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角膜・外眼部疾患

膜性結膜炎・偽膜性結膜炎

1. 膜性結膜炎・偽膜性結膜炎とは

Section titled “1. 膜性結膜炎・偽膜性結膜炎とは”

膜性結膜炎(membranous conjunctivitis)および偽膜性結膜炎(pseudomembranous conjunctivitis)は、眼瞼結膜上にフィブリンと炎症性デブリからなる膜状物が形成される結膜炎の総称である。

偽膜は結膜の強い炎症により生じ、フィブリン・好中球・滲出物からなる灰白色の膜様物である。結膜上皮細胞を含まず、鑷子で容易に剥がせる。一方、真性膜は毛細血管が上皮内に嵌入増殖し膜が結膜に強固に癒着するため、剥離すると出血しびらん面が露出する。

臨床的に経験することが最も多い原因疾患はアデノウイルス結膜炎である。乳幼児では上皮構造が未熟なため偽膜形成が生じやすい。

Q 真性膜と偽膜の違いは何ですか?
A

偽膜はフィブリンと炎症細胞が結膜表面に凝固したもので、上皮への浸入がなく容易に剥離できます。出血も最小限です。真性膜は炎症の程度が強く、フィブリン網が上皮内に嵌入増殖するため、剥離すると出血してびらん面が残ります。真性膜は結膜瘢痕化のリスクが高くなります。

Membranous Conjunctivitis and Pseudomembranous Con image
Membranous Conjunctivitis and Pseudomembranous Con image
Che Ku Hafiza Che Ku Amran, Qi Zhe Ngoo, Fadil Awis Qarni A Rare Case of Corneal Perforation Secondary to Gonococcal Keratoconjunctivitis 2024 Nov 23 Cureus.; 16(11):e74312 Figure 1. PMCID: PMC11666296. License: CC BY.
両眼に著明な結膜充血と眼瞼腫脹があり、右眼では角膜上に黄緑色の厚い膜状付着物がみられる。重症の膜性または偽膜性結膜炎にみられる眼表面所見である。

眼の充血、異物感、流涙、水様性眼脂が主訴となる。偽膜による刺激で強い不快感を生じる。眼瞼腫脹により開瞼困難となることがある。炎症の程度により片眼性または両眼性を呈する。

眼瞼結膜および円蓋部に薄い黄色の膜を認める。膜は斑状のこともあれば眼瞼結膜全体を覆うこともある。球結膜を侵すことはまれである。

フルオレセイン染色で膜が鮮やかな緑色に染まり、角膜上皮欠損を伴う場合もある。結膜充血、結膜浮腫、粘液膿性眼脂、耳前リンパ節腫脹を伴う。

乳幼児のウイルス性結膜炎では濾胞形成が弱く偽膜形成が主体となる。成人では偽膜の剥離時に出血しやすい。

膜性結膜炎と偽膜性結膜炎は多様な原因により発症する。

感染性原因は以下の通りである。

  • アデノウイルス:最も多い原因。流行性角結膜炎(EKC)で偽膜を形成し、重症例では真性膜となる
  • β溶血性連鎖球菌:真性膜形成の原因となる
  • 淋菌:化膿性結膜炎に伴い真性膜を形成する
  • ジフテリア菌:歴史的に重要な真性膜性結膜炎の原因
  • 単純ヘルペスウイルス・EBV:偽膜形成を引き起こすことがある
  • クラミジア:新生児封入体結膜炎で薄い偽膜を形成する

非感染性原因は以下の通りである。

  • Stevens-Johnson症候群・中毒性表皮壊死症(TEN):薬剤の有害反応による急性期の膜形成
  • 眼類天疱瘡:急性期に偽膜を形成する
  • 移植片対宿主病(GVHD):急性期に偽膜を生じる
  • 木質結膜炎(リグニアス結膜炎:プラスミノゲン欠損症による慢性再発性の偽膜形成
  • 化学外傷・熱傷:重度の炎症により膜形成を生じる

診断は病歴と臨床所見に基づく。細隙灯顕微鏡検査で膜を確認し、フルオレセイン染色で膜の範囲と角膜上皮障害を評価する。

偽膜を鑷子で剥離した際の出血の有無が、真性膜と偽膜の鑑別に用いられる。ただし、臨床的な区別は明確でない場合がある1)

眼脂の塗抹染色(Diff-Quick)による検鏡は原疾患の推定に有用である。ウイルス感染では単核球優位、細菌感染では好中球優位となる。検体採取時に偽膜を擦過すると好中球が優位になることに留意する。

PCR検査はアデノウイルスなどの微生物同定に有用である。アデノウイルス迅速診断キット(イムノクロマト法)も陽性であれば確定できる。

全身症状の評価により、SJS・類天疱瘡・GVHDなどの非感染性原因を推定する。リグニアス結膜炎では偽膜が厚く黄白色で硬いことが特徴であり、口腔粘膜にも類似の膜形成を伴う。

治療の基本は原疾患への対応と結膜炎症の制御である。

偽膜への対処

偽膜除去:角膜上皮障害を伴う場合は鑷子で除去する。偽膜の一端を幅広く掴み、結膜への侵襲を最小限に留めながら行う。

真性膜のデブリドマン:除去によりびらん面が露出し瘢痕化リスクが高まるため、議論がある1)

保存的治療:ステロイド点眼と人工涙液のみで偽膜が自然消退した症例が報告されている1)

薬物治療

ステロイド点眼:デキサメタゾンまたはフルオロメトロン0.1%を1日3〜6回点眼し、炎症を制御する。感染の遷延化に注意し最小限の投与とする。

抗菌点眼:細菌の混合感染予防として併用する。角膜上皮欠損がある場合は二次感染予防として重要である。

人工涙液:防腐剤無添加の頻回点眼により滲出物の洗浄を促進する。特に非感染性原因(SJS・類天疱瘡・GVHD)では積極的に行う。

瞼球癒着が認められる場合はガラス棒で円蓋部の癒着を毎日剥離する。SJS関連の膜形成では原因薬剤の中止と早期の羊膜移植も検討される。

リグニアス結膜炎ではトラネキサム酸が関与する場合はその中止により改善する。その他の原因ではステロイドや免疫抑制薬による炎症軽減を図る。

3〜7日以内の再診で治癒状況と合併症を確認する。

Q 偽膜は必ず除去すべきですか?
A

偽膜の除去は広く推奨されていますが、最近の報告では保存的治療(ステロイド点眼と人工涙液のみ)でも良好な経過が得られることが示されています1)。角膜上皮障害を伴う場合は除去が有効ですが、真性膜が疑われる場合は出血と瘢痕化のリスクがあるため慎重な判断が必要です。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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膜形成は結膜の強い炎症に起因する。

偽膜はフィブリン性滲出物が結膜上皮表面で凝固したものである。フィブリン網に好中球・壊死上皮細胞が絡み合い、血管やリンパ管を含まない。半透明で真珠様の外観を呈し、剥離しても上皮は温存される。

真性膜ではより強度の炎症により、滲出物が上皮の表層に浸透する。フィブリン網が上皮細胞の間に嵌入し、毛細血管の嵌入増殖を伴う高度に血管化した炎症性膜が形成される。上皮は凝固壊死を起こし、剥離すると上皮ごと剥がれて出血する。治癒は膜の下に肉芽組織が形成され、上皮が遊走して再建される。

乳幼児では上皮構造が未熟であるため、感染した上皮全体が脱落しやすく偽膜が生じやすい。成人では上皮が温存されるため剥離時に出血しやすい。

偽膜と真性膜はスペクトラムとして連続しており、炎症の程度により移行する。病理組織学的にはフィブリン・フィブロネクチン・テネイシンからなるマトリックスに好中球が混在し、古い膜ではマクロファージも認められる。

アデノウイルス偽膜性結膜炎の至適治療については十分なエビデンスが確立されていない。偽膜のデブリドマンは多くの教科書で推奨されているが、その有効性を示す前向き比較試験は存在しない1)

保存的治療(ステロイド点眼と人工涙液のみ)によるアデノウイルス偽膜性結膜炎の良好な転帰が報告されている1)。ポビドンヨードとデキサメタゾンの併用が症状の早期消退に有効であるとするRCTも存在する。シクロスポリンAとステロイド点眼の併用による症状軽減も報告されている。

今後はデブリドマンの有効性を検証する比較研究が求められる。

  1. Gilmour KMcN, Ramaesh K. Case for conservative management of adenoviral pseudomembranous conjunctivitis. BMJ Case Rep. 2023;16:e253014.

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