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角膜・外眼部疾患

パリノー眼腺症候群

パリノー眼腺症候群(Parinaud oculoglandular syndrome: POGS)は、片側性の肉芽腫性濾胞性結膜炎と、同側の局所リンパ節腫脹(耳前・耳下・顎下・頸部)を特徴とする臨床症候群である。

最も一般的な原因は猫ひっかき病(cat scratch disease: CSD)である。CSDは、グラム陰性桿菌のBartonella henselaeが猫のひっかき傷や咬傷、ノミの刺咬部位から侵入して発症する人獣共通感染症であり、CSD患者の5〜7%にPOGSが発生する。

本症候群を引き起こす原因微生物は多岐にわたるが、大多数は猫ひっかき病によるものであり、予後は一般に良好である。全身・眼病変ともに1〜2か月で自然治癒することが多い。

Q 猫ひっかき病はどのようにして眼に感染しますか?
A

B. henselaeは猫に引っかかれた手で眼を触る「手から眼への接触」が主な感染経路である。直接的な猫の引っかき傷から発症することは眼腺型では稀である。エアロゾル化した猫ノミの糞便も伝播経路の一つとして提唱されている。

  • 充血・眼脂:少量〜多量の漿液性・粘液性分泌物を伴う
  • リンパ節の腫脹・圧痛:耳前・耳下・顎下・頸部のリンパ節が有痛性に腫脹する
  • 微熱:全身症状として認めることがある
  • 疼痛:疼痛を自覚しないことも多い
  • 肉芽腫性濾胞性結膜炎:片側性。結膜に肉芽腫性の濾胞を認める。POGSの主要所見
  • 結膜肉芽腫・結節:肉芽腫を覆う結膜潰瘍を伴うことがある
  • 結膜膿瘍・潰瘍:結膜に膿瘍や潰瘍を認めることがある
  • 眼窩周囲浮腫:軽度の浮腫を伴う場合がある

同側の耳前・耳後・顎下・頸部リンパ節の有痛性腫脹が特徴的である。若年患者は頸部リンパ節腫脹を呈しやすく、15歳以上では鼠径部や腋窩のリンパ節腫脹を呈する傾向がある。

POGSに加え、CSDは以下の眼合併症を引き起こすことがある。

  • 神経網膜炎(neuroretinitis)視神経乳頭浮腫と星芒状白斑(star figure)が特徴的。Leber特発性星芒状視神経網膜症との鑑別が必要
  • ぶどう膜炎脈絡膜
  • 網膜動脈分枝閉塞症
  • 急性眼内炎

猫ひっかき病(最多)

病原体Bartonella henselae(グラム陰性桿菌)

媒介動物:猫(特に幼猫)、犬、猫ノミ、スナバエ

潜伏期間:3日〜3週間

野兎病

病原体Francisella tularensis(グラム陰性球桿菌)

媒介動物:ウサギ、リス、ダニ、蚊

潜伏期間:2〜5日(稀に3週間)

スポロトリコーシス

病原体Sporothrix schenckii(二形性真菌)

感染源:土壌・植物有機物、感染動物

好発地域:ブラジル・ペルーなど熱帯・亜熱帯地域

その他の原因として、結核、梅毒、コクシジオイデス症サルコイドーシス、単純ヘルペス、軟性下疳、ハンセン病、リステリア症、ムンプスなどが報告されている。

  • 猫との接触歴:ひっかき傷・咬傷がなくても発症しうる。小児や獣医関係者に多い
  • 屋外活動:ハンター、キャンパー、食肉取扱者は野兎病のリスクが高い
  • 園芸・農業:土壌・植物との接触によりスポロトリコーシスのリスクがある
  • 免疫不全:HIV感染者などでは重症化しやすい
Q 猫を飼っていれば必ず感染しますか?
A

猫を飼育しているだけで感染するわけではない。B. henselaeを保有する猫に引っかかれるなどの直接的な接触が必要である。幼猫は保菌率が高く、ノミが媒介するため、定期的なノミ駆除が有効な予防策となる。

Parinaud Oculoglandular Syndrome image
Parinaud Oculoglandular Syndrome image
Michele Shi-Ying Tey, Gayathri Govindasamy, Francesca Martina Vendargon The clinical spectrum of ocular bartonellosis: a retrospective study at a tertiary centre in Malaysia 2020 Nov 16 J Ophthalmic Inflamm Infect. 2020 Nov 16; 10:31 Figure 5. PMCID: PMC7667203. License: CC BY.
上眼瞼結膜にみられる限局性肉芽腫と、その周囲の乳頭反応を示す写真である。結膜充血を伴う肉芽腫性病変がパリノー眼腺症候群の局所所見を示している。

動物接触歴(猫・犬・ウサギ・ダニ)、屋外活動歴、旅行歴、職業歴の問診が最重要である。

原因推奨検査判定基準
猫ひっかき病血清学(IgM・IgG)IgM≥1:20, IgG≥1:256
野兎病血清学力価>1:128で感染示唆
スポロトリコーシス培養(サブロー培地)真菌の同定
  • 血清学的検査:最も頻用される。IgM力価1:20以上、IgG力価1:256以上で活動性感染を示唆する。IgG力価1:512は最近の感染を強く示唆する。急性期と回復期でIgG力価の4倍上昇があれば確定的
  • Warthin-Starry銀染色:結膜擦過検体中のB. henselaeが褐色に染まる。生検組織ではSteiner銀染色やBrown-Hopp染色も使用可能
  • PCR:感度・特異度に優れるが、培養は困難であり長期間を要する
  • 一般検査:赤沈、CRP、梅毒血清反応を併せて確認する
  • アデノウイルス結膜炎:濾胞性結膜炎を呈するが肉芽腫は形成しない
  • 結核性結膜炎:慢性肉芽腫性炎症。ツベルクリン反応・IGRA検査で鑑別する
  • 梅毒性結膜炎:梅毒血清反応(脂質抗原法・TP抗原法)で診断する

CSDは自己限定性疾患であり、基本的には支持療法である。

  • 軽症例:経過観察と二次感染予防の広域抗菌薬点眼。数週間の経過観察で自然軽快する
  • 中等症〜重症例・免疫不全例:全身的な抗菌薬投与を行う
    • アジスロマイシン:マクロライド系。小児にも使用しやすい
    • ドキシサイクリン:テトラサイクリン系。成人の第一選択肢の一つ
    • トリメトプリム/スルファメトキサゾール:併用療法として用いる
    • シプロフロキサシン:ニューキノロン系
    • リファンピシン:重症例での併用薬
  • 治療期間は患者の臨床経過により個別化する
  • 重症例:ストレプトマイシンまたはゲンタマイシンを7〜14日間投与する
  • 軽症例:ドキシサイクリンまたはシプロフロキサシンを14〜21日間投与する
  • 局所治療:シプロフロキサシン点眼液またはトブラマイシン点眼液・眼軟膏
  • 全身治療:イトラコナゾール内服が第一選択。ヨウ化カリウムも有効
  • 局所治療:フルコナゾール点眼液の局所投与
  • 治療期間は通常数週間〜数か月
Q 猫ひっかき病は治療しなくても治りますか?
A

猫ひっかき病によるPOGSは自己限定性であり、免疫が正常な患者では1〜2か月で自然治癒することが多い。ただし、肉芽腫の消失には数週間、リンパ節腫脹の消失には数か月を要する場合がある。遷延例では抗菌薬投与が検討される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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B. henselaeはグラム陰性の小型桿菌で、培養困難な偏性細胞内寄生菌である。猫の引っかき傷や咬傷から侵入した菌は、受傷1〜2週間後に接種部位に赤色丘疹(一次病変)を形成する。さらに1〜2週間後に所属リンパ節の腫脹と圧痛が出現する。

眼への感染は、菌で汚染された手による「手→眼」接触が主要経路である。結膜に到達したB. henselaeは結膜上皮下で増殖し、肉芽腫性炎症反応を惹起する。同側の所属リンパ節(耳前・耳下・顎下)に炎症が波及し、有痛性リンパ節腫脹を生じる。

角膜の神経支配に関連する神経伝達因子(サブスタンスP、CGRP等)の関与は本疾患では主要ではなく、菌の直接侵入と宿主の細胞性免疫反応が病態の中心である。

CSDに伴う神経網膜炎では、視神経乳頭から黄斑に及ぶ浮腫が生じ、星芒状白斑(star figure)が特徴的に出現する。B. henselaeの血行播種が視神経や網膜への直接的な菌の侵入を引き起こすと考えられている。


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