コンテンツにスキップ

数字で見る眼 ― 眼科の正常値・基準値リファレンス

本記事は、眼科臨床で参照頻度の高い正常値・臨界値を、眼球の解剖部位別に集約したリファレンスである。

出典は日本の眼科教科書5冊に限定した。

  • 『眼科学 第3版』(第1巻・第2巻)
  • 『小児眼科学』
  • 『眼科診療クオリファイ 眼の発生と解剖機能』
  • 『眼科診療クロースアップ』
  • 眼球体積:新生児 2.8 mL → 成人 6.7〜7.5 mL
  • 眼球全体の屈折:約58 D
  • 房水と硝子体の容積合計:約5 mL(硝子体94%、前房水5%、後房水1%)
  • 硝子体容積:約4 mL(眼球の約8割に相当)

眼軸長は眼球の前後径であり、屈折状態を決定する最大の因子である。

時期眼軸長
出生直後16〜18 mm(約17 mm)
1歳約21 mm
2〜5歳22.15 mm
5〜16歳22.71 mm
成人正視眼約24 mm

眼軸長は生後1年で急激に増大し、6〜7歳頃にプラトーに達する。新生児では前眼部が成人の70〜80%に達する一方、後眼部は50%以下にとどまる。Gullstrand模型眼の眼軸長は24.0 mmと定義される。

  • 真性小眼球の定義:眼球容積が正常の2/3以下(眼軸長が年齢正常の0.87以下)
  • 成人の小眼球閾値:男性 20.4 mm以下、女性 20.1 mm以下
  • Weissの診断基準(11歳以上):眼軸長 20.9 mm以下
  • 臨床上の目安:角膜径 10 mm以下(乳児 9 mm以下)、眼軸長 21 mm未満(1歳児 19 mm未満)

年齢別の正常値と小眼球の閾値を以下に示す(超音波Aモード測定、単位:mm)。

時期正常(男)正常(女)小眼球(男)小眼球(女)
出生後16.8516.6014.7014.44
2歳20.6020.2917.9717.65
6〜7歳22.0021.6819.1918.86
13歳〜成人23.4023.0620.4220.06
Q 新生児と成人で眼軸長はどのくらい異なるのか?
A

新生児の眼軸長は約17 mm、成人では約24 mmであり、約7 mmの差がある。単純計算では15 D以上の近視化が予想されるが、角膜屈折力の減少や水晶体の変化により代償され、正視が維持される。これを正視化(emmetropization)と呼ぶ。

Ultrasound biomicroscopy measurement of corneal diameter and angle-to-angle distance
Ultrasound biomicroscopy measurement of corneal diameter and angle-to-angle distance
Kolosky TD, Saga AU, Dariano DF III, Das U, Panchal BK, Bregman JA, Levin MR, Alexander JL. Comparison of angle-to-angle distance and corneal diameter in pediatric eyes using ultrasound biomicroscopy. PLoS One. 2024 Jun 18;19(6):e0305624. Figure 1. PMCID: PMC11185497. License: CC BY.
超音波生体顕微鏡で前眼部断面を描出し、角膜径と angle-to-angle 距離の計測位置を示している。角膜端から隅角までのどの部位を数値化しているかを一枚で確認できる。
  • 成人水平径:11〜12 mm

  • 成人垂直径:10〜11 mm

  • 新生児水平径:9.8 mm(9〜10.5 mm)

  • 新生児垂直径:やや大きく 10.4 mm

  • 角膜曲率半径(成人):7.7〜8.0 mm

  • Gullstrand模型眼の角膜前面曲率半径:7.7 mm

  • 角膜屈折力(Gullstrand模型眼):43.05 D

  • 新生児の角膜屈折力:47.5〜51 D(成人より急峻)

層・部位厚み
角膜中央部(成人)約520 μm
角膜全体厚(別の記載)約550 μm
上皮約50 μm(全体厚の10%)
実質約500 μm(全体厚の90%)
内皮約5 μm
Bowman膜約10 μm
周辺部(成人)0.7〜0.9 mm

上皮 : 実質 : 内皮の厚さの比は 0.1 : 1 : 0.01 である。

新生児の角膜厚は出生時0.96 mm、翌日611 μm、3日目580 μm と急速に減少し、生後6カ月で成人レベルの0.5 mmに達する。

  • I型コラーゲン:約80%
  • III型コラーゲン:約10%
  • V型コラーゲン:約5%
  • コラーゲン線維の配列間隔:約64 nm
  • 角膜実質の含水率:78%

角膜内皮細胞は生体内では分裂増殖せず、加齢に伴い減少する。

指標
生下時の角膜内皮細胞密度約5,000 cells/mm²
幼児期の角膜内皮細胞密度3,500 cells/mm²
高齢者の角膜内皮細胞密度2,500〜3,000 cells/mm²
加齢減少率毎年0.3〜0.7%(約0.6%/年)
水疱性角膜症閾値500 cells/mm²以下

内皮細胞の正常面積は約300 μm²、厚みは4〜6 μmである。形態評価の指標として、変動係数(CV値)の正常値は0.25程度で0.35以上が異常、六角形細胞出現率は正常で70〜80%、50%以下が異常とされる。

角膜上皮のターンオーバーは約1週間である。

加齢とともに角膜厚が増加することは証明されていない。加齢による角膜の変化としては、老人環・血管侵入・倒乱視化が挙げられる。

Q 角膜内皮細胞密度はなぜ重要なのか?
A

角膜内皮細胞はポンプ機能により角膜の含水率を一定に保ち、透明性を維持する。生体内では分裂増殖しないため、加齢や手術侵襲で減少すると回復しない。500 cells/mm²以下になると水疱性角膜症を発症し、角膜は浮腫・混濁を来す。

強膜は眼球外壁の約5/6を占める。部位により厚さが大きく異なる。

部位厚み
視神経乳頭周囲(最厚部)約1 mm
角膜輪部0.8 mm
赤道部0.6 mm
直筋付着部(最薄部)0.3 mm

小児の赤道部強膜厚は0.45 mmと成人の1.09 mmに比べ薄く、乳幼児では高眼圧により拡張しやすい(牛眼)。

強膜を貫通する主な構造物は以下の通りである。

  • 主要渦静脈:各象限に1つ、計4本
  • 短後毛様体動脈・神経:約20本
  • 長後毛様体動脈・神経:3時・9時の水平部に2本

前房の容積

前房深度:3.6 mm(Gullstrand模型眼)

前房容積:160〜200 μL

房水更新時間:約60〜70分で全量置換

房水の産生

日中の分泌量:約2.5〜3.0 μL/min

夜間の分泌量:約1.5 μL/min(覚醒時の約50%に低下)

能動輸送:房水産生の80〜90%を占める

房水産生量は加齢に伴い10歳ごとに3.2%減少する。日本人の眼圧が加齢で低下する一因とされる。

房水の流出経路は、経Schlemm管流出路が総流出量の90%を占める主経路である。

  • 角膜実質の膨潤圧:約50 mmHg
  • 健常眼の吸水圧(IP):約35〜45 mmHg(陰圧)
  • 薄い角膜厚・フラットな角膜では眼圧は低く測定される
  • ノンコンタクト眼圧計:18 mmHg以上はGoldmann圧平眼圧計での確認が必要
  • 早発型発達緑内障の診断基準:角膜径 12 mm以上、催眠下眼圧 15 mmHg以上
  • 眼圧 15〜20 mmHgでも角膜径増大が顕著なら手術適応を検討
  • 生後6カ月までに60%、1歳までに80%が診断される

5. 水晶体・毛様体・硝子体の数値

Section titled “5. 水晶体・毛様体・硝子体の数値”

眼球全体の屈折力約58 Dのうち、水晶体の屈折力は約15〜20 D(Gullstrand模型眼では19.11 D)を担う。水晶体は生涯にわたり増大し続ける。

時期水晶体直径
生下時6.00 mm
2カ月6.80 mm
3カ月7.1 mm
6〜9カ月7.66 mm
1歳9カ月8.4 mm
2〜5歳8.5 mm
16歳9.3 mm

水晶体直径は眼軸長と最もよく相関する。

毛様体筋は輪状筋(Muller筋)、斜走筋(放射状筋)、縦走筋(Brucke筋)の3層からなる。

  • 毛様体ひだ部後端(成人):角膜輪部から 2〜2.5 mm
  • 毛様体扁平部後端(鋸状縁:鼻側 5 mm、耳側 7 mm、平均 6 mm(角膜輪部から)
  • 扁平部の幅:角膜輪部から約2.5〜5.5 mm幅
  • IOL毛様溝縫着の通糸距離:角膜輪部から 1.2〜2.0 mm(Ab externo法)
  • 前毛様体動脈:外直筋 1本、他の3直筋は各2本、計7本
  • 硝子体容積:約4 mL(眼球全体容積の約8割)
  • 硝子体皮質の厚み:100〜300 μm
  • 硝子体基底部の位置:鋸状縁の前方1〜2 mmと後方2〜3 mm

硝子体は加齢に伴い液化が進行する。14〜18歳で全体の約20%、80〜90歳で50%以上が液化する。部分後部硝子体剥離(後部硝子体剥離)から完全後部硝子体剥離への進展ピークは50〜60歳代である。

Q 硝子体注射はなぜ角膜輪部から3.5〜4 mmで刺入するのか?
A

毛様体扁平部の解剖に基づく。ひだ部(角膜輪部から2〜2.5 mm)を避け、かつ鋸状縁(平均6 mm)より前方で安全に刺入するため、3.5〜4.0 mmの位置が選択される。有水晶体眼では水晶体との接触を避けるためやや後方(4 mm)とする。

  • 杆体細胞数(1眼あたり):約1億個
  • 錐体細胞数(1眼あたり):600〜700万個
  • 視細胞外節の円板膜:1,000〜2,000枚を持ち、毎日約10%を脱落・排出する
  • 内境界膜の厚み:後極部 2.5〜3.5 μm、周辺部 1.5 μm
  • 網膜血管の発達開始:胎生14〜15週に乳頭部から始まり、周産期まで周辺部に到達

中心小窩

直径:300〜500 μm

網膜厚(組織学):0.13 mm

網膜厚(光干渉断層計:0.18〜0.2 mm

発達の時期

黄斑形成開始:胎生7カ月頃

中心窩の完成:生後4カ月頃

黄斑の成熟:生後15カ月でほぼ成熟、5歳頃まで成熟化が続く

岸ポケットは3歳頃に出現し、Cloquet管との連絡通路は5歳から観察され、11歳で50%に認められる。

  • 強度近視眼(眼軸長26.5 mm以上)の中心窩下脈絡膜:約50 μm
  • 脈絡膜厚減少の最大因子:眼軸長の増大(加齢や近視そのものよりも有意)

視神経の全長は約50 mmで、以下の4部位に区分される。

部位長さ
眼内1 mm
眼窩内25〜30 mm
視神経管内4〜10 mm(約6 mm)
頭蓋内10 mm
  • 視神経乳頭の直径:約1.5 mm
  • 視神経の太さ:約4 mm(眼球後部で約3 mm、後篩状板部で有髄化により約2倍に増大)
  • 神経線維の総数:100万〜120万(約90%は小径線維)
  • 乳頭黄斑線維:全神経線維の約1/3を占める
  • 眼球後方〜眼窩先端部の距離:約20 mm(眼窩内視神経は25 mmあり、約5 mmの余裕がある)
  • 網膜中心動脈が視神経に入る位置:眼球後方約12 mm
  • 毛様体神経節:眼球より1 cm後方、視神経の外側、径2〜3 mm
  • 視神経軸索数の最大時期:胎生16〜17週(以降減少し29週頃に一定となる)
  • 視神経の有髄化完成:2歳頃(脳から眼球方向に進行し、篩状板で停止)
Q ヒトの網膜に視細胞はどのくらいあるのか?
A

1眼あたり杆体細胞が約1億個、錐体細胞が600〜700万個存在する。杆体は暗所視(薄暮視)を、錐体は明所視と色覚を担う。視細胞の外節は1,000〜2,000枚の円板膜を持ち、毎日約10%が網膜色素上皮により貪食・更新される。

4直筋の筋長はいずれも約40 mmで、角膜輪部からの付着距離が異なる(Tillauxのらせん)。

外眼筋腱長(mm)輪部からの距離
内直筋(MR)3.75.5 mm
下直筋(IR)5.56.5 mm
外直筋(LR)8.86.9 mm
上直筋(SR)5.87.7 mm

下斜筋の筋長は36 mm(腱 <1 mm)、上斜筋は筋長60 mm(腱30 mm)。

  • 4直筋の付着部幅:約10 mm(内直筋10.3、下直筋9.8、外直筋8.8、上直筋10.8)
  • 4直筋の神経分布位置:付着部から26 mm後方
  • 外眼筋と外眼筋の間の距離:約10 mm
  • Tillauxのらせん距離:80 mm
  • 上眼瞼挙筋:筋部分約40 mm、腱部分14〜20 mm
  • 直筋の走行と作用:23°外転で上転・下転が最大、67°内転で回旋が最大
  • 斜筋の作用:39°外転で回旋作用最大、51°内転で上転/下転が最大
  • 眼窩内壁(篩骨、涙骨、上顎骨、蝶形骨小翼):4方向で最も薄い壁
  • 後篩骨孔の約6 mm後方に視神経管が始まる
  • 眼窩縁の鼻側から深部4 mmに滑車が存在
  • 眼窩容積は成長とともに拡大する
  • 上眼瞼縁・角膜反射間距離(MRD1):通常 5.0〜5.5 mm
  • 下眼瞼縁が角膜輪部下縁を覆う幅:通常 2.0 mm
  • マイボーム腺開口部:上眼瞼 25〜40本、下眼瞼 20〜30本

涙液は眼表面の保護・光学面の維持に不可欠な薄い液体層である。

  • 涙液層の厚み:約3〜7 μm
  • 涙液の分布:眼表面涙液層 1.1 μL、涙液メニスカス 2.9 μL(露出涙液の75%)、結膜囊 4.5 μL
  • 涙液分泌量:毎分1〜2 μL
  • 排出経路:90%は涙点より排出、10%は眼表面より蒸発

涙道の寸法は以下の通りである。

  • 涙点(涙小管乳頭部・狭窄部):約1 mm
  • 涙小管垂直部:約1.4 mm
  • 涙小管水平部:約10 mm
  • 総涙小管:約2 mm
  • 涙囊の長さ:15 mm(内総涙点〜円蓋部 5 mm、内総涙点〜鼻涙管移行部 10 mm)
  • 膜性鼻涙管の長さ:17 mm
  • 涙囊・鼻涙管上皮は涙液の90%を吸収する
発達指標時期・値
新生児の屈折値(1カ月)平均 +3.2 D
3カ月児の屈折値平均 +3.9 D
1歳児の屈折値平均 +1.9 D
視覚の感受性ピーク1歳6カ月頃(8歳まで残存)
正常両眼視の完成生後2〜6カ月
立体視の発達24カ月頃まで
色覚の確認4週で少数、12週で全児

新生児の屈折値は生後3カ月まで遠視が増加し(+3.2 D → +3.9 D)、その後は減少に転じて正視化が進む。

出生4週以内の新生児の眼位は大半が正位であり、その他は小角度の外斜視を呈する。4カ月までに眼位は正位、輻湊良好となる。乳児の両眼視野は出生直後から7週まで緩徐に発達し、生後2カ月〜6〜8カ月まで急速に拡大する。

組織・構造発達時期
前房隅角の形成胎生10〜12週
Schlemm管の出現胎生16週
隅角の完成胎生8カ月頃
角膜内皮の分化開始胎生8〜10週
角膜内皮1層の完成胎生15〜20週
黄斑の形成開始胎生7カ月頃
中心窩の完成生後4カ月頃
網膜血管の発達開始胎生14〜15週
外眼筋の発生胎生4週
涙腺の発生胎生7週
涙腺からの分泌開始胎生3カ月
視神経の有髄化完成2歳頃

視神経の有髄化は脳から眼球方向に進行し、篩状板で停止する。涙腺の発達は乳幼児期まで続く。