
Jin et al.(2024)の系統的レビューでは以下の関連が報告されている1)。