提供者の確保
献眼登録の推進:生前に眼球提供の意思を登録する制度を推進。
一般啓発:移植医療に関する正しい情報を提供し、自由な意思決定を支援。
医療現場での取り組み:故人の意思を確認する仕組みの整備が今後の課題。

角膜提供とは、死後に角膜組織を回収し、角膜移植を必要とする患者に安全な角膜を供給するためのプロセスである。ドナーの適格性スクリーニング、眼球摘出、組織評価、保存の各段階を含む。このプロセスはアイバンクを中心に実施される。
1906年、Edward Zirmにより世界初の全層角膜移植術が実施された。1928年にはソ連で死体からの角膜移植が成功し、1945年にR. Townley Patonがニューヨークに世界初のアイバンクを設立した。これを受けて欧米各地にアイバンクが普及し、角膜移植が盛んに行われるようになった。
日本では1957年に岩手医科大学で初の角膜移植が実施された。しかし移植に関する法律がなく、死体損壊罪にあたるおそれがあるとして社会問題となった。翌1958年、「角膜移植に関する法律」が制定された。これは日本初の移植関連法律である。1963年には「眼球提供あっせん業許可基準」が提示され、慶大眼球銀行と順天堂アイバンクが設立された。1965年には財団法人日本眼球銀行協会(現・公益財団法人日本アイバンク協会)が設立された。
現在は2009年改正の「臓器の移植に関する法律」のもと、全国54のアイバンクが活動している(2019年12月末現在)。
アイバンクとは、厚生労働大臣の許可のもと、角膜移植に使用する角膜を死後に提供を受け、移植待機患者にあっせんする公的機関である。
提供者の確保
献眼登録の推進:生前に眼球提供の意思を登録する制度を推進。
一般啓発:移植医療に関する正しい情報を提供し、自由な意思決定を支援。
医療現場での取り組み:故人の意思を確認する仕組みの整備が今後の課題。
安全な供給
血清学的検査:提供角膜由来の感染症を移植患者に持ち込まないよう、提供時に検査を実施。
医学基準に基づく管理:提供角膜が安全に使用されるまでの記録を保存。
公平な供給
待機患者リスト:登録順にあっせんする原則。1患者1アイバンクの登録制。
緊急・広域あっせん:角膜穿孔等の緊急例や他県への広域あっせんにも対応。
厚生労働大臣の許可を受けた公的機関であり、角膜移植に使用する角膜を死後に提供を受け、移植待機患者にあっせんする。日本では全国54のアイバンクが活動している。提供者の確保、安全な角膜供給、公平なあっせんが主な役割である。
眼球提供者(ドナー)の適格基準は厚生労働省から通知されており、2023年12月1日に改正された。使用禁忌に該当がなければ年齢制限はなく、白内障・緑内障・近視・遠視などの眼科既往があっても角膜が透明であれば提供は可能である。
以下の疾患・状態を伴うドナーからは角膜提供を受けることができない。
以下の疾患・状態を伴うドナーからの眼球提供があった場合、移植を行う医師に当該情報を提供する必要がある。
ドナー家族への問診により以下の項目を確認する。
白内障・緑内障・近視・遠視などの眼科既往があっても、角膜が透明であれば提供は可能である。使用禁忌に該当する疾患がなければ年齢制限もない。ただし3〜5歳の角膜は内皮細胞密度が高い一方、組織が脆弱で移植後に変形を生じる場合があり注意を要する。
角膜提供は、本人が提供しない旨を書面で意思表示している場合を除き、家族の総意をまとめる方の同意により提供が可能である。本人が生前に提供の意思を書面で表示していても、家族の同意確認が不可能な場合は提供を受けることができない。
身寄りのないドナーの場合、本人が生前に書面で意思表示していれば、埋葬等に対応する施設長などの同意で提供が可能である。
小児の提供(12週〜18歳未満)は家族の同意に加え、虐待がないことを証明する委員会の書類が必要である。知的障害に係る療育手帳を保持していることを理由に一律に提供不可と判断せず、主治医等の意見を踏まえて判断する。
眼球の提供は脳死下・心停止下のいずれでも可能である。脳死下での臓器提供時には、臓器移植ネットワークから移植コーディネーターが派遣され、家族への説明や全体のコーディネートを行う。眼球のあっせんについては当該地域のアイバンクが担当する。
眼球の摘出にあたり、医師は死亡診断書または死体検案書を確認し、そのコピーを保存する。異状死(自殺・事故・犯罪等)の場合でも、刑事訴訟法に規定された手続きを経て司法警察員等の許可が得られれば提供可能である。
死後は涙液産生が停止するため、角膜の生存性には限りがある。死亡から保存までの時間(DTPT: death-to-preservation time)は8時間以内が推奨される。
眼球摘出は医師が行う法的要件がある。摘出後、強角膜片の作成は清潔操作で行う。
眼球摘出時の問題点として、視神経切断部からの出血と眼球穿孔がある。出血は脳出血等の頭蓋内出血性疾患で多く、ガーゼ圧迫やサージセル®で対応する。強膜穿孔が生じても角膜移植片としての機能に問題はない。
病院や臓器調達機関からアイバンクに連絡が入り、移植コーディネーターが家族に説明を行う。家族の同意が得られれば、医師による眼球摘出が行われる。摘出後、アイバンクで強角膜片の作成・感染症検査・組織評価を経て、移植待機患者にあっせんされる。
強角膜片作成後、常温でスペキュラマイクロスコピーを用いて角膜移植前の角膜内皮細胞密度(ECD)を測定する。角膜内皮細胞密度は長期グラフト生存の主要な決定因子である2)。全層角膜移植に使用する場合、角膜内皮細胞密度 2,000個/mm²以上が望ましいとされる。
角膜の保存方法は地域により異なる。米国ではcold storage(低温保存)が標準であるのに対し、欧州では器官培養が標準的に用いられている2)。
角膜保存方法の比較を以下に示す。
| 方法 | 温度 | 保存期間 |
|---|---|---|
| Cold storage(Optisol-GS) | 2〜8℃ | 最大14日間(FDA基準) |
| 器官培養 | 31〜37℃ | 回収後7日まで |
| 凍結保存 | −80℃以下 | 数ヶ月 |
角膜には血管が含まれないため、ドナーとレシピエントの血液型を一致させる必要はない。
近年の角膜移植術の多様化に伴い、アイバンクが移植術に応じたグラフトを準備する役割が重要性を増している。
角膜移植は眼科臨床での一般的手術であるが、ドナー眼が必要な点で通常の手術と大きく異なる。ドナー眼を得るためには「臓器の移植に関する法律(臓器移植法)」の厳格な遵守が求められる。
2008年の国際移植学会「イスタンブール宣言」は渡航移植・臓器売買の禁止を採択し、日本の法改正を後押しした。
2010年の改正により、臓器提供の意思表示に併せて親族への優先提供の意思を書面で表示できるようになった。以下の4条件すべてを満たす必要がある。
自殺者の親族優先提供は認められない(自殺対策基本法)。特定の親族を限定する意思表示があった場合は移植自体が行われない。
2010年の改正臓器移植法により可能となった。15歳以上で書面により親族優先提供の意思を表示し、親族(配偶者・子・父母)が移植希望登録をしており、医学的条件を満たす場合に限られる。ただし自殺の場合は親族優先提供が行われない。
角膜移植においては、ドナーからレシピエントへの感染症伝播が最も重大なリスクの一つである。角膜移植を介して伝播が確認されている疾患には、狂犬病、CJD、B型肝炎、単純ヘルペスウイルス(HSV)、サイトメガロウイルス(CMV)、悪性腫瘍、アカントアメーバ、細菌感染症がある。一方、HIV、C型肝炎、HTLV-1・-2、ウエストナイルウイルス、エボラウイルス、ジカウイルスの角膜移植を介した伝播は報告されていない。
CJDは検査による診断が不能であり、アイバンク関係者は家族・担当医から病歴や海外渡航歴を詳細に聴取する必要がある。
米国眼球銀行協会(EBAA)の基準では、1980年から1996年の間に英国に累計3ヶ月以上滞在した者は眼組織の提供不適格とされている1)。これは変異型CJD(vCJD)がウシ海綿状脳症(BSE)に感染した牛肉の摂取により発症し、平均11〜12年の潜伏期を持つためである1)。
Desiletsら(2023)は、vCJD感染角膜が移植されるリスクを定量的に評価した。2018年における推定リスクは94万分の1(過大評価値)であった。真のリスクは感染率が不完全であるためさらに低いとされる1)。
同報告によると、1979年から2018年までにCJD感染角膜が推定47枚ドナープールに入ったが、実際に感染を引き起こしたと考えられる症例は5例であり、感染率は10.6%程度と推定された1)。角膜移植によるCJD伝播の確認死亡例は2例(剖検で確認)にとどまる1)。
2006年以降、角膜移植を介したCJD伝播は報告されていない1)。vCJDの確認例は英国で約180例、その他の国で約50例であり、最後の死亡例は2016年に英国で報告された1)。
米国で移植目的に回収されたが供給されなかった角膜のうち、約1.2〜1.6%が渡航歴による不適格判定であった1)。
肝炎はA型・B型・C型があり、それぞれ潜伏期・感染経路が異なる。死亡時採血液に対する感染症検査法と、その感度・特異度の知識が必要である。
梅毒反応陽性のドナーについては、提供された強角膜片が3日以上4℃で保存されたものであれば感染力が消失することが確認されており、その旨を移植医に情報提供する。
日本では長きにわたり慢性的な提供角膜不足が続いており、海外からの輸入角膜に依存する割合が大きい。2017年の内閣府世論調査では、臓器提供の意思を41.9%の国民が持っているものの、意思表示カードへの記載は12.7%にとどまっている。
各国の百万人あたりの臓器提供者数を以下に示す。
| 国 | 百万人あたり提供者数 |
|---|---|
| スペイン | 46.9人 |
| 米国 | 31.96人 |
| 韓国 | 11.18人 |
| 日本 | 0.88人 |
全国54のアイバンクが活動しているが、十分な提供者を確保できていない。多様化する角膜移植術(PKP・DSAEK・DMEK等)に対応できる角膜の供給も課題である。国内のニーズに合った角膜は輸入に頼るところが大きい。
提供意思を活かし、移植を待つ患者に移植の機会を届けるため、臓器提供や移植医療に関する一般啓発や医療現場での意思確認の実施が求められている。
世界では116カ国で年間約185,000件の角膜移植が実施され、82カ国で284,000件の角膜が調達されている。全角膜の55%は米国とインドで調達されている。角膜の最大輸出国は米国とスリランカである。
しかし世界人口の約53%が角膜移植を受けられない状況にある。必要とされる角膜70件に対し、利用可能な角膜はわずか1件程度と推定されている。
日本を含む一部の国では、臓器提供や移植に対する知識の不足、宗教的・文化的背景、プロセスへの不信感が提供率の低さに影響している。
- Desilets J, Mittal A, Sellick JA Jr, Patel SP. Risk assessment of variant Creutzfeldt-Jakob disease in corneal transplantation. Am J Ophthalmol Case Rep. 2023;30:101856.
- Dunker SL, Veldman MHJ, Winkels B, et al. Descemet membrane endothelial keratoplasty versus ultrathin Descemet stripping automated endothelial keratoplasty: a multicenter randomized controlled trial. Ophthalmology. 2021;128(8):1152-1159.