移植〜調整前
眼の治癒期間:移植から2〜4週間後に屈折安定を確認する。
屈折検査:顕性屈折(manifest refraction)を行い、目標屈折との差を評価する。
散瞳の確認:光調整には最低6.5〜7 mmの散瞳が必要。

光調節可能眼内レンズ(Light Adjustable Lens, LAL)は、白内障手術で挿入した後に、紫外線(UV)照射によって度数を非侵襲的に調整できる眼内レンズである。
白内障手術において正確な術後屈折を得ることは依然として課題である。不正確な生体計測、有効レンズ位置の予測誤差、創傷治癒の個体差などが術後屈折誤差の主因となる。光調節可能眼内レンズはこれらの問題に対処するために開発された。
本技術は1997年にカリフォルニア大学サンフランシスコ校のSchwartz医師とカリフォルニア工科大学のGrubbs教授によって主導され、2017年11月22日にFDAが承認した。
FDAの臨床試験(600例)では、光調節可能眼内レンズ群は標準単焦点眼内レンズ群の2倍の割合で20/20の裸眼視力を達成した1)。調整後の患者の92%が目標屈折の0.5 D以内に収まる高い屈折精度が報告されている。
光調節可能眼内レンズは術後屈折誤差(遠視・近視・乱視の残存)を持つ患者が対象となる。
光調節可能眼内レンズ移植後の術後経過と調整プロセスを以下に示す。
移植〜調整前
眼の治癒期間:移植から2〜4週間後に屈折安定を確認する。
屈折検査:顕性屈折(manifest refraction)を行い、目標屈折との差を評価する。
散瞳の確認:光調整には最低6.5〜7 mmの散瞳が必要。
紫外線照射〜ロックイン
照射回数:2〜4回の照射セッション(各40〜120秒、約3日間隔)で調整する。
ロックイン:目標屈折達成後、光学部全体に紫外線を照射して度数を固定する。
紫外線カット眼鏡:ロックイン後24時間まで着用が必要。
光調節可能眼内レンズのレンズ形状変化は前眼部の光干渉断層計で確認可能である。球面度数調整では前後面の曲率半径が変化し、乱視矯正では非対称な形状変化が生じる2)。
FDAの承認基準は以下の通りである。
以下の患者には光調節可能眼内レンズは推奨されない。
標準的な白内障手術前評価に加え、以下を確認する。
| 評価項目 | 内容 |
|---|---|
| 屈折検査 | 顕性屈折、裸眼遠方視力、最高矯正視力 |
| 光干渉断層計検査 | 黄斑浮腫の除外(紫外線照射前後に推奨)1) |
| 散瞳評価 | 最低6.5〜7 mm散瞳の確認 |
紫外線照射後に視力低下を認めた場合は、光干渉断層計による黄斑部評価を行う。紫外線照射後に嚢胞様黄斑浮腫が生じた症例が報告されており、早期発見が重要である1)。
紫外線照射後に視力低下を生じた場合は嚢胞様黄斑浮腫の可能性がある。紫外線照射を中断し、光干渉断層計で黄斑部を評価する。嚢胞様黄斑浮腫に対しては局所の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)と副腎皮質ステロイド点眼による治療が有効であることが報告されている1)。
光調節可能眼内レンズはシリコーンマトリックス内に「マクロマー」と呼ばれる光感受性分子を含む。365 nmの紫外線を照射するとマクロマーが重合し、照射域と非照射域の間に濃度勾配が生じる。その後12時間にわたって未反応マクロマーが拡散し、レンズ曲率が変化して屈折力が変わる3)。
調整完了後はロックイン治療(光学部全体への紫外線照射)で残りのマクロマーをすべて重合させ、度数を固定する。
調整装置(光照射装置, Light Delivery Device)は細隙灯顕微鏡に光学投影システムと紫外線光源を加えたもので、角膜上に置いたコンタクトレンズを介して眼内レンズに焦点を合わせる。散瞳は最低7 mmが必要であり、すべての光調整は散瞳下で行う。
未重合の光感受性シリコーンマクロマーが、紫外線照射後に濃度勾配に従って移動する仕組みが、光調節可能眼内レンズの度数調整の根幹をなす3)。
球面度数の調整では前後面の曲率半径がともに変化する。日本の研究グループが前眼部の光干渉断層計(CASIA2)を用いて実際のレンズ形状変化を可視化した2)。
Katoら(2025)は70歳男性において、球面度数の調整(+0.75 D → −0.25 D)後に前面曲率半径が11.59 mmから9.03 mmへ減少し、後面は10.98 mmから13.41 mmへ増加したことを報告した2)。乱視矯正例(80歳女性、Cyl −1.50 D → S +0.25 D)では、後面曲率半径の変化が乱視軸方向に非対称に生じ、トーリック眼内レンズと類似した機序で乱視が補正された。
紫外線照射によって嚢胞様黄斑浮腫が生じる機序として、以下が考えられている1)。
紫外線照射後の両眼性嚢胞様黄斑浮腫は従来ほとんど報告されていなかった新たな合併症である。
Shakarchiら(2025)は、光調節可能眼内レンズ移植後に紫外線ロックイン治療を受けた81歳女性において、両眼性嚢胞様黄斑浮腫が世界で初めて両眼同時に発症した症例を報告した1)。紫外線照射から1週間後に視力が20/40に低下し、光干渉断層計で中心窩網膜厚 397 μm(右眼)・427 μm(左眼)の嚢胞様変化を確認した。紫外線照射を中断し、プレドニゾロン1%(4回/日)とケトロラク0.5%(4回/日)の点眼を開始したところ、3週間で完全に消退した。
著者らは「紫外線照射をいったん中断し、低閾値で局所治療を開始すること」、「低リスク患者においても調整前後のルーチンの光干渉断層計検査を検討すること」を推奨している1)。
フェムトセカンドレーザーを用いてアクリル眼内レンズの化学組成を変化させる「屈折率シェービング(Refractive Index Shaping)」技術も研究段階にある。この技術は球面・円柱・焦点数の変化を一つの眼内レンズにわたって適用できる可能性があり、光調節可能眼内レンズとは異なる機序での複数回調整が期待されている3)。多成分眼内レンズ、機械的調整眼内レンズ、磁気調整眼内レンズ、液晶眼内レンズなども研究中である。
角膜乱視は経時的に変化するため、光調節可能眼内レンズで提供した視力の長期持続性に影響する可能性がある。適応光学(Adaptive Optics)を光調節可能眼内レンズと組み合わせ、デバイスが光学的歪みを自動検出・補正する概念も提唱されている。