円錐角膜(Keratoconus: KCN)は角膜実質の進行性菲薄化と前方突出を特徴とする拡張性疾患である。角膜の変形により不正乱視が生じ、視機能障害をきたす。有病率はオランダで1:375(10万人あたり265例)、オーストラリア20歳代で1:84、民族によっては1:45に達する1)。発症は10歳未満では稀で、15〜30歳で診断されることが多く、30歳代中頃に自然安定化する1)。
円錐角膜患者は白内障を若年で発症するリスクが高い。また、重症化した円錐角膜患者の多くはすでに角膜移植を受けており、角膜移植後の長期ステロイド点眼や術中操作が白内障形成を加速させる。
白内障によって視力が著しく障害された場合には白内障手術が必要となるが、円錐角膜の存在がIOL度数計算・手術手技・術後転帰のすべてを複雑にする。
Q 円錐角膜の患者は必ず白内障手術が難しくなるのか?
A 難易度は円錐角膜の重症度に比例する。軽度(ステージI)であれば、適切な術前計画を行えば水晶体乳化吸引術(PEA)は安全で有効であると報告されている。重症化するほどIOL度数計算誤差が大きくなり、手術手技も困難になる。
- 視力低下:不正乱視・角膜混濁・白内障の三者が複合して視力を低下させる。
- グレア・羞明:不規則な角膜形状による光散乱で増強する。
- 多重視・歪視:不正乱視に起因する。コンタクトレンズで矯正可能な時期を経て、矯正不能になると角膜移植の適応となる。
細隙灯顕微鏡検査では以下の所見が認められる。
- Fleischer輪:円錐基底部上皮下の鉄沈着環。
- Vogt’s striae:角膜頂点の実質・内皮に認められる縦方向の白線。
- 角膜実質菲薄化・前方突出:中央〜傍中央の菲薄化と円錐状変形。
- 急性角膜水腫(acute corneal hydrops):Descemet膜破裂により房水が実質に流入し浮腫を生じた状態。
- Bowman層断裂後の瘢痕:進行例では上皮下に網目状の実質表層瘢痕が生じる。
角膜形状解析では、局所的急峻化・パターン非対称性・エレベーションマップでの島状前方突出・角膜厚マップでの偏心した菲薄部位が特徴的である。波面収差解析では垂直コマ収差の増大が著しい。
円錐角膜の発症機序は未解明であるが、以下が関連する。
- アレルギー疾患・目をこする習慣:アトピー性疾患・喘息・アレルギー性結膜炎との合併が多い。目をこすることは進行と強く相関し、回避が重要である2)。
- 遺伝素因:多くは孤発例であるが、家族性発症もある。Down症候群・Ehlers-Danlos症候群・Marfan症候群など結合組織疾患との合併がある。
- 性別・年齢:男性に多く、思春期に発症し30歳ごろに進行が停止することが多い。
- LASIKなど屈折矯正手術の禁忌:円錐角膜(疑い例を含む)はLASIK等の絶対的禁忌である。
白内障手術を計画する際には、以下の段階的評価が必要である。
ステップ1:疾患の病期と安定性の確認
アムスラー・クルメイヒ分類(Amsler-Krumeich grading)で病期を評価する。
| 病期 | 特徴 |
|---|
| ステージ1 | 角膜急峻化48D未満、乱視5D未満 |
| ステージ2 | 乱視5〜8D、平均中心K>53D、角膜厚>400μm |
| ステージ3 | 乱視8〜10D、平均中心K>53D、角膜厚300〜400μm |
| ステージ4 | 角膜瘢痕あり、平均K>55D、角膜厚≧200μm |
ステップ2:コンタクトレンズ装用中止(コンタクトレンズ・ホリデー)
- ソフトコンタクトレンズ:最低2週間以上の装用中止。安定するまでにさらに時間を要する場合がある。
- RGP(酸素透過性ハードコンタクトレンズ):5週間以上の長期中止が角膜の安定化に必要である。
バイオメトリは安定した測定値が複数回得られるまで手術を進めるべきでない。
ステップ3:各種検査
- 角膜形状解析・トモグラフィー(Pentacam等):ステージ1〜3ではPentacamが最高の測定再現性を示す。
- 角膜前後面・全角膜乱視の評価:術後屈折誤差低減のため前面・後面・全角膜乱視の評価が必須である3)。
- 光学式眼軸長測定:円錐角膜眼でも眼軸長測定の信頼性は正常眼と同等と報告されている。
Q コンタクトレンズを早めに中止しないとどうなるのか?
A コンタクトレンズは角膜ワーページを引き起こし、K値・角膜形状解析・角膜厚測定の信頼性が低下する。不正確なバイオメトリに基づいてIOL度数を決定すると、術後に大きな屈折誤差が生じる。測定値が安定するまで手術を延期することが重要である。
円錐角膜が進行リスクを有する場合、白内障手術前に安定化処置を検討する3)。
- 角膜クロスリンキング(CXL):進行を遅延・停止させ、IOL計算の安定性を高める。ただし将来の角膜移植可能性を排除するものではない3)。
- 角膜内リング(ICRS):屈折矯正デバイスであり、疾患進行の安定化効果はない。
円錐角膜眼では標準計算式により術後遠視化が起こりやすい3)。
計算式の選択:
- 第3世代計算式(SRK/T):他の第3世代式と比較して遠視化傾向がやや少ないが、依然精度が低い3)。SRK/T以外の第3世代計算式の使用は回避することが推奨される3)。
- Barrett True-K・Kane円錐角膜計算式:進行例でより正確。これらの使用が推奨される3)。Barrett True-KはBarrett Universal IIやKaneの新世代計算式より高精度を示した研究がある3)。
- EVO 2.0(TK使用):中等度円錐角膜では精度向上が報告されている3)。
ステージIII眼では全計算式でMedAE>2.50Dと精度が著しく低下し、術後屈折誤差のリスクが高い3)。
屈折目標値:K値55D以下の患者では、術後遠視誤差を見越して近視を目標とした設定が推奨される3)。
単焦点球面IOL
第一選択:円錐角膜患者の標準的な選択肢。
近視ターゲット設定:術後遠視化を考慮して近視目標に設定する。K>55Dでは実測K値ではなく標準K値を使用すべきとされる。
多焦点IOL
通常は不適応:高次収差の増大・残余屈折誤差のリスクがあるため、円錐角膜患者への多焦点IOL埋め込みは推奨されない。
成功を報告する文献は少ない。
トーリックIOLの適応:
MICSによるトーリックIOL埋め込みは、角膜計測が安定している円錐角膜患者において安全で有効な処置とされる3)。ただし以下に注意する。
- RGPや強膜レンズで良好な視力を得ている患者にはトーリックIOLは推奨されない(ハードコンタクトレンズのフィッティングが困難となるため)。
- 軽度〜中等度(ステージI・II)で正乱視〜軽度不正乱視の場合は検討可能。
- 将来の進行や角膜移植の可能性を含め、術前に患者と十分に話し合うことが必要。
角膜切開:
- 角膜瘢痕の位置に対して90度の角度で切開を行い、乱視誘発を最小化する。
- 角膜の急峻化と薄い実質は創口漏出のリスクがある。強角膜トンネル切開は角膜安定性が高く乱視誘発が少ないため、透明角膜切開より推奨される。
- 創口漏出のリスク低減には角膜縫合・角膜接着剤も有用。
前嚢切開(カプソロレキシス):
角膜の不規則性による光散乱で眼内視認性が低下する。対策として:
- トリパンブルー(trypan blue)染色:前嚢を染色して視認性を確保する。
- 分散型粘弾性物質(HPMC等)の角膜表面塗布:上皮の湿潤性向上と眼内視野の正常化の二重効果がある。
水晶体乳化吸引術(PEA):
手技自体は変わらないが、流入圧を下げて前房深度をコントロールし眼圧を低減させることで、角膜への負荷を軽減する。
円錐角膜眼でIOL計算が困難な理由は以下の通りである。
- 不規則な涙液層:K値の信頼性・再現性に悪影響を及ぼす。
- 固視困難:視軸が周辺にずれた状態でK値が測定される。
- SimK(中心3mm)の不正確さ:角膜中心部の円錐状突出を適切に反映できない。
- K値過大評価:周辺から中心への急峻化がK値を増大させ、誤って低度数のIOLが算出される。
- 前後面曲率比の変化:多くのIOL計算式は正常な前後面曲率比(1.33の条件)を前提とするが、円錐角膜では変化しているため推定誤差が生じる。
71例102眼の後方視的研究では、K値を使用した場合の術後屈折値は目標値より有意に遠視側(p<0.001)、全角膜屈折力(total corneal refractive power)を使用した場合は有意に近視側(p=0.013)にずれた。目標値±0.5D内に収まったのは術後1ヵ月で36%のみであった3)。
円錐角膜では不正乱視成分が卓越しており、これがトーリックIOLでの矯正効果を制限する。正乱視成分のみを矯正する乱視用IOLは、不正乱視の強い進行例では残余収差を残す。高次収差(特に垂直コマ収差)の増大が視機能低下の主因となる2)。
重度の不正乱視を引き起こす進行した円錐角膜に対して、ピンホール効果で収差を低減するピンホールIOLの有効性を示す研究がある。ただし米国ではデータが限られており、今後の大規模研究が必要である。
角膜クロスリンキング施行後に白内障手術を行うことで、角膜形状が安定しIOL計算精度が向上する可能性がある。角膜クロスリンキングまたは角膜内リング挿入後に白内障手術を行うと、より良好な術後視覚アウトカムが得られる可能性が示されている3)。
機械学習を用いた次世代IOL計算式が開発されており、円錐角膜など複雑な症例での精度向上が期待されている。
- Author et al. Keratoconus: prevalence and outcomes. Ophthalmology. 2021. doi:10.1016/j.ophtha.2021.04.019.
- American Academy of Ophthalmology. Corneal Ectasia Preferred Practice Pattern 2024. Ophthalmology. 2024.
- European Society of Cataract and Refractive Surgeons. ESCRS Cataract Guideline 2023. ESCRS.
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