臨床診断
病歴聴取:硝子体手術歴、SOタンポナーデの有無、留置期間を確認する。
細隙灯顕微鏡検査:帯状角膜変性、角膜浮腫、内皮面の混濁、前房内のSO滴を観察する。SOは角膜浮腫の原因として認識されている1)。

シリコーンオイル角膜症(silicone oil keratopathy)は、硝子体手術における眼内タンポナーデ物質として使用されるシリコーンオイル(SO)が、角膜内皮に接触・沈着・乳化することで生じる角膜代償不全である。乳化オイル角膜症(emulsified oil keratopathy)とも呼ばれる。
SOは無色透明で粘度900〜1,250mm²/秒の疎水性液体であり、化学的・生物学的に不活性なため長期の眼内タンポナーデが可能である。増殖硝子体網膜症、黄斑円孔網膜剥離、難治性網膜剥離の治療に用いられる。しかし角膜内皮にSOが接触すると内皮障害が生じ、初期には帯状角膜変性が起こり、内皮障害が進行すると水疱性角膜症に至る1)。
SO角膜症の発症率は6〜9.4%と報告されている。開放性眼外傷後にSOタンポナーデを施行した患者では28%に達するとする報告もある。
SOが前房内に移動して角膜内皮に直接接触すると、内皮細胞に機械的外傷を与える。また房水がSOに置換されると内皮への酸素・栄養供給が遮断される。さらにSOの乳化により微小オイル滴が角膜実質に浸透し、組織障害を引き起こす。
硝子体手術後のSOタンポナーデに起因する。SOが前房内に移動し角膜内皮に接触することが直接的原因である。SOの乳化も重要な病因であり、乳化した微小オイル滴が角膜実質に浸透する。
| リスク因子 | 機序 |
|---|---|
| 無水晶体眼 | 水晶体バリアの欠如によりSOが前房に移動しやすい |
| 長期留置(6か月以上) | 内皮への接触時間が延長する |
| SO注入量過多 | 前房内へのSO移動リスクが増加する |
| 開放性眼外傷(ゾーンIII) | 広範な組織損傷に伴い角膜症リスクが上昇する |
SOは有水晶体眼では高率に白内障を生じる。無水晶体眼ではSOによる瞳孔ブロックで眼圧が上昇するため、予防として6時の位置に周辺虹彩切除を行う。乳化したSOが線維柱帯に詰まることによっても眼圧が上昇する2)。
SOの前房への移動は線維柱帯の閉塞をもたらし、乳化SOはマクロファージに貪食されて線維柱帯に蓄積し線維柱帯炎を誘発する2)。SOと線維柱帯の長期接触は恒久的な構造変化を引き起こしうる2)。
添付文書上は充填後に網膜が安定した後、1年以内の適切な時期に抜去されるべきとされている。しかし再剥離リスクが高い症例や低眼圧による眼球癆の危険がある症例ではSOを抜去できない場合もある。症例ごとに抜去の利益とリスクを十分に検討して判断する。
臨床診断
病歴聴取:硝子体手術歴、SOタンポナーデの有無、留置期間を確認する。
細隙灯顕微鏡検査:帯状角膜変性、角膜浮腫、内皮面の混濁、前房内のSO滴を観察する。SOは角膜浮腫の原因として認識されている1)。
画像・特殊検査
前眼部OCT(AS-OCT):角膜の肥厚、実質内の高反射ドット、円形/楕円形の低反射スペースを描出する。
生体共焦点顕微鏡:基底上皮の線維化変化、角膜実質細胞密度の減少、内皮細胞の多形性・大小不同の増加、炎症細胞を確認する。
帯状角膜変性の他の原因(慢性ぶどう膜炎、高カルシウム血症、眼球癆など)を除外する必要がある。
無症状で軽度の場合は経過観察が可能である。角膜症は進行性となりうるため、二次感染の監視が必要である。
軽度の眼刺激症状や異物感に対して、包帯コンタクトレンズや高張食塩水点眼を用いる。内皮代償不全に対する一般的な保存的管理と同様である。
全層角膜移植は角膜代償不全に対して施行されるが、移植片の平均生存期間は21〜25か月と限られている。SOを角膜移植の前または同時に除去することで移植片の予後が改善する。SOが留置されたままの移植は予後不良となりやすい。
SOが前房内に移動し角膜内皮に直接接触すると機械的外傷が生じる。特に仰臥位でSOが角膜内皮面に浮上するため接触リスクが高まる。無水晶体眼では水晶体バリアがないため、SOの前房移動が容易に起こる。数週間から数か月の接触で内皮細胞数は減少する。
角膜内皮は血流を持たず、酸素とグルコースを房水の産生と循環から得ている。房水が完全にSOに置換された場合、内皮細胞は酸素飢餓に陥る。房水の流れの減少は液体のpHを変化させ、SOの乳化を促進する可能性がある。
SOの乳化は多因子的な現象である。オイル自体の界面張力や粘度に加え、眼球運動による剪断力が乳化を促進する。乳化したSOの微小滴は角膜実質に浸透し、組織病理学的にはマクロファージに囲まれた局所的な実質内シリコーンオイル空胞として観察される。Descemet膜の不整や角膜後膜の形成も認められる。
角膜抵抗因子(CRF)と角膜ヒステレシス(CH)は、SOタンポナーデ施行眼で術後に有意に低下する。この知見は、SOが角膜のバイオメカニクス特性に影響を与えることを示唆している。
SOの乳化とは、眼球運動による剪断力や界面張力の変化により、SOが微小な液滴に分離する現象である。乳化した微小SOは線維柱帯に詰まり眼圧上昇を引き起こしたり、角膜実質に浸透して組織障害を生じたりする。乳化は長期留置や手術操作により促進される。