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白内障・前眼部

垂直チョップ法

垂直チョップ法(vertical chop technique)は水晶体超音波乳化吸引術(phacoemulsification)における核分割法の一つである。「空手チョップ(karate chop)」とも称される。

チョッピング法には大別して「水平(horizontal)チョップ法」と「垂直(vertical)チョップ法」の2種類が存在する。水平チョップ法は1993年に永原国宏医師によって初めて報告され(ASCRSシアトル年次総会)、超音波チップとチョッパーの先端を水平面上で互いに近づけることで核を分割する。垂直チョップ法は、チョップ操作を垂直面上で行う点が異なる。

Phaco chop法(フェイコチョップ)は1993年に永原らによって考案され、D&C法(divide and conquer法)と比較して超音波発振時間を短縮し、手術効率を向上させる核分割法として世界的に普及している。

チョッピング法の主な利点として、核分割が主に超音波エネルギーではなく手動の器具による力で達成されるため、総エネルギー負荷を軽減できる点が挙げられる。

Q 水平チョップ法と垂直チョップ法はどう違うか?
A

水平チョップ法(いわゆるフェイコチョップ)ではチョッパーを連続環状切嚢切開縁から前嚢の下に挿入して赤道部に当て、水平にUSチップへ向かって動かす。垂直チョップ法(空手チョップ)ではチョッパーを連続環状切嚢下には挿入せず、水晶体前面中央付近の連続環状切嚢の内側から垂直に刺し込んで核を分割する。このため垂直チョップ法は嚢損傷のリスクが低く、完全に連続環状切嚢範囲内で操作が完結する。

本項は白内障手術手技の解説であるため、「主な症状」は白内障一般の所見と術中の特徴的所見を記述する。

  • 視力低下:核白内障では遠方視力の低下が顕著。
  • 羞明(まぶしさ):散乱光の増加による。
  • 霧視:混濁の程度に応じて生じる。
  • 単眼複視:核硬化が不均一な場合に生じることがある。

臨床所見(垂直チョップ法の適応判断)

Section titled “臨床所見(垂直チョップ法の適応判断)”

良い適応

硬い核(Grade 4〜5):鋭いチョッパーが硬核に容易に刺入でき、効率的な分割が可能。

チン小帯脆弱:連続環状切嚢範囲内での操作でチン小帯への負荷が最小限。

小瞳孔:チョッパーの先端が常に術野に見える状態で操作できる。

連続環状切嚢逸脱症例:水平チョップよりもさらなる逸脱進展リスクを抑えられる。

不適応

非常に柔らかい核:後嚢下白内障(PSC)、屈折矯正水晶体再建術(RLE)。

柔らかい核への問題:鋭いチョッパーが柔らかい核を効率よく広げられず、嚢損傷リスクが高まる。

代替手技:フリップ法または水平チョップ法が推奨される。

垂直チョップ法は手術手技であり、疾患そのものではない。以下は本手技を必要とする状況と関連するリスク要因の記述である。

硬い白内障(dense cataract)の発生には以下が関与する。

  • 加齢:核硬化は年齢とともに進行する。白内障の核の硬さはEmery-Little分類(Grade 1〜5)で評価される。
  • 過熟白内障:白内障を長期放置した場合に生じる。核が極めて硬くなる。
  • 既往疾患:糖尿病、代謝疾患が核硬化を促進することがある。

チン小帯脆弱(weak zonules)の原因としては、偽落屑症候群マルファン症候群、外傷、高度近視、高齢などが挙げられる。

白内障の術前評価の観点から記述する。

細隙灯顕微鏡による核の色調と混濁パターンの観察が基本である。Emery-Little分類によりGrade 1〜5で評価する。

Grade細隙灯所見核の硬さ
1〜2透明〜白・黄白色軟〜やや軟
3黄色中等度
4〜5黄土色〜茶色硬〜極めて硬

硬い核(Grade 4〜5)の白内障に対してはフェイコチョップが最も効率がよく、角膜内皮への影響も少ないことが複数の研究で示されている。

  • 角膜内皮細胞密度:硬核では超音波エネルギー使用量が増えるため、内皮細胞数を術前に確認する。
  • 瞳孔径・チン小帯の状態:拡大後の瞳孔径とチン小帯の健全性を評価し、手術アプローチを計画する。
  • 眼軸長計測IOL度数計算のため術前に必須。過熟白内障では光学的計測が困難なため超音波計測を行う。

5. 標準的な治療法:垂直チョップ法の手技

Section titled “5. 標準的な治療法:垂直チョップ法の手技”

初期段階は通常の水晶体乳化吸引術と同様である。

  1. 耳側サイドポート切開:局所麻酔薬注入後に粘弾性物質を充填する。
  2. 耳側メイン切開:2面切開(bi-planar)で作成する。
  3. 連続曲線状水晶体嚢切開(CCC:正確な円形の嚢切開を作成する。
  4. 水晶体水利分離(hydrodissection):嚢内で水晶体を回転させ自由に動くことを確認する。

垂直チョップ法に特有のステップ:

  1. 表層皮質の吸引:超音波エネルギーを使用せず、表層皮質および核周層を吸引して下層の核を露出させる。
  2. 超音波チップの埋植:高真空設定で超音波チップを核の中央に深く埋め込み固定する。
  3. チョッパーによる核の刺入:垂直チョッパー(尖った先端を持つもの)で核を刺し入れる。
  4. チョッパーの移動:チョッパーを超音波チップに向かって動かす。
  5. 核の分割:器具を左右に広げ、核を2つの半球に分割する。
  6. 4分割:水晶体を90度回転させ、核の中央にチップを潜り込ませ、上記ステップを繰り返して4象限に分割する。非常に硬い核の場合は8〜16分割まで細かく分割することもある。
  7. 分割片の除去:超音波プローブで各分割片を吸引・乳化する。
  8. 後嚢の保護:最後の分割片を除去する際、チョッパーの先端を水平方向(後嚢方向に向けない)に向けるか、スパチュラに持ち替えて分割片と後嚢の間に置く。

使用器具として、Katena社のコッホ・ナガハラ・カラテチョッパー(Koch-Nagahara Karate Chopper)が代表例として挙げられる。このチョッパーは一方の端に鋭いチョッパー、もう一方の端に平らなスパチュラを備えている。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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垂直チョップ法の力学的優位性

Section titled “垂直チョップ法の力学的優位性”

水平チョップ法では、鈍的なパドル型チョッパーを嚢の下に滑り込ませ、水晶体赤道部を「引っ掛ける」操作が必要である。この操作では以下の問題が生じる場合がある。

  • 嚢切開縁を越えてチョッパーを挿入するため、嚢の亀裂リスクがある
  • 鈍的器具で硬い核を押す際に圧縮応力が蓄積し、水晶体の予期せぬ動きやチン小帯への負担を生じる

垂直チョップ法は、この問題を以下のように解決する。

  • 連続環状切嚢範囲内完結:チョッパーを連続環状切嚢下には挿入しないため、嚢亀裂リスクを実質的に排除する。
  • 鋭利な刺入:鋭いチョッパーが抵抗なく硬核を貫通し、圧縮応力の蓄積を防ぐ。
  • 小瞳孔への対応:チョッパーの先端が常に術野内に見えるため、小瞳孔症例での安全性が高い。

水晶体線維は層状の配向(lamellar orientation)を持つ。チョッピング法はこの自然な構造に沿って機械的に破砕するため、無差別に超音波エネルギーを使用するよりも効率的に核分割が可能となる。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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フェムトセカンドレーザー支援白内障手術との比較

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フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術(FLACS)では、機械的な核分割をレーザーで行うことが可能となった。これにより超音波エネルギーのさらなる低減が期待されているが、従来の手動チョッピング法と比較して有意な優位性を示すかどうかについては、現在も研究が続いている。

マイクロインシジョン白内障手術(MICS:micro-incision cataract surgery)の普及に伴い、より小さな器具を用いた垂直チョップ法の応用が検討されている。小切開化は術後乱視の低減と創口安定性の向上に寄与するが、操作スペースの制約もある。

白内障が進行した状態で受診する患者が多い発展途上地域において、垂直チョップ法は硬核に対応できる汎用性の高い手技として特に有用とされている。この観点からの普及・教育活動についても注目が集まっている。


  1. Nagahara K. Phacoemulsification Chop Technique. American Society of Cataract and Refractive Surgery (ASCRS) Annual Meeting in Seattle, Washington. 1993.
  2. Chang DF. Converting to Phaco Chop: Why? Which technique? How? Ophthalmic Practice. 1999;17(4):202-210.
  3. Chang DF. Phaco Chop: Mastering Techniques, Optimizing Technology, and Avoiding Complications. Slack, Inc.; 2004.

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