コンテンツにスキップ
神経眼科

アディー瞳孔(緊張性瞳孔)

アディー緊張瞳孔(Adie tonic pupil)は、副交感神経の脱神経により、罹患瞳孔の対光反射が消失・減弱する一方、近接(近見)反応では良好かつ緊張性の縮瞳を示す疾患である。

疾患名はWilliam John Adieに由来し、1931年にAdie、Morgan、Symons、Holmesによりほぼ同時期に独立して報告された。有病率は人口1,000人あたり2人で、男女比2.6:1と女性に多く、平均発症年齢は32歳とされる。約80%が片側性であり、両側性への進展は年間4%の割合で生じる。

関連症候群として以下の2つが重要である。

  • ホームズ・アディー症候群:アディー瞳孔に深部腱反射の消失・減弱を合併した状態。完全型として位置づけられる。
  • ロス症候群:アディー瞳孔・腱反射消失に加え、起立性低血圧や発汗異常など自律神経症状を伴う稀な末梢自律神経系障害。これまで文献報告は約60例にとどまる3)
Q アディー瞳孔は片方の目だけに起きるのか?
A

約80%が片側性で発症する。ただし両側性への進展も年間4%の割合で生じるため、経過観察中に対側眼の瞳孔変化にも注意が必要である。

Adie???????????
Adie???????????
Gülay Yalçınkaya Çakır et al. Adie’s tonic pupil after COVID-19: a case report and literature review. Romanian Journal of Ophthalmology. 2024 Apr-Jun; 68(2):89. Figure 1. PMCID: PMC11238870. License: CC BY.
?????????????????????????????????Adie ???????????????????????????????????
  • 羞明(まぶしさ):対光反射が障害されるため、明るい環境での不快感が生じる。
  • 霧視眼精疲労・近業作業障害:調節麻痺を伴うことが多く、近方視や焦点切り替えの際に視力低下が生じる。
  • 瞳孔不同:自分で鏡を見て気づくか、他人に指摘されて受診する例も少なくない。
  • 暗所への順応困難:罹患眼の散瞳により、明暗環境の変化への対応が遅れる。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 瞳孔の中等度散大・脱円:明所で瞳孔不同が顕著となる。虹彩括約筋の分節状麻痺により瞳孔が不整円を呈する。
  • 虫様運動:細隙灯顕微鏡で観察される特徴的な所見。分節状に残存した健常部位の括約筋が収縮するため、虫が這うように虹彩が波打つ運動がみられる。
  • 対光近見反射解離(light-near dissociation):対光反射は消失ないし消失するが、近見反応(輻湊縮瞳)は保たれている。近見反応での散瞳の際に最もtonic(緊張性)な瞳孔反応を観察しやすい。
  • 緊張性反応:一度縮瞳すると散瞳するのに時間がかかり、縮瞳状態が長く維持される。これが「緊張性 tonic」という名称の由来である。
  • 慢性期の変化:初期は散瞳が目立つが、慢性期には異常再生の進行に伴い罹患眼の瞳孔が逆に小さくなる傾向がある。
Q 慢性化すると瞳孔はどうなるのか?
A

初期は罹患眼が散瞳して対側との瞳孔不同が顕著だが、慢性経過では罹患瞳孔が逆に縮小する傾向がある。これは毛様体由来の副交感神経線維が異常再生により瞳孔括約筋を支配するためと考えられている。

大部分は**特発性(原因不明)**であり、責任病巣は末梢の毛様体神経節および短後毛様体神経である。

特定できる原因として以下が報告されている。

  • 感染症:ウイルス感染(帯状疱疹、水痘、インフルエンザなど)、細菌感染(神経梅毒)
  • 外傷・手術:眼科手術、眼窩外傷
  • 全身性疾患との合併:フィッシャー症候群、脳炎、脊髄小脳変性症、糖尿病、膠原病、多発性硬化症
  • その他片頭痛による血管痙攣、腫瘍(眼窩腫瘍、傍腫瘍性)

ロス症候群の病因については、遺伝的素因に環境因子(ウイルス感染等)が加わるという説が提唱されている。一卵性双生児でのロス症候群の報告やサイトメガロウイルス感染後の発症例があり、遺伝的・感染性の両因子が関与する可能性がある3)

COVID-19感染後の緊張性瞳孔については、COVID-19流行以降に免疫介在性機序による発症例が複数報告されており、感染後の神経眼科合併症として認識が広まっている1)2)

典型的な症状(分節状麻痺、虫様運動、対光近見反射解離)が揃えば診断は容易である。

低濃度ピロカルピン点眼試験が最も広く用いられる。

  • 濃度:0.125%(1%溶液を滅菌生理食塩水で希釈して調製)または0.1%
  • 判定:点眼30〜60分後に縮瞳の有無を判定する
  • 原理:脱神経過敏(denervation supersensitivity)のため、正常眼では反応しない低濃度でも罹患眼では縮瞳する
  • 感度:約80%の症例で陽性

対光近見反射解離を呈する疾患を中心に鑑別が必要である。

アディー瞳孔

病巣:毛様体神経節(末梢)

瞳孔径:中等度散瞳、不整円

側性:片側性が多い(約80%)

緊張性:あり(縮瞳が長く続く)

ピロカルピン反応:低濃度で縮瞳

Argyll Robertson瞳孔

病巣:中脳視蓋前域(梅毒)

瞳孔径:両側性の高度縮瞳

側性:両側性

緊張性:なし

ピロカルピン反応:低濃度では反応なし

視蓋瞳孔

病巣:中脳背側(松果体腫瘍等)

瞳孔径:中等度散瞳

側性:両側性

Parinaud症候群:合併が多い

緊張性:なし

その他の鑑別として、動眼神経麻痺後の神経異常再生、眼窩外傷・腫瘍、水痘帯状疱疹感染、フィッシャー症候群、シャルコー・マリー・トゥース病神経サルコイドーシスが挙げられる。

梅毒血清反応(RPR)の検査、糖尿病・外傷・神経疾患の既往歴確認が診断の補助となる。ロス症候群が疑われる場合はMinor’s test(ヨウ素デンプン試験)で無汗領域を検出する3)

Q ピロカルピン点眼試験が陰性ならアディー瞳孔は否定できるのか?
A

否定はできない。急性期には脱神経過敏がまだ確立されていないため、陰性となる場合がある。臨床所見(虫様運動・分節状麻痺)が典型的であれば、試験陰性でも臨床的にアディー瞳孔と診断することが可能である。定期的に再検査することも有用である。

アディー瞳孔は良性の経過をたどる疾患であり、大多数の患者に対しては「良性疾患であること」を十分に説明し、経過観察が基本方針となる。

  • 羞明への対処:重度の羞明がある場合は、0.125%ピロカルピン点眼を局所投与することで症状を軽減できる。フィゾスチグミンの局所投与も選択肢となる。
  • 調節麻痺への対処:調節麻痺が持続する患者には、すりガラス状の二重焦点レンズの使用が助けになる。
  • 全身疾患が背景にある場合:原因疾患(糖尿病・梅毒など)が特定された場合は、その疾患に対する治療を優先する。

経過について:調節麻痺は数か月〜数年で改善することがある。一方、光に対する瞳孔反応(対光反射)は通常回復しない。

ロス症候群の代償性多汗症の治療:グリコピロレート外用、塩化アルミニウムクリーム、ボツリヌス毒素注射が使用される。重症で手術を望む患者には胸部交感神経切除術も選択肢となる3)

Q 治療しなくても視力は回復するのか?
A

調節麻痺による霧視や近見障害は数か月〜数年で改善することがある。しかし対光反射は通常回復しないため、光への瞳孔反応の正常化は期待できない。重篤な視力障害には至らないことが多く、安心して経過観察できる良性疾患である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

アディー瞳孔の発症機序には「脱神経過敏」と「異常再生」の2つが中心的な役割を果たす。

副交感神経解剖学的背景:動眼神経のEdingerWestphal(EW)核から出る副交感神経線維の95%が毛様体筋(調節に関与)へ、5%が瞳孔括約筋(対光反射に関与)へ至る。毛様神経節における対光反射と調節反応に関わる神経細胞の比は3:97とされており、対光反射に関わる線維が元々少数であることが特徴的である。

発症の経過は以下の順序で進行する。

  1. 毛様体神経節の損傷:ウイルス感染・外傷・特発性などの原因により、毛様体神経節または短後毛様体神経が障害される。
  2. 脱神経過敏の発生:障害後、ポストシナプス受容体のアップレギュレーションが生じ、低濃度のコリン作動薬に対する過敏性が出現する。これが薬理学的診断の根拠となる。
  3. 異常再生:損傷した副交感神経線維が再生する際に、本来毛様体筋を標的とすべき線維(多数派)が瞳孔括約筋を支配してしまう。毛様体筋への線維数が虹彩への線維数の約30倍であるため、異常再生後は毛様体由来の線維が瞳孔を支配→近見刺激で強い縮瞳が生じる一方、対光反射は回復しない。これが対光近見反射解離の機序である。

対光近見反射解離の神経解剖学的説明:近見反応のEW核への核上性線維は、対光反射の求心線維が通る中脳視蓋前域や後交連より腹側を走行している。そのため、視蓋前域の障害(中枢性)でも同様の解離が生じるが、アディー瞳孔では病巣が毛様体神経節(末梢)にある点が鑑別の要となる。

COVID-19関連の機序:SARS-CoV-2感染後の緊張性瞳孔では、直接的なウイルスの神経侵入、内皮機能障害、過剰な炎症・サイトカイン放出による神経毒性の3つの機序が提唱されている1)

ロス症候群の病態:後根神経節ニューロンと副交感神経系は神経堤細胞から共通の起源を持つとされており、この点がロス症候群における腱反射消失を説明する仮説として提唱されている3)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

COVID-19流行以降、感染後の神経眼科合併症として緊張性瞳孔の症例報告が相次いでいる。

Quijano-Nietoら(2021)は、36歳女性がCOVID-19感染(PCR陽性)の17日後に両側性緊張性瞳孔を発症した症例を報告した1)。脳MRI・血液検査・髄液検査はすべて正常。0.125%ピロカルピン点眼で両眼に強い縮瞳が確認された。免疫介在性機序が推定されている。

Gopalら(2021)は、37歳女性がCOVID-19感染3週間後に右眼の緊張性瞳孔を発症した症例を報告した2)。右眼瞳孔径5.5 mm、虫様運動と分節状収縮を確認。0.1%ピロカルピン点眼で縮瞳が確認された。MRI脳・眼窩に有意な所見なく、感染後免疫応答が原因として推察されている。

ロス症候群とシヌクレイノパチー

Section titled “ロス症候群とシヌクレイノパチー”

Ahmadら(2022)は同一施設で1か月以内に診断されたロス症候群2症例を報告した3)。症例1(24歳女性)は左緊張性瞳孔・右足首腱反射消失・T4レベルまでの分節性無汗の三徴を示した。症例2(42歳女性)は両側緊張性瞳孔・下肢腱反射消失・ホルネル症候群を合併した「Ross syndrome plus」であった。

ロス症候群がパーキンソン病・レビー小体型認知症・多系統萎縮症と同じシヌクレイノパチーである可能性が提唱されている3)。またロス症候群・ホームズ・アディー症候群・ハーレクイン症候群は同一疾患過程の異なる表現型である可能性も示唆されており、今後の疾患概念の統合が期待される。


  1. Quijano-Nieto BA, Córdoba-Ortega CM. Tonic pupil after COVID-19 infection. Arch Soc Esp Oftalmol. 2021;96(7):353-355.

  2. Gopal M, Ambika S, Padmalakshmi K. Tonic Pupil Following COVID-19. J Neuroophthalmol. 2021;41:e764-e766.

  3. Ahmad R, Saurabh K. Two Cases of Tonic Pupil: Ross and Ross Syndrome Plus. Cureus. 2022;14(2):e22305.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます