男性の表現型
すりガラス状角膜混濁:乳白色のびまん性角膜混濁。先天性で両側性。
月面クレーター様内皮変化:直接照明下でピット状のくぼみとして観察される。
眼振:先天性角膜混濁による視覚遮断に伴う。
上皮下帯状角膜変性:成人期に周辺部角膜から進行する晩期所見。

X連鎖角膜内皮ジストロフィ(X-linked endothelial corneal dystrophy: XECD)は、IC3D分類における後部角膜ジストロフィの一亜型である。X-chromosomal dominantの遺伝形式を示す。びまん性のすりガラス状角膜混濁を特徴とし、表現型は性別により大きく異なる。
2006年にオーストリア西部・北チロル地方で行われた家系調査により、7世代にわたる単一の大家系が報告された。これが現在までに知られる唯一の報告例である。家族記録に基づき第I〜III世代の9名が罹患と判断され、第IV世代以降の88名が細隙灯顕微鏡検査で診断された。発端者は全身麻酔下で観察された1歳の男児であった。
家系分析により、罹患した父親がすべての娘に疾患を伝達し、息子には決して伝達しないことが確認された。この父子非伝達パターンがX連鎖遺伝の根拠である。有病率は不明で、上記家系以外の報告はない。
XECDの自覚症状は性別によって大きく異なる。
男性の表現型
すりガラス状角膜混濁:乳白色のびまん性角膜混濁。先天性で両側性。
月面クレーター様内皮変化:直接照明下でピット状のくぼみとして観察される。
眼振:先天性角膜混濁による視覚遮断に伴う。
上皮下帯状角膜変性:成人期に周辺部角膜から進行する晩期所見。
女性の表現型
月面クレーター様内皮変化:角膜中央部〜中間周辺部にピット状のくぼみを認める。徹照法でも確認される。
視力障害なし:角膜透明性は保たれ、視機能に影響しない。
18歳男性の報告例では、両側性の乳白色すりガラス状角膜混濁に加え、眼振と著しい視力低下を認めた。一方、この患者の母親は月面クレーター様内皮変化のみを呈し、視覚的な訴えはなかった。先天性角膜混濁を有する患者の両親を臨床評価することで、角膜内皮ジストロフィの診断が可能となる場合がある。
XECDはX連鎖優性遺伝であるため、男性はX染色体を1本しかもたず変異の影響を全面的に受ける。女性はもう1本の正常X染色体が部分的に代償するため、内皮変化は軽微にとどまると考えられている。
XECDの原因はX染色体上の遺伝子変異である。X染色体全体の25個の多型マーカーを用いた連鎖解析により、Xq25領域(14.79メガベース)への連鎖が確認された。
この領域には181個の遺伝子が含まれる。内訳は以下の通りである。
しかし、原因遺伝子は現時点で同定されていない。遺伝形式はX連鎖優性であり、罹患男性から息子への伝達は生じない。
散瞳下での直接照明および徹照法が基本的な診察法である。月面クレーター様の内皮変化は角膜内皮面にピットまたは小さなくぼみとして観察される。男性では加えてすりガラス状角膜混濁と帯状角膜変性の有無を評価する。
角膜ボタンのLM検査で以下が確認される。
TEMではより詳細な構造異常が描出される。
XECDと鑑別を要する内皮ジストロフィを以下に示す。
| 疾患 | 遺伝形式 | 特徴的所見 |
|---|---|---|
| FECD | 常染色体優性 | 滴状角膜(guttae)、女性優位 |
| CHED | 常染色体劣性 | 新生児角膜混濁、SLC4A11変異 |
| PPCD | 常染色体優性 | 内皮化生、デスメ膜小水疱 |
FECDは常染色体優性遺伝で女性に多く、角膜中央部の規則的な滴状角膜(guttae)が特徴である。XECDはX連鎖優性遺伝で男性が重症化し、滴状角膜ではなく月面クレーター様のピット状変化を呈する。家族歴の聴取が鑑別に有用である。
XECDは極めて稀であるため、最適な治療法は確立されていない。角膜ジストロフィの進行を遅らせる薬物療法は存在しない。
女性キャリアなど無症状例は定期的な経過観察のみで治療は不要である。
再発性角膜びらんを生じた場合は以下の対症療法が選択される。
重度の視力障害を有する男性には全層角膜移植が適応となる。オーストリアの家系では、1973年に左眼の全層角膜移植を受けた63歳男性が2003年の最終検査時まで移植片の透明性を維持していた。すなわち30年間にわたり再発がなかった。
XECD自体での全層角膜移植後再発の報告はなく、30年間透明性を維持した例がある。ただし類似疾患のPPCDでは再発が報告されており、長期経過観察が重要である。
角膜内皮は角膜最後面に位置し、選択的バリア機能とイオンポンプ機能により角膜実質の含水率を一定に保つ(脱水維持機能)1)。この機能が破綻すると角膜実質が浮腫をきたし、混濁が生じる。
XECDの最も特徴的な病理所見はデスメ膜の構造異常である。正常なデスメ膜は前帯状層(ABL)と後非帯状層(PNBL)の二層構造からなる2)。
XECDでは以下の構造変化がTEMで確認されている。
比較として、FECDのデスメ膜は正常ABLに加え、PNBL の菲薄化または消失、後帯状層(PBL)と滴状角膜(guttae)の出現を特徴とする2)。XECDとFECDはいずれもデスメ膜の層構造異常を呈するが、パターンは異なる。
XECDでは内皮細胞層が不連続となり、部分的に正常な細胞と変性した細胞が混在して数層を形成する。細胞質突起を伴い、一部の細胞には頂端微絨毛が認められるが、デスモソーム様接着装置やトノフィラメント束は確認されていない。この所見はPPCDに見られる上皮様化生とは異なる特徴である。
成人期に周辺部角膜から始まる上皮下帯状角膜変性は、上皮下への無定形顆粒状物質の蓄積による。ボウマン層の菲薄化と不規則化が進行し、前部実質のコラーゲン層板配列の乱れを伴う。この変化は緩徐進行性で、断続的に角膜混濁を増悪させる。
XECDの最大の研究課題は原因遺伝子の同定である。候補領域(Xq25、14.79 Mb)には72遺伝子が存在し、うち7つが転写因子をコードする。次世代シーケンシングの進展により、候補遺伝子の絞り込みが期待される。
他の角膜内皮ジストロフィでは遺伝子同定が進んでおり、FECDではTCF4遺伝子のCTG三塩基反復配列伸長が最も一般的な原因変異として同定されている2)。CHEDではSLC4A11、PPCDではZEB1・COL8A2などの責任遺伝子が判明している。これらの知見はXECDの遺伝子探索においても参考となる。
現時点ではXECDに対する標準術式は全層角膜移植であるが、角膜内皮移植術(DSAEK、DMEK)の技術的進歩が著しい。FECDに対してはDMEKが良好な視力予後を示している2)。将来的にこれらの術式がXECDにも応用される可能性がある。ただし、XECDでは幼小児での手術適応が問題となるため、術式の小児への適用に関するさらなる検討が必要である。