専用式(推奨)
Barrett True-K keratoconus式:角膜後面曲率の測定値を使用できる。重症例でも良好な精度を示す1)。
Kane keratoconus式:人工知能(AI)を活用した計算式。伝統的式より正確な屈折ターゲット予測を提供する1)。
EVO 2.0(TK使用):中等度円錐角膜で精度が向上している1)。

角膜拡張症(corneal ectasia)は角膜が進行性に急峻化・薄層化する多因子的病態である。最も一般的な角膜拡張症は円錐角膜(keratoconus)であるが、レーシック(LASIK)・レーザー角膜切除術(PRK)などのエキシマレーザー手術、放射状角膜切開術、小切開レンチキュール摘出術(SMILE)の術後にも発生しうる。
角膜拡張症が進行すると近視と不正乱視を誘発する。狭い範囲内で角膜屈折力が大きく変動するため、眼内レンズ度数計算は通常眼に比べ著しく困難となる1)。主な理由は以下の2点である。
標準的な眼内レンズ計算式を用いた場合、円錐角膜眼では術後遠視化(hyperopic surprise)を生じる傾向がある。そのため、円錐角膜専用の計算式の使用が推奨されている1)。
角膜拡張症があっても白内障手術は施行可能である。ただし、眼内レンズ度数計算の精度が低下するため、専用の計算式や角膜トモグラフィーを用いた精密検査が必要となる1)。術前に角膜の安定性を確認することが前提である。
角膜拡張症に伴う視覚症状は以下の通りである。
角膜拡張症の臨床所見は角膜トポグラフィー・トモグラフィーで評価する2)。
矯正視力のみでは視機能を完全に評価できないため、角膜トポグラフィー・トモグラフィーを含めた総合的な評価が必要である2)。
眼内レンズ度数計算が困難となる原因は、主に以下の3因子に集約される1)。
Haigis式を除く第3・第4世代の眼内レンズ計算式は、術後予測前房深度の計算に角膜屈折力を使用する。角膜が平坦化(近視LASIK後)・急峻化(拡張症)した眼では有効レンズ位置の過小・過大評価が生じる1)。
拡張症眼は長眼軸・深前房を呈する傾向がある。超音波バイオメトリーは不正確であり、視軸上の測定が可能な光学式バイオメトリーが推奨される。
標準的な計算式は正常な角膜形状を前提としている。拡張症眼では角膜前面・後面の曲率比が変化し、K値が不正確となる。さらに、K値から有効レンズ位置を予測するアルゴリズムも誤差を生じるため、術後遠視化を起こしやすい1)。
白内障手術を検討する拡張症患者において、自覚的屈折検査(manifest refraction)が最初のステップとなる。これにより術後に期待できる結果の目安を術者・患者が共有できる。
ハードコンタクトレンズ装用下屈折検査(hard CL over-refraction)は、視力低下の原因が角膜にあるのか白内障にあるのかを鑑別するのに有用である。ハードCLで視力が改善すれば角膜由来、改善しなければ白内障由来と判断する。
角膜屈折力の測定精度は眼内レンズ計算の成否を左右する。主な測定法を以下に示す。
| 測定法 | 測定面 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 手動/自動角膜計 | 前面のみ | 中央3mm、後面は推測 |
| 角膜トポグラフィー | 前面のみ | 傾斜→高低差を計算 |
| 角膜トモグラフィー | 前面+後面 | ゴールドスタンダード |
円錐角膜眼では前面角膜乱視は倒乱視優位、後面角膜乱視は直乱視優位であることが多い1)。乱視評価では前面・後面・全角膜乱視をすべて評価することが推奨される1)。前面角膜乱視のカットオフ1.8Dは円錐角膜と正常眼の鑑別に有用で、感度・特異度ともに90.2%と報告されている1)。
眼軸長測定には光学式バイオメトリーが推奨される。代表的なデバイスは以下の通りである。
Pentacamでは「True net power map」と「等価K値」が有用である。True net power mapは角膜前面・後面に個別の屈折率を割り当てて算出する。等価K値は1〜7mmの任意のゾーンでK値を確認でき、眼内レンズ計算に用いるK値の選択に役立つ。
眼内レンズ度数計算の前提として、角膜の安定性確認が不可欠である。進行中の角膜で計算を行うと結果は不良となる。
通常、円錐角膜は50歳以降に進行しないことが多い。しかし、ペルーシド角膜辺縁変性では進行が続きうるため注意を要する1)。
専用式(推奨)
Barrett True-K keratoconus式:角膜後面曲率の測定値を使用できる。重症例でも良好な精度を示す1)。
Kane keratoconus式:人工知能(AI)を活用した計算式。伝統的式より正確な屈折ターゲット予測を提供する1)。
EVO 2.0(TK使用):中等度円錐角膜で精度が向上している1)。
伝統的式
SRK/T:伝統的式の中では最も良好な性能を示す1)。ただし専用式には劣る。
その他:Hoffer Q、Holladay 1・2、Haigisなどは遠視化の傾向が強い。SRK/T以外の伝統的式は円錐角膜眼では避けることが推奨される1)。
システマティックレビューにおける各式の平均絶対誤差は、Barrett Universal II 0.314D(82.1%)、Haigis 0.346D(76.1%)、Holladay 2 0.351D(69.1%)、SRK/T 0.389D(71.3%)、Hoffer Q 0.409D(63.3%)、Holladay 1 0.409D(62.0%)と報告されている1)。括弧内は目標屈折±1.0D以内の割合である。
K値55D以下の円錐角膜眼では、やや近視側のターゲット(-0.5D〜-1.5D)が推奨される1)。これは術後遠視化のリスクを考慮したものである。放射状角膜切開術後眼でも同様に近視ターゲットが推奨される1)。
日本の実臨床ではDoubleK法、前眼部OCT(トーメー)のOKLIKUS光線追跡ソフト、IOL-Station(ニデック)のCalmellin-Calossi式、Haigis-L式が有用とされる。米国白内障屈折矯正手術学会(ASCRS)のウェブサイトでは無償の眼内レンズ計算機が利用可能であり、多数の計算式を一括比較できる。Barrett True K式は2015年のアップデートで遠視LASIK後や放射状角膜切開術後の眼内レンズ度数計算にも対応している。
Barrett True-K keratoconus式およびKane keratoconus式が推奨される1)。伝統的式を使わざるを得ない場合はSRK/Tが比較的良好な結果を示す。複数の式で計算し、結果を比較して判断することが望ましい。
角膜が安定している症例で正乱視成分の矯正に有用である1)。ただし、不正乱視の完全矯正は困難であり、術後にトーリックコンタクトレンズが使用できなくなる。ハードコンタクトレンズの装用を予定する患者には適応がない1)。
眼内レンズ度数計算誤差の機序を詳細に解説する。
眼内レンズ度数計算に必要な3つの基本測定値は、眼軸長、角膜屈折力(K値)、有効レンズ位置である1)。拡張症眼ではこれらすべてに誤差が生じうる。
全角膜屈折力は角膜前面と後面の屈折力の合計で決まる。標準的なケラトメトリーやトポグラフィーは角膜前面のみを測定し、角膜屈折率として1.3375を用いて後面曲率を推測する。正常眼では前面・後面の曲率比が一定であるためこの近似は有効であるが、拡張症眼では比が変化するため誤差を生じる1)。
円錐角膜眼では前面角膜乱視は倒乱視が優位であり、後面角膜乱視は直乱視が優位である1)。自動角膜計には直乱視で過矯正、倒乱視で低矯正となるバイアスがあると報告されている。
眼内レンズ予測精度は円錐角膜の重症度に影響される1)。中等度以下では新世代計算式(EVO 2.0 TKなど)で精度が向上するが、進行例ではいずれの伝統的式でも性能は比較的低い1)。進行例ではBarrett True-KやKane keratoconus式の使用が特に推奨される1)。
重症度分類にはAmsler-Krumeich分類、Alio-Shabayek分類、Belin ABCD grading systemなどが用いられる1)。
Hill-RBF式やKane式など、人工知能・機械学習を活用した眼内レンズ計算式の開発が進んでいる。大規模データセットを解析し、個々の眼の解剖学的・屈折特性に適応した予測モデルを構築している。特に異常眼軸長の眼で精度向上が報告されている。
円錐角膜専用式の優位性は示されているが、重症度別のサブグループ解析は症例数が限られている1)。確定的な判断には大規模研究が必要である1)。デバイスとIOL技術の進歩により、計算の安全性・予測可能性は向上しつつある。