一過性近視
屈折変化の程度:1〜8ジオプトリー(D)の近視変化が生じる。
発症時期:投与後4時間〜5日以内に視覚変化が出現する。
経過:中止後24時間以内に改善が始まり、完全消失まで数日を要する。

アセタゾラミド(N-(5-スルファモイル-1,3,4-チアジアゾール-2-イル)-アセトアミド)は、非静菌性スルホンアミド誘導体であり、強力な炭酸脱水酵素阻害薬である。炭酸脱水酵素は亜鉛含有金属酵素群であり、CO₂と水から炭酸・重炭酸イオンへの可逆的反応を触媒する。組織の酸塩基恒常性・pH調節・水分バランスに重要な役割を果たす。
眼科領域における主な適応疾患は以下の通りである。
用法・用量は内服1日250〜1,000 mg経口投与、注射用1日250〜1,000 mg静脈内または筋肉内注射である。IIH治療では250〜500 mg×2回/日で開始し、最大2〜4 g/日まで漸増する(分割投与)1)2)。
本薬剤は有効性が高い反面、多様な眼科的・全身的合併症を引き起こす。IIH治療試験では参加者の84%で少なくとも1つの有害事象が報告され、有害事象数の中央値は5つであった1)。
緑内障・特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)・高山病・てんかん・髄液漏などに使用される。眼圧下降作用は全身投与で30〜40%に及び、IIH治療では脳脊髄液産生を投与後60〜90分以内に最大50%減少させる。
全身性の副作用は高頻度に生じる。IIH治療試験でプラセボ群と比較し有意に高頻度であった症状は以下の通りである。
重篤な全身症状として、代謝性アシドーシス・呼吸不全・低カリウム血症・腎結石・再生不良性貧血・溶血性貧血・無顆粒球症・Stevens-Johnson症候群・中毒性表皮壊死症・ショックが報告されている。
眼科的に重要な臨床所見は3種類に分類される。
一過性近視
屈折変化の程度:1〜8ジオプトリー(D)の近視変化が生じる。
発症時期:投与後4時間〜5日以内に視覚変化が出現する。
経過:中止後24時間以内に改善が始まり、完全消失まで数日を要する。
毛様体脈絡膜滲出・急性閉塞隅角緑内障
反応の性質:用量非依存性の特異体質的反応である。
機序:毛様体浮腫→水晶体曲率変化→前房狭小化→隅角閉塞の順に進行する。
緊急性:急性閉塞隅角発作として発症し、即時対応を要する。
脈絡膜剥離
報告状況:レーザー後嚢切開術後のアセタゾラミド投与に続く報告がある。
対処:薬剤中止と厳重な経過観察が必要となる。
中止後24時間以内に改善が始まり、完全消失には数日を要する。発症は投与後4時間〜5日以内であり、代替薬への変更も選択肢となる。
アセタゾラミドの合併症を引き起こしやすいリスク要因と禁忌を以下に示す。
以下のいずれかに該当する場合は投与してはならない。
| 禁忌事項 | 理由・備考 |
|---|---|
| スルホンアミド系薬剤への過敏症の既往 | 重篤なアレルギー反応のリスク |
| 進行した肝疾患・高度の肝機能障害 | 血中アンモニア上昇により肝性昏睡を誘発 |
| 無尿・急性腎不全 | 排泄不全による蓄積・毒性増強 |
| 高クロール血症性アシドーシス | アシドーシスを増悪させる |
| 体液中のNa・Kが明らかに減少 | 電解質異常をさらに悪化させる |
| 副腎機能不全・Addison病 | 電解質調節機能の喪失による重篤化 |
| 慢性閉塞隅角緑内障(長期投与) | 病状悪化の不顕性化リスク |
以下の状態では十分なリスク・ベネフィット評価の上で使用する。
アセタゾラミドにはスルホンアミド系抗菌薬が持つN4アリルアミン側鎖・N1芳香族複素環がないため、構造上の交差反応リスクは低いとされる。ただし、アレルギー反応全般への感受性が原因の可能性も示唆されており、重篤な反応のリスクを考慮して慎重に判断する必要がある。
IIHに対してはアセタゾラミド250〜500 mg×2回/日で開始し、2〜4 g/日まで漸増する。IIHTT(2014)では体重減少との併用で眼圧低下・乳頭浮腫改善に有効であることが示された。最大4 g/日での安全性と忍容性も確認された1)。頭痛に対する一貫した効果は示されていない2)。
6ヶ月のアセタゾラミド加低ナトリウム減量食療法により、眼圧軽度低下・QOL改善・乳頭浮腫軽減が得られることが報告されている3)。
原発開放隅角緑内障(POAG)患者の水晶体超音波乳化吸引術(PEA)後眼圧上昇に対し、術前1時間の経口アセタゾラミド500 mg投与が術後1〜24時間の眼圧上昇を有意に抑制する4)。
術後眼圧が100%以上上昇した割合の比較を以下に示す。
| 投与群 | 眼圧100%以上上昇の割合 |
|---|---|
| 術前投与群 | 3.3% |
| 術後投与群 | 23.3% |
| 非投与群 | 26.6% |
(P = 0.0459、Hayashi 2017)4)
薬剤中止が最優先である。その上で全身・局所ステロイド・調節麻痺薬・房水産生抑制薬の投与が考慮されるが、これらの効果を示す臨床研究のエビデンスはない。急性発作時には毛様体脈絡膜滲出が根本原因であるため、縮瞳薬(ピロカルピン)は無効であることが多い。
塩分・水分バランスの変化により毛様体に浮腫が生じる。毛様体浮腫は水晶体の曲率を変化させ、前房を浅くする。感受性因子が発症に寄与するとされるが、詳細な機序は未解明である。
ぶどう膜の特異体質的かつ用量非依存的反応として生じる。毛様体浮腫が前房を浅くして隅角閉塞を引き起こす。同様の機序はトピラマート・抗凝固薬・フロセミド・グリピジドでも報告されている。
毛様体における炭酸脱水酵素の阻害により、重炭酸イオン産生が低下する。これに伴い毛様体からの重炭酸イオン・ナトリウムイオン・水の分泌が抑制され、房水産生が低下することで眼圧が30〜40%低下する。
近位尿細管への作用と尿のアルカリ化によりリン酸カルシウム結石が形成される。これはループ利尿薬(フロセミド等)が引き起こす高カルシウム尿症によるシュウ酸カルシウム結石とは異なる機序である。
近位尿細管でのナトリウム利尿作用と尿アルカリ化が横紋筋融解症を誘発し、ミオグロビン尿性腎不全が生じうる。マッカードル病患者ではこのリスクが特に高い。
代謝性アシドーシスに対する呼吸代償として過換気が生じる。肺疾患(COPD・喘息)合併例では多因子性高炭酸ガス血症性呼吸不全が生じうる。肺疾患がなくても過換気発症が報告されている。
免疫学的反応または毒性機序に起因すると考えられているが、発生率はきわめて低い。
アセタゾラミドの有害事象の素因となる相関関係の評価研究が進行中である。スルホンアミド系抗菌薬アレルギーとの交差反応については、交差反応そのものではなくアレルギー反応全般への感受性が原因である可能性が示唆されており、さらなる研究が必要とされている。
短期間のアセタゾラミド投与が閉塞性・中枢性睡眠時無呼吸症を改善することを示す研究が進行中である。また、中枢神経系リンパ腫・急性リンパ性白血病の長期治療における高用量メトトレキサート誘発毒性を防止するための低用量アセタゾラミド療法についても有望な結果が報告されている。
IIHに対する静脈ステント留置術 vs シャント術の無作為化比較試験(RCT)が英国で進行中であり、アセタゾラミドとの優劣比較に関するエビデンスが蓄積されつつある2)。