急性期治療
ステロイド点眼:急性炎症エピソードの鎮静に使用する。長期使用時は眼圧モニターが必要である。
人工涙液:眼表面の潤滑と保護を目的とする。
抗菌薬点眼:二次感染予防として併用する。

フックス表層角膜辺縁炎(Fuchs’ superficial marginal keratitis:FSMK)は、角膜周辺部に再発性の浸潤と進行性の実質菲薄化をきたす稀な炎症性疾患である。
1881年にフェルディナント・フォン・アルト(Ferdinand Von Arlt)によって最初に報告された。1895年にエルンスト・フックス(Ernst Fuchs)がより詳細にこの疾患を記述し、以降Fuchsの名が冠されている1)。
20~40歳代の若年~中年成人に好発する1)。両側性に発症するが、左右の重症度は非対称であることが多い。慢性的な経過をたどり、再発と寛解を繰り返しながら数年にわたり進行する。病因は不明であり、全身性の自己免疫疾患の精査を行っても原因が特定されない症例が多い。
Terrien角膜辺縁変性(TMD)とFSMKは臨床的特徴が重複しており、同一の病理学的プロセスの異なる表現型である可能性が示唆されている1)2)。
両者は周辺部角膜菲薄化を共通の特徴とする稀な疾患であり、同一疾患の異なる表現型とする説がある。ただしFSMKでは脂質沈着を伴わず灰色線状境界が見られる点、上皮欠損を伴う点がTMDとの鑑別点となる。現時点では確定的な結論には至っていない。
再発性の充血と眼痛が最も一般的な訴えである。エピソードは通常数日で自然軽快することもあるが、遷延する場合もある1)。
FSMKの角膜所見は進行に伴い変化する。以下の特徴的所見を認める。
翼状片は結膜組織が角膜輪部を越えて角膜上に自発的に増殖する疾患である。偽翼状片はFSMKなどで角膜周辺部が菲薄化した結果、結膜組織が二次的に菲薄化部位を覆うように伸展したものである。偽翼状片の下には高度に菲薄化した角膜が存在するため、安易な切除は穿孔を招く危険がある。
FSMKの根本的な原因は不明である。全身性の自己免疫疾患の精査を行っても、原因が特定されない症例が大多数を占める。
以下の仮説・関連因子が報告されている。
角膜輪部は血管系・免疫系・神経系が密集した領域であり、免疫関連の角結膜疾患が生じやすい部位である。FSMKの好発部位が輪部近傍であることは、この解剖学的特殊性と関連する可能性がある。
FSMKを確定診断するための特異的な検査は存在しない。臨床所見の評価と他疾患の除外により診断する。
他疾患の除外を目的として以下の検査を行う2)。
FSMKと鑑別すべき主な疾患を以下に示す。
| 鑑別疾患 | FSMKとの主な相違点 |
|---|---|
| Terrien角膜辺縁変性 | 脂質沈着あり、炎症所見乏しい |
| Mooren潰瘍 | 強い炎症・急速進行・上皮欠損 |
| カタル性角膜潰瘍 | 透明帯あり、眼瞼炎合併 |
FSMKに特異的な確定診断検査は存在しない。細隙灯顕微鏡で典型的な周辺部浸潤・菲薄化・偽翼状片・灰色線状境界を確認し、脂質沈着がないことを確認する。さらに血液検査で膠原病などの全身性疾患を除外することで臨床的に診断する。
FSMKは極めて稀な疾患であり、確立された治療プロトコールは存在しない。報告されている多くの症例で、薬物療法にもかかわらず病態が進行している。治療は炎症制御と構造的修復の2軸で行う。
急性期治療
ステロイド点眼:急性炎症エピソードの鎮静に使用する。長期使用時は眼圧モニターが必要である。
人工涙液:眼表面の潤滑と保護を目的とする。
抗菌薬点眼:二次感染予防として併用する。
維持・慢性期治療
ステロイド点眼は急性期に有効であるが、漸減・中止に伴い再燃を繰り返す症例が多い2)。長期的なステロイド点眼が疾患進行の抑制に有効である可能性も指摘されているが、緑内障などの副作用管理が課題となる1)。
Terrien角膜辺縁変性においても、結膜充血や上強膜炎を生じた場合にはフルオロメトロン0.1%などの低濃度ステロイド点眼が用いられる。FSMKの炎症管理にも同様のアプローチが参考となる。
FSMKは移植後にも再発する可能性がある1)。
表層角膜切除と結膜自家移植を組み合わせた手術は可能だが、偽翼状片の下の角膜は極めて薄く穿孔のリスクが高い。AS-OCTで事前に角膜厚を評価し、経験ある角膜専門医のもとで慎重に行う必要がある。術後の再発も起こりうる。
FSMKの病理組織学的特徴として以下が報告されている。
Ellisは両側性FSMKの2例を検討し、角膜固有層に類上皮巨細胞を認めたことを報告した。急性炎症細胞は潰瘍部直下に集中しており、結膜および角膜輪部の変性は翼状片に類似していた1)。
FSMKの正確な発症機序は未解明であるが、以下の仮説が提唱されている。
角膜輪部は角膜上皮と結膜上皮の境界部に位置し、血管系・免疫系・神経系が密集した領域である。ランゲルハンス細胞などの抗原提示細胞が豊富に存在し、免疫関連の角結膜疾患が生じやすい。FSMKの病変が輪部近傍に好発する背景には、こうした免疫学的な環境の特殊性が関与していると考えられる。
Arnalich-Montielは、TMDとFSMKの両方の特徴を呈する55歳男性にミコフェノール酸モフェチル(1 g×2回/日)を投与し、再燃の頻度と重症度が低下したことを報告した2)。TMD/FSMKに対するミコフェノール酸モフェチルの使用は文献上初の報告であり、免疫/炎症経路を標的とする治療の可能性を示唆するものである。
Haradaらは長崎大学でFSMKの2症例を報告した1)。症例1(47歳女性)では早期に偽翼状片切除+マイトマイシンC+有茎結膜弁移植を施行し、術後シクロスポリン内服を開始したところ、1.5年間再発なく安定した経過を得た。一方、症例2(28歳女性)は治療が遅延し、右眼6回・左眼3回の手術を繰り返したが再発を繰り返し、最終視力は両眼0.01まで低下した。この対照的な2症例は、早期からの外科的介入と炎症制御の重要性を示唆している。
同症例では、偽翼状片の切除自体が炎症エピソードの再燃を抑制する効果をもつ可能性が示された2)。表層角膜切除と結膜自家移植を行った眼では再燃が消失した一方、未手術の対側眼では偽翼状片の著明な増大と菲薄化の進行が観察された。結膜が炎症過程に関与している可能性が示唆される。
TMDとFSMKを同一疾患の異なる表現型とする仮説は、複数の報告者によって支持されている1)2)。両疾患が共通の血管炎を起源とするならば、Mooren潰瘍と同様の全身免疫抑制療法や結膜切除が有効である可能性がある2)。今後の症例蓄積による病態解明が期待される。