この疾患の要点
角膜白斑は角膜 の瘢痕性混濁であり、重症度により**片雲(nubecula)→ 斑(macula)→ 白斑(leukoma)**に分類される
主な原因は感染症 (細菌・真菌・ウイルス)、外傷 (穿通性・化学外傷)、炎症性疾患 (スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症・眼類天疱瘡 )、角膜ジストロフィ
混濁の深さ・範囲に応じて治療的レーザー角膜切除術 (PTK) 、深層層状角膜移植術 (DALK) 、**全層角膜移植術 (PKP )**などが選択される
最新の研究ではロサルタン点眼液 による瘢痕線維化の退縮が報告されている
角膜白斑(corneal leukoma)は、角膜実質 に生じる瘢痕性の白色混濁である。種々の角膜炎・外傷・炎症の活動期が沈静化したあとに残る非可逆的な混濁で、浮腫や浸潤を伴わない硬い性状を特徴とする。
角膜瘢痕(corneal scar)はその程度により3段階に分類される。
片雲(nubecula)
薄い雲状のかすかな混濁。
肉眼では確認しにくく、細隙灯顕微鏡で初めて認識される場合がある。
視力 への影響は軽度にとどまることが多い。
斑(macula)
中等度の限局性混濁。
虹彩 の詳細が透見しにくくなる。
瞳孔 領にかかると視力低下の原因となる。
白斑(leukoma)
濃い白色の不透明な混濁。
虹彩・瞳孔が透見不能となる。
瞳孔領にある場合は高度な視力障害を生じる。
角膜は透光体であるため、わずかな瘢痕でも光学的機能の低下に直結する。瘢痕性混濁が軽度でも不正乱視 により視機能が著しく低下する場合がある。
Q 角膜白斑は自然に治りますか?
A 角膜白斑は角膜実質の瘢痕であり、原則として自然に消退することはありません。ただし軽度の混濁(片雲レベル)であれば、炎症の消退とともにある程度改善する場合があります。瞳孔領にかかる白斑は視力への影響が大きいため、眼科医に相談してください。
Corneal Leukoma image
Alina Gabriela Gheorghe, Ana Maria Arghirescu, Andrei Coleașă, Ancuța Georgiana Onofrei The surgical management of a patient with Fuchs endothelial dystrophy and cataracts 2024 Jan-Mar Rom J Ophthalmol. 2024 Jan-Mar; 68(1):75-80 Figure 1. PMCID: PMC11007553. License: CC BY.
右眼の角膜移植 手術後1ヶ月の状態を示した臨床写真。角膜中央部には、移植された角膜を縫合するための糸が見える。
視力低下・霧視 :混濁が瞳孔領にかかると顕著になる
羞明 (まぶしさ) :角膜表面の不正による光散乱が原因
眼痛・異物感 :活動性の炎症が残存する場合や、上皮欠損を伴う場合に生じる
充血・流涙 :基礎疾患の炎症に伴い認められることがある
角膜混濁 :白色~灰白色の限局性または広範な不透明領域
表面不正 :角膜形状検査で不正乱視を認める
菲薄化 :潰瘍後の瘢痕では実質が菲薄化し、虹彩の膨隆(癒着性白斑 adherent leukoma)を伴うことがある
新生血管 :重症例や遷延例では角膜輪部 から血管侵入を認める
前房 所見 :瘢痕形成の原因となった炎症の残存(前房蓄膿 、KPなど)の有無を確認
角膜白斑の原因は多岐にわたる。
感染性角膜炎は角膜白斑の最も一般的な原因の一つである。
細菌性角膜炎 :肺炎球菌は突き眼を契機に匐行性角膜潰瘍 を生じる1) 。緑膿菌は輪状膿瘍を伴う重症潰瘍となり、急速に穿孔に至ることがある1) 。グラム陽性球菌は類円形で限局性の膿瘍を形成し、グラム陰性桿菌は輪状膿瘍を形成しやすい1)
真菌性角膜炎 :植物による外傷やステロイド 点眼の長期使用がリスク因子である1) 。糸状菌では辺縁が羽毛状に毛羽立つ灰白色の潰瘍(hyphate ulcer)を認め、角膜後面にendothelial plaqueが特徴的である1)
ウイルス性角膜炎 :HSV・水痘帯状疱疹ウイルスが免疫学的に角膜実質浸潤を生じる2) 。地図状角膜炎や円板状角膜炎を経て瘢痕化する
アカントアメーバ角膜炎 :コンタクトレンズ装用者に多い1) 。初期の放射状角膜神経炎から進行すると輪状浸潤となり、瘢痕を残す
穿通性外傷 :角膜実質の創傷治癒過程で瘢痕が形成される
化学外傷 :アルカリは角膜実質深部まで浸透し、広範な瘢痕を生じやすい
分娩時外傷(産道通過時) :鉗子分娩などにより角膜に外力が加わると、Descemet膜破裂から角膜浮腫 を生じ、数週~数か月後に垂直方向の線状混濁と高度の乱視が残る
スティーブンス・ジョンソン症候群 / 中毒性表皮壊死症 :急性期に広範な角結膜 上皮欠損が生じ、角膜上皮 幹細胞が消失すると、結合織と血管を伴う結膜組織が角膜を被覆し高度の混濁をきたす
眼類天疱瘡 :瞼球癒着 ・結膜侵入が徐々に進行し、角膜混濁を生じる。手術侵襲が急速な悪化を招く危険がある
先天緑内障 :眼圧 上昇に伴う角膜浮腫から混濁を生じる
先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ (CHED) :出生時からの両眼性角膜浮腫と混濁
先天性風疹症候群 :胎内感染による角膜混濁
顆粒状角膜ジストロフィ (I型・II型) :TGFBI遺伝子変異による。加齢とともに顆粒状混濁が増加し、II型(Avellino型)では角膜表層にびまん性混濁を生じる
格子状角膜ジストロフィ :アミロイドの沈着により線状・網目状の混濁を呈する。1型では中央部の混濁が強い
斑状角膜ジストロフィ :常染色体劣性遺伝 。角膜実質全層にびまん性のスリガラス様混濁が広がり、10~30歳頃に視力低下を自覚する
Fuchs角膜内皮 ジストロフィ :角膜内皮細胞の変性により水疱性角膜症 に至る3) 。50歳以上で発症しやすく、女性に多い(男女比 1:4)3)
アトバコン(atovaquone)の長期経口投与により、角膜上皮下から実質にかけてびまん性の白色顆粒状混濁が生じた症例が報告されている4) 。アミオダロンやクロロキンなど脂溶性薬剤もcationic amphiphilic構造により角膜沈着を生じうる4) 。
予防・日常のケア
コンタクトレンズは正しいケア方法を守り、装用スケジュールを遵守しましょう
農作業やDIYなどの際には保護メガネを着用し、角膜への外傷を予防しましょう
角膜ヘルペスの再発予防には、抗ウイルス薬の内服を医師の指示通り継続することが大切です
化学物質が目に入った場合は、直ちに大量の水で十分に洗眼し、速やかに眼科を受診してください
Q コンタクトレンズの使用で角膜白斑になる可能性はありますか?
A コンタクトレンズの不適切な使用は、細菌性角膜炎やアカントアメーバ角膜炎のリスク因子です。これらの感染症が重症化すると角膜瘢痕(白斑)を残す場合があります。レンズケースの定期交換、消毒液の正しい使用、装用時間の順守が予防に重要です。
角膜混濁の基本的な評価法である。混濁の位置(中央部・傍中央・周辺部)、深さ(上皮下・実質浅層・実質深層)、範囲、密度を観察する。フルオレセイン染色 により上皮欠損の有無も確認する。
角膜混濁の鑑別においては、感染性角膜炎の浸潤性混濁と瘢痕性混濁の区別が重要である。浸潤性病変には周囲の浮腫・前房内炎症を伴い、活動性を示唆する1) 。輪状浸潤は真菌性角膜炎とアカントアメーバ角膜炎の両方で認められるが、放射状角膜神経炎と高度の疼痛はアカントアメーバに特徴的である2) 。
角膜病変の深さを客観的に評価できる1) 。角膜厚の増大・菲薄化、前房内炎症細胞、KP、endothelial plaqueなどの所見も観察可能である。治療前後の比較により治療効果を評価できる。
不正乱視の評価に有用である1) 。角膜白斑に伴う混濁自体が軽度であっても、不正乱視により視機能が大きく低下している場合がある。
角膜内の細胞・神経線維・微生物(真菌菌糸、アカントアメーバのシスト)を非侵襲的に観察できる1) 。瘢痕組織の細胞構成を評価する際にも有用だが、検査の実施と結果の解釈に熟練を要する。
活動性の感染性角膜炎が疑われる場合に実施する1) 。グラム染色で起炎菌の推定、血液寒天培地・チョコレート寒天培地での培養により確定診断を行う。
角膜実質の混濁をきたす疾患の鑑別には、以下を検討する。
鑑別疾患 特徴的所見 検査 薬剤性角膜沈着 薬歴あり、渦巻状沈着 薬歴確認、生体内共焦点顕微鏡 Ascher ring 両側対称性の環状実質混濁 AS-OCT 、除外診断6) 代謝性沈着 LCAT欠損症、Tangier病 血液検査、脂質検査
Q 角膜白斑と白内障は同じものですか?
A いいえ。角膜白斑は角膜(眼の最前面にある透明な膜)の混濁であり、白内障 は水晶体 (角膜の奥にあるレンズ)の混濁です。いずれも視力低下の原因となりますが、病態と治療法は異なります。角膜白斑は細隙灯顕微鏡ですぐに区別できます。
角膜白斑の治療は、原因の治療と視機能の回復を目的として行われる。
角膜白斑を生じた基礎疾患がまだ活動性をもつ場合は、まず原因治療が優先される。
感染性角膜炎 :起炎菌に応じた抗菌薬(フルオロキノロン系・セフェム系・アミノグリコシド系)の頻回点眼が基本1) 。真菌性では抗真菌薬、ウイルス性では抗ウイルス薬を使用する
炎症性疾患 :ステロイド点眼、免疫抑制薬による消炎
眼鏡・コンタクトレンズ :軽度の混濁や不正乱視に対し、ハードコンタクトレンズで矯正可能な場合がある
強膜 レンズ・PROSEデバイス :スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症に伴う角膜混濁と新生血管に対し、PROSEデバイスの装用により角膜混濁と新生血管の退縮が報告されている7) 。デバイスの背面チャネル設計が涙液交換を促進し、眼表面環境を改善する7)
治療的レーザー角膜切除術 :角膜表層に限局した混濁に対する第一選択。顆粒状角膜ジストロフィI型やAvellino型の表層混濁に有効である。通常2回程度まで施行可能
深層層状角膜移植(DALK) :角膜内皮が健常で実質に混濁が及ぶ場合に選択する。拒絶反応のリスクが低い
全層角膜移植(PKP) :実質全層や内皮に病変が及ぶ場合に適応となる。斑状角膜ジストロフィの進行例などが対象
角膜内皮移植 術(DSAEK /DMEK ) :Fuchs角膜内皮ジストロフィなど内皮疾患による混濁に対して行う3) 。実質に変化が少なければ第一選択
人工角膜(ケラトプロステーシス) :通常の角膜移植が困難な重症例(スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症、眼類天疱瘡など)ではBoston KPro などの人工角膜を検討する
治療における注意点
スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症や眼類天疱瘡では、手術操作が眼表面炎症の急速な悪化を招く危険がある。手術適応は慎重に判断する
角膜ジストロフィに対する角膜移植後は再発がありうる。特にTGFBI関連ジストロフィのホモ接合体ではヘテロ接合体と比べ早期に再発する
感染性角膜炎の消炎にステロイドを併用することの可否は未確定であり、ガイドラインでは慎重な使用を推奨している1)
角膜の透明性は、角膜実質内のコラーゲン線維が規則正しい格子状配列をとることで維持されている。角膜損傷後の瘢痕形成は以下の過程をたどる。
ケラトサイトのアポトーシス :外傷・感染などによる上皮障害に伴い、損傷部位のケラトサイトがアポトーシスを起こす
筋線維芽細胞への分化 :涙液・上皮から放出されるTGF-β1およびTGF-β2が角膜実質に浸入し、生存ケラトサイトを筋線維芽細胞(myofibroblast)へ分化させる5)
異常な細胞外基質の産生 :筋線維芽細胞が無秩序なコラーゲンや細胞外基質を産生し、透明性が失われる5)
上皮基底膜(EBM)の障害 :正常なEBMはTGF-βの実質内への流入を制御しているが、損傷によりこのバリアが破綻すると線維化が持続する5)
角膜実質の混濁は以下の3種類に分類される。
炎症性混濁(浸潤病変) :細菌性・真菌性角膜炎などの活動性感染巣。好中球・リンパ球の集積による。膿瘍が形成されると蛋白質分解酵素により組織破壊が進行し、治癒後に菲薄化を伴う瘢痕が残る1)
浮腫性混濁 :角膜内皮機能不全による実質の含水量増加。Fuchs角膜内皮ジストロフィでは、変性した内皮細胞がDescemet膜後面に異常なコラーゲン様物質を突出させ(滴状角膜)、進行とともに内皮のポンプ・バリア機能が低下し水疱性角膜症に至る3)
沈着性混濁 :角膜ジストロフィ(顆粒状・格子状・斑状)や代謝性疾患による物質の沈着。斑状角膜ジストロフィではCHST6遺伝子変異によりケラタン硫酸の硫酸化が障害され、低硫酸化ケラタン硫酸が角膜実質細胞内外にびまん性に沈着する
アトバコンなどのcationic amphiphilic構造をもつ薬剤は、疎水性環と親水性カチオン性アミン側鎖からなり、細胞膜を通過してリン脂質の蓄積を引き起こす4) 。アミオダロンでは涙液・房水 ・輪部血管を経由して角膜に到達し、リソソーム内で薬剤-脂質複合体が形成される4) 。
Dutraら(2025)は、HSVまたは水痘帯状疱疹ウイルス角膜炎による角膜瘢痕に対し、0.8 mg/mLロサルタン点眼液を1日6回投与した3症例を報告した5) 。40歳女性のHSV瘢痕(症例1)では16週間の投与でBCVAが20/60→20/25に改善し、AS-OCTで実質混濁の退縮が確認された。15歳男性の水痘帯状疱疹ウイルス瘢痕(症例3)ではBCVAが20/200→20/20まで改善した5) 。
ロサルタンはアンジオテンシンII受容体拮抗薬であり、TGF-βの非canonical経路(ERK mediated signaling)を阻害することで筋線維芽細胞のアポトーシスを誘導する5) 。筋線維芽細胞の除去後、角膜線維芽細胞が再増殖し、上皮基底膜の再生と無秩序なコラーゲンの吸収・再配列を行うことで透明性が回復するとされる5) 。治療効果の発現には6~9か月を要する場合がある5) 。
Liaoら(2022)は、スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症の2症例(4眼)において、背面チャネル設計のPROSEデバイスの継続装用により角膜混濁と新生血管の退縮を報告した7) 。症例1(19歳女性・スティーブンス・ジョンソン症候群)の左眼では角膜混濁がgrade 1→0に改善し、BCVAが20/40→20/15に向上した。症例2(26歳男性・中毒性表皮壊死症)ではPROSE装用17か月で処方点眼薬をすべて中止でき、角膜新生血管 と混濁の持続的な改善が得られた7) 。
Ashizukaら(2025)は、再生不良性貧血に対するアトバコン14か月間の経口投与後に両眼びまん性の角膜実質混濁を生じた15歳男性を報告した4) 。前眼部OCTでは角膜形状の変化なく均一なびまん性混濁を認め、生体内共焦点顕微鏡で角膜実質の色素沈着が確認された。アトバコン中止1年後も角膜混濁は残存した4) 。
Megallaら(2021)は、70歳男性に認められた両側対称性の環状角膜実質混濁(Ascher ring)を報告した6) 。Ascher ringは1964年に初めて記載された極めてまれな特発性実質混濁であり、両側性・視機能に影響しないことが特徴である6) 。遺伝パターンや検査異常は同定されておらず、除外診断として確定する6) 。
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