ワラー変性
損傷後の経過:神経損傷から24時間以内に変性が開始する。軸索骨格と髄鞘の崩壊が完了するまで約7日を要する。
視神経近位部の猶予:損傷部よりも近位の軸索は、3〜4週間は正常に見え機能しうる。
眼底所見:損傷の遠位に当たる視神経乳頭が数週間〜数か月の経過で萎縮・蒼白となる。

視路では、神経線維が損傷を受けると2方向の変性が起こりうる。
**ワラー変性(順行性変性)**は、軸索が損傷した際に損傷部よりも遠位(末梢側)で軸索が変性するプロセスである。軸索骨格と髄鞘が崩壊し、マクロファージが変性した破片を除去する。これはAugustus Wallerが1850年にカエルの舌咽神経と舌下神経の切断実験で最初に記述したことに由来する名称である。
逆行性変性は、損傷部よりも近位(細胞体側)で軸索が変性するプロセスである。細胞体の破壊と細胞死を招き、再生は不可能である。
視神経は発生学的に間脳に由来し、中枢神経系(CNS)の一部である。篩板より前方のRGC(網膜神経節細胞)軸索は無髄であるが、球後においてオリゴデンドロサイトにより髄鞘化される。末梢神経ではシュワン細胞1つが軸索1つを栄養するのに対し、中枢神経ではオリゴデンドロサイト1つが複数の軸索を栄養する。
末梢神経ではシュワン細胞が成長因子を介して再生を促す。一方、CNSではオリゴデンドロサイトの再生促進作用が弱く、成熟した中枢神経の軸索再生はきわめて不良である。
脱髄は髄鞘が一次的に変性・脱落する状態を指す。急速な脱髄は軸索変性を伴うことが多い。代表的な脱髄疾患には多発性硬化症・視神経脊髄炎・白質ジストロフィなどがある。
ワラー変性は軸索損傷の遠位側(末梢側)で起こる変性であり、逆行性変性は損傷部より近位(細胞体側)で起こる。逆行性変性は細胞体死を招き再生が不可能であるのに対し、末梢神経のワラー変性では再生の余地が残される場合がある。両者はしばしば同一の損傷後に併発する。
損傷部位によって症状のパターンが異なる。
視神経萎縮と変性の時間経過が重要な所見である。
ワラー変性
損傷後の経過:神経損傷から24時間以内に変性が開始する。軸索骨格と髄鞘の崩壊が完了するまで約7日を要する。
視神経近位部の猶予:損傷部よりも近位の軸索は、3〜4週間は正常に見え機能しうる。
眼底所見:損傷の遠位に当たる視神経乳頭が数週間〜数か月の経過で萎縮・蒼白となる。
逆行性変性
RGC死の時期:損傷後6〜8週間で網膜神経節細胞(RGC)死が起こりうる。
視索障害後のパターン:障害側眼では上下弓状の神経線維層欠損を伴う耳側視神経乳頭蒼白。対側眼には帯状萎縮を生じる。1か月程度の経過で出現する。
シナプス越え変性:LGN(外側膝状体)や視覚野の損傷が視神経萎縮を引き起こしうる。通常、胎児期・乳児期早期の後頭葉損傷で生じやすい1)。
視神経萎縮の眼底所見は原因によって形態が異なる。
RAPD(相対的瞳孔求心路障害):視索障害では対側眼にRAPDを認めることがある。外側膝状体以降の障害では対光反射に影響しない。
MRI所見:ワラー変性はT2強調画像上でT2高信号(グリオーシスを示唆)として検出される。急性期には拡散強調画像(DWI)で拡散制限が認められる1)2)。
Kihiraら(2021)は、47歳女性の5年間にわたる進行性左眼視力低下の症例を報告した1)。光干渉断層計(OCT)で左視神経萎縮が確認され、MRI T2強調画像で左視放線に沿ったT2高信号が検出された。梗塞・炎症疾患を伴わない視神経萎縮からのシナプス越え変性の報告として注目される。
ワラー変性は損傷後24時間以内に開始するが、軸索近位部は3〜4週間は正常に見える場合がある。逆行性変性によるRGC死は6〜8週間で起こりうる。眼底での視神経乳頭蒼白が明確になるまでは、損傷後数週間から数か月を要することが多い。
視路のワラー変性・逆行性変性をきたす主な原因疾患を以下に示す。
| 疾患カテゴリ | 代表的疾患 | 主な変性の方向 |
|---|---|---|
| 緑内障 | 原発開放隅角緑内障など | 逆行性・順行性 |
| 脱髄疾患 | 多発性硬化症、視神経脊髄炎 | 順行性 |
| 虚血性疾患 | 前部虚血性視神経症(AION)、PION、脳卒中 | 順行性・逆行性 |
| 圧迫性病変 | 下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、動脈瘤 | 逆行性 |
| 外傷 | 頭部外傷 | 順行性 |
| 遺伝性視神経症 | LHON、ADOA、Wolfram症候群 | 逆行性 |
| 脳腫瘍 | 膠芽腫など | 順行性 |
| 神経変性疾患 | アルツハイマー病 | 逆行性 |
各原因疾患の特徴を以下に補足する。
視神経萎縮(蒼白な視神経乳頭)の確認が基本となる。視神経乳頭腫脹を経て萎縮に至る経路と、正常乳頭から直接萎縮に至る経路がある。
OCTは視神経萎縮の定量評価において中心的な役割を担う。
OCTアンギオグラフィ(OCTA):非侵襲的に網脈絡膜血管の微細構造を描出する。放射状乳頭周囲毛細血管(RPCs)の血管密度減少が神経線維層欠損部位と一致することが報告されている。
| 画像モダリティ | 主な所見・用途 |
|---|---|
| T2強調画像 | ワラー変性のT2高信号(グリオーシス)、同側大脳脚萎縮1)2) |
| DWI(拡散強調画像) | 急性ワラー変性の検出(二次梗塞との鑑別が必要)2) |
| DTI(拡散テンソル画像)FA値 | 変性の定量、機能回復の予測因子(亜急性虚血相)2) |
視放線のT2高信号は、白質軟化症・先行梗塞・脱髄疾患(多発性硬化症)との鑑別が必要である1)。
cpRNFL厚と黄斑部GCC厚の測定が中心となる。急性期に乳頭腫脹がある場合には、GCC解析がcpRNFLより早期に菲薄化を検出できる利点がある。正常値は個人差が大きく、実測値での経過観察や僚眼との比較が重要である。視野・眼底所見・他の視機能検査との整合性確認も欠かせない。
視路のワラー変性・逆行性変性に対する実証された再生療法は、現時点では存在しない。治療は基礎疾患に対するものが中心となる。
軸索損傷後、遠位側では軸索骨格とミエリン(髄鞘)が崩壊し、マクロファージが破片を除去する(ワラー変性)。末梢神経ではシュワン細胞が成長因子を介して再生を促す。CNS(中枢神経系)ではオリゴデンドロサイトの再生促進作用が弱く、成熟した中枢神経の軸索再生は不良または不可能である。
逆行性変性では損傷部近位で軸索が変性し、細胞体の破壊と細胞死を招く。視索障害後の逆行性RGC萎縮は必発であり、6〜8週間でRGC死が起こりうる。
RGCはCNSニューロンと同様に、軸索変性・ミエリン破壊・瘢痕形成・二次変性を示し、損傷後の再生能力は限定的である5)。
軸索内の輸送(軸索流)は方向と速度により分類される。
順行性輸送
高速輸送:400〜1,000 mm/日。シナプス小胞など膜成分の輸送に関与する。
中間速輸送:5〜400 mm/日。
低速輸送:0.5〜5 mm/日。軸索維持に必要な蛋白質の輸送に関与する。
逆行性輸送
速度:50〜300 mm/日。
機能:末梢から細胞体への情報伝達・老廃物の再利用に関与する。
ミトコンドリア:損傷・老化したミトコンドリアは逆行輸送によりRGC細胞体に戻り「再充電」される。緑内障では篩板部で軸索流が障害され視神経萎縮が進行する。
緑内障においてRGC軸索が最も損傷を受けやすいのは、視神経乳頭(ONH)の篩板(lamina cribrosa)においてである4)。
Pithaら(2024)は緑内障におけるRGC軸索損傷の詳細な機序を報告した4)。眼圧による機械的ストレスは網膜よりONH(篩板)において著しく大きく、周方向フープ応力と経篩板圧較差がRGC軸索に作用する。大型αRGC(特にOFF型)がより選択的に障害を受けやすく、ONHの上極・下極を通る大型RGC軸索が優先的に障害される。
篩板での機械的ストレスが軸索輸送を遮断する経路は以下の通りである。
シナプスの一方側のニューロン変性がシナプスを越えてもう一方に影響する現象を「シナプス越え変性」と呼ぶ。視神経萎縮から視放線へ変性が波及した症例が報告されており1)、後頭葉脳卒中後の逆行性シナプス越え変性(Jindahraら、2012)も知られている1)。通常は胎児期・乳児期早期の後頭葉損傷でより頻繁に発生するとされる。
AD(アルツハイマー病)においては、脳病変が視覚路の神経結合に影響することでRNFLとGC-IPLの菲薄化が生じる可能性がある5)。ただし後部皮質萎縮型ADでは乳頭周囲RNFLで対照群との差が識別困難な場合も報告されている5)。
眼圧による機械的ストレスは網膜よりONH(篩板)で著しく大きい。周方向フープ応力と経篩板圧較差が軸索に作用し、順行性・逆行性の軸索輸送をともに遮断する4)。この機械的負荷により神経栄養因子欠乏・ミトコンドリア機能障害・カルシウム流入などの複合的な機序でRGCのアポトーシスが促進される。
拡散テンソル画像(DTI)の分画異方性(FA)値を用いて、脳卒中後のワラー変性を亜急性期に定量化し、機能回復を予測する研究が進んでいる2)。大脳脚萎縮の程度が大脳損傷の範囲と相関することが示されており、画像バイオマーカーとしての臨床応用が期待されている2)。
Hustings & Lemmerling(2021)は、虚血性脳卒中・出血性脳卒中・脳腫瘍・外傷・くも膜囊胞・大脳皮質低形成など多様な原因によるワラー変性のMRI所見を系統的に報告した2)。急性期には二次梗塞との誤認を避けるために臨床文脈に基づいた慎重な解釈が必要であることが強調されている。
ワラー変性遅延遺伝子(WLDS)を持つラットの実験モデルでは、一次的な軸索保護効果が示された。しかし逆行性変性は依然として発生し、最終的に細胞体死を招いた。このモデルは軸索保護療法と細胞体保護療法を分離して評価する基礎的ツールとして活用されている。
Weberら(2025)は、Schnabel空洞性視神経萎縮(SCONA)のSD-OCTと病理組織所見の初の相関報告を発表した3)。SCONAは従来は組織学的診断のみが可能であったが、BMO-MRWモダリティのONH-RCスキャンにより篩板内の低反射偽嚢胞として生体内での検出が可能であることを示した。高齢者の組織学的検討での有病率は約1.7〜2.1%とされ3)、緑内障性視神経萎縮との鑑別における新たな診断ツールとして期待されている。