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白内障・前眼部

術前角膜形状解析

術前角膜形状解析(Pre-operative Topography)は、白内障手術や屈折矯正手術の前に行うコンピュータ支援の角膜曲率マッピング検査である。角膜前面・後面の曲率、角膜厚、前眼部形状を定量的に把握し、眼内レンズ度数計算の精度向上、乱視評価、角膜形状異常のスクリーニングに用いられる。

現代の白内障手術はほぼ屈折矯正手術と同義であり、良好な術後屈折結果を得るには精密な術前計測が不可欠である。ケラトメトリーは眼内レンズ度数計算の主要入力値であり、その誤差は術後屈折誤差の最大22%を占めると報告されている1)2)

角膜形状解析の歴史は、Placido(プラチド)盤による角膜鏡検査に始まる。その後、ビデオ角膜形状解析(ビデオケラトスコピー)、Scheimpflugカメラ、前眼部OCTへと技術革新が進み、角膜前後面の三次元評価が可能になった。1956年に屈折矯正を伴う眼内手術が初めて報告されて以降、眼内レンズ計算精度の向上とともに術前トポグラフィーの重要性は増している。

Q 角膜形状解析は全例に必要か?
A

白内障手術では全例に基本的なケラトメトリー計測が必要である。さらにトーリック眼内レンズや多焦点眼内レンズを選択する場合、または円錐角膜・屈折矯正手術既往を有する場合は角膜トポグラフィー/トモグラフィーが推奨される。

術前角膜形状解析の「対象患者」が訴える症状は、基礎疾患による視力低下・乱視症状・羞明が中心である。

  • 視力低下・乱視:矯正されていない角膜乱視や不正乱視により生じる。白内障との鑑別が必要。
  • 羞明・グレア:角膜形状不整(円錐角膜等)やドライアイに伴う視機能低下として現れる。
  • 屈折の不安定:術後屈折誤差(refractive surprise)として顕在化することが多い。

角膜形状解析では以下の情報が得られる。

カラーコードマップ

屈折力マップ:角膜屈折力を色調で表示。暖色(赤)が急峻、寒色(青)が平坦。正常角膜は中央暖色・同心円パターン。

乱視パターン:蝶ネクタイ形は正乱視を示し、その垂直方向が乱視軸。マップ非対称性・局所急峻化は円錐角膜を示唆。

エレベーションマップ:近似球面からの偏位を色調表示。前後面の局所突出(島状隆起)は円錐角膜・屈折矯正術後のエクタジア検出に有用。

定量的形状指数

SimK(Simulated Keratometry):角膜形状解析装置から得られる主・副主経線の曲率値。眼内レンズ度数計算に使用する。

SAI・SRI:角膜の対称性・局所均一性を示す指数。不正乱視の定量化に用いる。

角膜厚マップ(Pachymetry):最薄部位の特定と同心円パターンの確認。最薄部偏心は円錐角膜を示唆。

指標測定内容主な用途
SimK角膜主経線曲率眼内レンズ度数計算
後面曲率半径角膜後面形状トーリック眼内レンズ計算
角膜厚最薄点・厚みマップ円錐角膜診断

3. 原因とリスク要因(測定精度に影響する因子)

Section titled “3. 原因とリスク要因(測定精度に影響する因子)”

角膜形状解析の精度に影響する主な因子を以下に示す。

  • ドライアイ(涙液不安定):反射ベースの光学生体測定器では、涙液層の不安定性が角膜乱視の測定変動を増大させる可能性がある。特に高浸透圧(308 mOsmol/L以上)眼および涙液破壊時間短縮(NIKBUT陽性)眼でLenstar測定値の変動が有意に増大した1)
  • コンタクトレンズによる角膜変形:特にハードコンタクトレンズの長期装用は角膜形状を変形させる。測定前に一定期間の装用中止が必要。
  • 装置の種類と測定原理:反射ベース装置(Lenstar、IOLMaster等)は涙液層の影響を受けやすい。OCTベースのAnterionや前眼部OCTは涙液層の影響を受けにくく、より安定した測定値を提供する1)2)
  • 高齢:加齢はケラトメトリー測定値に独立して影響するとの報告がある。
Q ドライアイがあると術後の度数ずれが大きくなるか?
A

必ずしもそうではない。ドライアイ(治療群・非治療群)と非ドライアイ群の間で術後の絶対誤差・乱視予測誤差に有意差はなかったとする報告がある2)。ただし一部の反射ベース装置では測定変動が増大するため、術前計測の信頼性に注意が必要である。

術前角膜形状解析に用いる主な装置を以下に示す。

プラチド型

原理:リング状照明を角膜に投影し、その反射像(Meyerリング)の歪みから角膜前涙液層の曲率を算出。

代表機器:TMS、Atlas等。

特徴:再現性に優れるが、角膜後面・角膜厚の評価は不可。涙液層の影響を受けやすい。角膜表面の約60%のみをカバーする。

Scheimpflug型

原理:あおり写真の原理を用いたScheimpflugカメラで前眼部断層像を取得。回転スキャンにより三次元形状を再構築。

代表機器:Pentacam、Pentacam HR、GALILEI。

特徴:角膜前後面・角膜厚・前房深度の同時評価が可能。混濁の影響をやや受ける。GALILEIはプラチドリング内蔵でケラトメトリー精度が高い。

前眼部OCT(AS-OCT):SS-OCT(CASIAなど)は波長1,310 nmの長波長光を使用し、角膜・前房・虹彩水晶体前面・隅角を一画面に描出できる。涙液層の影響を受けず、角膜混濁・浮腫眼でも高精度な形状解析が可能である。OKULIXなどの光線追跡法による眼内レンズパワー計算にも応用される。

複合型バイオメーター:Eyestar(OCTと反射の組み合わせ)、IOLMaster700(SS-OCTと反射の組み合わせ)など、最新世代の装置は複数技術を統合している。

円錐角膜スクリーニング:屈折矯正手術前および白内障手術前に行う最も重要なスクリーニングの一つ。以下のパターンが示唆的である。

  • 耳下側の局所急峻化(inferior steepening)
  • I/S値(下方-上方屈折力比)> 1.7 D
  • 最大SimK > 48.7 D
  • 両眼間最大SimK差 > 0.5 D
  • エレベーションマップでの島状前方突出
  • 角膜厚マップでの最薄部偏心

後面曲率の評価:後面角膜乱視は前面と必ずしも比例しない。トーリック眼内レンズ計算では後面曲率を含む方法(Barrett Toric式等)を使用することで残存乱視を有意に低減できる。

5. 標準的な活用法(術前評価における位置づけ)

Section titled “5. 標準的な活用法(術前評価における位置づけ)”

白内障手術では、以下の場合に角膜トポグラフィー/トモグラフィーが特に重要である。

  • トーリック眼内レンズ植入時:ESCRS Cataract Guidelineは「トーリック眼内レンズ植入を計画する場合、一般的な術前評価に加え、角膜トポグラフィーおよび/またはトモグラフィーを施行すべき(GRADE+)」と推奨する。後面角膜乱視と有効レンズ位置を含む計算式の使用を推奨する(GRADE+)。
  • 多焦点眼内レンズ・EDOF 眼内レンズ候補眼:不正乱視の除外と角膜形状の評価が必須。
  • 屈折矯正手術後眼:手動ケラトメトリーは角膜有効屈折力を過大評価するため不正確。角膜中心部(3.0 mm領域)の扁平化を反映したトポグラフィーベースの計算または特殊な計算式が必要。
  • 角膜疾患合併眼:内皮ジストロフィー、翼状片、角膜混濁を有する眼での形状評価。
  • 術前スクリーニング:LASIK・PRK前の円錐角膜、不正乱視、コンタクトレンズ誘発角膜変形の除外が必須。潜在型円錐角膜(Forme fruste keratoconus)および初期円錐角膜はLASIKの禁忌。
  • 術後評価:レーザー照射の均一性評価。PRK後30日、LASIK後1週間から有用。術後エクタジアの検出・モニタリング。

6. 病態生理学・測定誤差の機序

Section titled “6. 病態生理学・測定誤差の機序”

反射ベースのケラトメーターは、角膜前涙液層の反射像を解析する。涙液層の不安定・高浸透圧は涙液表面の乱れを生じ、Meyerリング像の歪みとして測定変動をもたらす。

Nilsenら(2024)は白内障手術予定患者131例を対象としたRCTで、ドライアイの総合的診断基準(DEWS II signs)ではケラトメトリー変動性に有意差はなかったが、高浸透圧眼(308 mOsmol/L以上)ではLenstarによる乱視変動性が有意に高く(p=0.01)、NIKBUT陽性眼では平均K値の0.25 Dを超える変動割合がLenstarで有意に高かった(p=0.048)と報告した1)。AnterionおよびEyestarでは同様の有意差は見られなかった。

OCTベースの装置(Anterion等)は組織後方散乱光を直接検出するため、涙液層の反射に依存せず、混濁・浮腫・不整形状角膜でも精度が維持される。

ケラトメトリーは眼内レンズ度数計算の主要入力値であり、その誤差は術後屈折誤差の最大22%に達する1)2)。特に屈折矯正手術後眼では、角膜有効屈折力の過大評価( keratometric index誤差)により近視化する屈折サプライズが生じやすい。

Nilsenら(2024)は131例を対象とした前向きRCTで、2週間の人工涙液治療(Thealoz Duo、1日6回点眼)はケラトメトリー変動性および術後屈折予測誤差(絶対誤差・乱視予測誤差)を有意に改善しなかったと報告した2)。抗炎症薬(シクロスポリン、リフィテグラスト等)を用いた他研究では改善が示されており、より高次の治療が必要な可能性がある。


DEWS IIに基づく診断基準は白内障手術の文脈で最適でない可能性がある。高浸透圧またはNIKBUT陽性を指標とした個別化ドライアイ治療が、術前計測精度の改善につながるかどうかの検討が進んでいる2)

抗炎症薬(シクロスポリン0.09%やリフィテグラスト)を用いた28日間治療で術前生体測定値の改善と術後屈折予測誤差の有意な低減が得られたとする報告があり、標準的な人工涙液を超えた治療介入の有効性が示唆されている。

OCTと反射技術を統合した新世代バイオメーター(Eyestar、IOLMaster700等)は、従来の反射ベース装置に比べ、涙液不安定に起因するケラトメトリー変動への耐性が高い可能性がある1)。長期的な安全性・精度プロファイルの検証が進んでいる。


  1. Nilsen C, Gundersen M, Jensen PG, Gundersen KG, Potvin R, Utheim ØA, et al. The significance of dry eye signs on preoperative keratometry measurements in patients scheduled for cataract surgery. Clin Ophthalmol. 2024;18:151-161.

  2. Nilsen C, Gundersen M, Jensen PG, Gundersen KG, Potvin R, Utheim ØA, et al. Effect of artificial tears on preoperative keratometry and refractive precision in cataract surgery. Clin Ophthalmol. 2024;18:1503-1514.

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