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角膜・外眼部疾患

涙点焼灼術

涙点焼灼術(punctal cauterization)は、熱焼灼(thermocautery)または電気焼灼(electrocautery)を用いて涙点および垂直涙小管を外科的に閉鎖する永久的涙点閉鎖法である。涙点を閉鎖することで涙液の排出を遮断し、眼表面における涙液の量と保持時間を増加させて眼表面疾患を治療する。

涙点焼灼術は1934年にBeethamにより初めて報告された。1978年にはDohlmanが乾性角結膜炎に対するジアテルミーによる涙点閉鎖を報告し、その後現代的な焼灼装置により手技が洗練されてきた。

涙点閉鎖法には涙点焼灼術のほか、溶解性涙点挿入物、シリコン製涙点プラグ、アルゴンレーザー光凝固、外科的涙点・涙小管閉鎖術がある。現在、プラグによる涙点閉鎖が最も一般的に行われているが、プラグの脱落を繰り返す重症例では涙点焼灼術が有用な選択肢となる2)

Q 涙点焼灼術と涙点プラグの違いは何ですか?
A

涙点プラグはシリコンやコラーゲン製の小片を涙点に挿入する一時的〜半永久的な閉鎖法であり、脱落や交換が可能である。一方、涙点焼灼術は焼灼により永久的に涙点を閉鎖する処置であり、原則として不可逆的である。プラグの保持が困難な患者やプラグに耐えられない患者に涙点焼灼術が選択される。

点涙点焼灼後のフルオレセイン染色像
点涙点焼灼後のフルオレセイン染色像
Kuroda K, Toshida H, Sorita Y, et al. Surgical Punctal Occlusion; Combined Lacrimal Canaliculi Cauterization and Punctal Suturing for Severe Dry Eye. Journal of Ophthalmic & Vision Research. 2023 Apr 19; 18(143):$2. Figure 3. PMCID: PMC10172797. License: CC BY.
フルオレセイン染色で、点状上皮障害が術後に改善する様子を前後で比較している。涙液保持の改善が角膜上皮所見にどう反映されるかを示す補助画像である。

涙点焼灼術は涙液減少型ドライアイ(aqueous-deficient dry eye)に関連する眼表面疾患に対して用いられる。

  • シェーグレン症候群(SS):涙液分泌が高度に低下し、点眼では水分量を確保できない重症例で涙点閉鎖術の適応となる
  • 眼移植片対宿主病(GVHD):涙点焼灼術の最も多い適応のひとつ2)
  • Stevens-Johnson症候群(SJS)/中毒性表皮壊死症(TEN):慢性期の重篤なドライアイに対して適応
  • 粘膜類天疱瘡(MMP):瘢痕性疾患に伴う涙液減少型ドライアイ
  • その他:放射線角膜炎、神経栄養性角膜炎再発性角膜びらんなど
  • Schirmer値が一桁台前半の高度な涙液分泌減少を示す患者
  • 一時的な涙点挿入物で良好な効果が得られ、より永続的な閉鎖を希望する患者
  • シリコン製涙点プラグの保持が困難な患者(繰り返しの脱落)
  • プラグの存在に耐えられない(不快感がある)患者

涙点焼灼術は、溶解性涙点挿入物による試験的閉鎖で症状が改善し流涙を生じないことを確認した上で施行するのが一般的である2)

涙点焼灼術は外来診療の場で施行可能である。上下の涙点を1回のセッションで治療することも、効果を調整するために1箇所ずつ治療することもできる。

  1. 点眼麻酔:プロパラカインまたはテトラカインを点眼。リドカインゼリーを涙点に直接塗布する
  2. 消毒:ポビドンヨード液で眼瞼・眼を洗浄
  3. 局所注射麻酔:内眥および涙点周囲にエピネフリン抜きの1〜2%リドカインを皮下注射し、約5分間待つ
  4. 焼灼:使い捨てハンドヘルド型低温焼灼器のチップを涙点から垂直涙小管内へ挿入し、徐々に引き抜きながら短いパルス状の焼灼を繰り返す。全工程は通常15〜20秒以内で終了する
  5. 終点:涙点の白変(whitening)と収縮(shrinkage)が焼灼の終点である
  6. 後処置:抗菌軟膏(エリスロマイシン等)を塗布し、1週間の継続を指示する

涙小管や涙点の過剰焼灼は避ける。焼灼された組織にチップが絡まり、組織損傷を引き起こすリスクがある。

熱焼灼法

使い捨て熱焼灼器:高温チップを涙点・涙小管に直接挿入する。OPTEMP II V(590〜690°C)を用いた報告では再疎通率0〜1.4%と低い1)

高周波単極焼灼器:手術室の電気メスを使用する。再疎通率は9.7%と報告されている1)

外科的閉鎖法

涙小管焼灼+縫合閉鎖:ダイヤモンドバーまたは焼灼で涙小管上皮を除去し、6-0 vicrylで閉鎖する。再疎通率5〜8%1)

組織充填法:涙丘から採取した線維組織で焼灼後の涙小管を充填する。再疎通率8%1)

涙点スイッチグラフト:涙点隣接の眼瞼縁上皮を180°回転して涙点を覆う。再疎通率9%1)

Ranjanらのシステマティックレビュー(9研究、150名)では、使い捨て熱焼灼チップを涙点に直接挿入する方法が高周波単極焼灼よりも再疎通率が低いことが示された1)

涙点焼灼術はドライアイの自覚症状と客観的指標の両方を改善する1)2)

熱焼灼法と外科的閉鎖法の転帰を以下に示す。

指標熱焼灼法外科的閉鎖法
Schirmer改善+2.5 mm+2.1 mm
TBUT改善+0.8秒+0.6秒
再疎通率0〜38.7%5〜9%

両手法間でSchirmer値(P=0.17)、TBUT(P=0.18)、再疎通率(P=0.22)に統計的有意差はみられなかった1)

TFOS DEWS III報告によると、80名の涙点焼灼術の後方視的検討で54%の患者が自覚症状の有意な改善を報告し、19%で角膜染色の重症度が低下した。全体の再疎通率は21%で、ステロイド点眼の使用が再疎通率を高めた(30% vs 15%、P=0.0003)2)

瘢痕性疾患65名を対象とした検討では、涙点焼灼後の再疎通率はわずか11%であり、基礎疾患に伴う線維化が閉鎖維持に寄与した可能性がある2)

Q 涙点焼灼術は元に戻せますか?
A

涙点焼灼術は原則として永久的・不可逆的な処置である。ただし再疎通(焼灼した涙点が再び開通すること)は0〜38.7%の頻度で生じる。万一流涙が問題となった場合、臨床的な涙点の再疎通は必ずしも正常な涙液排出を意味するわけではない。

涙点焼灼術は全般に患者の忍容性が高く、合併症は少ない。

  • 一過性の疼痛・腫脹:処置後に生じうる。通常は自然軽快する
  • 流涙(epiphora):すべての涙点閉鎖法に共通する合併症。事前の試験的閉鎖による適切な患者選択で予防可能
  • 肉芽腫:露出強膜上や焼灼部位に形成されることがある。発生頻度は1.7%と報告されている1)
  • 涙嚢炎:稀な合併症として報告がある
  • 再疎通:焼灼後の最も頻度の高い問題であり、再焼灼の適応となる

6. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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Ranjanらのシステマティックレビューでは、涙点焼灼術に関する9研究すべてが単群試験(比較対照群なし)であり、メタアナリシスは実施不能であった。ランダム化比較試験(RCT)が存在しないことが最大の課題であり、涙点焼灼術の真の効果を確認するためにはRCTが必要であると結論づけた1)

  • 涙点プラグとの比較試験:永久的涙点プラグと焼灼術の再開通率・有効性の直接比較
  • 焼灼装置間の比較:使い捨て熱焼灼器、高周波単極焼灼器、外科的閉鎖法の再疎通率の差異の解明1)
  • 術後抗炎症薬の影響:ステロイド点眼が再疎通率を高める可能性が指摘されており、シクロスポリン点眼との比較が検討されている2)
  • 疾患別の転帰分析:ADDEの病因(SS、GVHD、SJS等)による治療反応の差異
Q 涙点焼灼術後に流涙が起こることはありますか?
A

流涙はすべての涙点閉鎖法に共通する合併症であるが、術前に溶解性涙点挿入物による試験的閉鎖で流涙が生じないことを確認すれば、焼灼後も流涙を来す可能性は低い。涙液分泌が高度に低下した患者ではさらにリスクは低い。


  1. Ranjan A, Basu S, Singh S. Punctal cautery in dry eye disease: A systematic review. Ocul Surf. 2024;34:235-240.
  2. TFOS DEWS III Management and Therapy Report. Am J Ophthalmol. 2025.

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